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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
神託は都合がいいとは限らない
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再びのブリスト騎士団


【王国暦123年9月30日 13:30】


ドーン!


 治療を終えて立ち上がろうとした時、聖堂に向けて、大音響を伴って白い光の帯が降り注いだ。

 勇者召喚がされたのだ。


 急がねば。

 召喚直後が一番の狙い目、守るにせよ、殺すにせよ、時間が経過すればするだけ面倒が増える。


 仮面とカツラと付け耳を再確認する。認識阻害は正常に発動している。

 よし、何も問題はない。

 右手に黒鋼の短剣、左手には黒鋼の扇。


「いや」

 扇をしまって、高周波ソードを取り出した。

 西門にいた部隊――――ブリスト騎士団と思われる――――が迫ってきているのだ。

 ちっ、気の利かない連中ね。


「…………」

『隠蔽』を使おうと思ったけど、その魔力も惜しい。イーストン・ウェンライトがいるなら『魔力感知』で何も感じない場所を探り当ててしまうだろう。結局は、この辺りにいる、とアタリをつけられてしまえば、『隠蔽』も『不可視』も通用しにくい。


ヒュウ…………。


 小さい風が起こり、煙が晴れていく。

 黄色い魔女(イーストン)が風系魔法を使ったのだ。

 そして、背後に十人ほどの騎士団員を引き連れて、オースティンが姿を現した。


「貴様が『ラーヴァ』か…………私はブリスト騎士団総長、オースティン・アポロニア・ブノアである! 武装を解除し、降伏に応じろ」

「…………」

 そんな交渉などには応じず、私はジリジリと間合いを詰める。言っている、当のオースティンが、私が降伏するとは微塵も思っていないだろう。その証拠に嬉しそうな笑みを湛えているから。


「ふん、コイツがラーヴァね」

 背後から、小柄巨乳シスター(シモン)が短剣を持って現れた。イーストンは目視はできないものの、『魔力感知』ではその数メトル奥にいるのが感じられた。

 騎士なら一騎討ちを所望してくれると楽だったんだけど、過大評価してくれているのか、三対一でやるみたいね。


「―――『風刃』『風刃』」

 遠距離から牽制、さすがに黄色い魔女、魔法の出が速い。しかも両手で連打してきた。

「むんっ」

 どうせこの魔法は誘導(ホーミング)される。右手に持っている黒鋼の短剣でバンバン、と打ち落とす。

 その打ち落とした隙を狙って、オースティンが長剣を振り下ろしてくる。

 私がそれを避けたところで、シモンが体を入れて、短剣を刺し入れてくる。

「フッ」

 これは避けられない。仕方なく右手の短剣で直線軌道のシモンを迎撃する。


キン!


「!?」

 シモンの短剣に付与されていた『光刃』が弾かれて、黒鋼の効果により霧散する。

 まずは武器を壊そう。驚いているシモンの短剣に向けて連打!


キンキン!


 超速の剣撃だというのに、シモンはそれをいなして、その勢いで後退、入れ替わりにオースティンの剣がやってくる。

 先ほどの近衛騎士団団長、フッカーも両手剣使いだったけど、オースティンの方が細い剣を使っているから速い。この長い剣に振り回されることなく、正確にこちらを狙ってくる。

 連携の練度も、ブリスト騎士団の方が上、か!


「やるな!」

 オースティンの剣を避けまくる。大きく回避するとシモンに入る隙を与える。回避するだけならオースティンの方が楽。オースティンの間合いに入るとシモンもイーストンも攻撃できない。

 それは重々承知らしく、シモンは横から背後に回り込もうとした。

「ぺっ」

 私は横を向いて唾を吐く。

 ドガッ、とシモンの足元に穴が空く。私の唾はスキルによって使い勝手が増している。

「なっ?」

 そこで、体勢の崩れたシモンに、後ろ手で、後も見ずに攻撃をする。

「ふんっ」


ギィン!


 シモンは何とか短剣でガードするも、短剣が欠けた。こちらは黒鋼、固さが違う。

 左腕は……動くわね。

 オースティンが、隙を見せた右側から攻撃をしてくる。私は時計回りに体を捻って、左足で踏ん張り、高周波ソードでオースティンの剣を受けようとする。

 高周波ソードは細剣だから、長剣のような金属の塊を受けるようなものではない。

 でも受けた。

 剣越しに、オースティンの勝ち誇った笑みが見えた。


キィィイイイイイイイン


「!?」

 金属同士を擦り合わせた、耳障りで甲高い響きが周囲に満ちた。

 そして――――オースティンの長剣は、細剣を受けた箇所から、ボロリ、と刃を落とした。

「なんだと?」

「―――『連打』」

 そこで右手側の黒鋼の短剣で五連撃。


「っくっ」

 すごい反射神経だと褒めたくなる、オースティンは折れた剣で、五連撃のうち、四発を防いだ。

 が、一発は右肩に入った。


「―――『光刃』」

 その間にシモンは自分の欠けた短剣に再度の付与を行う。も、返す刀で背後のシモンに黒鋼の短剣を横薙ぎにした。


「ふんっ!」

 シモンは背が低いので、その軌道の高さは、ちょうど目の辺り。スッパリとシモンの眼球を切った。

「がっがっあああああああああ」

 ぶっしゃぁ、と血がシモンの目から噴き出た。激痛を感じているだろうシモンは転げ回った。


 一方の負傷したオースティンは、気丈にも折れた剣を私に投げつけてくる。

 それを両方の剣を交差させて受け止めると、イーストンがいるだろう場所に勢いよく投げた。


ビッ


「ぐわっ」

 カエルを潰したような声がした。ストライク。

「黒魔女も凄かったが……貴様も化け物だな……。けっ――――」

 オースティンに全部を言わせないようにして『死角移動』、しかしさすが総長、それを読み切って反転し、脇差しにしていた短剣を抜き、こちらに斬りつけてきた。

 これは予想外、避けられずに左手前腕で受ける。火傷しそうなほどに熱い痛みが走る。せっかく繋いだのに、また千切れそう。

 もう、これ以上、腕を増やしたくないんだよっ!


「はっはっはっは! 楽しいぞ!」

 オースティンは口元だけで笑みを作り、左手一本で短剣を振るう。

 私は仮面で表情を隠したまま、右手一本でそれを迎撃する。


ブオオオオオオオ

キンキンキキキキキキン


 両者の腕が既に見えないほど高速で往復する。

 お互いがお互いの短剣を払おうとしている。

 右手の血管が切れそう!

 筋肉が破裂しそう!


 意外にもオースティンの短剣技術は悪くなく、下手をすると本職のシモンよりも強い。これはスキルレベルの話ではなくて戦い慣れをしているかどうか。対人戦で相手を殺し慣れているということ。騎士団総長というのも飾りじゃなく、苦労が偲ばれる。

 しかし、私はもっと殺してるんだよ。

 そして、武器が違う。


ギィン!


 オースティンの短剣、その刃が丸ごと取れた。

 予兆は感じていたのだろう、オースティンは握りしか残っていない短剣をすぐに捨てた。

「すぅぅぅ」

 徒手空拳の構え。無手で、まだやる気だ。

 こんな戦馬鹿に付き合ってられない。

 スッとしゃがみ込み、右手の短剣を薙ぐ。

 重い短剣は、一切の抵抗もなく、オースティンの足首を刈った。いつぞやと同じように。

 ダルマ落としのように、オースティンの体が落ちる。

 膝を突いて衝撃を和らげ、着地するオースティンは、恍惚の表情で、

「けっこ――――」

 全部言わせる前に、私の左ハイキックがオースティンの側頭部にヒットした。

 鈍い音がして、オースティンは盛大に回転し、転がり、止まったところで地面とキスをした。


「…………」

 シモンはいまだ目を押さえて、必死に『治癒』を試みている。けども、激痛で集中できず、魔法は発動しない。

 少し離れた位置にイーストンが倒れているのが見えた。黄色いローブ、その腹部が真っ赤に染まっていた。その傍らには、近衛騎士団の女魔術師がいて、水系の『治癒』を必死に施しているのが見えた。

「…………」

 イーストンの仮治療が終わったのだろう、女魔術師は、私が見ているのに気付くと立ち上がり、合掌し、お辞儀をした。どうか見逃してくれ、と言っているのだ。この女だけは、この戦いを客観視しているというか……一体何者だろう?


 まあいいや。

 私が動かなくなったオースティンと、目を押さえて唸っているシモンを交互に見た。女魔術師は、軽く頷いた。この二人は、このままなら死ぬか、失明するだろう。対象外を殺傷するのは本意ではない。


 それに、時間も体力も魔力もない。気力もあるとはいえない。体調が悪いなんていうのはすでに消し飛んでいるけど、良いはずがない。


「―――『――――』」

 光系の『治癒』を自分にかける。左腕は動くは動くけども感覚が怪しい。足の方は……まあ、大丈夫か。


「総長!」

 後続のブリスト騎士団、十数人が西の方からやっと追いついてくる。鮮血を浴びて仁王立ちする私と、倒れている自らの総長を見て、彼らはすぐに何がどうなっているのか認識し、戦慄し、足を止めて、構えた。


 同じように、数十人の王都騎士団も、南の方からやってきた。対峙する友軍と朱に染まる私を見て、すぐに囲むような位置に移動しようとした。

 今度は人数で消耗させようっていうのか。

「お止めなさい! 貴方たちでは犬死にするだけ!」

 女魔術師が叫ぶ。


 が、王都騎士団は、その言葉に従わなかった。

「新参の魔術師に従う道理などない!」

「ギヒヒヒ、せっかく生き延びられたのにねぇ……ここであっしらは死ぬんだねぇ……」

 魔物使いの男は騎士団の男たちが命令を無視しようとしたので絶望した表情になり、諦めたのか座り込んだ。


「そ、うだ、やめろ。たたか、うな」

「その()と対峙してはいけない」

 加えて、気がついたフッカーと盾の人も、途切れ途切れに停戦を命じると、やっと王都騎士団から殺気が消えた。


「け、けっこんして……はっ」

「総長、ウチはどうする?」

 気がついたオースティンに問いかけるシモンは、複雑な表情をしている。あら、目は治ったみたいね。

「ブリスト騎士団は、ノックスの守備はするが、宰相殿の身柄を守るためにいるのではない。ブリスト騎士団は怪我人を運び、詰め所に待機せよ…………」

 オースティンは、毅然と言った後、また気を失った。


「―――『――――』」

 武器を捨てない両騎士団を警戒しつつも慎重に距離を取り、『隠蔽』を発動した。

 これ以上追ってこないと思うけど、警戒はしておいた方がいいわね。

 魔力残量が真面目にヤバイわ……。

 ここで彼らと戦って勝つのは間違いないとしても……。



――――正直言って、助かったのはこっちの方かも……。





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