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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ホームタウンは潮の香り
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再生の四人衆


【王国暦123年9月15日 8:29】


 今日も、それは人道的にどうなのよ? とツッコミを受けそうな作業の続き。

 (ローズマリー)(シーラ)の様子を見に行くと、何故か二人とも迷宮のフロアでランニングをしていた。その姿を、ラシーン=モンローはボーッと見ていた。

「何をしてるの……?」

「体を動かすと、どんどん馴染んで……」

「動かすのが楽しくなって……」

「へぇ」


 あれだ、寄○獣の島田秀夫()が言っていたやつか。魂の方が、あの魔法陣の塊を肉体だと勘違いしてくれたんだね。

 それと、この二人の魂はちょっと欠けていたので、接着剤と補填剤を兼ねて、私の魔力を足したのよね。それも親和性を上げているのかもしれない。魂を分けてるわけじゃないのがミソね。

《格好としてはウェル? と私の関係との相似ね?》

 シルフの発言に、私は肯定しておいた。


 一方のラシーン=モンローの方は、昨日の夕方よりも容態が悪くなっている気がする。

「ラシーン、モンロー、この体に移ってみる?」

「やりたくないけど、仕方がないわ」

「マスター、是非お願いします」

 私は頷いて、作業を始めた。

『レイスリムーバー』は、結局のところ不完全な魔道具で、霊体と魂を分離させるだけで、欠けた魂を存続させるには、使用者の魔力で補うみたい。ローズマリーとシーラは、死亡後に時間が経過していたこともあって、欠損部分が多かったのかも。それでも、四肢が揃った素体に入れることで、生前の感覚を思い出しやすくなったと。


「先にモンローからいくよ」

 昨日描いた魔法陣の中には入れずに、その外側にラシーン=モンローを寝かせて、レイスリムーバーを発動させる。霊体は、肉体と魂を繋いでいる接着剤でもあるらしく、レイスリムーバーで『分離』を行っても、魂の周囲に、少量はまとわりついているのがわかる。


 取り出したモンローの魂はやはり欠損していて、これも大型魔法陣で、私の魔力を使って補うことになるのだろう。


 魔法陣の中央に、『銀』の素体を安置して、モンローにはその近くにいるように指示、魔法陣の外側から魔力を注入すると、魔法陣が光り出し、それが止むと、モンローの魂が素体に封入された。


「ふう」

「これが……新しい体ですか……!」

 表情の変化がないけど、『銀』となったモンローの口調は、感嘆に満ちていた。大袈裟な身振り手振りからも歓喜が伝わる。

 いやあ、微笑ましいなぁ……!


「がっ、かっ、はっ」

 おっと、ラシーンの方が危ないや。急にモンローを抜いたから、侵食されていた部分がゴッソリ持っていかれちゃったのかな。

 モンローの方が成功しているから、生体から抜き出すことも問題はなさそうだけど、オリジナルの体にオリジナルの魂だから、結びつきが強固かもしれない。


「いくよー、がんばれー」

 慎重にレイスリムーバーを使う……も、綺麗に離れてくれない。

 うーん…………。何度か繰り返せば離れてくれそうだけど……。

「――――――っ」

 ラシーンは声にならない悲鳴を上げている。痛いというより苦しいよねぇ。

 肉体と魂が分離しかけたので、さらに慎重に進めていく。


「ギィェィぇィ……」

 まるで獣か昆虫か……低い呻き声を断続的に漏らしながら、ラシーンは転がる力もなく、白目を剥いて全身を弛緩させた。

 お、分離できた。


「そのまま待って―――――」

 と言おうとしたら、魂はすぐに元の肉体に戻っていった。

 これはつまりあれか、分離、待機、収納、定着ではなく、分離と収納と定着を同時にやらないとダメか。


 となると――――素体にも手を加えないとだめか。元の肉体と親和性のあるものが一定の質量あれば安定するかしら。

「うーん……」

 グッタリしているラシーンに光系『治癒』を施して、髪の毛を一本貰っておく。

「銀、赤、青、ラシーンの様子を見ててね。容態が急変するようなら迷宮に向かって叫んでね?」

「ハッ! マスター!」

「ハッ!」

「ハッ!」

 銀が合掌したので、赤と青も倣ったのか、合掌してお辞儀をした。敬礼(腕を上げるポーズね!)じゃないのが変だけど、まあいいや。

 黒の素体を肩に担いで、私は培養槽のある部屋へと向かった。



【王国暦123年9月15日 9:15】


 エスモンドから採取した細胞から、エスモンド関連の遺伝子を排除、その代わりにラシーンの遺伝子と交換。これを培養槽に入れる。


 形状は………脳の形を指定してみるか。エスモンド細胞は全身の再現は難しいけど、特定の臓器の形程度なら形成できる。理論上は、単体器官を複数組み合わせることで、半分土塊の、人造人間の製造は可能だろうねぇ。


 私の同型の製造装置を見たことはないけれど、ご先祖様のミイラなんかを見ている限り、あれってゼロから汲み上げたホムンクルスというわけじゃなくて、単なるクローンだものね。その前段階では色々調整がされていて、そこに至る技術は、似ているとは思うけど。


 ただ、エスモンド細胞が決定的に違うのは、生体のようでいて生体ではない、ということかしら。

 エスモンドが死亡した時に、迷宮の土と合わさった体液や肉片を元にしているから、何かの言い伝えみたいに、土塊から産まれた、と言ってもおかしくはない。


 『黒』の素体の頭部形状をいじって、この部分にあった積層魔法陣を胴体に移動させる。銀、赤、青に比べると胴体が太く、背中が盛り上がった。残念ながら合体も変形も変身もできないけど、重量バランスは『黒(改)』の方がよさそう。頭部が弱点なのは変わらないしねぇ。

 大体、脳が露出していて強化ガラスとはいえ、弱点を見せちゃってるデザインってどんなだよ、とか思っちゃうけど、出来る限り元ネタに忠実、というのは私のポリシーだから、このまま作り上げるしかないわね。


 脳を模した器官は、生体ではないけれど、体液の循環を必要とする。うん、いい弱点だなぁ! ので、胸部装甲裏には心臓っぽい循環装置を取り付けた。

 口は開かないけど、その代わりに胸部装甲の内部に栄養摂取装置をつけた。こう、胸を開いて、エネルギーになる何か(要するに食べ物)を入れて、咀嚼、栄養を吸い取って、吸い取りきれなかったゴミを排出。ちゃんとパッケージングして、臭わない四角いウンコだよっ!


 口から食べて、口から出す……。イソギンチャクみたいよね。

 これはエスモンドが時折トマトを食べているらしい、と聞いていたから、エスモンド細胞の維持には、魔力以外の何かが必要なのかも、と思っての措置ね。


「お、出来たかしら」

 疑似脳の培養、形成が終わった。白くてプリプリしている。ちょっと美味しそう……。疑似脳をそのまま外気に晒すわけにもいかないので、あくまで脳を見せるため、もう一つ強化ガラスで覆う。迷宮で使っている培養槽に使っている液体で満たして、その中に浮かぶ形になった。これなら衝撃耐性もあるし、魔法で強化したガラスでもあるので、下手な鉄より丈夫。

 ちなみに、培養液は劣化するので、劣化した液体は水分を絞って、ちゃんとパッケージングして、臭わない四角いオシッコにして排出する。定期的に迷宮に戻って、培養液を補充しないと、エスモンド細胞部分が壊死してしまうから、あまり迷宮から遠くには行けないかしらね。

「よし!」

 準備完了、ラシーンのところに戻ろう。



【王国暦123年9月15日 10:11】


「あ……あ……ああ……」

 ラシーンの容態がヤバイ。心と体が一致しているはずなのに、モンローがいないとダメな女になっていたのね!


「お待たせ、でも、もうちょっと待ってね」

 今度は魔法陣を改良に入る。レイスリムーバーの内容を薄く伸ばしたミスリル銀板に転記、大型魔法陣に組み入れる。ミスリル銀板はもう一枚用意して、二枚が対になるように大型魔法陣の中心部に配置する。この二枚は入力側と出力側になる。


「運ぶよー」

 入力側にグッタリしたラシーンを安置し、出力側に改造した黒い素体を置く。

 もう一度大型魔法陣を離れた位置から見て記述ミスがないか確認をする。今回は土の上に描いたから少々の魔力漏れがある。これはミスリル銀板を彫って描けば、使用魔力ももうちょっと少なくて済みそう。精度に関しては問題なし。

「始めるよ。心を楽にして、魔法陣に導かれるまま身を委ねて」

「あ……あ……」


 フフフ、悪の科学者そのものの私……。いやいや、魔術師だったわね。

 大型魔法陣に手を添えて、魔力を流し込む。

 徐々に発光を始める魔法陣が、白い光に包まれると、ラシーンの肉体から魂の分離が始まっているのが視認できた。

「そのまま、その黒い素体に入って。それが新しい体だよ……」

 囁くように誘導する。


 一旦、キョロキョロ、と周囲を覗っていたラシーンの魂は、親和性のある素体を見つけて、恐る恐る、その中に入っていった。

 よし、固着開始。魔法陣を第二段階に移行。

「むんっ!」

 魔力回路を切り替えて、素体側の魔法陣に魔力を移す。

 黒い素体に向かって、魔力の奔流が迸る。それに流されるように、ラシーンの魂が入り込んでいき、光が収まると、フロア内部は静寂に包まれた。


「…………」

 背後にいた三人衆、(モンロー)(ローズマリー)(シーラ)が心配そうに近寄ってくる。こんな、ミスリル銀で作られている魔法陣の塊に、ちゃんと気配があるのが面白いな、なんて思いながら。


「マスター、成功したのでしょうか……?」

「うん、多分、成功」

 なんてあやふやな言い方だろう、と自嘲しながら、ラシーンが起き上がるのを待つ。


「んん……」

 寝起きのムニャムニャはオバサンそのものなのに、見た目ハカ○ダーの黒い素体が、目を擦りながら、ゆっくりと上半身を起こす。


「気分はどう? ラシーン・セルウェン」

「わ……悪くないわ。モンロー、水を持ってきてちょうだい」

 え、魔法陣ロボの癖に喉が渇くの?

「は、はい、ただいま」


 なんてモンローは下男そのものの低姿勢で反応しちゃったけど、ここに水なんかないので、陶器コップに『飲料水』を注いだものをモンローに手渡すと、銀の素体は喜んで黒の素体に手渡した。

 何をするのかちょっと見ていたら、黒の素体は胸当てを上に跳ね上げて、栄養摂取口に、ドボドボ、と水を流し込んだ。

「浸みるわ~」

 ほうほう、なるほど、水分を欲しがると。ううーん、この不思議生態、エスモンド以上だなぁ。

 不思議って言えば、このファンタジー世界に、ハ○イダー四人衆を誕生させてしまったよ。我ながら謎なことをしているなぁ……。



【王国暦123年9月15日 11:44】


 暫く、試運転をさせてみて、黒の素体にラシーンの魂が完全に移動しているのが確認された。

 なお、ラシーン・セルウェンの肉体の方は、魂の移動後、数分ほどで呼吸を止めて、次いで心臓も止まった。

 死体はそのままだと迷宮に吸収される。

「私の体が迷宮の役に立つのなら、それは素晴らしいことだわ」

 ラシーンは腐りゆく自分の体を見て、恍惚を思わせる口調で言った。この四人衆には、もちろん『迷宮が大好きになる』魔法陣が組み込まれていて、第一にはウィンター村迷宮だけれども、他の迷宮にも親近感を抱くように設定してある。これら『魅了』の対象を、私に設定していないのは、今後何百年も彼らは存在を維持するだろうということもあって、それよりも短いスパンでしか生きられない私を崇拝の対象にしても、私が失われた時の挙動が想像できないから。暴走の可能性を考えると、そうした方がよさそう、という判断があった。


 迷宮同士は、本来、敵になってドンパチをするようになってるんだけど、私が管理している四つの迷宮は、各々を近似で、ほぼ同一の存在だと思わせている。唯一毛色が違うのはブリスト南迷宮だけど、『メリケンNT』の基本プログラムは『めいちゃん』だし、他迷宮を自己と同一視させる設定にするのは難しいことじゃなかった。


「というわけで、君ら四人衆はこの後、ロンデニオン西迷宮に移動してもらうよ」

「何故?」

「何か理由があるのですか?」

「エスモンド・ヘッドに会わせたいんだよ。彼と面会して、話すなり、赦されるなり、戦うなりしてほしい。結果は関知しない」

「エスモンド……!」

「もう一人、この迷宮の上層で置き去りになっていた錬金術師ギルド員もいたみたいだけど、もう跡形もないから。代表としてエスモンドに裁いてもらうよ」

()()の行い、その禊ぎということ?」


 驚いたことに、ラシーンは死んだ実感があるんだね。今回の魔法陣による素体への魂の移行は、汎用のリヒューマン生成装置の可能性を示すものであり、アバターに類するものであれば、魂の摩耗という不安要素はあるものの、半永久的な生命、または意識の存続の可能性を示す。

 彼らの経過観察は重要で、これはもしかしたら、私の寿命問題を解決する光明となるかもしれない。


「そうだね。ただ、彼も変質しているし、迷宮に縛られた存在であることは同じだから、和解の道を探ってくれた方が建設的ね。迷宮的にもね」

「迷宮的にいいこと……であればそうするわ」

 いい返事だわ。



――――ハカイ○ーショットはどうしようかなぁ……。ガ○タイダーも外せないよなぁ……。





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