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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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低階層の攻略


「なるほど、三階層目までは()()言ってた通りっすね。四階層目でどれだけ稼げるか、っすね」

 私から下の階層の様子を聞いたセドリックは、そう独りごちた。

「―――三階層目からが本番というところか」

 クリストファーはそう言って気を引き締め直しているようだ。


 一階層目に上がってきたワーウルフは、二階層目に生息していた個体数の半分程度と思われる。それだけの数が一気に上がってきたのは、同胞の警戒の叫びもあるだろうけど、生息環境が密集し過ぎていたからじゃないか、と推測する。

 要するに『上が空いたぜー、広々だぜー』と思ったかどうかはわからないけども、流入個体がまっすぐこちらを目指すわけではなく、まず縄張りの確保に動こうと、ウロウロしていたから、そう思ったわけで。


 ワーウルフは鼻の良い魔物だから、暗がりの中でも、調査隊の位置など丸わかりになっているだろう。低レベル魔物とはいえ、数が数だけに脅威度はかなり高い戦闘を繰り返していると言える。

 調査隊の全体の進行としては、低階層に魔物が密集し過ぎているために、ここで間引きをするのは悪いことではない。仮に私一人だけで挑んだとしたら、範囲魔法連発はいいものの、あまり強力な魔法は迷宮の構造物にダメージを与えそうだし、数頼みに突っ込んでくる相手には、こちらが先に魔力切れになる可能性もある。魔術師として戦うなら、だけど。


「まずは二階層目に降りたい、ですね」

 エドワードがまともな事を言った。私はそれにニッコリ笑顔を返したのだけど、エドワードは複雑そうな顔をしてから、視線を避けた。フフッ、青春してるね。当事者は私だけどね。


「そうっすね。ヤバイと思ったら撤退は躊躇わないっす。余計な気は回さないで、思った事は言うっす。当事者間の問題は後でやってほしいっすけど」

「―――フフフ」

 クリストファーの漏らした笑みが怖い。

 ドロシーが結構執心してるから、エドワードはドロシーを口説けばいいと思うんだけどなぁ。私が勧めるのは藪蛇だよなぁ。

「よし、それじゃ、いくっす。当面は二階層目に降りるのが目標っす」

 もの凄く目標が引き下げられた気もするけど、調査隊を預かる身としては、そのくらいでいいのだろう。


 しかし慣れとは怖いもので、前日(寝て起きたのを一日と数えれば)と同じような数を狩ったというのに、調査隊全員の動きは連携も含めて、実にスムーズになっていった。

「今の群れで、当面、ワーウルフは来ませーん」

「よっし、休憩するっす」

「ふうー」

「だいぶ慣れてきたな」

 危ない、それはフラグよっ?

「慣れてきた時こそ、注意力が散漫になるものです。気を抜かず行きましょう」

 慌てて、それでもニッコリ笑ってシドに魔力回復ポーションを手渡す。

 見ようによっては媚薬を男に渡す少女なんだけど、それはもう気にしないことにした。


「む……全くそのとおりだ。反省する」

「あー、エドがー惚れてるのもー、なんかーわかるかなー」

「はは、そっちの話は迷宮を出てからっす」

 セドリックが釘を刺しまくるので、エドワードが赤くなって恐縮する。はは、セドリックさん、青春ブレイカーだね!


「この迷宮は、一辺が百メトルの四角になっているようです。二階層からの流入の方向からすると、この次か、次の次くらいの部屋に、下に降りる階段があると思います」

 一階層目は小部屋の連続で、部屋―部屋―廊下―部屋―部屋―廊下……のように規則的に並んでいた。というより面倒なので簡単にしましたみたいな、いい加減な配置じゃないかと思う。『気配探知』や『魔力感知』を駆使しての索敵では、この階層にはゴブリンが残り五十(引きこもり)、ワーウルフが残り六十強(様子見か、縄張り主張に忙しい)と言ったところ。ほぼ無力化したと言っていい。隠し扉、隠し通路があるかもしれないけれど、そういった意地悪なイレギュラーを別にすれば、ほぼマッピングは完了した。転移魔法陣は見つからない。

「了解っす。休憩終わったら下に降りるっす」

 ここまで一日半。数だけ見れば驚異的な進軍速度だ。


 休憩が終わり、進行を再開する。

 予測通り、次の次の部屋に、下に降りる階段があった。

 慎重に降りていく。

「ここからも左手に沿って進むっす」

 迷宮の中には一定時間で迷路の組み替えをする仕掛けもあるらしい。その時は壁が動く音がするから、そのタイプの時はすぐにわかるとのこと。幸いにして、この迷宮は固定壁タイプのようだ。


「その扉の先、大部屋です。ワーウルフ二十ほど」

「―――了解だ」

 扉を開くと、ワーウルフは驚き、ジリジリ後退していく。実力差がある、と判断出来ているのなら、結構上位個体……あ、赤いのがいるか。一階層目には殆ど『リーダー』はいなかったから、統率された群れではなかったのかも。

「リーダーがいるけど放置するっす」

「了解です」

 エドワードが軽快に答える。調査隊の面子からすれば、ゴブリンとワーウルフはお腹一杯。避けられる戦闘なら避けたいのが本音だったりする。それに十分間引きはできてると思うし。

 二階層目はリーダー付きの群れが多く、リーダーが律しきれなかった個体が一階層目に流入していったようだ。魔物の世界も中々世知辛い。


 大部屋の周囲に小部屋が配置されていて、大体東西南北に区切られている……というレイアウトは、マッピングしている身からすれば理解しやすいけれど、『そういう形なんだな』と誘導されている気もする。自力、リアルマッピングにはどうしても誤差が出るし、隠し通路の有無まではさすがにわからない。


「次……大部屋っす」

「ワーウルフ、寄ってきてます。臨戦態勢っぽいです」

 軽い緊張が走る。

「お嬢ちゃん、電撃用意っす」

 頷いて、身体のあちこちを擦り始める。ううっ、恰好つかない魔法だなぁ。せめて電撃用魔法杖が出来ていれば……。


「――――『蓄電』。はい、準備できました……」

 セドリックはエドワードに向かって頷いて、エドワードも頷き、扉を開ける。

「―――『落雷』」

 バシッと小さな電撃を扇状に広げる。自分たちに当たらないように形状を調整してみた。こちらに向かって走ってきていたワーウルフたちは筋肉が萎縮して倒れる。


―――魔法スキル:雷扇LV1を習得しました


 おや、新スキルっぽい。これ、扇状に広がる範囲スタンガン? みたいな? 派生魔法だとは思うけど、思うように実行してみたらスキルというのは習得できちゃうものなのかも?


「ルイスっち、リーダーっす」

「―――『水刃』」

 ルイスがリーダー目がけて遠距離から魔法を撃つ。続けて私も追撃。

「―――『風刃』」

 リーダーは悲鳴を上げる間もなく四つになって倒れ、クリストファーは痺れて動けない部下ワーウルフたちを中央から、セドリックは左から、エドワードは右から、それぞれ処理していった。ルイスは遠距離から牽制、シドはルイスと私の護衛で周囲を警戒している。

 私は―――魔核を取り出して皮を剥ぐ……。


――――生活系スキル:解体LV7を習得しました(LV6>LV7)


 ああ……スキルレベルが上がってしまったようだ。肉屋か解体を稼業にしても生きていけそう。無駄に手に職を付けまくって生活力だけはアップしていくなぁ。


「周囲警戒っす」

「―――そっちはどうだ?」

「解体終了です。移動いけます」

「移動再開するっす」


 ものの五分ほどでリーダー付きワーウルフの群れは、魔核と毛皮と肉になった。肉は食べられないので迷宮に処理をお願いするとして。


 その後も順調に回避したり、戦闘したり――――ほぼ半々――――して、三階層へ降りる階段を見つけたのは、体感時間では四半日後だった。

 階段を目前にして、もの凄く疲労しているわけではないのだけども、セドリックは野営を指示した。


 ベッキーに連絡すると、現在は三日目のお昼だという。通信障害が昨日より酷い。

『順……調な……ね?』

「はい、いまのところは。何層まであるのかはわかりませんけど、魔核の収集を第一にするつもりです」

『わ…った………。じゃ、気…………てね』

 私がベッキーと会話しているのを見ていた調査隊の五人は、全員が羨ましがった。

「それさーいいなーほしいなー」

「ルイスは誰と会話するんだよ」

「ウチらも欲しいと言ったら、支部長が、一つ金貨千枚だと言ってたっす」

「千枚っ?」

 エドワードの驚いた声。たぶん、青春の色んな妄想を打ち砕く金額だったのだろう。

「恐らく、ですけど、支部長と関わりが深い人は、無理矢理にでも持たされる可能性があります。軽々しく欲しい、と言ったのを後悔することになるかも……」

 ヒイイ、と悲鳴の声が聞こえたところで、二人ずつ番を立てて、睡眠を取ることになった。起きてから万全の状態で三階層目に挑む目算なのだ。


 最初の番は私とエドワード。敢えてこの組み合わせにするところがセドリックの意地悪なところ。他の四人は敷布を敷いて、毛布にくるまっている。でもさ、絶対に起きてて、私たちの会話を聞こうとしてるでしょ、コレ。

「オレさ」

 唐突にエドワードが、座っている私に声を掛ける。というか独り言のようにも感じる。

「ずっと冒険者に憧れてたんだよ。自由でさ。鳥みたいでさ」

 私は黙ってエドワードの方を向いて、独白を聞くことにした。スルーしたり、茶化したりしてはいけない空気が流れている。エドワードは基本的に冗談っぽい会話は苦手そうだし、元の世界で言ったら『真面目だけどつまらない人』って評価なんじゃなかろうか。それで奥さんに浮気されちゃうの。


「自分でもさ、すごい頑張ってると思うんだ。だけどさ、君を見てたらさ、まだまだ足りないなとか思ったんだよ」

 んー、これは『そんなことないですよ』を期待してるのか、『そりゃそうだアハハハハ』を期待しているのか。もう少し黙って聞いてみよう。ってか『君』って何だよ……。

「でもさ、今回の調査隊で、上級の二人と一緒になってさ、それなりに動けるようになってくるとさ、いつか、君にも追いつけるんじゃないかと思ってさ」


 ん~、これは『追いついたら結婚してくれ』パターンだろうか。そろそろセドリック規制が………ってオーイ! なんだよう、セドリックぅう! 寝てる場合じゃないぞうー!

 全く肝心な時に役に立たないじゃないかー!

 って、今寝てる四人とも、絶対薄目開けて見てるだろー!

 くっそぉー、青春のご本尊が許されるのは羽海○チカのマンガだけだというのに! これはエドワードに言わせておいて、ズバッと切った方がいいのか、調査の途中だということで返事を引き延ばす方がいいのか、そもそも言わせない方向の方が角が立たないのか………………。


「もし追いついたら」

「たぶん」

 アブネー。会話ぶち切りますよ。

「たぶん、それは、蜃気楼を追うようなものでしょう」

 うわ、不思議な事をいって煙に巻くなんて、銀河鉄道の金髪美女みたいだ。でも、幻影の中に生きてるっていうのは似ているのかなぁ。


「え?」

 わー、意味とか説明させないでよね。恥ずかしいし、すっごい遠回しなノーなんだからさ。察してよね。うーん、一応方向は揃えておくかなぁ。

「今は、調査を成功させて、生き延びること。それが重要ですよ?」

 変なフラグたてんなよ、このボンボンが。この私が動揺しちゃってるじゃないか。

「そうか……そうだな……」

 お、納得しそう。これは煙に巻いたかな?


―――生活系スキル:告白回避LV1を習得しました


 ええっ? スキルだったんですか? しかも生活系? 友達に噂とかされると困るし?

 ちょっとちょっと……。これは回避ばっかり上手くなっていくという流れなのかな……。

 んっ、別にしなくてもいいけど、これは恋愛フラグが立たない体質になったんじゃ……。しかし初潮も来てないこの身体、子孫とか残せるんだろうか。残したいわけじゃないけど、私という存在が、未来に繋がるんだろうか、という点については興味がある。


 ま、先のことはわかんないし。流されるままだから、いつかどうにかなるか。自分でも刹那的だとは思うけど、世の中が殺伐としているからしょうがないよね。

 エドワードは、地面を見つめて、それでも何か納得した様子で微笑を湛えている。

「蜃気楼を追うのも、男というものかもしれないな……」



―――告白回避LV2の早期習得が待たれます。



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