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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ホームタウンは潮の香り
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黒魔女の奔走3


【王国暦123年9月3日 5:09】


 もちろん、手は洗いました!

 それはいいとして、エミーとラルフを連れて、二足歩行キャリーゴーレムの復路に便乗して、夜の間に移動を開始した。

 ポートマット~ブリスト南迷宮街道の脇にある石の集積所まで行き、そこからゴーレムを乗り継いで、石の台地付近を通り過ぎて、一度ブリスト南迷宮へと向かった。


「襲撃が心配だったんだけどね」

「夜のうちに襲撃されるとばかり思ってた」

「でも、監視っぽい人たちはいましたよ?」

 そう、騎士団の人間だと思うんだけど、迷宮の北側、ブリスト街道近くで、何度か『魔力感知』をアクティブで使われた。こちらの位置がばれちゃったはずなんだけど、そこから動きはなかった。通常のゴーレム運送に紛れて移動できた……と思いたい。

 敵対勢力が、この三人を殲滅しようとなると、


① 大規模魔法で周囲もろとも

② 山中でゲリラ戦

③ ゴーレムを足止めしての待ち伏せ


 になるんだろうけど、①は察知が可能なので防御は可能だし、そもそも、そんな危険な魔術師は近づけさせない。②は奇襲するにしても二脚ゴーレムの足が速いから、結局③にしないと意味がない。③をしてから②をやるとして、防御に徹したエミーを殺すのはかなり難しい。私でも難しいくらいだし。となると、どれを選んでも失敗が見えている。


 待ち伏せに適した人材は近衛騎士団のリアム・フッカー率いる隊とかだけど、前回心を折っておいたから、相対しても実力を発揮するのは難しいだろう。それに、また攻めてくるようなら、今度こそインプラントを埋め込んで、迷宮を好きになってもらいましょうね。


 石切場から迷宮に向かう右手、つまり北側では、人工湖沼の工事、その準備が始まっている。半魔物と住民、合計で二十人ほどが、杭を立てたり、ロープを張ったりと作業をしていた。


 左手、つまり南側に視線を転じる。稲穂はかなり太ってきていて、まだ青さはあるものの、軽く色づいてきたかしらね。もう一ヶ月か二ヶ月くらいか。そろそろ水も抜かないといけないわね。収穫したら、種籾をとって……。『ヒャハー! こいつ種籾なんて持っていやがったぜぇ!』なんて言ってみたいな。あれ、持ってたのは札束だっけか。


 何にせよ、お米は楽しみだなぁ……。藁があれば納豆もできるし。ああ、ブリスト南迷宮名物、納豆ご飯! になったら面白いなぁ。ファンタジー色がまるでないけどさ。

「のどかでいいですね……」

 久しぶりの、ちゃんとした外出ということもあって、エミーは嬉しそう。完全防備で『聖女の尻尾』も装備してるけど。

「うん、こういう田園風景は心が和むよね」

「実家を思い出すよ」

 ラルフだけはそんなことを言った。ラルフの実家はポートマットの衛星村の一つらしい。極貧とか言ってたけど、詳しくは知らない。自分から言うまでは放っておこうと思う。



【王国暦123年9月3日 11:21】


「おお、マスター! マスター・エミー、マスター・ラルフも、ご無事でなによりです!」

 久しぶりに半魔物たちに会ったら妙に感激された。エミーが特殊な立場に置かれていることは伝えてあるにせよ、半魔物たちには人工湖沼の造成を指示していたし、こっちに来る連絡は行ってたはずなんだけど。直接顔を見る、というのはやっぱり違うみたいね。

「うん、調子はどうよ?」

「はい――――」


 ちょこちょこと、ここのアバターにチェンジしては報告を受けていたけど、南にあるストルフォド村での事業やブリストの街との交易は順調。

 隣接する迷宮都市は急拡大している。半魔物や、ギースたち住民の建設能力が高まり、石材はいいものの、木材の消費が物凄いことになっている。

「マスターが言われていた植林、というものも段階的に実施しておりますが、計画的に伐採していかねばならないと認識しています」

「うん。豊かな森は丁寧な保護活動から。森の詩もよろしく」

 ナボナだけじゃないんだよね。

「さすがマスターです。遠い未来を見据えてらっしゃる……」

「いやあ、たかだか十年単位じゃないかな。生育が早い樹木とそうじゃない樹木があって――――」

「それも日当たりによって左右される―――でしたね」

「うんうん」


 何でも、ギースたち住民の中(つまり、元騎士団員ってことね)に、妙に背筋が発達した人がいて、樵夫(きこり)の息子だったりした。父親から伝授されたわけじゃないけど、森で樹木がどう育つのか、ということには詳しかったので、木材調達の責任者になってもらった。製材部は毎日大忙しだってさ。よかったじゃん。


「ああ、マスター、ドングリですが」

「うん? ドングリ?」

「マスター・サリーに一袋、お贈りしました」

 ブリスト南迷宮からポートマット西迷宮までは、こちらからは粘土、向こうからは食料品を運ぶ定期便がある。それに乗じて護衛に就いている『リベルテ』の連中を通じて渡してもらったんだとさ。


「おお……そりゃ喜ぶね」

「はい……。マスター・エミーにはこちらの大豆を……」

「まあっ、ありがとう」

 エミーは大豆を大袋で貰って嬉しそう。

「マスターは秋まで待って頂ければ、米が提供できるかと」

 お歳暮ってことなのかな。穀物とか木の実とか豆とか……。まあ、元の世界の日本では年貢が米で納められていた訳だから、これもアリっちゃアリか。

「うん、ありがとう。皆が息災で楽しくやってりゃいいよ。それが一番のプレゼントさ」

 だなんて殊勝なことを言ってみる。

「はいっ、マスター!」

 元気よく返事をしたのはホフマンで、涙を流しながら脱皮してくれた。

 どうでもいいけど、ラルフへの贈り物はなかったので、ちょっと頬を膨らませていた。



【王国暦123年9月3日 12:36】


 臨月に近いカサンドラのお腹はこれ以上なく膨れていて、今にも破裂しそう。

「お腹の方はどう? 順調?」

「どうなんでしょう……?」

 喋るのも億劫そう。息も荒いし、破水は近いわね。

「えーと、こう、痺れるような感覚はある?」

 エミーが触診をしながら訊く。

「今のところは……ないです」

「まだ落ち着いていますね」

「うん。この二~三日かな?」

「そうですね。そのくらいだと思います」

 エミーはカサンドラを安心させるように微笑んだ。パアァ……と光の精霊たちが集まり、カサンドラの周囲は熱量なんか無いはずなのに、暖かに思える光で満ちた。


 私は心配そうに見守っていた『リベルテ』の面々に向き直る。ジョンヒとヴィーコはポートマットとの定期便の護衛で出ている。だから、ここにいるのはヴァンサンとマルセリノ。

「ヴァンサンさんはここにいて、カサンドラをお世話して下さいな。マルセリノさんは連絡係兼物資調達係ね。プライベートな事情ではあるけど、子供が増えるっていうのは、この迷宮の面々にしてみれば十分に緊急事態だからさ。ジョンヒさんとヴィーコさんへは、戻ってきたら待機を言い渡してほしい。いいね?」

「わかった」


 自分の子供ではない――――恋敵の子供――――なのに、ヴァンサンは力強く頷いた。こういう気持ちには応えてあげたい。産婆さんのプロ(シスター・リンダ)は距離的にも時間的にも人選的にも厳しい。となると、襲撃のリスクはあれど、セミプロ(エミー)を連れてくるのは次善の策ではあるものの、やっぱり最適解のように思えた。


「お姉様、あとは私とラルフが面倒を見ます。お姉様はご自分のお仕事を」

「うん、頼んだよ。カサンドラ、元気な赤ちゃんを産むんだよ?」

「はい……マスター」

 潤んだ目でカサンドラはエミーとラルフ、そして私に何度もありがとうございます、と首を振った。頭を下げているみたいだけど、お腹が重くてゆらゆら揺れてるだけ。

 私がラルフをチラ、と見ると、ラルフはわかってる、と頷いた。この場で何があろうとも、エミーを守る、と意思表示があった。



【王国暦123年9月3日 13:24】


 ここまで乗ってきたゴーレムに再度またがり、ポートマット方面へと戻っていく。

 今回のエミーの移動は特に問題はなかったけど、私が不在のケースもあるだろうし、たとえば、装甲リムジンみたいなのがあるといいんだけど。ゴーレムよりはアバターの一種として作ればいいかしら?

 それとも、パワードスーツみたいな……ううん、防御力優先、機動力と火力も欲しいから……合体する赤い彗星の再来みたいな……!

 いや、あの足みたいのは歩行用じゃなくてプロペラントタンクか。ううーん、地上用デンドロビウムみたいなのがあればいいんだけど……空は飛べないし……。


「ハッ」


 あれだ、Gメカみたいなのはどうだろうか! 寝かせたエミーを内蔵して空を飛ぶ、中身が空っぽのキャタピラの付いた航空機! っていうかもうエミーがセンターユニットみたいになってるな。

 うーん、むしろエミーがこう、体を丸めて何故か頭部に変形、磁石の威力で合体ロボットに……。


「チガウ、ソウジャナイ」

 うーん、合体メカから離れないといけないかしら。もっとこう、ロイヤルな感じ、かつ威圧感があり、全地形対応で……。スノーウォーカー(AT-AT)みたいな? しかしなー、あれも高重心で不安定だし……。

 となると、低重心の獣みたいな……バクゥとかラゴゥみたいな?


「ふむ……」

 サリーにも連絡を取ってみるかな……。案外こういうのはフェイやフレデリカの方がアイデアがあるかもしれない。


 のんびりとメカの素について考えていたら、工事現場に到着した。

「あ、マスター、お疲れ様です」

 こういう工事現場の監督はホフマンが任されることが多い。多忙ではあるものの、元気に脱皮してるから大丈夫だろう。


「うぃーす。杭打ちはどう?」

「かなり範囲が広く、未だ終了していません」

「そっか。いきなり水辺が出来ることになるから、杭打ちとロープ張りは重要。本当は柵が欲しいところなんだけどさ」

「それもそうですねぇ……」

 ゴーレムは半自動でルートも設定してあるので、ちゃんと左側通行、街道の幅からズレることはない。問題は人間の御者が操る馬車などで、柵がなければ水の中に突っ込んでしまう可能性もあった。


「周知されるまではこちらで面倒みなきゃいけないかな」

「その、池? 湖ですか? は、何かに水を供給しようと?」

「田んぼの拡充に使っていいよ。水路とか橋とか、今の皆なら普通に建設できるでしょ?」

 私がそう言うと、ホフマンは腕を組んで考えながら脱皮した。


「簡単なものなら……。しかし、毎度現物合わせではなく、マスターが最初に提供してくれたような、ちゃんと設計図が欲しい時もあります」

 へぇ……。

「わかった。じゃあ、ポートマットの建設ギルドから人を派遣してもらおう。人材交流の側面もあるけど、設計図は一元管理した方がいいし」

「マスターが設立したという団体ですか?」

「うん、支部の体裁を採るかどうかは、しばし進めてから、ホフマンが決めてよ」

 ホフマンは脱皮しながら頷いた。


「了解です、マスター。我々は迷宮から遠くに離れる訳にはいきませんが、そのような申し出があれば、謹んでお受けしたく思います」

「うん、じゃあ、頼んでおくよ」


 軽く会話をしながら、適当に石切場と往復しつつ、ロープで仕切りがあるのを確認してから、ブリスト街道の南側、かつ迷宮街道の北側の土地を浅く削り、護岸工事をしながら氷を落としていった。

「護岸はしておこう。街道を崩したくないし」

「はい、マスター」

 杭打ちとロープ張りが概ね終了したところで、作業員には石組の手伝いをさせることにした。ポートマットの運河といい、最近、こんなのばっかり作ってる気がする……。



【王国暦123年9月3日 16:36】


 ウィンター村にいるタイニーさんからは、無事にカーヴたち三人が到着した、と連絡を受けた。宿舎だとかは事前に用意してあるから、案内もタイニーさんに任せている。っていうか冒険者ギルドの建物に間借りしてるんだけどね。これはセキュリティの都合なので、しばらくは切り離せないと思う。


 こちらの作業の方は、滞りなく終わった。

「半日で湖沼が出来ているとか……」

 気付いた人が驚くと面白いなぁ、なんて思いながら作業を終えて、お腹の氷を出し終えると、少し体が温かくなったような気がした。

 間違いなくプラシーボ効果なんだけど、掘削した土地に、白い氷がポツポツ、と置かれて、冷気を発しながら蒸発する様は、見ているだけで涼しげ。ああ、スイカとか素麺とか、かき氷とか……食べたいなぁ……。


 そうだ、またまた、夏っぽいことをしないままに夏が終わってしまった。唯一、夏っぽいといえばモーゼズの半裸くらい……いや、あの人はいつも半裸か。うーん、白いワイシャツとかプレゼントしたい……。


 例の『殻』に溜まったお水は、今回氷にして持ってきた分を考えると、あと三回ほど繰り返せば余裕が出そう。少なくとも地下チューブ内部のお水も持っていける。あー、最初からこうしておけばよかった、と思った。

《おい……主よ……?》

 あ、ノーム爺さんが怒った。いいじゃん、楽しかったじゃん?

《うむ……まあ、そうだが……?》

 そうそう。水のトンネルを作りたかった。だから作った。幸せになる。それでいいじゃんね。

《むう……?》

 ノーム爺さんを説得(?)して黙らせる。私たち、似た者同士なんだからしょうがないよ。


《私はまだ、主に染まってないわ?》

《儂も……》

「あ」

 シルフとウォールトが言いたいことを言って、ランド卿はまた喋るタイミングを逃した。


 精霊と魔物たちの、のどかな会話を楽しみつつ、晩夏のグリテンで、護岸工事の出来映えに、私は満足気な笑みを浮かべた。

「それじゃー、迷宮に戻ろう-!」

「うぃーっす」



――――返事は既に建設ギルド員ね。





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