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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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迷宮への侵入


 東の空が明るくなった頃、野営地を撤収して、掘削作業を開始した。

 とはいっても天幕、敷布、毛布をしまうだけ。カマドはそのままで基地としての機能は残したままね。


 昨晩のセドリックのヘルプは、フェイに言われていたことなのだという。『……悪い虫が付かないように、頼む』だそうで。パパかよっ! っていうか悪い虫って何だよっ。


「―――『掘削』」

 地下の構造は何となく読めていたので、大雑把に掘削を開始する。地下室の増設を二カ所もやったお陰か、地中ソナー的なものというか、モグラ的感覚が研ぎ澄まされたというか、どのくらい先に何があるのか、感触が掴める。それが魔力を帯びたものならかなり正確に判明するようになったので、数回の『掘削』で、入り口と思われる場所を掘り当てる。


「入り口近くに、すでにゴブリンの群れが集まってきてます。開けたらドバッと出てきますよ?」

 耳を澄ますと、ゴブリンどもがギャーギャー言っているのが聞こえる。単純ながら意思疎通をしているらしい。


「お嬢ちゃん、電撃は? 使えるっすか?」

「足止めすればいいですか?」

「―――ああ。できるか?」

 急いでローブを擦り、静電気を発生させては溜め、を繰り返す。

 元の世界でいう、ピッチャーが肩を作ってる状況みたいな?

「よいしょ、よいしょ。――――『蓄電』」

 カッコワルイ………。けどしょうがない……。

 よし………電気溜まった。


「行けます。扉を開けたら、すぐに下がってください」

「電撃確認したら、ルイスっち、火以外の範囲魔法よろしくっす。魔法の放出と共に前衛はツッコミよろしくっす」

「―――わかった」

「わかりました」

 エドワードが憔悴しきった顔で了解のサインを送り返してくる。まだ引きずってるのか。


「それじゃ、合図するっす。三、二、一、開けるっす!」

 クリストファーとエドワードが二人掛かりで石造りの扉を開ける。特に魔法鍵もなかったし、普通に開いた。


「下がるっす!」

「―――『落雷』」

 溜めている電力が少ないので、バシッとしか音がしない。直撃した場所から同心円状に電撃が放たれる。

 入り口付近にいたゴブリンは倒れて、その後にいたゴブリンが足を取られてまた転ぶ。ゴブリンの体長は半メトルに届かない程度、小型の二足歩行魔物だ。


「ルイスっち、魔法よろしくっす」

「―――『水流』」

 バシャーン! と放たれる中級範囲魔法。うねった水の流れが、蛇のようにのたうち回り、指定された範囲を水圧で押しつぶしていく。

「攻撃開始っす。ルイスっちは下がって次弾に備えるっす。シドっち、お嬢ちゃんは()れたやつに注意っす」


 セドリックはそう言うと、全員各個撃破の指示を与える。セドリック、クリストファーはさすがで、一撃で首を切って頭を飛ばしたりしている。エドワードは……余裕がないけど、考える前に身体を動かしている感じ。うん、一撃じゃないけど少ない手数で致命傷を与えている。触れれば死んでいる様は、戦いでも狩りでもなく、漁に近いような気がする。


「ルイスっち、次いけるっすか!」

「いーけーまーすー」

 間延びした返答が聞こえる。

「ルイスっち、十を数えて範囲魔法っす」

「はいー……………」

「前衛下がるっす」

 パッと魔法の範囲内から退避。初めての連携だというのに見事だわ。まあ、タイミング指示されれば誰でもできるか。


「三ー二ー一ー―――『水流』」

 再度の『水流』で、扉の奧に戦線を進めていく。

「ルイスっち、次弾に備えるっす。お嬢ちゃんは死骸の解体、シドっちは警戒待機、前衛は魔法から漏れたゴブリンの処理っす」

 流れるように指示が飛ぶ。すごいなーセドリック。


 私は解体用ナイフに『光刃』でコーティングをして、ゴブリンの死骸の胸に乱暴に突き立てて、グリッと回して、魔核を一発で取り出した。

 魔物とはいえ、二足歩行の知能を持った生物の死骸を解体するのは精神的にキツイ。だけどここは敢えて考えることを放棄して、黙々と死骸から魔核を取り出していく。

 ゴブリンは肉も不味いし、素材として使える部位が殆ど無い。唯一有用なのは魔核くらいなんだけど、これも小粒。だけど魔道具には小粒の方が都合がいい場面も多いので、安いなりに需要がある。魔道具製作者からすると、元の世界でいうボタン電池のような感覚か。


 入り口から出てくるゴブリンの姿が消えると、セドリックは内部に入るように指示を出した。

「処理した死骸は迷宮内部に持っていくっす。オレっちとクリストファーが先頭で魔物排除、残りの面子は死骸処理っす」

 言われた通りに死骸の足を掴んで迷宮に入る。あまり長い時間放置していると、迷宮では魔物以外でも死骸が消える。迷宮が飲み込んでしまうのだとか諸説はあるけど、何故そうなのかは誰も知らなかった。


「そっちに積み上げるっす」

 入り口は広くはないけどホールのようになっている。その角に、ピラミッド状に死骸を積み上げていく。もの凄くグロテスクだ。

 積み上げている間にも死骸は増えていく。五十体は下らない数だ。黙々と魔核を取り出していく。外にあった死骸も迷宮内部に運び終える。


「外の死骸はここに集積しました」

「了解、お嬢ちゃん、シドっち、扉を閉めるっす」

 私とシドは無言で扉を閉める。迷宮を構成する石壁が仄かに光ってはいるものの、目が慣れない。途端に真っ暗になったように感じる。


「―――『光球』」

「―――『灯り』」

 これも安直なスキル名だよなぁ。『灯り』は光量こそ弱いものの、使用魔力の割に効果時間が長い。蛍みたいに、スキル使用者の周囲を適当に回る。

 私が使っている『光球』は魔術師でも灯り取りに使う人は少なく――――というか覚えている人が結構希少らしく――――、実は攻撃スキルの待機状態だったりするので、囮にもなる。光球に触るとダメージがくる、ということ以外は光量も十分で使い勝手がいい。石壁の仄かな光は、一応壁があることがわかる程度にしか光量がない。むしろ奧を見づらくするので、恒常的な罠とも言える。だから別途、光源を持っていることは安全対策上、必須になる。もちろん、的になるケースもあるので、使いどころには注意がいる。


「左手に沿って動くっす。地図の管理はお嬢ちゃん、任せるっす」

「了解しました」

 雑用係なので、そういう役割が回ってくる。左手法で回るらしい。ますますゲームみたいだなぁ。オートマッピングがあれば便利だけど、この世界は、()()()()()便()だ。マップに関しては手書きで埋めていくしかない。


 私は王都西の迷宮には行ったことがある。当時の師匠、アマンダが細かく教えてくれたっけ。アマンダは早口で説明しながら、マッピングをしながら、戦いながら、周囲に気を配りながら、迷宮を駆け抜けるように進んでいった。当時の私は理解しながら付いていくのが精一杯。スキルの使い方が未熟だったということもある。一ヶ月も潜っていたら、獣のような感性が磨かれたっけ……。良くも悪くもいい思い出だ。


 この迷宮の構造は、王都西迷宮に似ていて、光る石壁の通路、木材だか金属だかわからない扉を入ると、いくつかの小部屋がある。3D迷路のゲームのようだ。壁に当たったら『アウチ!』とか表示が出たら面白いなぁ。


 調査隊一行は左手を壁に添えてゆっくりと進む。地下空間に長くいると、時間の感覚がなくなっていく。

 数度、ゴブリンの群れと対峙する。それぞれが二~三十匹ほどの群れ。それも処理してさらに進む。と、ゴブリンとは違う反応があった。


「この先、ワーウルフの群れです。かなり固まってるので注意してください」

「了解っす。ルイスっち、水系の範囲魔法は撃てるっすか?」

「任せてーくださいー」

 とは言ってるけども、ルイスの息は荒い。

「ルイスさん、魔力回復ポーション、どぞ」

 強引に手渡す。ルイスは少しの間考えてから、受け取った。

「ありがとー」

 ルイスは受け取ってから即座に飲み干す。()()魔術師として魔力量の多寡は気になるところらしい。魔術師の本領は、そこじゃなくて組み合わせとか発動タイミングとかの妙だと思うんだけどなぁ。魔力回復ポーションは媚薬でもあるから、男五人の中に女子一人の組み合わせは非常に危ういのだけど、まあ、セドリックとクリストファーが血迷わない限りは大丈夫。ぶっちゃけ、エドワード組が襲ってきても瞬時に無力化は可能だし。


「お嬢ちゃん、ルイスっちの後に、土魔法お願いするっす」

「わかりました」

 一応、部屋内部の床は土が剥き出し(これは迷宮によって違うようだ)だから、泥沼化は可能だと思う。

「この奧、います」

「ルイスっち、移動して先制後に退避、入れ替わりでお嬢ちゃん、その後前衛が処理っす。足場悪いから気をつけるっす」

 暗がりでお互いが見えづらい中、了解の意思だけが伝わった。


「開けるっす」

 セドリックが扉を開け、ルイスは辛そうに歩き、魔法を放った。

「―――『水流』」

 ルイスが力なく膝を着く。魔力切れかしら。

「ふんっ」

 私は素早く近寄ってルイスを脇から抱え上げて、後に放り投げる。

「うわっ」

 叫び声を無視して、すぐに振り返り、魔法を発動。


「―――『泥沼』」

 ワオーン、のような咆吼が、迷宮の壁に反響する。それも泥沼に足を取られて、ワギャギャギャのような、慌てた叫びになっている。

 魔法発動後に素早く下がり、セドリック、クリストファー、エドワードが前に出て、ワーウルフの処理を始める。

「シドさん、ルイスさんを診てあげてください。魔力回復ポーションは今飲んでも効き目薄いですから、とりあえず寝かせてあげてください」

「わかったまかせろ」

 シドは回復魔法持ちではあるけど、魔力の回復スキルを持つ人はいない。こればかりは自然回復を待つしかない。

 シドは私の指示に従って、ルイスを床に寝かせる。こういう時は背後にも注意しなければならない。私は『気配探知』に注意を向ける。


 キャイーン、と叫ぶ度に、ワーウルフが続々死骸になっていく。

 周辺の敵影に注意しながら、その場で解体を始める。ワーウルフは魔核と毛皮。魔道具製作者としては魔核が、一般の冒険者からすると毛皮が欲しい。

 後方の様子も見ながら、死骸になったワーウルフを、部屋の隅に投げていく。十体も投げたところで解体を始める。迷宮では討伐即解体が基本だ。

 サクっと胸を開いて魔核を取り出してポケットへ。手、足、首(首は無いことも多かった)の毛皮を切って筋を入れ、多少荒っぽくはなるけれど、皮膚が付くのも構わずにスピード重視で毛皮を剥がしていく。ダメージが大きい毛皮は残念ながら廃棄。

「シドさん、そっちは大丈夫ですか?」

「大丈夫だ問題無い」


 一体ごとに周辺を注視。異状なし。次の十匹の解体を開始。さすがはジェイソンの持ちスキル『解体』LV6。すごい早さで解体を進めていく。

「お嬢ちゃん、群れの状況はわかるっすか?」

 ワーウルフが途切れない。断続的に五匹ほどが、奧の部屋から、ここの部屋に入ってきては、前衛組に瞬殺されて、直後には魔核と毛皮と肉に分けられていく。

 体感時間では二時間くらいだろうか、さすがに前衛にも疲労の色が見えてきた。

 その間にルイスも復活して、シドも看病から前線に復帰するけども、散発的な進撃は止まらない。

「奧にはあと五十匹くらいです。撤退始めてますね。こちらも引いて休憩すべきかと思います」

「了解っす。前衛引くっす」

 その言葉にクリストファーとエドワードも、泥沼から上がってきた。前衛の三人も疲労の色が濃い。ルイスとシドも、魔力をかなり使ったようで、ちょくちょく休みながらの参戦にも拘わらず、肩で息をしている。


 私は―――多分、血で真っ赤に染まっているはずだけども、それなりに元気。肉屋とやってることが変わらないんだ、と思い込むことで平静を保っているのだけど。


「―――数が多い」

 クリストファーが一言、そう言った。うん、私もそう思います。ゴブリンを合わせたら二百以上は魔物を殺しているはず。魔物とはいえ、それだけの数を殺すのは精神力を消費するだろう。目に見える数字ではなく、見えない部分だからこそ疲労が怖い。


 二部屋ほど戻り、そこで野営にする。地上の太陽の位置はわからないので、今が昼なのか、夜なのかは不明。体力か精神力か魔力が切れるまで戦って休み……を繰り返すしかない。こういう時に時計がないのは本当に不便だと思う。

 薪がないし、換気もできないので火は熾せず、ここでは干し肉と白パン、水だけ。ううっ、粗食が心を荒ませていくようだ。


 しかし、ハミルトンのところで買ったリンゴがまだ余っていたので、それを一つずつ、皆に渡す。ちなみにリンゴはこれで最後。果物がある、と言った時の皆の顔が緩んだのが救いといえば救いかな。

 栄養補給が終わると、皆は横になった。私は休憩を断って番をすると申し出て、セドリックに了承された。

「すまないっす」

「いえ、休んでてください」


 五人が寝転がるのを確認して、座り込み、パッシブの『魔力感知』で下の階層を探ることにする。

 二階層から、上に上がってきている個体がかなりいる。起きたらまた、ワーウルフ祭確定っぽい。

 三階層には大きな動きはない。殺戮者(われわれ)の存在が、まだ知れ渡っていないのかしら?

 四階層目は前回、朧気にしか見えなかった階層だ。うん、未知の魔物っぽい。動きがやけに素早いのがいる。それほど高レベルじゃないと思うけど、初見の魔物は注意しないと。今回の目的であるLV30程度の魔物は、四階層目辺りまでいけば確保できそう。だけど四階層目の魔物の配置は疎らで、数が足りない可能性もある。

 四階層目と五階層目の間にも結界が張ってあるみたいで、五階層目ははっきり見えない。


「うーん」

 目を開ける。五匹ほどのワーウルフが接近している。ええい、しつこい。

 立ち上がって五人の状況を確認する。戦場で寝っ転がってるようなものなのに、しっかり寝息を立てている。なかなか図太い。


 部屋には入り口が二つある。反対側には魔物の影はない。接近する五匹に近い入り口の扉を開けて、ワーウルフを視認する。同じ部屋の一番遠い扉から顔を出したところだった。

「―――『風切り』」

 遠距離から風刃を複数飛ばして、切り刻む。扉まで切ってしまったのはご愛敬。これだけバラバラだと毛皮も、死後に形成される魔核も取れない。

 勿体ない精神がズキっと痛むけど、仕方がない。

 魔物の気配が消えたのを確認して、五人のいる部屋に戻る。五人は当たり前だけど無事だった。

 迷宮にいる、という特殊な、一種の緊張状態にあるからか、まだ眠くない。私は突然電池が切れるタイプだから、過信できないなぁ……。


 あ、そうだ、一つテストしておきたかった事があるんだった。『道具箱』から、『手鏡00』を取り出す。『手鏡02』、つまりベッキーを呼び出してみる。と、すぐに繋がった。


『あらっ、そっ…ちは大丈夫?』

 魔力シールドの影響か、ちょっと画像が荒い。私自身の魔力でムリヤリ結像してる感じ。

「はい、大丈夫です。順調です。そちらはどうですか? 特に異変とかは?」

『大…丈夫よ。支部長か…は何も言われてないし』

 定時……というわけではないけど、なるべくマメに連絡を入れるようにフェイからは指示されていた。連絡対象は、この調査隊のことを知っているベッキーだけ。

「ところで、今は夜ですか?」

 鏡の向こうのベッキーは不思議な顔をして、こちらが迷宮の中なのだと気づき、

『まだ夕方よ。調…隊が出発した次の日の夕方』

「はは、了解です。ありがとうございます。また連絡します」

『はい、無事の帰還を願っていますよ』

 と、通話を切った。


 思った通り、魔力の濃い場所では通信距離が延びる。今のベッキーとのやり取りも、多少の映像、音声の乱れがあったけど問題無く接続できている。

 ということは―――。途中で魔力の濃い場所を通過させると、通信距離は延びる、と推定できる。もう少しテストは必要かもしれないけど。


 その後は、五人が仮眠から目覚めるまでに、ワーウルフの襲撃はなかった。

 セドリックとクリストファーが先に目覚めて、私に仮眠を勧めてくれた。

 眠くないけど、私も短時間の仮眠を取らせてもらうことにした。



―――全く、眠れないって言ってるのに………………………ぐう。



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[良い点] ちゃんと不便なのって良いですよね。なんでも魔法やスキルで解決できるならそこに努力や研鑽など無駄に等しくなってしまいますしね。やっぱり最近読み始めましたが素晴らしい作品を書いてくださった作者…
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