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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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迷宮調査隊の出発


「…………」

 朝の暗がりの中でもベッキーの顔色が悪いのがわかる。大丈夫かなぁ。

 一度冒険者ギルドに、背負ってきた二日酔いのベッキーを先に置きにいく。

「大丈夫ですか……?」

「う……うーん……」

 大丈夫じゃなさそう。でもまあ、一応ギルドに着いたし。いい大人だし。放っておこう。

「ちょっとトーマス商店に行ってきます」

「あとで支部長室に……集合ね……」

「はい」

 手を挙げてトーマス商店へ。


「おう、どうした?」

「はい。昨日教会に行ってきたんですけど――――」

 トーマスにエミーとマリアの臨時雇用の話をする。

「ああ、もちろん構わないぞ。大助かりだからな。今日はどこか行くのか?」

 快く了承された。

「ちょっと調査に行ってきます。三~四日の予定です」

「ああ……。そうか。気をつけてな」

「はい、いってきます」

 後からドロシーに手を振ろうと思ったけれど、忙しそうだったので、そのまま裏口から出た。


 冒険者ギルドに戻ると、既に受付は混雑が始まっていた。

 それを後目に支部長室へ。

「……やっと来たか。……では説明を始める」

 支部長室に入ると、どうやら私が一番遅くに来たようだった。

「……ベッキー、大丈夫か?」

 フェイにまで心配されてるなぁ。まだベッキーの顔色は悪い。

「大丈夫……です……」

 ベッキーは、動作は緩慢ながら必要な書類をそろえ、各々に配布している。


「……今回、集まってもらった面子は六名。……秘匿された迷宮の調査と、魔核、及び素材の収集が目的だ。……安全は保証されたものではない。……各人、十分に注意してもらいたい。……なお、この調査は極秘だ。……破ったものには罰則があるので注意してもらいたい」

 そう言って、フェイは六人とベッキーを見渡した。


 六人の内訳は、セドリック、クリストファー、私、エドワード。あとの二人は初見で、ルイスとシド。この二人は普段、エドワードと組んで活動しているのだという。ルイスが攻撃系魔術師で、シドは治癒術師兼細剣使いだ。そのように紹介されたわけじゃないけど、スキル構成を見るとそうなっている。

 この六人が、現状でフェイが信用している面子ってことなのかな。準備期間も短かったから、この六人以外にも集められなかった面子はいそうだけど。


 ベッキーの説明によれば、今回の報酬は現物支給となり、全体の四割を冒険者ギルドポートマット支部に上納、これはワーウルフと迷宮関連、で支出している費用の穴埋めに使うとのこと。そりゃ、上級冒険者を拘束してたんだから、それなりに大きな金額なのは想像に難くない。

 残りの六割を全員で山分け。品質や数に依るだろうけども、一気に換金すると出所を探られるので、ギルドの方で買い取りの用意があるとのこと。もちろん、面子同士で相談して融通してもいいらしい。


「みなさんは『道具箱』持ちですが、出来る限り現場で解体を行ってください。討伐数が多い事が予想されるため、ギルド解体場の使用を最低限にしたいのです。円滑に精算を行うために、ご協力をお願いします」

 少し顔色が戻ってきたベッキーが、合掌して頭を下げた。一同が頷く。


「……迷宮の構成や注意点については、道中、コイツから説明を受けてくれ」

 と、フェイは私に説明役を振った。私はフェイに突っ込むのも面倒だったので、軽く頷いておく。


 部屋の中でちょっと円陣なんか組んでみたりして。

「食料なんかは準備してあるっすね? じゃあ、出発するっす」

 セドリックの一声で、迷宮調査隊(仮)は出発することになった。ちなみに、セドリックが調査隊の隊長となる。

 一人ずつ、バラバラに、五分おきに出発するのだそうな。


「おれっちとクリストファーは西門から。エドっちたちは北門から。北西の山中、ワーウルフの巣で合流するっす。嬢ちゃんは……塀を飛んで」

「はい……」

 なるほど、このメンバーが一気に同じ門から出て行くのはちょっとした事件だ。しかし何で私だけ塀越え? まあいいけど。


 私が一番最後の出発。受付の人に軽く挨拶をして、建物の外に出る。

 ゆっくり夕焼け通りを歩いて、適当なところで北に向かう。気配探知で塀近くに誰もいないことを確認してよじ登る。

 うん、よく考えてみたら、その辺の家の屋根に登っても、ジャンプの勢いで屋根に穴を空けてしまいそうだったからさ。

 実はあんまり身軽じゃないんだなぁ……。実際の体重も重いし……。


 無事に塀を越えて、北西の山中を目指す。


 さすがに選ばれた(ライト)面子(スタッフ)、太陽が上がりきる前に再集合が完了した。

 へえ、エドワードも実力上げてるじゃないか。お初のお二人もフットワークがいい。


「まずは移動を優先するっす」

 セドリックはそう宣言すると走り続ける。

 時間的には王都街道に出た方が圧倒的に早いけど、準隠密行動なのもあって、山間を走り抜ける。このペースだと夕方になる前くらいには現地に到着しそう。

 小休止を二回挟んで、大休止する頃、太陽は直上にあった。セドリック、クリストファー、私は平然としているけど、あとの三人にはさすがにきついペースだったようだ。

「長めに休憩するっす。食事と水分を取るっす」

「はいっ」

 中級の三人は、それでも一応周囲を警戒して、中腰のまま、座ろうとしない。

「私が警戒しているので、座って……いや寝ててもいいですよ」

 見かねて私が言うと、ホッと息を吐いて、やっと三人組は腰を降ろした。

 私も腰を降ろすけれど、『気配探知』に注意を向けている。警戒すべき魔物や大型の獣は探知の範囲内にはいない。


「しかしなー、道具屋の娘さんだとばかり思っていたんだがなー」

 ルイスは軽い調子で、私をしげしげと見る。ルイスもシドも、私が言うのは何だけど、若い。十代後半に見えるけど、実際には二十歳過ぎだ。

「先日の魔物を完封した時の魔法は凄かった」

 シドは一息に言葉を漏らした。ああ、あの時にもいたのか。お初ってわけじゃなかったんだね。

 エドワードは、呆けたような顔をして私を見つめていた。

「エドはなー、道具屋の娘が可愛いってなー、連発してたもんなー」

 ルイスが変わらぬ軽い調子でいうと、呆けていたエドワードは驚いて何かを言おうとしたけれど、口を開けたまま、言葉は出てこなかった。

「ところが強い魔術師だと知って俺らも驚いた」

「そうだなー、ワーウルフ討伐が終わったら遊びに誘うとかなー、言ってたしなー」


 エドワードは真っ赤になって俯いてしまった。可愛いね。

 ルイスとシドは、そうやってエドワードをいじりながらも、私との縁を繋ごうとしているみたいだ。やり方はよろしくないけど、友達思いなのは感じられる。エドワードは顔の造形がしっかりしてるから老けて見られるけど、まだ十九歳だか二十歳。この二人とは同年代で仲良しなんだろう。いじられっぷりと、『鑑定』で見られる名前が偽名でもないので、何かを隠して冒険者をやってるわけでも、やんごとない身分だろうエドワードの従者というわけでもなさそう。

 まあ、エドワードがその辺りを話してくれたとしても、私には関係のないことだし。貴族とか王族とか、そういう面倒臭いのは自分で何とかしてほしい。その意味では、アーロンは流されて悲哀を垂れ流しながらも頑張ってるか。エドワードもがんばれ。どうでもいいけど。


「―――そのくらいにしておいてやれ。ああ、いまのうちに迷宮の概要を説明してくれないか?」

 クリストファーが恋バナを遮ってエドワードを救った。セドリックの方は、微笑ましいっす、とニヤニヤ見ているだけだった。クリストファーの方が真面目なんだろうか。


「迷宮は、上方――――つまり地上に向かって、魔力を封じ込める結界が張られています。破壊は可能だと思いますが、出来る限り現状を維持した方がいい――――痕跡を残さない方向――――で、大規模破壊魔法は使わない方がいいかもしれません。つまり、可能な限り物理攻撃、魔法であれば対象を決めた魔法、の方がよろしいかと」

「階層ごとの魔物分布はわかってるっすか?」

「一番上の階層は、ゴブリンの群れ。二百から三百匹。常に戦ってますので、中には高レベル個体もいるかもしれません。これは、戦いを繰り返した魔物はレベルが上昇することから推測されるものです」

 経験値を得た魔物のレベルが上がる。ここはまるでゲームっぽい。

「第一階層は、他にワーウルフの群れ。数は不明ですが、ゴブリンが簡単に手を出さない程度の個体数はいるものと思われます」

「―――恐らくゴブリンと同数はいると想定されるわけか」

「そうですね。第一階層はこの二種類だけ。第二階層は、ワーウルフだけです。ウジャウジャいます。二足歩行の個体は発見されませんでした。第三階層は大きな芋虫、蝶、蜘蛛。魔力の種類からすると植物が繁っています。南国の森を再現したものかも。固い虫は見えませんでしたが、いないとは限りません。第四階層は詳細不明ですけど、魔力の大きさからは三階層目と変わりないと判断します。第五階層はあるにはあるのですが、何があるのかは不明です。それより下の階層も、探知できずに不明です」


 ふむ、とセドリックは少し考えてから、

「今回はLV30程度の魔物の魔核を多く得る、ということから、三階層目、行ければ四階層目を当面の目的地にするっす」

 と、調査隊の全員に宣言した。私もそんなところだろうと頷く。


「一、二階層目の編成は、前衛にクリストファー、エドっち。中衛がオイラとルイスっち。シドっちが後衛。お嬢ちゃんはシドっちの護衛兼調査兼色んな作業、でいくっす」

 全員が頷く。この位置は好都合だ。


「よし、じゃあ、行軍再開っす。夕方になる前に現地に到着を目指すっす」

「はい!」

 全員が元気……というわけではないけども、勢いのある声を上げて、調査隊は行軍を再開させた。


 宣言通り、夕方前に現地に到着すると、セドリックは野営設営の指示を出した。

 踏破ペースは上級の三人には普通でも、中級の三人にはややオーバー気味。目に見えて疲労が蓄積していた。


「ここがー? 迷宮なんですかー?」

 岩だらけの小さな丘、植物は疎ら。本当に上手く偽装してあると思う。初めて来たエドワードたち三人からすれば、不思議に思うのも無理はない。

「そうっす。明るくなったら、お嬢ちゃんが入り口を作ってくれるっす」

 ははっ、ホントに何でも屋になってるなぁ。とりあえずは背の届きそうな崖に支柱を立てて亜麻布の天幕を張る。寝床になる部分にも亜麻布。これだけでは地面からの冷気を遮断しきれないけど、実は裏技があって……。

「お願いするっす」

「――頼む」

 と、二人に渡された、下に敷く亜麻布と、毛布とに、魔法を付与する。

「―――『保温』。はい、できました。エドワードさんたちも敷布と毛布、貸してください」

「え、なにそれ、その便利魔法……」

 エドワードの文句とも言えない文句をスルーして、手にしている布を奪い、魔法を付与する。

「そんなに難しいことはしてないんですけどね。極薄く結界を張ってるだけなんですよ。四半日しか保ちませんけど」

 すでに形状が確定している物にしか付与できないのが難点と言えば難点。着ていない服なら付与は可能だけど、着ると一時間もしないうちに結界が崩壊する。毛布も四半日といわず、三時間くらいしか保たない。あまり形状の乱れがない敷布は、付与魔法が長時間保つので、これで実用になる。


「枯れ枝ー、集めてきたよー」

「はい、ありがとうございます。――『掘削』」

 浅く穴を掘って、穴に手を入れて横穴も掘って、即席のカマドにする。枯れ枝に点火して火を熾す。うはっ、このカマド、火力が強すぎる! 煌々と、いや轟々いってるので、土を投げて少し火力調整。うん、イイ感じになった。その間も手をかざす男衆の顔がオレンジにそまり、暖かさが緊張を解いていく。これだけお手軽だと、ベ○・グ○ルスから文句を言われそうだ。


 前回はその辺の土で鍋を即席で作ったけれど、今回はちゃんと鉄鍋を持参してきた。鍋に『飲料水』で水を入れて沸かす。干し肉を適当に千切って投入。

「お嬢ちゃん、これを入れるっす」

 と、セドリックが渡してきた箱の中には、野菜とキノコが入っていた。あれ、異種のものでも入れられるんだ……?

「あ、一緒にまとめられるものなんですか……」

 セドリックは得意そうに鼻を鳴らして、

「そうっす。ちなみに生き物も、無生物の何かに入れると運べるっす」

「えー、そうなんですか?」


 先日の土塊は、結局押し固めて焼いて、生物の気配(これはどうも大きさが関係しているらしい)を消してから収納してたりするのに。そうか、無生物でコーティングすればいいのか。さすがは上級冒険者だなぁ!

「――生活の知恵だ」

 クリストファーも何だか得意そう。すごいすごいとエドワードたちと一緒に褒めちぎってから、野菜を切って鍋に投入。キノコも適当に投入。


「昨日の残り物なんですが一切れずつどうぞ。ベッキーさんのお母さんの作った、焼き魚のハーブソース和えです」

「なにっ」

 ベッキーの結婚話は、ポートマット支部の冒険者たちの間で話題になっているようだ。『人気のあの娘が結婚してキィイイイ!』という感じではなく、『お袋、幸せになっておくれよ』のような、好意的な意見が多いのだという。相手がトーマスなのは『コレじゃない』感が強いとの意見が趨勢を占めているそうな。

 焼き魚は白パンに切り込みを入れて挟んで、それぞれに渡す。アウトドアではご馳走の部類だと思う。

「ウマイっす」

「―――ああ、沁みるな」

「美味いな」

「うーまーいー」

「これは美味しい」

 好評なようでよかった。まあ、アーサお婆ちゃんの料理だし。しかし、あの大きさのツーナ一本が三日で無くなっちゃったことになるのか。いい加減私も大食漢だなぁ。

 いやほら、食え! 食え! 食え! って二人がかりで来るから。

 元の世界の相撲レスラーもきっとそんな感じで体重を増やすんだろう。


「スープできました。どうぞ」

 温かい飲み物は野営中では最高のご馳走だ。食器に取り分けて配膳していくと、渡したそばからお代わりの声。私の分が……。一杯はキープしておこうっと。

「はいはい、ちょっとー待ってーくださいよぉー」

 森○保○太郎風に言ってスープを取り分け続ける。ルイスがちょっと嫌な顔をしていたけども、別にルイスを揶揄したわけじゃない。ニッコリ笑ってスープを渡すと、黙々啜り始めた。


 この宴の最中でも、セドリックとクリストファーは時々『気配探知』で索敵範囲を気にする素振りを見せている。殆どはリスとかの小動物なんだけど、ピクっと動く方向が同じだけに、見ている分にはちょっと面白い。

 エドワード組(と、ひとまとめにさせてもらおう)は、食事中は無警戒だ。先輩たちがいるから、という安心感がそうさせているのかもしれないけど、いずれは彼らも導く立場になるのだ。経験値不足は否めない。後でプライドを傷つけない程度に助言しておくかな。

 導く立場―――といえば、上級冒険者はポートマットには、セドリック、クリストファーの他に三人くらいはいるはず。殆どが『シーホース』に所属していたはずだけど―――防衛には関わらないんだろうか。領主の子飼いチームってことは、アーロンとも面識があって、騎士団と同じ方向を向いてるはずだけど、アーロンから『シーホース』が絡んだ話は聞いてないし、上手く協力関係が築けていないとか、なのかなぁ。


「美味かったっす」

「ええと、はい」

 元の世界の日本人なら、お粗末様でした、とか言うんだろうけど、その言い回しは、この世界には無いみたい。前にドロシーにキョトンとされたっけ。


 食事が終わり、後片付けをしていると、エドワードが話し掛けてきた。まるでタイミング計ってるみたいで、そわそわしたりチラチラ見たり。ハミルトンもそうだけど、男の子は素直じゃないよね。もっとこう、グイッとさぁ!

「話があるんだ」

 グイッと腕を掴まれた。

 やだ、力強い……。


 ハッ。


 私は多分中身は少女じゃないよ……。それどころか女じゃないかもしれない……。

 ……なのにトキメキ(死語)が止まらないっ?

 やっべー、エドワードの目が怖い。うわ、野獣みたいだ。なるほど、これが思春期のがっついた男子ってやつ?


「おおおおれ」


「お嬢ちゃん、明日の打ち合わせ、するっす」

 エドワードの背後から、セドリック登場、アタックチャンス失敗、お立ち下さい。

 セドリックのウィンクが実に嫌らしい大人を体現している。エドワードは苦み走った顔になっていたけど、私はホッとしていた。

 でもでもー、今後、エドワードがセドリックに突っかかったりして。『アンタあの娘の何なのさ』とか言ってさー。『悔しかったら上級冒険者になるっす』とか言ってさー。いやー修羅場になるのかなぁ、楽しみだなぁ。

 あれっ、また火ダネは私ですか? なんでよ?


「お嬢ちゃん……。大丈夫っすか……?」

「えっ? ええ、はい」



――――手の震えが止まりません(アタックチャンス的に)。



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