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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
冬の村は燃えているか
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支部長の帰還2


【王国暦123年7月13日 1:15】


 召喚光球に意識をチェンジ、十台の偽装馬車が通過してすぐに、後続の幌馬車が見えた。

 街道脇からふよふよ……と道に戻り、馬車の直前に出ると、召喚光球に内在する魔力を使って、一気に二十個の『灯り』を発生させた。

「ヒヒヒヒヒヒヒーン!」

 急に発生した大きな光源に、二頭立ての馬車馬がパニックを起こした。勢いが止められない馬車は、道から外れて、脇に逸れて、光源から逃げようともがく。

 御者の男の顔が灯りに照らされて見える。必死に馬を制御しようと歯を食いしばり、馬車のブレーキも使って、馬を止めようとしている。

 顔で判断しちゃ失礼かもしれないけど、御者の顔は薄汚れていて歯が汚く、軽装の革鎧からは悪臭が視認できそうなくらい臭ってきそう……。野盗の顔ね!


 やがて馬車が停まると、幌の後部が開いて、中から武器を持った集団が飛び出してきた。二、三、四……六人か。

 召喚光球の内在魔力はまだ残りがあったけれど、遠隔操作しているだけなので指示を出してから遅延がある。意識は光球にあるのに変な話だなぁ、と思うけど、視覚情報と乖離があるということは、少なくとも魔力による通信っていうのは光速じゃないのかもしれないわね。あれ、じゃあ、まだ魔力による動作は高速化できるってことか。


 おっと、それはいいとして、この怪しい集団を足止めしちゃおう。無力化っていうか……。引き離せばそれでいい。

 光球を操作して、人体を模してみる。

 魔力を操作して頭、手足を伸ばす。不格好だけど、人型に見える、かな?


――――魔法スキル:召喚:光人を習得しました


 少し遅れてメッセージが表示される。なんだこりゃ。人型を作ってみたらスキルを覚えたわ。面白そうなので連中に突っ込んでみる。

「何だっ!」

「魔物っ!?」

「レイスかっ!?」

 混乱した様子の男たちの風体は御者の男と変わりなく、暗闇の中でも小汚さが目立つ。この人たちの正体は……まあ、騎士団が偽装している可能性も無くはないけど、普通に野盗の類だよねぇ。


 彼らは少人数でもそれなりに訓練をしているのか、停まった馬車を影にして、まずは弓で矢を射ってきた。

 けど、召喚光人は魔力の集合体でしかないので物理攻撃は効かない。矢がすり抜けた時点で、

「魔法だっ! 魔法で攻撃しろっ!」

 と、野盗にしては素早く、賢明な判断をした。簡単な攻撃魔法を使える人はそれなりにいる。叫んだ男も含めて、七人のうち三人が『火球』を撃ち出した。『火球』を初めとして、魔法攻撃は、魔法によって作り出した物理現象なわけで、魔力の塊に対して有効な攻撃か、と言われると疑問を呈することになる。それでも物理攻撃よりはマシで、多少はダメージが通る。物理現象に対して魔力が影響を受けないことはない……という証拠でもあり、つまり、物理攻撃でも、微量ながらダメージは通ることになる。


 元より、そんなに多くの魔力を費やして生成した召喚物ではないので、火球によって光人に穴が空いていく。痛みはないけどビジュアル的に気分は良くない。

 光人をさらに突進させる。

「うわっ、うわあああ!」

 光人の穴はすぐに修復されて、野盗たちに突っ込み、馬車に向けて『火球』を放つ。彼らはまだ、何もしていないので正確には野盗ではない。怪しいから殴っちゃえ、の論理で動いているに過ぎないけれど、こっちにも余裕があるわけじゃない。野盗かどうかを確認してからじゃ遅いのだ。これが私一人だけで移動しているなら悠長に構えるけど、隊商を守らないといけないし、これが記念すべき第一回目の運用なので、間違いを犯すわけにもいかない。この攻撃が間違いだ、と彼ら野盗は宣うかもしれないけど、怪しい動きをしていると疑われる位置にいること、それ即ちギルティなのだ。


 足さえなければ彼らは襲撃が不可能になる。ということで、馬車を攻撃する謎の光人……が、車輪を焼き続ける。

 ポン、ポン、ポン、と三発を撃ったところで幌が燃え、馬車の車輪が炎に包まれた。ちょっと輪入道(わにゅうどう)みたいよね。輪入道は牛車の車輪だけどね。

 四発目を撃とうか、というところで、光人の内在魔力が切れた。

 野盗(予定)の人たちは、憤怒の表情でなにやら罵倒していたけれど、リンクが切れて、霧散する光人では、その罵声は聞き取れなかった。



【王国暦123年7月13日 1:20】


「足止め成功しました。前方に注意した方が良さそうですね」

 私が御者さんに言うと、またまた、へえ、と感心された。私が何者なのかは、大まかには知っているはずだけど、子供を見るような慈愛の目を向けられた。

「小さい姉ちゃんは偉いな」

 と、久しぶりに頭をガシガシ、と撫でられた。うん、まあ、悪い気はしないかな。手綱の皮臭い掌だったけど、働くおじさん、こんにちはってな感じ。


 隊商が緩やかで長い坂を登り終えると、水飲み場が見えてきた。

「馬車が数台駐車してますね」

「よく見えるな……」

「あの馬車が襲撃者である可能性は?」

「低いと見る。一台二台なら可能性は高かったが。数台規模の盗賊なんて、王都に近いこの場所じゃ、騎士団が掃討してるから存在できんよ」

 なるほどねぇ。あとはアジトの維持も難しそうだし。


 隊商が無事に水飲み場に到着すると、早速塩を食べさせて、水を飲ませた。その間、私はパッシブ状態で魔力の動きに注意を向け続ける。

 ついでに、光人を三体作り、周囲の警戒を行う。実に正体不明で不気味で、威圧感のある、いい召喚物だと思う。この世界の召喚職(サモナー)は、異次元から謎生物を呼び出したり……なんてことはしないのが妙にリアルというか、興味深いわよね。

 この光人、一応の手足はついているけど微妙に宙に浮いているので、足を動かさなくても移動できるんだけど、何となく歩いているように見せた方が怖いかなぁ……と思いつつ、ちょっとムーンウォークみたいだなぁと、ポートマットにいるマイケルも思い出す。

 肉食いたいぜ、フォー!


「ん」

 私たちが到着して、馬のケアをしていると、多少は五月蠅くなって、馬車の護衛と思われる人たちがちょこちょこ、と顔を出してきた。

 これは小綺麗な冒険者風の人たちで、ちょっと安心する。

「ここに駐まってる馬車は、全部、商業ギルドのマークが入ってる。偽装の馬車はないな」

 私の乗っている馬車の御者さんが、幌の中にいる私に話しかけてくる。

 それでも、遠くから見られている可能性があるので、警戒は怠らず、光人をウロウロさせ続けた。


 坂下じゃなくて、坂上の水飲み場に数台が駐まり、夜を明かしているのは、ここで馬の体力が切れるかららしい。何となく、横川~軽井沢(ヨコカル)とか、瀬野~八本松(セノハチ)とかを連想させるわよね。

 御者さんたちは、護衛の冒険者っぽい人たちと知り合いらしく、何事か話し込んでいた。情報交換をしているのかもしれない。

 やがて御者さんたちが戻ってくる。


「お姉ちゃんが遭遇した野盗は初物らしい。該当する連中は見たことないってさ」

「馬車は潰しましたけど、人間は生きていますので、通過には注意が必要かもしれません」

「そうか。そうだな。出来れば捕縛しておきたいが……」

「それは騎士団の仕事かもしれません。王都騎士団に連絡をしてみます」

 こういう時は王都騎士団の連中に通信端末がないのを不便に思うけどさ。手早くザンとブリジット姉さんに短文を送っておく。ザン経由ファリス行き、っていう人脈は、まだ生きているだろうから。王都騎士団があまりにも不穏な動き方をしているので、冒険者ギルド本部が疑念を持っちゃったし。以前ほど懇意に、緊密な連絡を取る回数は減っているはず。


「ウチらは無事に馬車を届ける。それが本懐だもんな」

「はい。降りかかる火の粉は払いますけど、それ以上は越権行為ですしね。あくまで我々は隊商で、私はその護衛に過ぎないのです」

「今回はお姉ちゃんしかいないしな。よしわかった。休憩も切り上げて出発しよう」

 そう言う御者さんは、暗がりでヤッタ○マンを連想させる白い歯を光らせた。いや、喪黒福造の方かな。



【王国暦123年7月13日 1:50】


 隊商が出発すると、マールがもそもそ……と起きてきた。

「なにかありましたか?」

「問題は解決しました。寝てていいですよ」

 私が言うと、マールは四角い顔でニヤリと笑った。

「では、もう少し寝させてもらいます」

 私も微笑を浮かべて頷く。移動する馬車で寝入るのは慣れというか鈍感力が必要だけど、マールはともかく、ラーラも全然起きないわね。いい意味で鈍感なんだと思うことにしよう。


 半刻の間に坂道を徒歩で登って、野盗が追いかけてくる、ということもなかった。

 イルカ睡眠で半分寝ながら、半分は『魔力感知』で周囲を探索する。脳を半分ずつ、意識して分けて使えるのは、もはや奇人変人で二等賞くらい獲れそうなくらい面白い特技かも。これ、他のホムンクルスも出来るのかしら……?


 ホムンクルスの培養槽……があると思われるドワーフ村は、ウィンター村の北方、馬車で二日ほど……の距離にある。ノーム爺さんはまだ行くな、と言っていた。最上級精霊の加護がないと危険だ、という。その危険って何なのかしらねぇ……? 命が危ない云々なら、寿命のこともあるし、『不死』も発動するだろうから何度かは死ねる。となると、死ぬ云々が問題じゃない、ってことか。水はあの宰相殿と契約しているらしいから、火の方を優先するべきかなぁ。とは言っても手がかりがなぁ……。


《せめて近くにいればわからないこともないんじゃがのう……?》

《そうねぇ……?》

 ノーム爺さんとシルフは申し訳なさそうにそう言ってきた。そもそもグリテン島にこんなに集まってるのがおかしいのよね。

《それもそうじゃな……?》

《その理屈だと、(サラマンダー)も近くにいることになるわ?》

 じゃあ、グリテン島内をウロウロしていれば、そのうち会うかしら。

 火か……耐熱スーツも作った方がいいかしら。宇宙刑事シリーズは作ったから……。メタルヒーローシリーズにするか……。ジャスピオンから……?



【王国暦123年7月13日 10:22】


「そろそろウィンター村だな」

 カポカポ、と石畳を叩く蹄の音、定期的な振動、暖かい陽気……に、半分しか寝ないのは眠気もずっと続くということでもあり、何だかんだとイルカ睡眠が続いている。

「ああ、うん、はい」

「むむ……しぶ支部長……寝坊助だ」

「仕方がありませんよ。彼女は護衛でずっと起きているのですからね」

 ずっと寝ているとも言えるんだけど、それは言わないでおいた。この状態だと、思考はできるけど会話が不十分になる。会話を含めて顔の筋肉や体を動かすっていうのは片脳が寝ていると難しいものね。

「途中で一度、賊を撃退しているそうですね」

「ああ、そうだ。何をどうやったのかは聞いてないが」

「彼女は『黒魔女』ですからね。噂ではプロセア兵二千人を一瞬で海の藻屑に変えたとか」

「冒険者の噂では『盗賊温泉』は黒魔女が作った穴から出来たとか」

「むむ……」

「いや、うん、はい」

 無責任な噂を明確に否定できないまま、間もなく馬車はウィンター村に戻ろうとしていた。

 出張が終わりを見せていた。有意義だったような、そうでもなかったような。いつの間にか理解しがたい責任を負わされているような気もするけれど、これも巡り合わせというものかしら。



――――ああ、支部長めんどくさい。





※ちなみに、ジャスピオンのアクセントは、ジャス ピ↑ オンです。どうでもいいんですけどね!


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