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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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毎日の日曜大工


 地下室の床張りをしようと思う。

 ギルバート親方から以前に聞いた施工方法としては、床面に板を直貼りという方法と、枠を組み立てて、その枠を持ち上げ、枠の上に板を貼る方法の、大まかに二種類あるのだとか。

「んー床面の処理をもう一回するのもなー」

 平滑かつ強度が得られる状態、というわけでもないので、石で土台を作って、その上に木枠を載せることにする。とはいえ、アーチ状の地下空間で、その分だけ天井が低くなってしまうので、あまり高さが取れない。


 狭い空間に、『道具箱』からあり得ない長さの角材を取り出して置いていく。ちょっとボトルシップを思い出しちゃう光景ね。

 組んだ角材を釘で固定していく。もう大工さんそのもの。ギルバート組の皆さん、スキル提供をありがとう。


 枠が出来上がると、床板を貼る作業、つまり床張りに入る。

 元の世界なら枠の下や上に発泡ウレタン辺りを充填したりするんだろうけど……。生憎、そんな便利な建材はない。石油化学が発達しないと無理かなぁ。魔法で似たようなものができないかな。今は時間ないけど。

 ああ、あと、この世界には合板を作る技術がない。枠の上に合板を載せて、その上に床材を載せれば強度が増すのだけれども、その手法も使えない。木材を極薄にスライスすることは可能だけど、まくれあがったり、その分接着剤が必要だったり、これだけのために合板を作るのも面倒臭いし。なにより時間がかかってしまう。

 というわけで、床材の半分を薄くスライスして、捨て張りにする。その上に床材であるオーク板を貼る。オーク板は木片の状態になっていて、物によっては反っていたり、曲がっていたり。選別をして、真っ直ぐなものを優先して貼っていく。

 不良品の板は熱を与えたり水分を与えたり抜いたりを繰り返して強引に真っ直ぐに。微妙にサイズが違ってくるので、端っこに使う。

「よし」

 地下室の暗がりで、トンカチを持って床材を貼る幼女の図は、自分でもおかしなことをやってるなぁ、と思う。

 が、とりあえず完成っと。表面仕上げはまた後で。


 地上に出ると、夕方を過ぎていた。

 時間的にはもう遅いのだけど、アーサ宅の地下室で、また床張り(泣)をしなければ。


 ちょっとウンザリしながらアーサ宅に戻る。

「そう、遅かったわね。おかえり。はい、これ」

 アーサ宅に着くなり手渡されたのは、エレクトリックサンダーの毛糸だった。

「あ、ありがとうございます」

「そう、あ、気をつけて……」

 と、アーサに触れた瞬間、バチッと静電気が走った。


「あうっ!」


 私も、アーサも、思わず万歳してしまう。恐ろしい糸が出来上がったじゃないか……。

「あああありがとうございますすすす」

「そそそそそそうねねねね」

 まだ身体が痺れているので、慎重に受け取って、慎重に『道具箱』に入れる。

「こんな面倒な素材を……ありがとうございます」

「そう、何かね、身体の調子がいいのよね……」

 電気マッサージみたいなものかなぁ……。エレクトリックサンダーにそんなスキルはなかったようだけど。

「それはよかった……です。遅くなりましたけど、地下室の作業、始めます」

「そう? もう夜になるわよ?」

 元気そうなアーサが、心配そうに私を気遣う。

「大丈夫です。やっちゃいます」

「そう。もう娘も戻るわ。戻ったら一度お食事にしましょう」

「はい!」

 元気に私は応えて、台所の入り口から地下室へと降りていく。


 先ほどやったことをもう一度繰り返す……のだけど、枠の水平を取るのは本当に熟練のワザが必要らしい。何度か調整して満足のいく枠が出来る頃、入り口の上から、アーサから声がかかった。

「そうー、戻ったわー! お食事にしましょうー!」

 あ、ベッキーが戻ってきたのかな。全然気付かなかったや。案外防音性はいいみたい。これなら相当怪しい作業をしても音は漏れなさそう。


「そう、あら、その指輪……」

 食卓に着くと、アーサはベッキー指輪に気付いたようだった。

「これね、トーマスさんから貰ったの」

 と言いつつ、私の方を見て、クスクス、と笑う。チャーミングな中年っていうのは色っぽいなぁ、なんて思いながら、笑みを返す。

「そう。よかったわね。あ、今日は蒸してみたのよ?」

 どうにも淡泊になってしまって、ソースに工夫をせざるを得なかった、とアーサがこぼしていた蒸しツーナが、今晩のメインディッシュだ。

「醤油ソースにとろみ……これはイモのとろみですね?」

「そう。サラサラしたソースは合わなかったの」

 なるほどー。あれ、じゃあこれ、片栗粉か。デンプンを抽出する発想はあるんだなぁ。

「これはこれで美味しいです。お酢が入ってもよかったかもしれません」

「そうね。ちょっと酸味があってもいいわね。もう少し甘みも欲しかったかしら」

 思い立ったが吉日と、アーサはソースを作り直しに行ってしまう。ので、私もベッキーも台所に移動。


「そうね、これね」

 三種類くらいのソースを作って、試食しまくった三人は、台所でお腹が一杯になってしまう。

「レシピは覚えました。蒸しツーナの甘酢あんかけ」

「そうね。新メニューね」

「いいわねぇ、こういうの。娘が欲しかったのよね」

 ベッキーがウットリしながら言う。確か息子さんが二人だっけ。

「そうね。私も女の子の孫が欲しかったわ」

 チラッチラッとベッキーを見るアーサだけれども、ベッキーは年齢的にもう一人! というのは辛いだろう。それはわかっているはず……。

「挑戦してみようかしら…………」

 おー、そうくるか。よかったね、トーマス。腹上死しないようにね!


 夕食というか試食会が終わった後、私は床板を貼る作業に戻った。まずはこっちの環境を作らないと、借家の方から荷物を移動できない。

 床張りが終わった頃、仕上がりに満足していた私に、上から降りてきたアーサが話し掛けてきた。

「そう、部屋を用意したのだけど。見てくれる?」

「あ、はい、いきます」

 もう夜も深まって、寝る時間だ。部屋を見るのに適した時間とは言えないけれど、連れられて中に入る。八畳くらい? 地下の工房と同じ広さなのだけど、天井が高い分、広く感じる。

「そうね。ドロシーちゃんも来るのよね? 隣の部屋はドロシーちゃんに使ってもらおうと思っているのだけど?」

「え、二人で一部屋じゃなかったんですか?」

 思わず訊いてしまう。

「そうよ。孫が二人いたから。下の子は早くに出ていっちゃったけど」

 ああ、それでは寂しい時間が多かったろうに。

「多分、私とドロシーには、この部屋は広すぎます。それに、お孫さんが里帰りしたときに、自分の部屋がなくなっていたら、ちょっと寂しいのでは……?」

 アーサは首を振った。

「そうね、でも、そこは遠慮しないでほしいわ。私の孫はそんなことで気落ちしたりしないわ」

 そう言って、後から、そっと、軽く、抱きしめられた。ちょっとくすぐったいけど、悪い気分じゃない。

「お気持ち、ありがたく頂きます」


 殺風景な男の子の部屋を見渡して、持ってくる家具の算段をつける。きっと、ここも仮の住まいなんだろうけど、待っている人が出来るのなら、ここが私の安住の地だ。でも、本来の仕事に戻った時、普通に接することが私に出来るだろうか。何食わぬ顔で、この部屋に戻ってこられるだろうか。

 そこまで考えて、この部屋に住むことに、重圧を感じてしまう。

 けれど、その重圧を消したのは、まだ抱擁しているアーサだった。

「そう、色々あるかもしれないけれど、大丈夫。何があっても、戻ってらっしゃい」


 うーん、やっぱりアーサお婆ちゃんは……。私が裏稼業の人間だと知っているのだろうか。ベッキー経由で? それともトーマスの関係者だから? ということはトーマスも裏稼業の人だとバレてる? いや待てよ、そもそもトーマスの知り合いで、借家を用意してくれたということは、私の事情もある程度知ってるってこと?

 訊きたいけれど訊けない。そんな葛藤も、後からギュッと抱きつかれてしまい、薄れていく。初老の筋力も馬鹿にできないなぁ、なんて思いながら。

「はい……。ここに住みます」

 これが、私が同居人になった瞬間だった。


 深夜にかかっていたけれど、借家の方の作業が半端なので、荷物を取りに行くついでに一度戻ることにした。

 アーサ宅には早朝に戻る、と伝えたけれども、「えー、もどっちゃうのー?」のような視線を送られるのは地味にキツイものがある。基本的にアーサお婆ちゃんは私のやることに反対しないし、黙って見送ってくれるのだけど、背中が痛い時がある。ドロシーの視線に近いものがあるなぁ……。


 借家の地下室は、まだ剥きだしの煉瓦のままなのを、漆喰を塗って仕上げていく。壁面が白くなると、僅かな光でもかなり明るくなる。

 床板は鏡面加工をしてから、亜麻油でニス仕上げ。ピカピカになっていくのが実に楽しい。

 あとは設置式の魔導ランプを三個くらいか。ニスを乾かしている間の作業は無理だから、その間に作るかな。


 魔核もストックが少なくなってきていたので、明後日の迷宮行きはありがたい話でもあった。

 魔道具に使うには、ワーウルフやゴブリンなど、弱い魔物の魔核の方が使い勝手がいい。入手も簡単だし、扱う魔力が少ない方が、魔法陣の発動には優しかったりする。ただし、かなり脆くて壊れやすいので、こまめな交換が必要になるのが面倒ではある。

 魔法陣を動作させるだけなら魔核は要らないのだけど、光ったり、暖めたり、という継続動作には、魔力を送り続ける必要がある。その魔力供給源として魔核は必須になるわけね。


 銅のインゴットはストックがあったので、薄くスライスして、圧延機(仮)に入れて更に薄くする。一ミリ以下になったところで、半球の形状に加工。これの上半分に模様のように穴を空けていく。先日、騎士団のテーブルに脅しで穴を空けた経験が生きているようで、なかなか美しいものができた。これはランプのカバーになる。

 別途作っておいた円盤に、魔法陣を転写。光魔法の『灯り』に加えて、少ない魔力でも稼働するように、増幅の効果も足しておく。これも、先日のスーパースリー用魔法杖の製作経験が生きている。


 魔導ランプは全部で九組を製作。三つを一組にして、借家地下室に一組、アーサ宅は地下室が二部屋あるので、それぞれに設置するので二組。

 元の世界でいうアールデコ風? アールヌーボー風? 記憶があやふやなので、それっぽい風(アールタイプ風と命名)ということにしよう。とにかく光り物は魔核をセットして完成。


「あとは――――」

 空調用の魔道具か。一定方向に微風を送るように設定した魔法陣を二枚用意して、それを管理する魔法陣と連結。素材は魔法の威力とか親和性とかが重視されるわけじゃないので銅板でいいわよね。


 港の赤煉瓦―――大型保管庫の魔法陣も銅板で作ればよかったのかもしれないけど、あっちは大部屋を素早く冷やし続ける必要があって、小さな魔法陣を連結すればいい、というものでもなかったりする。

 魔法陣が増えれば管理の手間もあることだし。錬金術師の行動の常として、魔法陣には魔法的な錠前をかけておいた。保管庫の魔法陣も相当にひねくれた方法じゃないと魔法陣が見られないようになっている。著作権保護みたいなものかな、と思って、そこは前例に従ってるわけで。

 あとはまあ、大面積の平滑な金属板が作れなかったという事情もあったりする。


 空調管理用の魔法陣には簡単なスイッチをつけておく。急排気だけ、急吸気だけ、微風で両方を作動させ続ける、一定の時間だけ作動、定期的に作動、停止状態、と。

 魔力を流す方向を指定するだけなので、これは簡単。風系の魔法を使うように、空調管理用魔道具は二つ作っておく。

 もう一つは煙突のフタ。空気は通すけど異物は通さないようにする。原始的なフィルターとしては、ネスビット商店謹製の網を張っておくけども、毒物だったり微生物だったりは遮断できない。ここは要検討ね。


 あとはシェルターとしての役目を持たせるため、大きな衝撃を感知したときにフタを閉める、という機能も付ける。フタは風系魔法が発生する部分と、センサー部分、管理魔法陣、と三パーツ。無線的にやるとなると、魔力の送受信を司る魔法陣をまた描かないといけないので、細く伸ばしたミスリル銀を電線替わりにする。目ざとい泥棒さんなら、このミスリル線を盗むだけでも一財産になるかも。ミスリル線は、コーティングしないと、線そのものから魔力が発散してしまう。コーティング用の素材はいいものがなくて……。とりあえず粘土で覆って、素材そのものの劣化を防ぐことにする。魔力耐性の高い魔物とかがいれば、それを参考にしたり、素材にできるんだろうけど、今のところ、そんな都合のいい魔物は見たことがない。

 なお、フタの部分は、内側を鏡にしておく。潜望鏡の要領で、日光が少し入るように。


「朝になってしまった……」

 眠くなってきた。いけない、また夜型になってしまう。今日は無理矢理にでも起き続けて、作業を終わらせよう。

 地下室に降りて、ニスの乾き具合を見る。完全に乾いたわけじゃないか。麻袋を上に敷いて養生とする。

 魔導ランプを三カ所に設置。これもなー、ミスリル線で連結して、一つの電灯として扱えれば簡単なんだけど。魔力ダダ漏れのミスリル線は、今のところ、あまり多用はできない。

 一度上に登って、下に向けてミスリル線を投げる。ここでフタ本体とセンサー部を接続。下に降りて、フタ管理の魔法陣と、空調管理用の魔法陣を接続。これでフタの状態と空調が連動するようになる。

 魔法やらを使ってもこれだけ面倒なのに、元の世界の技術力や便利を追求する熱意っていうのは凄いことなんだと実感する。


「試運転、と」

 まあ、今は自分の快適生活のためだ。送受風モードにして、しばらく放置。床のニスも、これで乾燥が促進される。

「魔道具は正常に動作、と。残りは……」

 借家の魔法錠前か。まあ、これは簡単。一定の条件で力場が発生するように魔法陣を描けばいい。『条件』の持ち主の二人がいないから、今は魔法陣だけ銅板に描いて、ひとまず切り上げ。実際の錠前の部分は鍛冶で作らねば。これは戻ってきてからだなー。

 灯り取りの窓を見る。まだ昼にはなっていない。


 出かける準備をして借家に施錠をして庭に出る。

 空気取りのために半壊させていたテーブルを再構築。テーブルの中を中空にしておく。これで一見して空気穴とは思えない構造になった、かな。


 よし。

 お出掛けしよう。



――――寝てないのでテンション高め。



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[一言] アーサがやたら「そう・そうね」と言ってて口癖かと思ってたら、呼びかけるときも同じだったということはそれが主人公の名前なのか
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