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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
冬の村は燃えているか
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冬の迷宮4


【王国暦123年6月11日 1:35】


 第五階層は思った通り、鬱蒼とした木々に囲まれた空間だった。

 迷宮運営の『作法』からすると、普通、こういったジャングル、草原フロアは迷宮壁による仕切りがなく、植物や、植物型の魔物でエリアを分ける。天井には、太陽光を再現した魔道具が埋め込まれているはずなんだけど、リアル時間が午前一時なので、それに合わせて今は夜の設定になっている。これも『作法』通りね。


 普通の樹木や草もあり、ちゃんと夜露もあるし、大きな箱庭、と言えなくもない。

 注目したいのは、誰かが通った跡があること。今までは迷宮の石畳の上しか歩いてこなかったから、こういう証拠が見られるという意味で、このジャングルという設定はありがたい。


 ざっと周囲を見渡す。

 うーん、LV30程度の個体が十体くらいいるかな。

 あまり動物系統がいない印象かしら。


-----------------

【ストローベリー】

LV:29

種族:プラント

スキル:噴進弾LV1 藁人形製作LV1

-----------------

【ウォーキングパインアップル】

LV:29

種族:プラント

スキル:果実爆弾LV1 自爆LV2

-----------------

【ラバーロッド】

LV:30

種族:プラント

スキル:鞭状攻撃LV1 カマイタチLV2 弾性防御LV1

-----------------


 みたいな感じ。『仕組まれた全身素材』こと、ラバーロッドもいるね。ラバーロッドはブリスト南迷宮の研究室で産まれた人工魔物でもあるから、導入時期にもよるけど、このウィンター村迷宮は、ブリスト南より新しい迷宮、ってことになるかな。


 さすがに夜だけあって静か。虫の音があっても良さそうだけど、残念ながら求愛に音を出す昆虫、もしくは魔物はいないみたい。

 おっと。

 でっかいバッタを補食しているのは植物型の魔物だわ。これがボスかな?


-----------------

【マルチ・マスキュプラ】

LV:33

種族:プラント

スキル:酸噴出LV2 粘着液噴出LV2

-----------------


――――スキル:酸噴出LV2を習得しました

――――スキル:粘着液噴出LV2を習得しました


 ハエトリソウだね。すんごいでっかいけど。動物の口に似た開閉する葉っぱが二十枚くらい? 多くの葉っぱが冠状に開いていて、その一つに囚われたバッタ――――これも魔物――――は既に死んでいる。

 おっと、見つかったかな?


「ペッペッペッ」

 近づくと、連射砲台のように、ハエトリソウが酸の液体を吐いてきた。元の世界では、じっくりまってじっくり絡め取る捕食方法だと思うんだけど、やはり魔物になれば活動的になるってことね。

 ささっ、と避ける。この攻撃は溶けちゃうから受けちゃいけない。


「ペーペッペッペッペ」

 今度は粘着液を飛ばしてきた。器用にも、この液体で獲物を絡め取って引き寄せて捕食しようというわけね。

 ここで火系魔法を使うと、迷宮管理プログラムが消火活動に入って、結局ダメージを与えられないかも。

 よし。


「――――『発電』『蓄電』」

 左手に填めた『雷の籠手』で電気を瞬間チャージ。少ない電力でいい。

「――――『サ○ダーブレーク』」

 ハエトリソウの根元に向けて雷撃を放つ。『雷の籠手』は、さっきの小さいエレクトリックサンダーのように、蓄電できる容量が小さいから、すぐに放出しなきゃならない。


 ハエトリソウは必死に液体を飛ばしてくる。

 私は避けながら雷撃を続け、そのうちにハエトリソウの根元が大きく抉れた。

「――――『サンダーブレ○ク』」

 根元に直撃、ついにハエトリソウの本体と根の一部が切り離されて、ひっくり返った。植物としては死んだと言っていいけど、魔物としてはどうだろうね。


「――――『粘着液噴出』」


――――スキル:粘着液噴出LV3を習得しました(LV2>LV3)


 唾を溜めて吐き出す――――覚えたての相手のスキルを使って、ハエトリソウの葉っぱを固定していく。このスキルはトリモチみたいに使える。蜘蛛の糸ほどスマートじゃないけど、当たれば確実に相手の行動を阻害できるから便利かも。

 粘着液をバンバン投げつけて、山盛りにハエトリソウを固定すると、放置して周囲を探索する。

 このハエトリソウが階層ボスだとすれば、倒したことで何らかのアクションがあるはず。

 ここで終わりならそれっぽい合図があるはずなんだけど、特にアナウンスがある気配もない。

 この階層の下があるのかどうか、もうしばらく探索してみようっと。



【王国暦123年6月11日 2:21】


 ストローベリーなる魔物の実は、イチゴみたいな果実だ。魔物の攻撃は、それを(やじり)にして、麦わらみたいなストローにくっつけて、プッと吹き矢にして飛ばしている。普段は果実を十も二十も生やしているから、連続攻撃も侮れない。当たると痛そうだけど、その実はかなり甘く、美味しい。


「もっと射出してほしい」

「………………!」

 ググッと迫ると、ストローベリーは後退を始めた。後に回り込んで、残りの実を引き抜いて食べる。小さいけど、かなり種の多い実なので、排便とともに広がっていく魔物かもしれないわね。

 周囲を探索しながら腹ごしらえをして、先行している人の足跡を追う。


「うーん」

 結構な大所帯じゃないか。最低でも十名。そのうち男性っぽい足跡が六名。これは女性っぽい足跡からの逆算だから、男っぽい女が含まれていたらわかんない。全員冒険者……の可能性も考えて……進行には注意が必要ね。

 迷宮が完全に掌握されているなら、このフロアを終端に設定しておけば、それより下のフロアに侵入されることはない。


 だけど――――。

 確かに、最初から終端として設営されているなら突破は難しい。でも、元々、この迷宮が第五階層までしかない、と言われていたのは何故だろう? それに、第五階層は、バラエティに富んでもいたし、それなりに有用な素材が採れそうな魔物がいるのに。


「あった」


 足跡が途切れていた。

 小さく土を盛り上げたような小山があり、その横に古墳の入り口のような扉があった。扉には、魔法防御、障壁、魔法反射、硬化と、てんこ盛りの防御魔法が施されていた。

 この中に第六階層以降へ続く階段があるのだろう。扉を壊そうかどうか悩んで、ちょっと思い立って扉を普通に開けてみると、施錠されていなかった。

「……………」

 何ということでしょう……。

 罠の可能性も感じつつ、私は第六階層へと降りた。



【王国暦123年6月11日 2:58】


 第六階層はカビの臭いに満ちていた。これは……不死者ゾーンかしら。ロンデニオン西迷宮、東北エリア第七階層が、こんな臭いだもんね。このフロアは、やはり作法に従って天井が高かったけど、迷路ではなく、一本道になっていて、小部屋に続いていた。

 うーん、不死者ぽい魔物はいないけれど…………。


「?」

 空気の流れに乗って、()()()()()が漂ってきた。それは小部屋から漂っているようだ。思いっきり罠っぽいなぁ……。これ、絶対に何かいるよね。


 小部屋に入る。

 ムッとした腐臭に満ちた部屋だった。

 そこには死後三日……くらいの、黒い死体があった。

「むぅ……」

 男性の死体……なのは、何故か丸出しの下半身を見ればわかった。年齢は……この状態じゃわかんないや。

 あまり膨らんでいないのは、切り傷が死因で、そこから体液が流れ出しているからかな。三日目じゃ変色するだけで、ガスもそんなに出ないか。


-----------------

【ジェフ・オーデッツの死体】

-----------------


 あれ、この死体の人……どこかで聞いたことがある名前だなぁ。

 錬金術師ギルドの人か。

 んー? 死体は二刻とか三刻とかで迷宮に吸収されるのに、腐敗するほどの時間、放置されている。不死者になりかけなのかなぁ。

 死体に近寄ろうとすると……。


「!」

《むん!》

 背後から攻撃された。ウォールト卿が実体化して、攻撃を防いでくれた。

「!?」

 くるり、と振り向くと、霊体型の魔物(レイス)がいた。


-----------------

【ジェスタースナッフ】

LV:32

種族:レイス

スキル:憑依LV1

-----------------


――――スキル:憑依LV1を習得しました


《気をつけろ、主よ。これは憑依してくるぞ》

「ありがと。――――『浄化』」


『ギャォオオオオオン』

 ジェスタースナッフは断末魔の叫び声をあげて、小さくなり、消滅していった。

 と、同時に、小部屋の壁の奥で、カチリ、と何か音がした。


「………………」

 このジェスタースナッフそのものが鍵だった、ってことかしらね。習得した『憑依』スキルは、霊体の状態じゃないと使えないので、私にとっては死にスキル。だけど、このスキル、かなり凶悪で、一定のレベル以下の存在には無条件で憑依できて、肉体の制御を奪うことが出来る。


 一定のレベル、ってことはですよ、内部的にはヒューマンなど、レベル表示がされない存在にも、隠しパラメータみたいに存在するのかもしれないわね。

 もう一度、ジェフ・オーデッツの死体を見る。傷は剣によるもので、体のあちこちに切り傷がある。死ぬまでに何回も斬られた、ってことだけど…………。


「ウッウッウッ、アァァァァァ」

 おっと、不死者になったわ。

「ペッペッペッ」

 私は唾を吐き出し、覚えたての『粘着液』を掛けまくる。

 床に縛り付けていたら、自身の強化された筋肉に骨が耐えられなかったのか、あっちこっちで骨折しだした。その度にゲル状になった肉がドロリと流れて、不衛生極まりない。


「――――『浄化』」

 傷の深さとかもうちょっと見たかったんだけど、こうなっては仕方がない。『魔物使役』を行使しても、恐らくはすぐに迷宮に上書きされちゃう。さっさと昇天してもらおう。


「ウ……アァァ……」

 怨嗟そのもの、といった表情から、少し穏やかになり、塵となって消える頃には、不死者の表情に笑みさえ見えた。

 浄化後には乾燥した血液と衣服、それに――――。


「インプラント……」

 エスモンドが言ってたっけ。こめかみに埋め込まれている魔道具がある、とかなんとか。それ以外にも背中に入っていたと思われる魔道具もあった。詳細は不明だけど、生体の機能強化を目的にしたものだ。

 つまり、このジェフ・オーデッツなる男は、初歩的ながら、錬金術・魔術的なサイボーグ、と言える。

 やるじゃないか、錬金術師ギルド……。


 ブリスト南迷宮でのインプラントの元ネタは、確かにエスモンドに埋め込まれていた魔道具。その非人道的な発想や狂気が素晴らしい。なんと言ったか、錬金術師ギルドのギルドマスターは、時と場合によってはお友達になれたかもしれない。

 でも、それはきっと、とても小さい接点で、似た者同士だからこそ、相容れることはないのだろう。


 そして、この先にいる彼女――――確か女性だった―――――は、明確な敵で、生かしておくとロクなことにならない。一応、そのぶっ飛んだ発想が、彼女のものなのか、彼女が手にしていると言われる魔道具の本によるものなのか、訊いてから殺すつもりではいるけど。

 いや、殺してから本を確認すればいいか。本に載ってなければ彼女の発想だ。


 エスモンドで思い出した。水中作業をやらせればよかったじゃないか。色々余計なことをしちゃったなぁ……。



――――すっかり忘れてた……わけじゃないんだからね! うん。





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