冬の迷宮3
【王国暦123年6月10日 21:03】
レッサーデーモンと別れて、第三階層に入る。
攻略開始から三刻。まあまあのペースだけど、それは第一、第二階層とも、ほとんど魔物と出会わなかったからでもある。この第三階層は、『魔力感知』によれば五~六十匹はいる。魔力の大きさからすると、オークかミノタウロス。
第三階層の扉は今にも開きそう。食事をしている暇はなさそうね。
バン!
ほら、扉が開いた。
「オォォォォ!」
「クェエエエエ」
オークだ。豚の性質を持つ亜人。三体が同時に飛び出してきて、隊列を組み、襲いかかって来た。
先頭のオークは粗末な槍を持っていた。
「オオオオオ!」
「ふん!」
左腕の簡易盾を展開、槍を受けて、空いた脇腹に、右手に持っていた黒鋼製のコールドホークを叩き入れる。
メキャッ、という音がして、体内にめり込む。思ったより深く入ったので、抜き取るのに手間取っていると、二体目が右側から、やはり槍を突き入れてくる。
これは右腕の簡易盾で防ぎ、今度は左手に持っていたヒートホークを首筋に叩き入れた。
パキ、と音がして、首が飛んだ。
二体が瞬時にやられたので、最後の一体は怯んだものの、結局突っ込んできた。武器は棍棒というか棒きれだった。コールドホークで棍棒を受けて、ヒートホークで正面から胸を一撃した。
「ッ」
短い息を吐いて、オークは血潮を噴き出し、崩れ落ちた。
ちなみにコールドホークは黒鋼なので魔力をそもそも通しにくいのだけど、ヒートホークの方は発熱しているわけではなく、単にミスリル銀で硬度を増して、『光刃』で常時刃先を守っているので切れ味が凄い。なかなか凶悪な武器を作ったなぁ、と自画自賛してしまう。
一体目はまだ生きていたので、慈悲をかけて殺しきる。三体の死骸を『道具箱』に入れて、先へと進む。
【王国暦123年6月10日 21:03】
第三階層も、第二階層と同じく、階層ボスが存在した。
-----------------
【エレクトリックサンダー】
LV:25
種族:ビースト
蓄えた電気を操る。任意の場所に雷を落とすことができる。
スキル:落雷LV1 放電LV2 蓄電LV1
-----------------
おー、子供エレ様だ。
「ウォオオオオオオオオン」
という叫び声は格好良いのだけど、個体が小さいので迫力がイマイチ。
雷撃を食らう前にダッシュして接触を試みる。
「!」
バン!
落雷!
意外に速い。蓄電するコンデンサー容量が小さいから溜まってすぐに撃ち出している。
これが、ちょっと、狙いも、雑だけど、厄介、な!
バン!
くそ、接触して『魔物使役』を使う暇がない。それに、使っても無駄かも。
「どりゃっ!」
コールドホークを投げつける。
クルクル、とコールドホークは回転しながら飛んでいき、子供エレ様に突き刺さった。
「グッエェェッ!」
叫び声を上げる子供エレ様。
「フン!」
背後に回り、上からヒートホークを振り下ろし、首を断ち切る。
ビチャビチャビチャッ、と血が噴き出した。
「ごめんよ、せめて美味しく頂くことにする」
小さい体躯のエレ様の、後ろ足を手に持って、切断面を下にして、血抜きをする。下処理は丁寧にしなきゃ。
血抜きが終わり、『道具箱』に頭部も含めて収納すると、第四階層への扉が開いた。
【王国暦123年6月10日 22:14】
第三階層はオークだったから、恐らく、第四階層はミノタウロスね。
扉が開き、襲ってくる魔物はやはりミノさんだった。
「ミィノォォ!」
「ノッオオォ!」
「――――『風切り』」
パパパパッ、と範囲魔法を撒いて、ミノさんたちが切り刻まれていく。先頭集団が倒れ、後続が詰まる。そこに追い打ち。
「――――『風壁』」
風の壁を作る。先頭の状況がわからないミノさんたちが突っ込んできて、バン、バン、と壁に当たり、ミンチになっていく。内臓も血も骨も一緒にミンチになると臭いが酷い。良く言うようにオークは食べると豚、ミノタウロスは牛の味がする、なんて言うけど、彼らは雑食だし、そんなに美味しいものじゃない。思うに、その肉体構造はやっぱり人間ベースなんじゃないかと。
無為に突っ込むと死ぬ…………という状況をやっと理解したのか、ミノさんたちの動きが止まったところを、ヒートホークとコールドホークで刈り取っていく。
上の第三階層にいたオークはだいたい六十体。最初の滞留数からすると、第四階層も同じくらいかしら。
死体回収はミンチになりすぎて不可能だったので、魔核だけを拾っていくことにした。これでも迷宮にダメージを与えられる。
第四階層に入ってすぐのミノさんたちのレベルは、おおよそ二十程度。奥に進むにつれて、レベルが下がってきた。コマ切れ、とはこのことね。
「ノオオオオオ!」
私を見ると、叫んで逃げていく個体まで現れた。黒いローブとはいえ、返り血が酷いことになってるからなぁ。女子的には見て逃げられるのは微妙に傷つくところではある。
「うーん」
ちょっと服が気持ち悪い。ローブの替えはあるけど、何度か『洗浄』『浄化』すれば着られるようにはなるから、捨てないでおこうっと。
第四階層もボスが設定されていたのだけど――――。
-----------------
【ビッグ・アルバトロス】
LV:24
種族:バード
スキル:風読みLV2
-----------------
――――スキル:風読みLV2を習得しました。
「んー?」
ビッグ・アルバトロスは四体がいて、ちょうど第五階層への扉の前にゆったりと座っていた。
どうみてもアホウドリなんだけど、本当にそうかしら。
そっと後から近寄って、素手で持ち上げる。
「ギモー」
なんだ、阿呆、って鳴かないのか……。あ、阿呆って鳴くのはカラスか……。
でもまあ、四体のアホウドリを持ち上げたら、普通に扉が開いた。この魔物、何だ、何もしないのかな。
「ギー?」
特に何もしませんけど何か? と、その鳥目が言っていた。
「うん、攻撃しなければ、こっちも攻撃しないよ」
と言っておいたけど、特に関心を持たれることもなかった。
大体、こんな迷宮の中に、飛ぶことに特化した鳥が階層ボスとしていること自体、やる気が感じられないわね。攻略中の身としてはありがたいけどさ。
ちなみに『風読み』スキルは、魔力に影響されない状況での、空気の流れを感じるスキル。
「――――『風読み』」
――――スキル:風読みLV3を習得しました。(LV2>LV3)
「――――『風読み』」
――――スキル:風読みLV4を習得しました。(LV3>LV4)
お。感じるっていうか見えるっていうか、わかるわ。
迷宮の重要な施設である吸排気ダクトから、各部屋に向かって空気の流れが見える。
こんな狭い部屋の中で飛ぶこともなかっただろうに、アホウドリよ、さらばだっ。
【王国暦123年6月11日 0:35】
第四階層から階段のある扉を開き、そこから降りる。
各階層はつづら折りの階段で結ばれていて、踊り場でちょっと休憩をする。
「ふう」
そうだ、お弁当を食べよう。ラーラがせっかく作ってくれたんだし。
と、『道具箱』から木箱を取り出して、フタを開けると、中には戻した干し肉を巻いたロールキャベツが八つ、並べられて入っていた。ちょっとお正月の昆布巻きを思い出した。
「むむ……」
思わずムンデレな唸りを上げてしまう。
これ、お弁当っていうか……。オカズだけ? みたいな?
手づかみでロールキャベツを一口でパクリ。
「むむ……」
ちょっと煮込みすぎ……。だけどキャベツはトロリと口の中で溶けて、干し肉が口に残る。この干し肉がちょっと嚙み切れない。まあ、ずっと噛んでればいいか。
結局、キャベツは飲んで、口に残った、味のしない干し肉をモグモグさせながら、『飲料水』で出した水をグイッと飲んで胃に流し込んだ。
「ぐへぇ」
しかし、ロールキャベツか。まだ改良の余地があるわね。私、迷宮から帰ったら、ロールキャベツの改良するんだ……。
フラグ臭いことを口にしながら立ち上がり、踊り場から降りて、第五階層に降り立つ。
扉の隙間から流れてくるのは、木と土の香り。密林のフロアかしらね。
いざいかん、未開のジャングルへ!
――――ベッカンコー!




