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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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穴掘りのドワーフ2


 朝イチで建材屋さんに向かう。大工さんやら建築関係者が早朝から仕事を始める関係上、建材屋さんもそれに備えて早朝から店を開けている。これは元の世界でもそうだったから、想像はしやすい開店時間ね。


 風合いと入手のしやすさ、価格を考えて、樽の素材でもあるオーク材にしておく。ナラだかカシだかはわからないけど、グリテンでは特に区別はしていないみたいだ。

「最近、お嬢ちゃん、よく来るね。感心だね」

 建材屋のリンさんは白髪の黄色人種。ちょっと肌の感じからは白人ぽくもあるから、ハーフなのかもしれない。遠い東の国からやってきた人達には、憧憬と尊敬と、幾ばくかの軽い侮蔑とが入り交じった視線が向けられている。これは、グリテン島の住民の共通認識ではなかろうか。簡単に言ってしまえば、よくわからない文化とメンタリティを持つ人たちへの、興味と恐怖なのだ。


「はい、お使いばっかりなんですよ」

 ニッコリ。

 話を合わせておく。大体、建材屋に足繁く通う幼女―――そろそろ少女―――なんてのは、そんなにいないわよね。基本的に大工の現場は男の仕事場だから。

「床材用の板と煉瓦と……灰コンクリートはありますか?」

「灰コンクリートは在庫少ないねぇ……。膠じゃだめかい?」

 生物由来は強度に不安がある。鉱物由来にしておきたい。

「少量でもいいので灰コンクリートをお願いします」

「はいよ。一袋だけね」

 一袋あれば、まあ、何とか。ああ、でもコンクリート不足だというならちょっと試すか。

「漆喰の材料ってありますか?」

「はいよ。一袋でいいかね」

「二袋ください。あー、あとですね、白亜ってありますか?」

「チョークかい? あるけど?」

「じゃあ、それも二袋ください」

「地面に線を引くのに、そんなに必要なのかい?」

「ええ、まあ。趣味ですよ」


 チョークはロンデニオンの北東、大陸との海峡に露出している白い岸壁から産出する。ポートマットの東にも同じ地質があるけど採掘に至っていない。広義にはこれも生物由来といえばそうなんだけど、化石だしね。っていうか化石があるんだよね。っていうことは、何億年も前という『過去』が存在して、ちゃんとそこに生物が住んでいた、ってことよね。異世界なのにちゃんとしてる、っていうとおかしいけど、ちゃんと歴史があるのは不思議に思う。適当に創り出された世界じゃない、という意味で。


 リンさんが言ったように、今のところ、チョークは線引き程度にしか使われていない。だけど、もしかしたら、これは世界を変えてしまう建材の材料になるかもしれない。もう一つの材料―――粘土は、どこか掘って調達してみるか。ウィザー城の北西にあるノックス領地に、陶器の産地があったはずだから、粘土はそこで産出するんだろう。

 袋を受け取り、『道具箱』にバンバンいれていく。

 あとは釘、角材、亜麻油か。

 魔法がある世界で、何と地味なことよ……。

 これも、『建築魔法』なんてものがないせいなんだけど、そんな魔法が成立している世界の方がおかしいというもの。だから、これでいいのだ。


 夕焼け通りに入り、借家へと戻る。


 空を見上げると……。曇天だなぁ。こういう時はいきなり雨が降ったりするから、グリテンの天気は侮れない。穴掘りの最中で降られるのは嫌だなぁ。まあ露天掘りじゃなければ天候は関係ないか。

 アーサ宅はすでに地下への階段があったので地下室を増設するだけでよかった……んだけど、借家は基礎の強度も考えなきゃいけないからなぁ。安請け合いしたけど、そこが面倒ではある。でも、元々、引っ越しが無くても借家に地下室を作って魔改造はする予定だったから、ある意味では順当なお話。

 ……ということにしておこう。

 今日はお昼に幸せなお二人に届け物があるから、それまでに穴掘りはやってしまおう。


 工房に使っている部屋は、部屋の大きさから、きっと寝室に使われることだろう。ということで、ここに地下室への入り口を作ることにする。

 踵で床板を叩いて、補強材が入っていない場所を確認。隠し扉風にするので、慎重に床板をはがす。

 ペリペリ、っとな。

 床に空いた穴から首を出して、床下の状況を確認する。


「―――『光球』」

 人間一人―――トーマス基準―――が入れる程度の幅が確保できればいい。なので入り口は狭く、半メトルほど。階段も急になっちゃうけど構造上しょうがない。

 階段として機能する最低限の段数でいいか。防空壕だものね。地下室本体は基礎の強度の関係上、借家の直下には増設できなさそうなので、廊下状に通路を造る。

「―――『掘削』」

 土砂の中に大型の生物がいなければ、単に『掘削』すれば『道具箱』の中に入っていく。こうやって残土が出る、ということは、土砂の中に何かしらの生物が存在するということ。適度に加熱をすれば死滅するので、時々土を焼いてから『道具箱』へ入れていく。

 防空壕としての役割なら、この廊下だけでもいいだろうけど、世の中何があるかわからない。生存性を高め、精神衛生に配慮するなら、ある程度広い空間が必要だ。

 廊下は下りにして、庭の表土に影響を与えないようにして掘り進む。地上の保全を考えながらであれば、今回みたいに露天掘りじゃない方がいいかもしれない。このまま掘っちゃおう。


「よし」

 トンネルの上部を見上げる。いま居るところの直上が、庭のはず。


 まず真上に向かって掘る。

 掘る。

 掘る。

 結構深くまで掘ったんだなぁ。


 と、何かに当たった。固い土………。

「あ、テーブルかな……」

 ふと思い当たる。土魔法で固めたテーブルがあるかも。


 一度トンネルから出て、借家の外に出る。庭を見ると、テーブルがばっちりフタをしてる状態だった。

 幸いにして風刃で加工できそうな固さだったので、テーブルを半分ほど排除してみる。お、穴があった。地下室の天井まで一メトルほどか。

 穴は、手が届くところまでは『硬化』を使って固めておく。『固化』とは違って、単純に硬くする時はこっちがいいらしい。

 このままでも十分だとは思うんだけど、一応何かでコーティングしておいた方がよさそう。アルミ管があればベストなんだけど………。この世界、この時代なら陶器で作るのがいいのかな。しかしなー、今からお手軽に作るとなると……。


「うーん」

 空気穴として使うだけなら、穴のサイズや形状に拘ることもないか。

 重しとして買った大石があったので、風刃でスライスしていく。厚さ二センチほどの石の板ができる。強度的には貼り合わせの工程を含まない方がいいんだろうけど、生憎素材がないので。石板を貼り合わせて四角い筒を作る。地上部分はL字に加工するとして。虫とか鼠対策に、口の部分には網を張っておくか。

 出来た石管を穴に差し込んでみる。下部分は後で加工するかな。とりあえず引っ掛けたまま、地下に戻る。


「んー」

 上からプラ~ンと石管がぶら下がっている。煉瓦を組んで台を作り仮固定。ついでに壁面も『固化』で固めながら掘り進み、『硬化』を使って密度を高めて壁面として、固めた後は煉瓦でアーチを組んでいく。人力シールドマシン……いや、魔法シールドマシンか……。


「ガガガガガガ」

 景気づけに自分で擬音を出しながら穴を掘り、壁を成形して固めて、煉瓦を積み、コンクリートで固めていく。みるみるうちにアーチが出来ていく。


「あっ!」

 気付いたら相当進んでいた。敷地ギリギリ? というか道にはみ出しているような?

 まあ、きっと気のせいさ! 言われたら直せばいいさ!

 ということにしておこう。責任はトーマスに丸投げしよう。

 ということで、終端を煉瓦で覆う。

 内装は、戻ってきてからやろうっと。


 地下から這い出ると、太陽は真上に昇ろうとしていた。

「あー、やばーい」

 急いで身体を洗って、ダッシュで冒険者ギルドへ。


 冒険者たちが出払っている真昼で、ベッキーとトーマスは受付で手持ちぶさたに待っていた。

「遅いぞー」

「すみません、お待たせしました」

「フフ、いいのよ。応接室を取ってあるから、そこに行きましょう」

 うーん、別にトーマス商店に行ってもいいと思うのだけど。就業中はギルドの建物から出ない、とか規約があるのかな?


 ギルドの応接室に入ると、まずはトーマスにペアの指輪を手渡した。

「こちら、納品いたします」

「受領しました」

 まあ、納品書とかはないから、口約束だけど。


 早速トーマスはベッキーに指輪をつける。うん、ピッタリだったみたいだ。フェイに教えられたからか、トーマスは迷わず、ベッキーと自分の左手薬指に装着した。


「じゃあ、あれだ、設定をしてくれ」

 私は頷いて作業を始める。

「じゃあ、ベッキーさん、『守って』って言って下さい」

「まもって」

「……………はい。『解除』って言って下さい」

「かいじょ」

「……………はい、設定完了。続いてトーマスさん」

「まもって」

 男性の場合は『守れ』とかじゃないのかな……。いやでも『守れ』は日常生活で言わないこともないか。

「…………はい。『解除』お願いします」

「かいじょ」

「……………はい。設定完了しました。これで守護の指輪は、お二人がその言葉を口にすれば発動するようになりました。魔力で固い『殻』を作って、身を守ります。普段から魔力を指輪に補充するようになっています。なるべく、この指輪は肌身離さず着用するようにしてください。なお、この一組は『殻』が干渉しないようになっていますので、近くで発動しても反発しません。もの凄く近くで―――たとえば抱き合った状態で発動すると、『殻』は二重に発生することになります。より強固になります。なお、発動時間は、本人の所持魔力量に依存しますので、たとえばトーマスさんは概算で一晩。ベッキーさんは不明ですけど、最低でも半刻は維持できると思います。ちなみに、一度発生させてしまえば、使用者が寝てしまっても発生し続けます。ただし、何もかも遮断しますので、空気とかの流入はありません。毒煙対策でもあるからですけど、長時間運用の際は、『殻』内部の空気残量に注意してください」

 と、一口で説明を終える。常識的なことだし、二人とも大人だし、大丈夫だよね。予想外の使い方とかしないよね。


 二人はしばらく、私の説明を頭の中で反復していたのか、黙っていた。

「うむ。わかった。理解した」

「わかったわ」

 と、三十秒後くらいに了解の返事を貰う。

「不都合があれば調整しますので、申し出てください」

「うむ、わかった」

 トーマスはそう言ってから、新居と引っ越しの件について話を始めた。


「借家を譲ってくれる件、ありがたく受けようと思う。増築して外装、内装の工事をギルバート組に依頼することになってな。新居に引っ越すのは、何だかんだと一ヶ月はかかると思う」

「急な話ですものね」

 クスクス、とベッキーは笑う。ああ、この母性溢れる笑みがトーマスみたいな髭爺に独占されるんだぜ? 立ち上がれ、冒険者ギルドのベッキーファンたちよ!

 アジったところで時は戻らない……ので説明に戻ることにする。


「ああ、で、ですね、実はですね、アーサさんの依頼で、借家の地下に部屋を増設してくれと」

「えっ」

「で、朝から掘っていまして」

「えっ」

「先ほど掘り終えました」

「えっ」

「内装とかの仕上げはまだやってません。壁が完全に固まるのはもう一日後くらいですね。快適空間に仕上げている訳でもないので、完全に避難用です。湿気もそれなりにありますので―――保管庫としても、それほど優れているわけではないですが、無駄に広く掘ってしまいました」

「広く……? どのくらいだ?」

「幅一メトルほど、が建物の下から、多分、夕焼け通りにかかるくらいまで……」

「えっ」

「書籍程度なら、湿気取りは魔法で管理すれば保管はできそうですけど。先にも言ったように、用途は避難場所に特化していますので、恒常的に出入りしないことを前提に、入り口は隠し扉になっています。これは特に理由がなければ変更は受け付けません」

「うむ、わかった」

 驚いてばかりのトーマスとベッキーが頷いた。


「その指輪をですね、隠し扉の鍵になるように調整する予定です。お望みなら家の鍵もそれに変更しちゃいますが」

 現行の錠前は、私が自前で付けている、あの無骨な金属の塊だ。ローテク万歳。

「うむ、ではそれも頼む」

 無論、別料金です。私はニヤリと口元を歪めて受注を承る。

「それとですね――――。一つ試験的に作ってみたいものがありまして」

「あー、もう任せる」

 フフフ、言質は取った。面倒臭くなったトーマスが投げやりに言ったので、私はさらに笑みを濃くする。

「了解しました。じゃあ、仕上げに戻りますので」

 ほとんど一方的に施工を了承させて、私は立ち上がる。トーマスとベッキーはやや呆気に取られている。フフフフ。



―――地下室には巨人化の秘密が隠されているかも……。



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