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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮トライアングル
566/870

※聖女の尻尾


【王国暦123年4月20日 0:28】


 冒険者ギルド関係者との会談が終わり、迷宮の管理層に戻る。

 よい子ちゃんのエミーとラルフは、早い時間に就寝している。『塔』が完成して魔力が届くようになって、エミーはポートマットの学校に置いてあるアバターで授業もしてるから、それなりに忙しいっちゃ忙しい。ちなみに『ピンク先生』っていう、何だか古いアダルト映画のタイトルみたいなあだ名らしい。三本立てで上映してそうな感じがイイネ。


 で、ラルフの方も、ラルフアバターが学校に到着して、短時間ながら授業を再開したそうな。ある意味、二人とも在宅勤務みたいなものだけど、そうやってアバターだらけの世の中になったら怖いなぁ。

 その二人を含めて私も閉所に住んでいるわけで、太陽を浴びていないのは長期的に問題になる。そこで、迷宮の南東エリア第十階層にある空きフロアに、新しく居住スペースを設けた。

 太陽に相当する魔道具が時間で移動して気温も調節されて、時々雨も降ったり、風も吹いたりする。床は土にして、適当な草や樹木を植えて石造りの小屋も建てた。鶏の飼育と簡単な畑を作る予定。ハーブなんかを植えてくれるといいな!


 オリバーとフリーセルにはこの小屋のフロアに入る権限を付与して、時々訪ねてくる農家夫婦……みたいになっている。せっかくなので、彼らにもトマトエリアに石造りの家を建ててあげた。元々二人は思い人同士だし、ちょっと良いことしちゃった、ってことでいいのかな。二人とも淡白な反応で嬉しそうではなかったけど。


 エミーとラルフも、部屋は別々だけど一緒に住んでいるわけで、恐らくはエミーと一番親しい男性がラルフなんじゃないかと思う。それはラルフも同様で、主従みたいな関係ではあるけれど、気を許せる相手になってきてるのかも。

 二人とも実は人見知りというやつで、いやラルフは見たまんまだけど、これだけ濃密に接していたら仲良しにもなる。ラルフの方が年長なんだけど、エミーの方がお姉さんみたいなのよね。あー、私も、見た目だけならエミーの方がお姉さんみたいだよ!



【王国暦123年4月20日 9:41】


 で、生活環境としては、管理層よりも迷宮内エミー宅の方が快適だったりするので、私もこっちに泊まっていたりする。

 土の匂いとか、鶏の啼く声とか、周囲にあった方が落ち着くなんて、全く私ってば安い女なんだわ!

 ゆっくり朝食を摂って、リビング(ちなみにエミー宅は5LDKの平屋よ!)でお茶を啜りながら細かい作業を始めた。


「お姉様、それは何ですか? 小物入れ?」

「そうそう。例のカプセルを入れるポーチね」

 これはスライムの人工皮革を使って作った。エミー用はもちろんピンク、ラルフ用は渋くカーキ色にしておいた。レックスに依頼しても良かったんだけど、色味のテストもしたかったし。

「あの即席ゴーレムは面白いな。色々試しちゃったよ」

「ホントです。あのちっちゃいのなんか、とっても可愛らしい……」

「あー、そう? 気に入った?」

 そう褒められると何だか嬉しい。うーん、確かに、このカプセルゴーレムの発想は面白いよね。私用のも作ろうかな……。


 二人にポーチを渡して、腰に着けさせる。

「おおお!」

「まあ……可愛い」

 最近は二人とも毎日アバターを遠隔操作しているからか、感情表現が大袈裟になってきたというか、元の世界でも英語圏の人ってこんなものかなぁ。言語で伝えきれない、細かいニュアンスを伝えるのに必要だからジェスチャーが発達したんだろうけど、その意図からするとかなり豊かな表現力を身につけつつある、と思う。アバター操作をすることにも良い点があるんだねぇ。


 このポーチの素材であるスライム人工皮革を作る魔道具は、スライム繊維製造魔道具と一緒に、カーボンファイバー製造のついでに作った。

 ドッグレース場の稼働部の屋根はスライムのカーボンファイバーで、スライム粉が溜まるまで、少し時間がかかっていた。ちゃんと汚物が循環するようになって、在庫も十分。もう暫くすると余るようになるから、高値をつけて王都で売っぱらおうかとも思っている。


 んー、つまり、二人が嬉々として腰に装着しているポーチは、どう見ても革製品にしか見えないけど、スライムの死骸――――その食糧は汚物――――から出来ているわけで、ちょっとだけ罪悪感がある。エミーは発泡スライムは見ているけど、人工皮革の原料までは知らないはず。うん、暫くは黙っていようっと。


 今日、二十日は安息日で、元の世界で言えば日曜日に当たる。それもあって学校はお休み。

 午前中はエミーたちの装備を作ることにして、工房へと移動した。

「ラルフは普段から防具着けてるようなものだからさ。エミーはそうもいかないじゃん?」

「まあ、防具をつけてお買い物っていうのもな……」

「そこでね、召喚光球を複数、十個くらい、同時に使役できたら防御とかしやすいかな、って」

「え、でも、お姉様でも五個くらいが限度じゃありませんか?」

「うん、そこでちょっと発想の転換をしてみた」

 試作の魔法陣に魔力を通す。

 十個の小さい魔法陣から、パパパパッ、と召喚光球が一つずつ、合計で十個、生み出される。

「わあ……」

「へぇ……」

「今は十個の魔法陣がそれぞれの召喚光球を維持してる。そこで、この大きな魔法陣をいじると……」

 召喚光球は五つが右回り、もう五つが左回りに、魔法陣を中心にして回転し始めた。

「何だか神々しいですね……」

「うん、星の動きみたいだね」

「星って?」

 首を捻るラルフには、曖昧に笑っておいた。地動説は、今説明しても、きっと理解してもらえないよね。今のところ、聖教も、訊いた話では新教も、旧教も、アスリムも、既知の宗教では天動説が主流。じゃあ、地動説が正しいのか、というと、この星を外から眺めたことがないので信憑性があるのかどうか、私にもわからない。

 まあ、雑談をしながら出来たのがコレ。


挿絵(By みてみん)


 エミーの腰に着ける……魔道具……。

「お姉様、これ……大きいですね」

「大きくなっちゃった」

 本当はもっと小型化できたんだけど、デザイン上、こうなっちゃった。

「平べったい尻尾……みたいな?」

「『聖女の尻尾』か。ちょっと神聖な感じがする一方で野性的なネーミングね」

 うん、別にファンネルは出ない。水晶でダミーを作ろうかと思ったけど、重量の都合上オミットした。

 この魔道具は、裏側に光球を発生させる魔法陣があって、最大で十個の召喚光球を発生させることが出来る。本来、その状態だと、十個の召喚を操れないといけないんだけど、内部の制御用魔法陣で連結して、一つ、もしくは二つの召喚物として扱い、召喚者を守る。これ、仕組みとしては『タロス03』のファンネルに近いわね。

 二つ、というのは片方に攻撃命令を出す場合、内部的に二つの召喚物として十個の召喚光球を扱うということ。普段は十個とも防御専門で自律稼働する。


「まあ、着けてみてよ?」

「はあ、まあ、はい」

 エミーが生返事をしたのを無視して、とりあえずベルトだけで固定してみる。

「ちょっと重い……です。それに何だか、バタバタ動いて落ち着かないです」

 可能な限り軽量化はしたんだけど……それでもまだちょっと重いか。

「わかったよ、ちょっと待って」

『聖女の尻尾』の先端部分に小さい『風走』を発生させる魔法陣を組み込む。装着時に下方に向けて力場を発生させて、重量に負けて垂れ下がるのを防ぐ。さらに肩にもベルトを着けて固定してみた。

「どう?」

「さっきより軽く感じます。お尻が浮いている感じが……慣れませんけど」


 エミーに動いてもらって確認すると、『風走』が一つだけだとバランスが取れないのだと悟った。それでは、と四個の『風走』を追加する。ここまで来ると重量は関係ないので、思い切ってジャイロを組み込み、それによって自動的に水平を保つように、『風走』制御の魔法陣も組み込んだ。たとえば右に傾いた、と検知したとき右側二つの『風走』が強まり、水平を検知するまで角度を調整し続ける。

「スカートが捲れなくていいかもしれませんね」

 エミーの言うとおり、常にスカートを後から押さえているようなものなので、パンチラはなくなりそうね。

「えーと、瞬間的に加速したい時は、『風走』管理の魔法陣に、急に魔力を込めてくれれば、思った方向に向くから」

 普段は消費を抑えつつ重量軽減に努めているだけだけど、いざという時には、意志通り、行きたい方向と逆に向けられる設定にしておいた。加速モードの切り替え、エミーとの親和性の調整を行うと、さすがに麒麟児、ものの数分で使いこなした。

「面白いです! おねえ さ   ま」

 おお、エミーにもドップラー効果が!


 その後は、実験場へ移動して、ラルフにエミーを攻撃してもらって、召喚光球のプログラミングを続けた。複数の敵への対処は、迷宮の魔物は副管理人には攻撃ができず、仕方なくノーム爺さんに弱いゴーレムを作ってもらって、エミーに攻撃をしてもらった。

 その結果、召喚光球は、


① 防御専門モード(全自動)

② 防御八(全自動)、攻撃二(対象を指定後に攻撃・手動)

③ 完全攻撃モード(対象を指定後に攻撃・手動)


 の三モードが完成した。今のところ問題点としては、攻撃時は複数のターゲットは選択できない、というところ。一回に一つの対象しか選択できなかった。

 ところが、さすが麒麟児、すぐに解決方法を見出した。

「一回に一つの対象、を敵の数だけ、先行入力すればいいのです」

 言われてみればなるほどで、③の完全攻撃モード時、召喚光球は同じ位置にはいないから、対象の近くにいる召喚光球から攻撃を始める。最初の対象を倒した後、オーバーキルになる前に、攻撃前の召喚光球は次の対象へと攻撃を始める。先に攻撃した召喚光球は、次の攻撃までにラグがあるので、次弾攻撃準備中に、他の召喚光球が倒してしまい、命令がキャンセルされて、次の次の対象へ攻撃を……。といった具合。


 攻撃手段っていうと遠距離魔法になるんだけど、半分は『風刃』もう半分は『水刃』にしておいた。手数が欲しいだけなので、弱くても連発できる魔法の方がいいのだ。


《のう、主よ。あの嬢ちゃんをあれ以上強くしてどうするつもりじゃ?》

 ゴーレムを無限生成しているノーム爺さんがぼやいた。

「どうするつもりなんだろうねぇ」

 製作意欲のおもむくままに作ってしまっただけなんだけど。『聖女の尻尾』そのものは使用者の魔力に依存するから、エミーの魔力であれば、王都第一騎士団全員を相手にしても傷付けることはできないと思う。


 この『防御』も『魔法盾』と『障壁』で、仕様上の問題で、攻撃と認定されないような、優しく触る……的な動きを敵がしてきた時であっても、エミー自身が『それは攻撃である』と判断すれば『障壁』は展開される。展開時には切断面ができるから、大勢に触れられて拉致……のような場合でも、フォローは出来るはず。


「はいっ!」

 額に汗をかきつつ、体に触れていたゴーレムの腕を、『障壁』展開でエミーは切り落とした。何だあれ、一人城みたいなもの? ノーム爺さんの言うとおり、何だかイケナイモノを作ってしまった気がしてきた。

 エミーにはまだ、籠手と肩のバインダーも作ろうかと思っていたんだけど……。なんだ、MS少女でも作りたかったのかな、私。



【王国暦123年4月20日 15:28】


 魔道具の調整をし終わり、遅い昼食を摂る。ソーセージとタンポポの葉っぱ入りスープとライ麦パン。白パンは王都では手に入りにくいこともあるけど、スープと一緒に食べるなら、黒パンやライ麦パンの方が合うことも多い。独特な酸味も嫌いじゃない。

「タンポポの葉っぱも、食い慣れるといいもんだな」

「大抵の葉っぱは湯がけば食べられるけど、道端に生えてるのは衛生上、ちょっとね」

「そうですねぇ……猫ちゃんのおしっことか……ああ、お姉様、猫ちゃんといえば、地上に開放したんですね」

「ん、ああ、そうそう。五百匹くらいいたんだよ。糞尿は迷宮に吸い込まれるからいいとしても、猫が生きる環境じゃないからねぇ」

 増えに増えてたし。何匹かは食料倉庫の番猫として飼おうと思ってるけど。


「いえ、ほら、例の『自治会』ですか。先日、あれに出席してきたんですよ。猫が増えて困っている、って」

「何て返したの?」

「猫の自由にさせてあげてください、猫を虐げる者は悪い人だ、と言っておきました」

「うむ」

 私は満足気に頷いた。エミーは別に動物なら何でも可愛い、って言っちゃう人だけど、猫好きに洗脳したのは私だ。ちなみにラルフは小動物が苦手で触れない。人生の半分を無駄にしていると思う!


「それで、お姉様、猫ちゃんたちの大半は迷宮都市内部にいますけど、門の外にも出ています。そちらは放って置いていいんでしょうか?」

「うん、疫病対策にもなるから、そのままで。自然にロンデニオン市内が猫で溢れたら、それは素晴らしいと思わない?」

「なんだよ、猫で溢れたら、小さい隊長が王都を攻撃出来なくなっちゃうじゃないか」

「ハッ……」

 思わず、エミーと見つめ合った。しまった、また墓穴を掘ってしまったようだ。



――――これもマッコーキンデール卿の罠に違いない!





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[一言] >ピンク先生 ついこの前まで教会からポートマット迷宮までがやっとだったのに届くようになってたんですね >『障壁』 下手に魔道具に付与されてて自動で展開されると色々と斬れそうでこわい
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