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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
おんな港町ブルース
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本当にあった王都騎士団の怖い話


【王国暦123年1月2日 12:07】


 魔法錠の加工の後、ウーゴくんへのお土産をさささ、と作る。細々とした作業の後、培養槽に新種のトマトを見に行った。

「おー」

 果実と種が収穫出来ていた。一代雑種(F1)とも言えるし、固定種とも言える、矛盾した存在の種。

 せっかくなので、トマトイーターのフリーセルとオリバーにも持っていく。

「ナ……ス?」

「ピーマン……?」

「いや、これでもトマト。少し先祖返りした感じはあるねぇ」

 加熱加工用のトマトを見て、フリーセルは嫌悪感をあらわにした。


「ああ、トマトってナスの仲間だったんですか……」

「うん、ナスのお仲間は多いね。トマト、ピーマン、丸イモ(ジャガイモ)、タバコ。身を割って五つに分かれていたらほぼナスの仲間だね」

「ナスとは……なんですか……」

 フリーセルは泣きそうな顔で訊いてきた。

「グリテンではあんまり食べられないかなぁ。もうちょっと南に行けば常食してると思うよ。生食はせず、加熱して食べることが多いけど、美味しいものはえぐみもなく、甘く、とろけるような食感で………」

「それは……ぜひ……食してみたい……です……」

 ほう、トマト農家からステップアップしたいと申すか。っていうか、ただ食べたいだけ?


 オリバーはもう一つのトマトに視線を移していた。

「マスター、こちらはチェリーの実ですか?」

「いや、それもトマト。ミニトマトの類だけど糖度を上げてあるから……チェリーの実に匹敵するかも」

 サクランボもピンからキリまであるからなぁ。私の思ってるモノとは違うかもしれないけど。

「はあ……食べてみても……よろしいですか……?」

「いいよ。こっちのヘチャムクレなトマトは加熱してこそ真価を発揮するからね。ミニトマトはそのまま食べてみて」

「ん……甘い。え……? どうして……?」

「これで真価を発揮していないと……?」

 ヘチャムクレのトマトを食べてみた二人の感想はなかなか好感触ね。

 ミニトマトの方は…………。

「んんんっ! ……むううううっ……」

「あまっ! あま! うまっ!」

 普段の二人では見られない、興奮した様子に、私も満足して大いに頷く。でも勘違いしないでよ、べっ、別に二人を喜ばせたいわけじゃないんだからねっ。


 栽培方法については恐らく、それぞれの品種に合わせて調整しなければならない……とは思うんだけど、その辺りは二人に任せることにした。

「任せて……ください……」

「お任せください、マスター」

 さすがに自ら望んでリヒューマン、いやトマト農家? になった男、オリバーのモチベーションは高い。

「基本的に水を絞って、という方向でいこう。新品種のトマトがグリテンを……いや、世界を征服するのだ!」

「せいふく……!」

「さすがです、マスター!」

 悪の秘密結社に所属する農作業員二人は、拳をグッと握った。



【王国暦123年1月2日 13:37】


 冒険者ギルド本部前の馬車乗り場から、馬車に乗って、王都第二層、王都騎士団の駐屯地へと移動する。

 建前としては私がお礼に行く、ということなので、ファリスたちに出張ってもらうわけにはいかず、送迎をされるのもおかしい。ので門番に一々確認を取られて、徒歩でも半刻のところが一刻もかかってしまう。同じ目的地へ向かう、同乗の騎士さんたちから恨みの視線を貰う。


 まあ、私ってば普通に危険人物だからしょうがないよね。馬車に乗っている間、ちょっと時間があったので、五センチx五センチx十センチほどの銅の塊を手でなぞりながら立体物を成型していく。

「おおっ」

「何だか凄いものを見ているのでは……」

 大道芸をやっているわけじゃないけど、同乗の騎士さんたちからの視線も和らいだようでよかった。調子に乗ってもう一つ作り、それが出来上がるころ、駐屯地入り口に着いた。


「ただいま迎えが参ります。この場でお待ち下さい」

 丁寧な対応に、ちょっと面食らう。本当に危険人物認定がされてるんじゃないかしら……。

 暫く駐屯地の門前でボーッと待っていると、ウーゴくんがやってきた。

「ご無沙汰しております、ミルワード卿。本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」

「こちらこそご無沙汰しております。黒魔女殿。こちらへどうぞ」

 ウーゴは、つい最近変わった、私の二つ名を間違えずに言った。私の情報を求め続けているのだ、と示したわけね。軽くジャブを放ってくるあたり、本当にイヤらしい。


 ウーゴは作り笑顔を保って、私を案内した。

 彼から発散される魔力は緊張を――――赤いオーラで示していた。間違いなく、ウーゴは私を敵視している。私は、そんなウーゴの背中を醒めた目で見ながら、後を付いていった。


「おお、黒……魔女……殿。お久しぶりです」

「元気そうで何よりだ」

 案内された部屋は、応接室のようなところ。ファリスとパスカル、両騎士団長がいた。パスカルは呼んだ覚えはないんだけどなぁ。ファリスの方は、新しい二つ名を呼ぶのには慣れていない様子。演技が上手い方ではない、という認識があるけど、さて、それはどうなのかしらね。


 立ち上がって合掌している二人は青いオーラに包まれている。ちょっと意外な気もしたけれど、騎士団として敵対する意思を示しているのはウーゴだけなのかなぁ。


「ブノア卿、メイスフィールド卿、本日はお時間を作って頂きましてありがとうございます」

 私が合掌してお辞儀をすると、どうぞどうぞとソファを勧められる。

「はい、失礼します」

 座って程なくして、女性騎士さんが何かの穀物茶を持って来てくれる。香ばしいけどちょっといがらっぽい、麦茶みたい。女性騎士さんとウーゴも退室せずに部屋の中にいる。二人とも座らず、少し遠いところから私たちの会談を俯瞰して見ている。


「先日のギース()たちの助命に助力頂きましてありがとうございました。彼らが生を謳歌できるのも、お二人の力添えがあったからこそ。感謝の念に堪えません。ありがとうございました」

 私は座った直後だというのにもう一度立ち上がり、深々とお辞儀をした。

「いえいえ、同じ騎士団の仲間の事です。仮に黒魔女殿のお手紙がなくとも、助命に奔走していたでしょう。しかし、そのきっかけを、貴女がくれたのです。私こそ感謝の気持ちで一杯です」

「ああ、全くだ。黒魔女殿の意見書がなければ、我々も動くのが遅くなっただろうことは想像に難くない。事は騎士団内部の事で、貴女には直接関係がない話だろうに、ここまで気遣ってくれるとは。騎士団一同、感激している」


 二人とも世辞を多分に含んではいるものの、嬉しそうに言った。私も嬉しそうな表情を作って『道具箱』からお土産を取り出す。

「それで、こちらは両騎士団長様にお礼です。拙作で詰まらないものですが」

 と、先ほど馬車の内部で作っていた小さな銅像を、一つずつ手渡しする。

「おお……!」

「おおっ………!」

 一つは幼女が合掌しながら首を傾げている像。これはファリスに。

 もう一つは豊満な女性が恥ずかしそうに自分の肩を抱いている像。これはパスカルに。


 像を手にした二人とも目の色を変えた。離れたところにいる女性騎士とウーゴからも、小さな溜息が漏れた。

「凄い……細かい……。これを……頂いてもいいのですか?」

「ええ、もちろんです。急いで作ったものなので、ところどころ粗いですが」


 だって、馬車の中で作ったんだもんね。二つの像は性を感じさせるものではなく、なんちゃって芸術作品のミニチュア……を目指した。だから、モデルはブリスト南迷宮の領民たちから選んでいる。人物モデルとしては記憶が曖昧だから、モデルの幼女、主婦が目の前にいても、ファリスとパスカルにはわかるまい。もちろん、ファリスはロリコン(とマゾ)傾向があることを知っているし、パスカルは多分、人形なら何でも萌えてくれる。


「ありがとうございます。家宝にします」

「ああっ。先日、大きな銅像を入手したばかりなのに。大きければ良いというわけでもないんだな」

「大袈裟ですよ。ああ、副官でいらっしゃるミルワード卿も骨を折って頂いたとかで。()()()から聞いております。大変に世話になった、と」

 少し離れた位置にいるウーゴに視線を移すと、ウーゴは警戒心を保った様子で、固く会釈をした。

「そんなミルワード卿にも差し上げたいものがあります。受け取って頂けますか?」

 目尻を思いっきり緩めて、慈しみの表情を見せる。

「ミルワード卿、受け取るがいい」

「しかし、団長……物品の受け取りは……」

「賄賂には当たりませんよ。これは私のお願いを先に叶えて頂いた、そのお礼なのですから」

 賄賂にはならない、はず。多分。

「はぁ……」

 恐る恐る、ウーゴが近づいてくる。うん、その警戒心や猜疑心は、多分正解だと思うよ。

 だって……。


「ヒッ」

「わっ」

「こわっ!」

「ヒイイイ」

 私が取り出したのは、木製の、不気味な笑顔を浮かべる人形だったから。

 ザンバラに植えた髪の毛……羊毛は疎らな白髪で、拷問された後のよう。人形の目には黒いガラス玉が填め込まれているものの、表面を粗く研磨して光らないように加工してある。口元は力なく口角を上げて、全体としての表情は物凄く怖い。枕元に置いたら夢に出そう。

 この木製の人形は、トマトの培養を待っている間に作ったもので、ザンの意見を聞いて、干し首以外にインパクトのあるものということで作ったもの。


「精魂込めて作りました。ギースたちの平穏な暮らしを築いて下さった、ミルワード卿には特にお礼を申し上げねばと強く思っておりました故」

「しっ、しかしっ」

「ミルミルミルワード卿、うう受けけ取りりをするがいい」

 ファリスが引いている。しかしパスカルは少し驚いただけで、あとは興味深く人形を検分している。凄い、さすがグリテン最強の人形蒐集家だわ。

 ウーゴは人形と目が合ってしまったようで、顔を顰めてから薄目を開けていた。

「この人形には魔法陣や呪いの類は使用されていません。自然に入り込むものはあるかもしれませんが……それは私からは何とも。除霊が必要であれば、その時に言って頂ければ」


 さあ! とグイグイ、ウーゴに人形を押しつける。わーい、ウーゴが泣きそうな顔になっているわー。オーラが真っ赤だわー。


 強制的に手渡してしまうと、ウーゴは女性騎士に助けを求めた。女性騎士は天井を向いて知らんぷりをしていた。ウーゴは仕方なく視線を戻すと、また人形と目が合ってしまったようで、慌てて人形の向きを変える。そのまま走り出して女性騎士の方に向けると、女性騎士は悲鳴を、ウーゴはそれに釣られて雄叫びを上げた。

「ヒイイイイイイイ」

「こわっ、こわっ、こわ~!」

 そして、そのまま、二人とも、応接室から出て行ってしまった。扉がちゃんと閉まったのは教育が行き届いているせいなのかなぁ?


「うーむ、芸術を理解できない男にくれてやっても人形が可哀想だ。某が引き取ろうか?」

「いえ、人形には魂が宿ります。ホイホイと所有者が変わっても、人形が困惑します。それに、あれだけ怖い人形なら、粗末な扱いをすれば呪いが来ると思い込んで、丁重に扱われることでしょう」

「怖いという自覚があったんだな……」

「ええ。嫌がらせですから」

 悪びれもせずに私は肩を竦めた。


「ということは…………ギース卿たちの扱いは、報告とは違うものなのですか?」

 ファリスが銅像を弄びながら、真面目な顔で訊いてきた。

「ええ、まあ。どのような報告を聞いているのかは存じ上げませんが。ポートマットで、元王都騎士団の集団を受け入れる筈がありませんので、ギースたちは、目論み通り、ブリスト南迷宮の()()になりましたよ」

「なんと。ポートマットに定住した、という報告を受けていたのだが……」

「二~三日は滞在していました。ですから、古い情報を基にした、と強弁すれば間違いではありませんね。その後にブリスト南迷宮へと移動したわけですので。問題は、露見しやすい形で、迷宮に攻撃を加えてきたということですね」

 パスカルの眉根が寄る。パスカル率いる第二騎士団には、迷宮への攻撃がトラウマとなって残っているみたいね。


「迷宮に? ギース卿たちが?」

「正確にはミルワード卿に依頼されて、内部を探るように言われて来たようですね。諜報活動は立派に敵対行為ですので」

「むう……。それはまた何とも……。それでなくともブリストの街とはデリケートな関係だというのに……」

「ああ、弟さん、お元気でしたよ?」


 それを聞いて、ファリスの表情はいよいよ困惑一色になった。いやあ、ファリスを困らせるのは本当に楽しい。案外、マッコーキンデール卿も、私と同じ感情を持っていたりして。

「その節は弟やブリスト騎士団が迷惑を掛けたようだ。申し訳ない」

「私は迷宮管理人を手伝っているに過ぎません。ですから私への謝意は筋違いですよ。それに、私も、迷宮管理人も、ギースたちを助命して下さったことに、本当に感謝しているのです」

「それについてはマントル卿も尽力したからな。ダニエルの腰巾着だった奴が、今では……」


 パスカルの余計な一言に、コホン、とファリスがわざとらしく咳払いをする。話の流れからすれば、今では反ダニエルの急先鋒になっているんじゃなかろうか。ダニエルは正しい指示をしたと思うけど、人心掌握という意味では間違いだったんだろうね。


 ダニエルにしてみれば、ギースを助けようが助けまいが、己の評価が下がるのは確定だったわけね。遠征自体が間違っているんだけど、騎士団が遠征するように仕向けてもいるから、第一(ファリス)でも第二(パスカル)でもなく、第三(ダニエル)が行くしかなかった。

 本当にイヤらしい仕打ちですこと。


「まあ、それはそれとしてですね。ブリスト南迷宮は王都騎士団を敵性集団と認定しました。放置しておけば被害が出るのは自明の理ですから、これは当然の処置だと思います。私が口を挟むことではありませんしね」

「それは――――あの近辺を王都騎士団が通過することもできないということか?」

「はい。大変に危険な状況になると警告せざるを得ません。少数であれば通過は可能だと思われますが、どの程度が少数なのかは迷宮管理人の裁量に拠りますので、私からは何とも」

 うそぶいておく。十人以下なら許可、ってことにしておこうかしら。


「つまり、迷宮と王都騎士団は敵対、ということですか?」

 ファリスが不安気に訊く。

()()()()()()西迷宮は、王都騎士団からの謝罪を受け入れています。ですので、直接的な軍事行動が確認されない限りはブリスト南迷宮とは違う立場を貫くでしょう。なにせ、迷宮管理人は別の人物ですからね」

「そうなのか……。()()西迷宮の管理人と同一人物だと思っていたが……。なるほど」


 パスカルにしてそう思われていたわけか……。別人だ、と思われていなくても、そう宣言しておくことには意味がある。


「ポートマット西迷宮を含めて、三つの迷宮は協力関係にはありますが、全ての迷宮が同じ行動基準を持っているとは限りません。これは想像ですが、それぞれの土地に根ざした迷宮活動を行うためには、独自に判断すべき事柄が多いためではないかと」

「忠告に感謝します。ウーゴは……ミルワード卿の処分は追ってブリスト南迷宮に伝えることとします」

 ファリスが大まじめに言う。ウーゴを処罰する気満々だ。私としては釘を刺しておきたかっただけなので、過剰な処分は望んでいないのだけど。

「多少の嫌悪感はあるでしょうが、迷宮はミルワード卿の処分までは望んでいないかも知れませんよ?」

「いえ、思うところもあります。理性を持って接してくれている貴女と迷宮に迷惑を掛けてしまった。それだけで国が傾きます」

 危険物認定、ありがとうございます……。

「そうだな。黒魔女殿のお弟子さんから人形を買えなくなってしまう」

 パスカルは本当にぶれないねぇ……。

 一応、クレームの意思は通じたようで、二人の騎士団長は、私が辞去するまで、ずっと恐縮していた。



――――やっぱり、ファリスを虐めるのはいいなぁ。





怖い人形の図版は自重しました。

怖くて描けないよぅ!


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