表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
おんな港町ブルース
503/870

※早朝の屋外建設ギルド会議


【王国暦122年11月23日 5:42】


 幼子はツンデレも溶かす。

 ウィンディ=エポナ=ルーシー・テルミー、通称ウェル。

 まだ目がちゃんと開いていないけれど、パッチリしていて大きな目をしているのがわかる。これは、間違いなく美少女になる。


 ベッキーさんと同じく色白で、髪はまだ薄く金色が残っている銀色。ファンタジー世界であれば、もっと凄い色になってもいいんだろうけど、いやむしろ凄い色を期待していたけど、結局は理解の範疇に収まる髪色だ。白金色と言えるんだろうけど、結果としてサリーの髪色に近くなっている。

 ここまで列挙すれば、トーマスの遺伝子の影響が少なかったのか……と思いたいところだけど、多分、この子は丸い子供になりそう。

 丸い子供とか! 母性本能をこれ以上刺激する存在があるだろうか!


「ウェル……」

 アーサ宅では、昨晩の夕食から今朝の朝食まで、話題はウェルのことで満ちていた。産まれた時は厳かな雰囲気に包まれていたのに、名前が決まる段になると、騒ぐのも解禁、のような弛緩した空気になった。

 つまり、女性陣が子作りを意識し出したのだ。


 女性陣の中で一番過敏に反応したのはフローレンスで、特定の、意中の相手がもしかしたらいるのかもしれない。その流れで顔を紅潮させたのはジゼルで、彼女は年下の男に夢中みたいだ。変態だからよせ、とは言えないというか、個人の嗜好だからなぁ。誘導した私がいうのもなんだけど、どうぞ好きにして下さいとしか言えないわね。


 ところで、名前がどのように決定されるのか、ちょっと興味深く『人物解析』を続けていたのだけど、ベッキーさんでもなく、トーマスでもなく、フェイでもなく、私でもなく、アーサお婆ちゃんによる大岡裁きの後、名称欄に確定した名前が登録された。恐らくは、一番影響力のある人物に従ったんじゃないかと思われる。


 ウェルの場合は名前が無い状態から変更されたわけだけど、カアルに元々の名前が存在していて、上書きされて現在の名前になった……という事実があるならば、ウェルは転生者ではない、と断言できそう。産まれた時のことなんて覚えてないかなぁ……。いやでも、転生者であるカアルなら覚えている可能性があるか。とにかく訊いてみなくちゃ。


 あと一月~二月くらいして、ベッキーさんの体調も戻ってきて、赤ちゃんの首も据わってきたら、通院に近い意味合いもあるのだけど、教会に行って、祝福をもらいにいくそうな。正式には教会で名前を公表して、お役所の台帳に登録すれば新しい市民(ゼロ歳)の誕生となる。成人である十五歳になるまでは納税の義務は発生しない(過分に稼いでいると納税義務が発生する)。

 それもあって、役所に届けるのは成人前くらい……というのが殆ど、とハミルトンから聞いたことがある。お貴族様ではない、平民はその辺りが緩やかなわけね。


 私の本格的な遠出は、ウェルの首が据わってから、かなぁ。

 その間に出来ることをやっておこうと思う。ベッキーさんの復職もその辺りになりそう、ということなんだけど、アーサお婆ちゃんのお乳が出るわけじゃないので、乳母さんを検討中なんだとさ。そうなると信頼できる人がいればいいんだけど……どうなるかしらね。


 その辺り、冒険者ギルドの方でも護衛は融通するとのことで、むしろ『第四班』を直接の護衛として持ってきたらどうだ、みたいな話になった。『第四班』の中で、要人警護ができそうなのは……ラナたんとダンか。でも、あの二人を抜いたらチーム運営に支障が出そう。


 私と同じく、オブザーバーの立場にあるカレンの姉御によれば、ラルフの不在は結構な痛手らしい。ラナたんらしくないミスも見られるようだし、事実上、ラナたんはダンを選んだ格好になっている、と認知されているので、それが不満な『第四班』メンバーもいるみたい。


 普通ならここでチーム内の不和が元で内紛でも起こりそうなものだけど、この点に於いてダンは大人の対応を見せて、ちゃんとメンバーに溶け込み、話し合いを重ねているんだと。

 ダンはダンで努力をしているということね。それが下心に起因するものであっても、苦労を厭わない姿勢は立派かも。元々、そういうのはラルフも目にしてたんだろうね。恋愛は勝ち負けじゃない、と思いたいけど、己の不足を知って、出張旅行への同道を申し出たってことか。


 うーん、ラルフも相当に男前になったと思うのだけど。少年の危うさが消えつつあるのは、それはそれで寂しいものがある。これはショタ好きのカレンが涙を流して力説していたけど、私も同感よ。

 そうなると、危ういのも魅力よね。母性本能が刺激されまくる……。


 されまくったところで出掛けてこよう。

「私も行って来ます」

「そう、今日は工事現場?」

「午後からですね。午前中は迷宮の方に行きます」

 現場としては距離的にあんまり変わらないんだけど、迷宮の方は、ギルバート親方、マテオと待ち合わせなのだ。領主別邸の現場も動かさないといけない。



【王国暦122年11月23日 6:25】


「ほうっ? 結局何段重ねなんだっ?」

「南から見ると地上二階、北から見ると地上四階、この建物は新設する迷宮エリアの上に載っているだけです。おおよそ迷宮一フロアの半分くらいですね。もう半分と、もう一エリア分、つまり面積からすると一エリア半ですか、を温室にします」


 構造上、騎士団演習場の地下には構造物を置きたくないので迂回するとなると、西エリアをもう一つ新設、都合三エリアを新たに作ることになる。

 まあ、幾つ増やすにせよ、魔導コンピュータを増設しないと、これ以上のエリアもフロアも作れないんだけどさ。


「温室を……二段重ねですかね」

「四段重ねにするよ。二段目までは領主に開放するけど」

「何か怪しいものを栽培しようってかっ?」

「そんなところです。二百年先を見越して、ですね」

「それはまた……ずいぶん未来の話ですかね」

「どうかなぁ。建物や植物は確実に私たちより長生きするわけで、そこにメッセージを残したり影響を与えたりするのは意味のあることだと思うよ?」

「なるほどっ、建物がメッセージかっ。建物を基準に考えたら、二百年とか、あっという間かもしれないなっ」

「今でも汲々として生きているのに、って考えるとピンと来ませんがね」

「未来は今の積み重ねさ。生きた証が欲しいのは誰でも同じじゃないの?」

「ほうっ、娘っ子、よく言ったっ」

 ギルバート親方は満足そうに頷いた。マテオは苦笑した。


「で、実際の工事が必要なのは迷宮以外の部分ですから、そこまでは魔物にやらせます。基礎を設置してから出番ってことです」

「嬉しいやら寂しいやらですかね。案件自体が特殊ですがね」

「そうだなっ。迷宮と通常部分の繋ぎ目、内装など、別邸としての格式を整えるとなると、やることは多いぞっ? 煉瓦の方はどうなってるっ?」

「トーマス商店の工場で絶賛量産中です。作っているのは魔物たちですが」

「ほほうっ……。人間の職人が確保できなかったのかっ?」

「ええ、まあ、そうなんですけど、オークとかミノタウロスって、人間と同等に知能があるんですよ。冒険者の人に訊いてみればわかると思いますけど、レベルが低い割には手強いんです。人間よりも長生きですし、職人としての資質は素晴らしいですね」

「技術の継承ですか……」

「まあっ、全部を取って代わられるわけじゃないだろうっ? 人間にしか出来ないことの方が多いだろうっ?」

 そういうギルバート親方の抗弁は、何となく願望に満ちたものだった。潜在的には魔物が知恵と技術を学ぶことへの恐怖があるのだろう。職人としてライバル心を感じていると……。さすがに一流はよくわかってらっしゃる。


 人類が滅びてミノさんとオクさんが生き残ったら、豚の惑星、牛の惑星になっちゃった、なんてことは十分にあり得る話だしなぁ。

 まあ、未来過ぎる話を想像しても仕方がないので、現実的な部分を話し合おう。


「こっちはもう設計図は上がってきてるんですよね?」

「ああっ、エー、ビー、両方とも泣いてたなっ」

「タイニーさんにやらせる訳にはいきませんし。ディーさん、イーさんも欲しくなってきましたがね」

「雇用の方はどんな感じなんですか?」

「質はともかくとしてだなっ、簡単な作業をやらせるだけなら数は賄えてるなっ」

「あー、難民ですか」

「うむっ」


 ボンマットからの難民も増えてるみたいだし。地理的にはヘベレケ山に住み着かれるのが一番困るけどさ。

 王都からの難民もそうだけど、元々住んでいた場所では、労働に対して正当な対価を払ってなかったのよね。無論、ポートマットでもそれは変わらないわけだけど、他の地域よりはマシ、って賃金は払ってるものね。


 いわゆる自由主義経済で、経営者と労働者は、本質的には相容れない存在なものだから格差がどんどん広がっていく。

 じゃあ、共産主義にしたら? 一時的にはいいかもしれないけど、遠からず組織は腐敗して立ち行かなくなるのも明白。

 どちらもお題目は立派だけど、善意が全く見えないからなぁ。

 その意味では、究極の悪意たる戦争、もしくは仮想敵の設定を常にしていないと、国家というものは駄目になっていくのかもしれない。悲しいことだわ。



「ここは三~四日中には終わるから……『ビルダーズ』を持ってこれそうです」

「他の案件はどうなってるっ?」

「大きいのは『マンション』の二号館ですかね。これは正式に受注しました。納期に余裕がありますし、領主としては別宅を優先してほしいみたいで」

「あー、早くお姫様を連れてきたいわけね」

「そうみたいですね。あとは東海岸の埋め立てですかね」

「遅れに遅れてるからなっ」

「ついでに埋め立て区域を東南側に拡大したいそうですがね……」

「ポートマットは慢性的に土地不足ですもんね」

「うむっ……将来的には住宅や店舗も高層化していくだろうなっ」

「つまり、まだまだ建築需要はあるということですがね……」

 三人は、白い息を吐きながら、フフフフフ、と笑い合った。



【王国暦122年11月23日 8:33】


 ギルバート親方、マテオと別れて、迷宮に戻る。

 魔導コンピュータを設置しよう。

 中央エリアの隣、東1エリアの第十二階層は空けてあるし、無かったのは銀だけなのよね。

 その銀を採りに、思えば遠回りしたなぁ…………。


 魔導コンピュータも、元々は迷宮の一フロア全体を占めるほどの大きさだった。

 増設の際に集積化を進めて、先代ではフロアの半分ほど、今回製作しているのはさらにその半分ほど。つまり1/4程度の大きさになった。

 魔導コンピュータは元々のシステムが四コアと管理プロセッサの五部構成なので、領主用サーバで検討した時のように、サンダ○バード三号みたいな形状が基本形となる。

 で、今回は、全くの同型を五組作って、それを連結してみた。


挿絵(By みてみん)


 魔法陣は当たり前だけど基本的に円形なので、今回は円形を壊さずに重ねてみたら普通に円筒形になった。黒い外装はちょっとハッタリが効いていて格好いいけど、どう見てもコンピュータの形じゃないなぁ。

 運用方法として、五台中のどれかが統括処理をするように設定してみた。複数台で肩代わりもできるので、冗長性を高めて処理速度も上げてみた。この方式の優れた点は、コアを増やせば、それだけ処理能力が上がるということ。だからもはや四コアじゃなくてもいいんだけど、お試しなのでこのようにしてみた。次回は八コアに挑戦してみよう。

 記憶領域(ストレージ)は別にしてあるけど、こちらも円筒形。いやあ、コンピュータを組むのって楽しいなぁ。


「よし」

 初期化とネットワーク接続、差分適用まで暫くかかる。お昼前には終わるといいなぁ。

 起動して、しばらく運用テストをしてみて、安定したのなら、旧型を潰して新型に統一しちゃおうと思う。余ったパーツでもう一台……ってわけじゃないけど、ミスリル銀を再利用できるのはいいわね。


 アップデートを適用している間、迷宮の新建造物についても考えておこう。

「足りないもの………」


① 広場に付きものの噴水

② 通信アンテナを兼ねる塔

③ 東2、東3エリアの空間利用


 これに加えて、


④ 西2エリアの新設

⑤ 北西1エリアの新設

⑥ 北西2エリア(温室エリア)の新設


 よね。急ぐ順とすれば④~⑥が先になるのかな。⑤のエリアが領主別邸の建物の基礎を兼ねることになる。一応迷宮だけど、一般人が出入りすることを考えると、相応のセキュリティも必要になるかなぁ。迷宮らしいことはできなさそうだから、精々ワインカーヴに使うくらい? あとは緊急時の避難先くらいかなぁ。自分が住むとなれば幾らでも凝るけど、他人が住む前提だと忍者屋敷みたいなのも困るもんね。


 強度的には迷宮構造物の上に、煉瓦積み四階層程度の建物なら問題ない。作業スピードは、『掘削』持ちに左右されるかな。つまり私自身が掘削した方がよさそう。石積みはドノタウロス、ドォーク(仮称)に任せりゃいいや。

 こっちの方は実際にやりながら調整しようっと。


 それよりも問題なのは①と②かなぁ。

 噴水といえば小便小僧だけど、今でも東2エリアの大穴に向けて小便小僧たちが大勢いるものだから、教育的によろしくないのよね。いやむしろ、ラルフそっくりの彫刻を作って小便させてみるか……。うーん、それだと立ち小便を止めるのはラルフだけになっちゃうかな?


 ラスベガスみたいな大がかりなのもアレだし、上品かつ主張があって、恋人たちが集うような……。

 たとえばトレビの泉みたいなの。コインを入れるとまた会える……っていうのを迷宮の入り口前でやられると、死亡フラグにしか見えないかな…………。


 うーん、彫刻の一つや二つは必要かなぁ。しかしなぁ、私が作るものって、元の世界のキャラクターモノが多いし……。

 塔と噴水……といえば、名古屋か……。その辺りをイメージしてみるだぎゃ。

 塔も日照権……そんなものはないけど……が問題になりそうだけど、なるべく南側に作ればいいかな。

 デザインはもうちょっと考えようっと。


「あー、もうお昼になっちゃうや」

 思考を中断して、『マンション』現場へと向かうことにした。

 何かいいヒントはないものか、思案顔を続けながら。



――――小便小僧じゃなくて、オッパイから水が出るオブジェならどうかな……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ