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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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夜型人間の物作り1


「……なにっ、米っ?」

 米を調達していて遅れました、と言うと、フェイの目がカッと開いた。ビームが発射されそうな勢いだ。

「そうなんですよ。お米の入手は、トーマスさんにも聞いてたんですけど、今のところ輸入しか手がないみたいでして。気合いの入った農家さんでもいれば研究栽培をお願いしたいところなんですけどねぇ……。それにインディカ米みたいなやつでしたし、グリテンでは栽培は難しいのかも」

 私が考え込む素振りを見せると、フェイも残念そうに唸った。

「……長細いやつか。……うーむ」

 やはり、フェイの思う米とは短粒(ジャポニカ)種のことなのだろう。

「長粒種でよければ、とりあえずはシモダ屋の試作メニューで食べられますよ」

「……なにっ!」

「いい反応ですねぇ……」

 米に超反応するフェイは見ていて面白い。会話しながら、『遮音』結界が張られていることをお互いに確認して頷く。フェイは少し落ち着いてから話し出した。


「……大陸の情報だがな。……一週間くらい前、海峡に大規模な魔法が撃ち込まれたそうだ。……幸い、こちらに被害はなかったが、火の玉が落ちたらしくてな」

 ん~? 火の玉って……。アレのことか。私は思わず目を逸らした。

「……お前か……」

 黙っていよう。そうしよう。

「……いや、偶然とはいえ、侵攻の気持ちを削ぐ結果にはなったかもな。……偵察船を散見するようになっているから、春になる前に来るかもしれない状況ではあるのでな」

「大陸の冒険者ギルドからの情報はないんですか?」

「……物流の情報は商業ギルドの方が抑えていて、そちらからの情報だけだな。……軍事的な情報は今のところない、が」

 フェイは一度言葉を区切った。

「……船があるにせよ、人員の運搬は目立つからな。……一月前には情報が出てくるだろう」

「『使徒』からの『神託』はないんですか?」

「……ユリアンからの連絡も何もなし、だな。……勇者情報もない」

「例の、逃げおおせた大陸の勇者の情報も?」

「……必要があれば『神託』は下るだろう。……我々だけで何とかしろ、という場合には『神託』は来ない」

 そんな殺生なー、とは思うけど、『使徒』にも都合があるのだろう。彼らが私たちに毎回有益な情報を与えてくれるとは限らないし、味方だと決まっているわけでもないのだから。


「領主も巻き込んでいるなら、町全体を覆う防御結界とかも不可能じゃないんですが」

 フェイは、今度は目を丸くした。

「……本当か?」

「はい。既存の町に設置するのはちょっと大変ですけど、可能ですよ。でっかい魔法陣を街中に描けばいいんです。魔力の蓄積に十年くらいかかると思いますけど」

「……費用もかかりそうだ。……残念ながら絵に描いた餅だな」

 フェイは嘆息しながら、日本人らしい言い回しをした。その表現は、私とフレデリカ以外には伝わらないと思う。だいたい、モチがないわ!


「まあ、準備はしておきますよ。出来る範囲で」

 一領民の出来ることなどたかが知れている。親しい人を守るので、きっと精一杯だろう。

「……うむ。……ああ、それで色々作っているわけか」

 フェイは得心したのか、ポン、と掌を叩く。

「趣味のものもありますし、教会の資金源になりそうな物も作ってるんですよ。……次に冒険者ギルドに顔を出すのは、三日後くらいでいいですか?」

「……そうだな。……そのくらいでいいぞ。……その後にセドリック組が出発予定だからな」

「わかりました」

 雑談しかしなかったけれど、普段のコミュニケーションなんて、こんな感じできっといいのだろう。



 借家に戻ると、まずは材木を取り出した。

 米びつ用に密閉できる容器が欲しかったのだ。とは言っても完全密閉ではなく……という微妙な容器に相応しい工法といえば!

「木組みだなぁ」

 ギルバート親方からコピーしたスキルが、木工では一番レベルが高かった。神様もビックリな高レベルだ。

 試行錯誤しながら―――元の世界の、大工さんを思い出しながら―――木の板の端を、『風刃』で凹凸に加工していく。乱暴な言い方をすれば、各々二ミリほど、凸を大きくして、隙間無くはまればいい。お、出来る出来る。魔法加工万歳。

「んむ」

 おお、まるで芸術品のような凹凸が完成した!

 木槌で叩いて、それぞれのパーツを組み上げていく。


―――生産系スキル:木組みLV5を習得しました


 レベル5か。まだまだ上があるってことか……。木工とは別なんだね、これ。

 ああ、木だけで何かを作るのに特化してるのか。

 表面を軽く研磨。カンナがあればグッドなんだけど、これは今度ギルバート親方に相談してみよう。『鏡面加工』や『研磨』みたいにスキルとか魔法に頼らない方法も覚えておいた方がいいよね。


「ま、素人作品にしちゃイイ感じね」

 どデカイ米びつ(?)ができた。湿気が比較的少ない寝室に置いて、そこに袋に入っていた米を流し込む。買ってきたトウガラシをザクザク差し入れる。

「トウガラシも栽培できるのかなぁ」

 ハミルトンにでも相談してみようかしら。

 あらいやだ、相談する人が増えていくじゃないか。


 今日はお昼に起きたということもあって、深夜だというのに、まだ眠くない。

 うん、こうやって体内時計が狂っていくんだねぇ。

 じゃ、まずは包丁の柄のニス塗りから。これはどうせ剥がれてしまうニスなので、仕上げの磨きに必要なだけだったり。なので、軽く塗るだけ。

 魔法杖も、もう一回ニス塗り。

 鏡の方は昨日の寝る前にニス塗りを終了してるから、磨くだけ。『研磨』は距離によって細かさを調整できる。ので、じんわり遠目から優しく研磨していく。

 最後に麻布で軽く磨いて艶出し。木製部分は完成。

 アイビカ接着剤を厚塗りして、鏡と接着。ここでは『結合』は使わない。


「うん……!」

 出来を見てみる。思わず自分で頷く出来映え。これ、売り物にしたら結構な値段になるんじゃなかろうか。試しに一本売ってみようかなぁ。

 魔法杖のニスはまだ完全に乾いていないし、包丁の柄ももう少し乾かしたい。


 ということで、夜鍋してセーターを編むことにする。工房の方は散らかっているので、寝室兼リビングの方でやろう。

「む……さすがアーサ師匠……」

 アーサからもらったサンプル、というか完成品を見ると、タートルネックだった。製作図というかマニュアルには、既に目の数(段)が指定されていた。

 本来は着る人の身体の大きさによって目の数を決めてから始めるものらしい。そのためには、その毛糸を編んだ時の目の詰まり方、つまり伸縮やらの性質を知るために試し編みをやっておく方がいいんだと。毛糸はどうせバラせるので、面倒臭くはあるけど勿体ないということはない。今回は渡されている毛糸で、アーサが決めてくれているので、試し編みはオミット。

 私の身長を参考に決めてくれたみたいで、育っても良いよう(泣)に、ちょっと大きめにしておいたそうな。ということは、今編んでいるものは、ドロシーにプレゼントしても、サイズ的にはきっと大丈夫。


 編み目を、指示通りに編んでいく。

 もくもく、もくもく……。

 あみあみ、あみあみ……。

 前身頃、後身頃、袖、首とパーツごとに編んでいく。

 腰の部分と袖先、首の部分はゴム編み、という指定がされている。ので、その通りに編んでいく。


 灯り窓から、日射しが射し込む。

 朝になって、各パーツが編み上がる。

「えーと、アイロン……?」

 水を吹いてアイロンを掛けろという指示がされている。

 これは―――リトルフ夫人にアイロンの現物を見せてもらおうか。あそこなら業務用の、きっと現物があるはず。


 一休みしつつ、ハーブティーを煮出しながら、シモダ屋のサンドイッチをパクつく。

 む、お腹が満たされたら眠気が……。

 まだ寝てはいけない。このままだと夜型人間になってしまう。

 ハーブティーで身体が温まると、再び眠気が……。

 まだ寝てはいけない。このまま……。


 ハッ。

 危ない。数秒寝ていたようだけど定かじゃない。

 身体を動かして眠気を飛ばすしかない。

 工房に移動する。

 魔法杖の仕上げに研磨をする。

 ゆっくり、丁寧に。

 同じように、包丁の柄も磨いていく。そのうちの一つは、例の柳刃に接着。完全に魚用、しかも、ほぼ刺身専用の包丁が完成。

 魔法杖も磨き終えた。握り部分にタマスの皮を巻いて……。

「うん。魔力増幅機能に特化した……名付けて『巻き貝(コンチ)杖』ってことにしておこう―――『転写』」


 ナンバリングと製作者名も入れておこう。おー、魔法陣だけじゃなくて銘もプリント出来るとは。さすがファンタジー世界ね。

 じゃ、再度の眠気が来る前に、お出掛けしてしまおう。

 まずは―――ハミルトンの果物屋さんから。



「お、ガキンチョじゃねえか」

 太陽は昇りきって、そろそろ昼前という感じ。

「うん。カボチャのプディング、広まってるみたいね?」

「あっ、ああ! お陰でカボチャが大人気だぜ! ありがとな!」

 果物屋だよねぇ、この店は。

「うん、それでさ、ちょっと別件で相談があるんだけど」

 小首を傾げて、上目遣いをしてみる。

「えっ、なっ、何だ? 言ってみろよ?」

「うん、スパイス屋さんでトウガラシを買ったのね。あれって、グリテンで栽培できるもの?」

「えっ、えーっと」

「どうした?」

 ハミルトンが答えに窮していると、店の奥から、ハミルトンそっくりの親父さんが出てきた。うわ、ドラ○もんに出てくる親子みたい……。


「あ、こんにちは。いつもハミルトンくんにはお世話になってます」

 ペコリ、と挨拶。

「あ、ああ……、アンタがあれかい、息子にいろんなメニューを教えてくれているという……。こちらこそ、いつもハミルトンがお世話になってます。末永くお付き合いしてやってください」

 おい、別にお付き合いしてるわけじゃないんだけど……。

「あ、はい、こちらこそ。ええと、栽培方法を知りたい植物があるんです。恐らく南方の植物でして……」

「ふむふむ。具体的には?」

「トウガラシ、米、コショウですね」

「ふむふむ、全部南方からの輸入物だな。トウガラシはいけると思う。ノックスで栽培してる農家があると聞いた事があるから、寒い土地でも栽培できるはずだ。あとは―――そうだな、温室があれば出来るんじゃないかな。米は難しいかもしれないが、トウガラシとコショウは、作付面積はそれほど必要じゃないんだろう?」

 その通りです、と私は頷く。


「王都にね、水晶を切り出したり、透明なガラスを使った温室があるらしいんだ。王宮が管理してるらしいんだけど、そこには南方の珍しい植物が栽培されている、って聞いた事があるな」

 ほうほう、クリスタルパレスみたいなやつか。しかしなるほど、温室を作ればいいのか。しかしなー、透明なガラスはまだ製法が安定してないから、お高いんだよね。水晶を加工するにしても、手間を考えると、どちらも現実的じゃないなぁ。

「具体的な栽培方法については、調べることはできますか?」

「王立図書館なら、きっとあると思うよ。一般の人が閲覧できるかどうかは知らないけど」

 へー、ハミルトン父は、中々博識だなぁ。


「ありがとうございます。機会があれば行ってみたいと思います。ハミルトン、ありがとね」

「お、おう」

 ハミルトンを見て、ニッコリ笑ってみる。

「なにをニヤニヤしてるんだよ?」

「ニコニコしたつもりだったんだけど……」

 今度からは鏡を見て練習してこよう。っと、無料で訊くだけ訊くのもアレか。

「リンゴ……二十個くらいくださいな」

「あれ、買うのかよ!」

 買わないで帰るつもりだった……のを突っ込まれた。

「はい、毎度あり」

 親父さんは動じずにリンゴを持ってくる。持参した麻袋に入れてもらう。

「じゃ、またね」

 私は親父さんにも挨拶をして、果物屋を離れた。



――――後半へ続く。ウララ。


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