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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ブリスト方面波高し
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※帰還の始まり1

やっと帰還準備が始まりました……。


【王国暦122年11月7日 0:32】


 発泡スライムの酢水濃度試験は、九パーセントで固めにした方が、長時間の弾力保持には向いている……と現段階では判断した。


 六パーセントのものは短時間なら体にフィットして弾力が気持ちいいのだけど、長時間の使用だとヘタリが早い。三パーセントのものは断熱材としては有用でも、クッション材としては不向き。濃度試験は十二パーセントもやりたいところだけど、恐らくは九パーセントに落ち着くだろう、ということでオミット。

 元々の馬車に使っていたクッションに入っていた天然スポンジを取り出して、発泡スライム板に取り替えていく。

 馬車の方が終わったら、『カプセル』用の椅子作りに入る。リオーロックスの皮革でも良かったのだけど、これには縫製の作業が必要になる。そこで、『結合』で済ませるために、魔物由来素材、ラバーロッドの皮を使うことにした。椅子は内部骨格に中抜きした陶器を成形して使用、その外側にクッション材である発泡スライム入りラバーロッドの皮革を貼る。ヘタるとすればクッション材の方だから、定期的な交換を前提にしてみた。形状としては、いつものバケットシートに似せた感じかしらね。


 陶器で椅子の骨格を作ったこともあって、丈夫にはなったけれど、重量も増えてしまい、支柱を一本にするとちょっとヤワな感じ。そこで、連動するように二本の支柱に分けて、これを『カプセル』の外殻構造と直結してみた。

 支柱の基部にサスペンションの風系魔法を刻印して設置、実際に座ってみる。

「おっ………」

 椅子を色んな方向に振ってみる。と、一対のサスペンションが交互に動き、衝撃を吸収する。おー、本当に浮いてるみたい。リニアシートっぽいわー。長時間使ってみないと改善点が浮かんでこないし、耐衝撃テストもダミーを使ってやってみないといけない。

 となると、シートベルトも必要ね。四点シートベルトでいいかしら。ベルト本体はラバーロッドを二枚重ねにして伸ばしたもの。ベルト留めは金属を使うと腐食が怖かったので、やっぱり陶器にした。凹凸のある二つの部品を引っかけて両側からベルトにテンションを掛けて固定。

 このベルトの巻き取り機構は、銅板を巻いたもの。これに直接『結合』でベルトをくっつけた。魔法以外で再現できない部品になっちゃったわね。

 後日、サリーが自分で保守できるように、メモを書きながら……。


 次っ。

 元々、移動中の、不意の攻撃を防御するための改造なので、中は密閉状態。風系魔法による換気装置を作る。これは以前にアーサ宅のチューブで設置したものを小型化した。古くは同じくアーサ宅地下工房の換気システムだから、小型化でより洗練された感がある。これには外部から毒ガスなどをカットするために、吸気側に活性炭を仕込んだフィルターを設置。これも、例のガスマスクのフィルター部分を平たく加工し直したもの。既存の技術でまとめられていることにほくそ笑む。


 密閉状態である弊害はもう一つ。外部との会話が難しいということ。この解消のために、スピーカー代わりに、音量調節機能付き(というほど大袈裟なものじゃないけど)の『拡声』魔法陣を外部に向けて設置。

 加えて周囲の音を聴くために『集音』を『カプセル』外殻の左右に設置。

 改めて両方の魔法を魔法陣化してみて気付いたけど、『拡声』と『集音』は非常に似た魔法陣で、大まかには魔力を発するか集めるかで、大元の指定方向が違うだけ。言われてみればなるほど、だけどさ。


「あとは……」

 防御機能を高めてみよう。最悪、この『カプセル』が防御できれば、ゴーレムの方はどうとでもなる。そこで、内部に搭乗している人の魔力を使って『障壁』を複数枚張れるようにした。こういうのは手動でやった方が魔力効率も展開速度も速いのだけど、不意の事態に対応するためのものだから、自動的に複数枚を交互に張るようにすることで即応性を高めてみた。


 これら一連の魔法陣は一箇所の魔核ボックスにミスリル銀線で繋がれて、一つの人工魔核(中級相当)で魔力を供給される。サリーやエミーが乗る分には一年以上は保つと思うけど、魔力総量の低い人が使うなら一ヶ月がいいところかなぁ。


挿絵(By みてみん)


 外殻はミスリル銀製で、それ自体に魔力を内包する。この金属って、結局のところ、超時空要塞のエネルギー転換装甲みたいなものだよね。『カプセル』外殻を通じてゴーレム側にも魔力供給されることになるから、親和性と、搭乗者からの意思伝達が素早く行えるようになると思う。

 ミスリル銀の成形はいいとして、問題はガラス部分で、卵形のガラスを直接成形してみようと思ったのだけど成形途中で冷えて固まり、割れてしまった。

 そこで、手間ではあるけれど石で原形を作り、その上にガラス板を熱して置き、上から『きゃりーちゃん』に型押しをしてもらった。一度目は石とくっついてしまったけれど、二回目は剥離剤を塗布してからやってみたら、綺麗な半球状のガラスができた。

 結局、これ以上の大きさのガラスは製造が難しいこともわかったので、前面部は上下に分割して、下部はフレームにガラスを填め込んで外装として扱い、ヒンジをつけて開閉できるようにした。

 上部ガラス、下部ガラスに防御用魔法陣を記述してフレームで隠して、『カプセル』は仮の完成をみた。

「ふっ……」

 なかなか面白いものができた。敢えていうなら横Gにはちょっと弱いかな……。でも、そんなものが必要なのは、モビルスーツのコックピットくらいだと思うの。



【王国暦122年11月7日 5:11】


 鬼畜にもサリーを叩き起こして、『きゃりーちゃん』と合体、微調整を行う。


「すごい……ねむい……」

「すごく……ねむいです……」

 だけれども段々と完成形になっていく『きゃりーちゃん』を見ているとテンションが上がって、あーだこーだといじり始めて二刻ほど。


挿絵(By みてみん)


「これが『きゃりーちゃんV』!」

「う゛ぃ!」

 ちゃんと『V』は『う゛ぃ』の発音なのね。でも、五番目のきゃりーちゃん、の意味だったような気がする! けど、格好いいから、『う゛ぃ』でいいです。

 サリーが調整していた元の仕様だとまだ背が高く、もう少し体高を下げてもらった。相対的に腕が長く見えるけど、長さは変わらない。

「うーん、まだ背が高い……けど、この辺が限度かなぁ」

 カプセルの設置には、ある程度高さが必要で、ゴーレムを抉って強引に填め込んだ。腰部分の可動域が少し減ったけど、しょうがないかな。全高は、カプセルなしだと、もとの『きゃりーちゃん』よりちょっと背が高くなった感じ。脚を短くするのも、これが限界。

 石製でちょっと地味だったので、コンテナだけは色を塗ってみた。これは専用品ってわけじゃないけど。


「じゃー、ちょっと乗って動かしつつ、調整してみてよ」

「はい、姉さん」

 きゃりーちゃんがしゃがみ、カプセルが前方向に少し回転する。出入り口のカバーが全て見えるようになり、開閉が可能になる。このカプセルには錠前はなく、稼働中はカプセルが回転して出入り口を覆ってしまう。


《あはは~》

 きゃりーちゃんVが、がちょんがちょん、と足音を立てながら、工房を歩きまくる。サリーの偉いところは、下半身を四つ足にしたときに、ちゃんと右前足+右後ろ足、左前足+左後ろ足で動作を指定した点かしらね。これって、元の世界だと、高速度撮影が出来て初めてわかったことらしいし。

 水平調節機構(ジャイロ)にまだ問題があるらしく、もう少し微調整を……というところで、エミーから朝食ですよ、早く来ないとなくなっちゃいますよ、とアナウンスがあった。



【王国暦122年11月7日 7:45】


「ゴーレムが出来たんですね」

「そうなんですよ、エミー姉さん! すっごく可愛いんです!」

 美的感覚がきっと違うだろう……とわかっているエミーは、それでも聖女様の微笑みを見せてくれた。

「朝食、なくなっちゃうよ、って言ってた割には、まだスープが残ってるね?」

「お姉様たちを急かしたんですよ。残ってるのは……昨日の宴の影響ですね」

「あー」

 半魔物たちにも二日酔いがあるのか。知らなくてもいいトリビアを知ったよ。

「ワインを飲んだ半魔物さんたちは全滅ですね。まだ、うーうー唸ってますよ」

「まあ、これもいい教訓だよ。動けるのは数名ってところだよね?」

「そうですね……」

「姉さん、今日はどうするんですか?」

「うーんとね、帰り支度……の準備」

 ラルフを含めて、三人が首を捻った。

「うん、ちょっと遠出するんだけど……ポートマットを目指す……んだけど……」

「あ、わかりました。街道を造りながら進むんですよね?」

「うん、まあ、そう。本当に造りながら進んだら一日二日じゃ帰れないからねぇ」

 つまり、ポートマットに戻るにしても、三歩進んで三歩下がり、六歩進んで六歩戻る……ような戻り方をする。全然進んでいない気がするけれど、きっとそれは気のせいさ!

 まあ、石畳を貼るからではなく、切り倒した木材の原木をブリスト南迷宮に持ってくるためなんだけどね。


「今から石の台地に向かって、その奥からポートマットに向けて街道を造り始めて、全体としてどのくらいかかるかわからないから、お試しで行ってみようと思う。えーと、エミーはお弁当の準備をお願いできるかしら。夕方には一度、こっちに戻るつもりで」

「わかりました、お姉様」

 こうして、方角的には、という但し書き付きながら、ポートマットへの帰還作業が開始された。



【王国暦122年11月7日 9:39】


 エミーが簡単なサンドイッチを作り、サリーが『きゃりーちゃんV』の調整をして、私が長物用のゴーレムを三体、迷宮の魔法陣で作り上げ、出発準備が整った。ちなみにラルフは剣の手入れをしていたけど、実質なにもしていないな!

 まあ、それはいいとして、エミーの方は昼食を半魔物に、自分たちだけでやらせる指示を出して、私も原木の受け入れについて、倒れていない半魔物たちに指示を出した。『リベルテ』には特に指示は出していないけれど、周辺警戒をお願いしつつ、ヴァンサンとカサンドラには、南の漁港に魚の買い付けに行ってもらった。ハネムーンじゃないけど、ね。


「さー、出発するよー」

《はーい》

 軽快に動きまくる『きゃりーちゃんV』の中から、サリーの声が響く。サリーとエミーは『きゃりーちゃんV』に座り、先頭を進んでもらう。

『きゃりーちゃんV』を見せた時のエミーの反応ったらなかったなぁ! またしょうもないモノを作って……みたいな、ジト目が心地よかったよ。


 それでも魔道具の塊でもある『カプセル』の中は実に興味深い空間らしく、乗ってみたら楽しかった……みたいで、今は中でサリーと一緒にはしゃいでいる。聖女様がはしゃぐ姿はめんこい……。声だけで見られないのが残念。


 ラルフと私は、長物ゴーレム三体のうち、一番先頭のゴーレム、その荷台に座っている。先頭のゴーレムに従って、後ろの二体が動くように設定してある。これだと迷宮がゴーレム生成時に注入する魔力が少なくて済む。あんまり考え無しにポンポンゴーレムを作っていると、迷宮の魔力が枯渇してしまう。何事にも限度があるってことね。


 迷宮から東へ、『石の道』を進む。途中、右手には、遊水池工事で、なんと! 半魔物の監督がいない状態にも拘わらず、魔物が掘削作業を進めていた。簡単な鉄製スコップだけを使う、完全な人力(魔物力)作業だというのに、肉体労働が大好きなミノさん、オクさんは嬉々として働いていた。手を振ると、ちゃんと振り返してきた。何て人間臭さだろう!



【王国暦122年11月7日 10:14】


 石切場に到着、隊列を一度止める。

「うーん」

「小さい隊長、何を悩んでるんだ?」

「うーんとね、ちょっと二人のところにいこっか」

 傍らのラルフを誘って、『きゃりーちゃんV』のところまで歩いていく。

《お姉様、ここから先はどう進むのでしょうか?》

「うーん、石の台地に上がって、横断する形で真っ直ぐ行こうか。ただね、勾配がね……」

 石の台地はそれなりに高さがあるので、大荷物を持っての上り下りをするのであれば、ここが難所になるのは明白。

 頭の中では、『掘っちゃえよYOU!』『トンネルがイイYO!』『切り通しも素敵だNE!』と、土木の悪魔が囁いている。


 どうしよう、石の台地を回避して大回りすると、学術都市ノックスの近くまで行っちゃうのよね。そこから下るのは、ロンデニオン西迷宮の西側を通るルートになっちゃう。


「やるしかないか」

 現在ある勾配は、上がりきったところから南に行くと、ボンマットに出られる。道といえば道だけど、台地沿いに進んでるだけだよね。

「んーじゃー、西側の斜面に沿って削っていくね」

「オレたちはどうすればいい?」

「ラルフは『きゃりーちゃん』の荷台に()って」

「岩が落ちてくるのを回避するんですね」

「うん、一度上に上がってよ。例の石室にさ、行っててほしいんだ。もう一回言うけど、警戒をしながら、そこで待機よろしく」

「…………小さい隊長がそんなに念を押すとか……。何かあるのか?」

「うーん、何となく?」

「わかった。気をつけて行ってみるよ」

 何となく、とは言ったけれども、本当に勘でしかない。から口で説明できなくてもどかしい。



【王国暦122年11月7日 10:20】


『きゃりーちゃんV』は腕と尻尾も活用して、さくさく……と石の斜面を軽快に登っていった。

「おー、尻尾が早速役立ったか……」

 なかなかの登坂力、見ていて気持ちがいいわね。

 さて、肝心の斜面の勾配緩和工事だけども。


挿絵(By みてみん)


 石の台地は山、というわけではないので尾根があるわけじゃない。だから純粋に山体たる石を削るしかないのだけど。


 トンネルを掘るのも手間だし、切り通しなんて、私のスキルをフル活用しても年単位で時間が掛かりそう。

 こういう急勾配を登る、といえば…………アプト式とかループ線とか、スイッチバックとか…………。

 うん、急がば回れ、というし、勾配の緩いバイパス道を作ればいいか。

 上から見たときに『L』の形になるように繋げばいいね。頂上から南西方向に道を作る。とりあえずは、この長物ゴーレムが一体ずつ通れる幅があればいい。必要なら拡幅すればいいし。

 私も『きゃりーちゃん』の後を追って頂上へ移動してから、チーズを切るように、上から石を削っていくことにした。


「さ、削るぞー」



――――私の中にいる土木の悪魔たちが、歓喜の声をあげた。





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