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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ブリスト方面波高し
461/870

※ミミズの鳴き声


【王国暦122年10月29日 6:55】


 お寝坊さんな時間に目を覚ますと、もうエミーとサリーは起きていたのか、ベッドの中には私一人だけだった。

 別に性行為があったわけでも、貞操を奪われたわけでもないんだけど、他人の体温を感じながら眠ることの、なんと幸せなことよ。

「人肌恋しい、ってやつかしら……」

 訳もなく自嘲気味に笑って、塔の二階層へと向かう。大食堂があるとそこに集合しちゃうものなんだなぁ。


「あ、お姉様。体調は如何ですか?」

「姉さん、顔色よくなったかも」

「あ、うん、お早う。昨晩はありがとね」

 軽く頭を下げると、エミーもサリーもわかりやすく破顔した。

「お姉様を労る機会はそうそうありませんから」

「そうです。姉さんに返せるものなんてこのくらいです」

 ありがたいなぁ。エミーは妹というよりは友達の感覚が強いけど、サリーに言われるとグッとくるものがあるわね。


 エミーがささっ、と大量のパンがゆを差し出してくる。確かに消化のいいものだけど、深皿に目一杯注がれたパンがゆは、見ているだけでプレッシャーを感じさせる。

「さ、召し上がれ」

「いただきます」

 この、いただきます、も恐らくは元の世界の日本だけの慣習だ。でも、私が毎回言って、毎回『東方の風習らしい。食べ物に感謝して命を頂く』だなんて説明してたので、むしろ皆が影響されて言うようになった。これがキッカケでグリテン全土に広まったら面白いと思える慣習よね。

 お、このパンがゆ、揚げたパンが入ってる…………。クルトンみたいになって、食感が変わっていいね。素で思いついたのならエミーは凄いなぁ。


「ぬおお……」

 ずる、とろり、ざくっ、を繰り返し……何だこれは、スプーンが止まらない。美味いとか……いや美味しいんだろうけど……食感の違いを追求しているだけでぺろりと食べてしまった。


 食べた後で、じんわり鶏の旨味だったことに気付く。

「あれ、もう一羽潰しちゃったの?」

「弱っていた鶏がいたんですけど、今朝になって死んでたんです。ですから、今日の朝食になりました」

 なるほど。残酷に聞こえるかもしれないけど、せめて骨の随までしゃぶらせてもらおう。

「あんまり体が小さいと、『治癒』とか効かないしねぇ」

「そうなんですよ。他の十九羽は迷宮の魔力の影響か、少し元気になったんですけど」

「餌が問題ね」

「そうなんです。今のところは餌箱に麦殻を入れて食べさせるようにしました」

 エミーと私との会話が重要なことを言っているのは、半魔物たちも理解しているようだ。いずれ自分たちだけで色々な問題を解決しなければならない。

 一つ意外と言っては失礼なのだけど、王都第四騎士団では畑仕事も鶏の飼育もしていたそうで、ランド卿(スライム)が有用な指示を出してくれるのがありがたい。

「意外だと思っているな? 儂はコレでも騎士団生活二十五年――――」

 耳元で甲高い声が鳴り響く。うんうん、とても偉いね、町田先生じゃないけどね。

「養鶏に於いて繁殖を試みるのであれば、生き餌も必要だな!」

「へぇ……」

 アーサお婆ちゃんはどうしてたかな? 年季の入った鶏舎だったから、放し飼いスペースの土にミミズとかいるのかも。


 ふーむ……。

 食堂にオネガイシマスがいたので、ちょっと呼んでみる。

「はい、何でしょうか、マスター」

「うん、チーズの人たちを捕縛した林あったじゃない? 道の南側に灌木が結構あったよね?」

「はい、ありました」

「その辺りで、ミミズと腐葉土、及びドングリの採取を命ずる」

「ミミズ、ですか?」

「うん。養殖してみようと思って」

 ファンタジー世界でミミズの養殖を決意する私です。

「お姉様……………まさか、食べるつもりじゃ…………」

「食べられるよ。あんまり美味しいものじゃないみたいだけど」


 それこそ漢方の材料だし。

 干して粉にして、そのままか、煎じて飲むのかな。ミミズ茶? 解熱の効果があるんだっけな。昨日の状態のままだったら、ミミズを食べる羽目になってたかもしれないなぁ。


 口をへの字に曲げているエミーを宥めるように言葉を続ける。

「まあ、普通に鳥の餌用ね。ドングリは固いもので表面が綺麗なものなら種類問わず、五百個ほどを目標に。ミミズも色々種類がいるだろうけど、大型のミミズは避けて、目標千匹。時間になったら戻ってきて良いから」

 ミミズといえば千匹だよね。

「土ごと、ということですね。二人ほど連れていってよろしいでしょうか?」

「うん。小型のゴーレムも持って行っていいよ。むしろ乗っていっていい」

「了解しました。恐らく、ブリスト騎士団の監視がされていると思いますが、接触したら如何なさいますか?」

 口に手を当ててしばし考える………。

「迷宮管理人の命令で土を調べている…………と言ってくれればいいかな」

「土を調べる……?」

「うん、迷宮の周辺環境を調査していると言えば尤もらしく聞こえるはずよ」

「了解しました。そのように言って誤魔化します」

 まあ、ミミズ獲ってます……っていっても通じないだろうからねぇ。

 オネガイシマスには夕方には戻るように伝えておいた。陶器製の簡単なスコップも三本作って渡しておく。


「じゃあ、今日の作業に入りましょうか」

「お姉様、無理はしないでくださいね?」

「うん、今日はちょっと籠もって、やることがあるから」

 そういうと、サリーは訝しげな表情を見せた。

「何か怪しい道具を作ろうとしているとか……?」

「信用ないなぁ……。大丈夫、前に進むための研究よ」

 疑いの眼差しのまま、サリーは現界したノーム爺さんを連れて土木工事へと向かった。ノーム爺さんがちょっと嬉しそうなのが複雑な気持ちにさせるわね……。



【王国暦122年10月29日 7:42】


 昨晩よりはマシではあるけど、体調は万全とはいえない。あまり頭が回る状況ではないけれど、明日はもっと頭が回らないだろうから、今日中にデスクワーク的なものと、資料読み込みをしておこうと思う。

 捕虜……と新規不死者についてはちょっと保留。

 まずは中ボスと迷宮ボスの設定をしてしまおう。


 ボスといえばワルドナー。ロンデニオン西のクローン個体がポートマット西迷宮にもいる。それに倣って安易にワルドナーにしてもよさそうなんだけど……。

 ええい、安易なら安易でいいや。ただ、この迷宮らしさ、ってことで、三つ一組にしてみよう。

 他の迷宮ならボスに匹敵するのが連携して三体同時に襲ってくるとなれば面白い。

 ということで、ワルドナータイプを三体。これをボスに設定しよう。全く同じ個性だと面白くないので、


① 先頭に立って攪乱

② 実際の打撃役

③ 遠距離支援


 で設定して培養の指示を出した。

 培養途中の個体を見てみると、役割をハッキリ持たせたからか、同じワルドナーでも微妙に形態が変わってくるものなのね。

 ①が素のワルドナーに近く、②はやや大柄で手足が長く、③は何故かサウスポー(明らかに左手が長く太く大きい)だ。

 ん? 支援が左利きって、意味があるのかどうかはわからないけど。っていうか魔物にも利き手とかあるのね。


 ボスに関してはこの三体に限定してしまって、別途部下の魔物は配置しないことにした。

 その代わりに中ボスゾーンを強力な組み合わせにしようと思う。


 中ボス(1)ゾーンと迷宮ボスゾーンは、共に『研究所』エリアにあって、第六階層と第七階層。


① ドラララ

② グレーター閣下

③ エレクトリックサンダー


 という組み合わせにして、グレーター閣下、エレクトリックサンダー、共に三体ずつを配置した。

 下手をしたらワルドナー三銃士より強いかもしれない。

 中ボス(2)ゾーンは不死者ゾーンと部屋を仕切りで分けているので、


① ハーメルン

② 高レベルミノタウロス

③ 高レベルオーク


 という組み合わせにしてみた。ミノさんとオクさんはそれぞれ十体ずつ。ちょっと手狭かなぁ、と思ったけど、人間サイズの魔物なので、それほど窮屈でもない。

 まあ、ハッキリ言って、中ボスゾーン以降は通すつもりがサラサラないので、必殺の組み合わせにしたいところよね。

 魔物のバリエーションについては、ロンデニオン西にデータだけが保管されているものもあるから、新規フロア設営時には新作を披露したいわね。

 いまのところはこのくらいで。それぞれ、配置後に育成プログラムを発動、上層から餌になる魔物が順次運ばれてくることだろう。



【王国暦122年10月29日 8:22】


 養殖、っていう意味ではミミズも迷宮で養殖すればいいじゃないか、と思うんだけど、予測不可能な魔物になる可能性もあり、いやほら、巨大ミミズなんて出来上がったら、食べてみなきゃいけなくなるからさ。


 ちなみに、元の世界の都市伝説である『ファストフードのハンバーグパティにはミミズが使用されていて……』という噂を看破する回答である『内容物を掃除する手間の方が高くつく』というのも、餌を工夫するだけで実用になるはず。ぶっちゃけ、ミミズのお肉を(共食いの形で)食べさせれば、泥が入っていないミミズ肉のみが、理論上は手に入る。でもでもー、ミミズさんはその構造上、土と一緒じゃないと養分を取れないから、結局掃除は必要になるかなぁ。

 それ自体を食べるよりも、鶏の餌になってくれた方が、多分いい気がするんだけど。

 おっと、オネガイシマスたちが捕獲してくるまでミミズパワーについては置いておこう。雌雄同体という繁殖システムについても興味があるところだけど。


 現在のブリスト南迷宮、概略図はこんな感じで…………。


挿絵(By みてみん)


 大量のミノさん、オクさんを抱えているのは、この二系統の魔物LOVEだから。

 もちろん、常備軍の軍勢としての性質も持っているから、駐屯地を『塔』『研究所』エリアの、それぞれ第五階層に設けた。

 ミノさん、オクさんだらけになるのを回避するための、バラエティゾーン? とでも呼ぶべき区域は、『採掘場』エリアにまとめて、今は魔物を増産中。池と林……いや森かな……の第七階層にも、魔物を配置する。いまのところ土しかないんだけどねぇ。

 今、このフロアにはチーズの人たち三人もいるから、突然登場した魔物たちに面食らっているところかしらね。

 魔力吸収はオフにしてあり、脱走しようとしても周囲が凶悪な魔物に囲まれているので、ちょっと想像力があれば静かにしている方が得策だ、と気付くはず。


 魔物の配置が正式決定したところで、この迷宮の中身に関しては目処がついたかな……。

 あとやるべきことは、


① 採掘の再開

② 精錬方法の確立

③ 金属素材の保管、運搬方法の確立

④ 余剰材による製品の製造と販売


 というところかしら。②が確立しないと①を再開できない。また、③が確立していないと①②をやる意味もない。

 ④は酸化亜鉛による化粧品を作ろうと思う。この迷宮は、一番お金になるだろう採掘を、私個人のために独占して外部に出してないから、他に現金収入を得られる手段が必要ということで……。


 本来、迷宮に現金なんて全然要らないんだけど、半魔物たちが生活している以上はやっぱり必要になる。だって、完全に自給自足って無理だもの。食料や木工製品はいいとしても、布製品は絶望的だものね。

 半魔物たちが、単なる魔物ではないのは面倒なところではあるけど、私一人だけの発想で事を運ぶと、単一の価値観による弊害の方が大きいような気がする。それを回避するためにも、複数の脳みそ、発想が必要だと思う。

 ロンデニオン西迷宮が千二百年続いているのだから、もう千年続けられるようにするのが、迷宮管理人の使命というもの。


 迷宮の復旧はこれで二件目。出来ればグリテン島内の全ての迷宮を復旧したいけど、それは多分無理だ。であれば、私の意志を正確に継いで、後続がスムーズに作業ができるように……。


 ある意味で焦燥感も持っているのは、迷宮が魔物生産装置であり、統一された意思による管理は必要だと思うから。そこに複数の()()が得られれば最高ね。

 魔物ベースで言えば、私がグリテン最強の軍隊を保持しているわけだから、後任にとって、より良い判断ができるようなシステムも作っておかないといけないだろうなぁ……。


⑤ ミノ軍、オーク軍の装備の製作

⑥ 防衛システムの確立


 ロンデニオン西迷宮のミノ・オーク軍の装備もまだ全員には行き渡ってないのよね。これは私とノーム爺さんの組み合わせが生きているうちに何とかしておかないといけないわね。私が生きている間に完遂できるかしら。加えて他の迷宮の復旧もしていかなきゃならないのだから、体が三つくらいあるといいんだけど、そうもいかないよねぇ…………。

 うーん、分体………か。



――――謎の強殖生物に近づいてきた。





ちなみにミミズは喋りません。

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