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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ブリスト方面波高し
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ブリスト南迷宮の復旧8


【王国暦122年10月18日 7:10】


「――――というわけで、朝食前にちょっと作業してきた」

 エントランスホールでエミー、サリー、ラルフ、十九人組と『リベルテ』に囲まれて、一人、残った朝食を食べながら報告する。

 朝()前という表現が直訳されて、つまらない言葉になってしまう。そうか、グリテンではメシって言っても通じないわけね。


「バイゴットは……生きていたのですね」

「うん、元々魔物でしかない姿だったんだけど、どうも、外骨格を纏っていたみたいだね。それが離れて本来の虫を形成していたと。どっちが本体だったのかわかんないんだけどさ」

 ()()の方に()()()()()()()()()採用されることはなさそうだから、『虫着』は虫の方を着込むスキルなんだろうね。私も覚えたけど、すっごく嫌な予感しかしないから、使うことはないだろうと思う……。


 元第三騎士団からすると、バイゴットは自分たちを半魔物化という状況に追い込んだキッカケを作った男、もっと言えば張本人だ。それは肩に乗っているランド卿にも言えることなのだけど、それに対する恨み節は聞こえてこない。

 これが『魔物使役』や迷宮の影響なのかはわからない。もう、半魔物になっちゃったんだから、不毛な争いなんて、しない方向でお願いしたいわね。当のバイゴットが(自業自得だけど)一番酷い目に遭ってるわけだし。


 本日の作業は昨日に引き続き『採掘場』エリアの整備。現場監督を正副合計三名に増やして、一気に第十四階層まで設営を行う。

「何度も言っているように事故にだけは注意。疲労しているミノさんは即交替でヨロシク」

「了解しました、マスター」

 ここに至って、グラスメイドも四体設定、そのうち三体を『採掘場』エリアに振り向けた。


 通常フロアの設営に必要な石材を第七階層と第六階層に置くと、またまた石ブロックが足りなくなりそうだったので、石切場からごっそり調達することにした。

「何事も一気にはできないものだなぁ」

 一つ一つ、物事をこなしていくのが大事よね!



【王国暦122年10月18日 12:09】


『採掘場』エリアが第十四階層まで到達、順次、魔物を量産、配置の指示を出していった。

 石切場に向かう途中、例の林まで行って、幾ばくか表土を頂いてきた。それらは、第三階層~第八階層までの床に撒いた。温度設定と水分量設定をして、それぞれの気候帯に合う植物系の魔物を配置。

 虫系、動物系の魔物はもう少し植物系が繁茂して落ち着くまで待ってから、適当なタイミングで配置するように『メリケンNT』に指示を出しておいた。


 第七階層には貯水槽を兼用した半面が水辺、もう半面は木が育ったら林か森になる予定。

 第七階層を中心に見ていくと、ここから上は貯水槽からの水分量を調整した、植物をメインにしたエリアになる。

 第六階層は気温も湿度も高めに設定。

 第五階層は気温を下げて、朝夕の寒暖差を意図的に作り出しておく。

 第四階層は湿度を下げてみた。

 第三階層はさらに湿度を下げて寒暖差も激しくして、擬似的に砂漠っぽく。

 それぞれの環境に適した植物系の魔物を配置しておいたけど、普通の植物が全然足りないので、ロンデニオン西迷宮から移植をすることにしよう。


 ちなみに、第七階層の貯水槽は下のフロアに向けての水分でもある。

 第八階層の盛り土はフロアの半分だけにして、もう半分は底の浅い石桶を十個ほど設置、ここは農場になる予定。迷宮農場大好き! というよりは、試験栽培やら表に出せない食材を作るためのもの。

 第九階層は食料倉庫、兼『ハート騎士団』の避難フロア。ここへの入り口はまだ作ってないので、まだ誰も到達できないけど。仮にハート騎士団が籠城する事態になった時、第六階層~第九階層の四フロアがまとめて隔離される。設計上は二十人なら非常食の量にも拠るけれど、五十年は単独で生存が可能なはず。

 いやあ、我ながら過保護だなぁと自嘲してしまうけれど。


『塔』エリアの第五階層、製錬施設にある壊れた魔力炉は浅い階層の半端な場所にあるので、鉱毒の掃除も含めて引っ越しを決意した。『採掘場』エリアに温度管理が必要なフロアを集めたのも、これに関係しているのだけど。


「お一人で大丈夫なんですか?」

「姉さん、私が……」

 と二人には引き留められたけど、敢えて一人で行った。

 というのは、『研磨』~『弱い水系魔法』~『凝水』という、部屋の中を水洗いするような掃除は、一人の方がいいのだ。そんな私は、海女スーツにガスマスク着用、しかもブーツは脱がないという、メ○テルもビックリ、奇怪なスタイルで、これも見られたくなかったのだ。ああ、基準がわかんないけど、メー○ルはハダカでも帽子を取らない時もあるよね。


「まあ………結構集まったからいいか……」

 と、集めた毒、もとい粉状の鉱物は、金、銀、鉛、亜鉛の塊として採れた。全部で直径半メトルくらいの球になったから、これはこれで美味しいわよね。


 掃除が終わった後、魔力炉を分解して、ミノさんたちを呼びつけて『採掘場』エリア第十階層へと運ばせる。

 元々ここにあった大量の金属素材は、『塔』『研究所』エリアの第十一階層に新設した倉庫へと移動した。

 量が量だから、かなり時間がかかりそう。私は海女スーツにローブを羽織って、下の階層へと降りた。


「完全変態………」

 ちょっと呟いてみた。

 いやいや、見ようによっては王冠被ったらミスなんてらコンテストの受賞者みたいじゃないかい?



【王国暦122年10月18日 14:17】


 ミノさんたちに運んでもらった魔力炉のパーツを組み立て直す。これはサリーも参加させた。

「姉さん、元の形に直すんですか?」

「うん、これ、そのまま組み立てて、壊れてるところは修理しよう。魔法陣はほぼ全滅だね」

 魔力炉が壊れているのは、魔法陣が長期間の熱に耐えられず、破損してしまったから。修理をしようとしても一度分解しないと届かない場所に設置されていたらしく、そのままになっていたみたい。

「姉さん、ここをこっちに動かしたら、後で修理が楽になりませんか?」

 サリーがミスリル銀板を手に持って、身振り手振りで提案してくる。

「どれどれ………」

 なるほど、小型にはなるけど出力は上がりそう。元々、大量の鉱石を処理するために大型だものね。

「となると、魔力炉の大きさが半分くらいでもよさそうだなぁ」

「メリケンNT、ここに専任のグラスメイドを配置することは可能か?」

『可能です、マスター』

 それなら細かい火加減の調節も可能かな。

『過去に専任グラスメイドを配置しておりましたが、劣化が早く、魔物での作業に切り替わった経緯があります』

 という補足がメリケンNTからされた。

 なるほど……。グラスメイドは迷宮が勝手に登録できないから、代案を実行したわけね。それはつまり迷宮管理者が不在になった、ということでもあるわけね。


 さらに補足するなら、ここのグラスメイドは石製、ストーンメイドだったから、余計に熱に弱かったのかも。

 もちろん、グラスメイドの熱対策といえばセラミック外装なんだけど、ロンデニオン西迷宮のめいちゃんと、ここのメリケンNTがリンクしていないので、情報のやり取りができず、今のところは魔力炉を修理して終了かしらね。


 ここでやっていた製錬はいわゆるアマルガム法で、迷宮内部の環境に優しくない。マスクなしでは作業ができないようでは困る。

「製錬作業そのものはまた後日やりにくるよ。今日は魔力炉の試運転だけにしておこう」

「はい、姉さん」

 試運転がてら、管理層の工房に設置する魔力炉用に、耐熱煉瓦を焼こう。


《というわけでノーム爺さん、しばらくは煉瓦作ろう》

《ふむ………こう、創造的な作業がしたいぞい……?》

《じゃあ、あとで赤いセラミックアバターの外装でも作ろうか》

《いいのう……面白そうだのう?》

 土精霊のご機嫌を取ってから、私とミノ、オーク総出で粘土を練った。サリーには魔力炉の調整をお願いして、何故か煉瓦焼き大会になってしまった現状に苦笑した。



【王国暦122年10月18日 18:07】


 魔力炉の移設に時間を取られ、煉瓦焼きが楽しくなってきたところでエミーから夕食のお知らせがきた。

 魔力炉はすぐに火が消えないので、サリーを上に行かせて、私が残りの煉瓦を焼く。


「ノーム爺さん、ヒマなら、こういう形の筒を作ってほしいんだけど」

《ふむ……? 下水管だったか、あれに似ているのう?》

「うん、ある意味では下水管とも言えるかなぁ。熱交換パイプなんだけど」

《ああ、迷宮で温水を流したやつかの?》

「そうそう。熱源を絞って、効率的に熱を使おうと思ってさ。あとは排水パイプだねぇ」

 ここの他に明確な熱源は、『塔』エリア第十三階層にある、スライムの死骸処理施設。そうそう、スライム肥料を迷宮の外に排出できるようにもしておかないとなぁ。『グリーンプレーンスライム』は数匹が既に配置されていて、ゴミや排泄物を待っている状態。想像するとなかなかシュールだなぁ。

 焼き終えた煉瓦を並べてから、パイプを作る作業に入る。陶器製なので強度を考えると、それほど長さをとれず、半メトルほどの長さで量産することにした。


《お姉様~夕食は~?》

 ちょっと怒ったエミーの声が聞こえてきて、仕方なく作業を中断する頃には、百本程度のパイプが出来ていた。

「えーと、あと何本いるんだ、これ」

《しらん…………?》

 あーあー、ノーム爺さんがすねちゃった。とりあえず上に行こうっと。



【王国暦122年10月18日 19:38】


「お姉様、ただでさえ不規則な生活をしているのですから……。食事くらいちゃんと摂りましょう?」

「はい、すいません……」

 怒られている私を見て、ハート騎士団(もう、そう呼ぶことにした)の皆がおろおろしている。迷宮管理者同士が喧嘩しているようにも見えるからだ。

「でも……何かに夢中になっているお姉様もステキ……」

「ああ、うん、頂きます……」


 いつもの豆腐料理の他に、今日は単に大豆をふやかして潰したもの……を固めたもの……が出てきた。大豆プディングだね。大豆の旨味そのまま出ているけれど皮なども入っていて、つまり雑味も入っているので、野趣に富んだ味、と言えばいいのか。なるほど、おからと分けるのにもちゃんと意味があるんだなぁ、と先人の知恵に感動してしまう。


 結局豆腐専任の人、要は調理担当みたいな人がハート騎士団から三人選抜されて、エミーのスパルタ指導を受けている。この三人は、割と味覚が無事な人を選抜したらしい。面白い、と言っちゃいけないのだけど、三人とも王都騎士団で料理を担当したことがあった。料理を経験していたから味覚が無事だったのか、ただの偶然なのか、それはわからないけど。


 今のところ、皆の味覚は鈍くなっているのではなく、一定の食品を受け付けない、などの方向になっているから、そこさえ気をつければ工夫のし甲斐があるみたい。

 曰く、頭は肉を欲しがっているのに、体が受け付けない、という人もいるので、融通無碍な大豆、豆腐料理は、そんなわがままにも応えてしまうのが凄い。エミーが比較的初期の段階で豆腐料理を根付かせたのは慧眼だったと言える。


 一人の夕食(全員に見つめられていた)が終わった頃、メリケンNTとクイーンハーメルンから同時にお知らせが来た。

《……………………》

《マスター、指定個体が意識を回復しました》

 クイーンハーメルンからの念話っぽいのは、意志が伝わるけど細かい内容がわからない。ここはメリケンNTに軍配が上がった模様。


「バイゴットが目覚めたね。あー、一発殴りたい人とかいる?」

 ハート騎士団の全員が、横に首を振った。

 へぇ……。

 私なら殴ってるけどなぁ。


「じゃあ、オネガイシマス、ホフマン、二人一緒に来て。見た目は人間だけど、中身は魔物だと思っていいから」

「!」

 ハート騎士団に戦慄が走る。自分たちの魔物化が進行した場合の最終形態。自身の行く末として興味がないといえば嘘になるのだろう。

「うん、全員行きたいだろうけど、とりあえず代表で。危害は加えてこないと思うけど、念のため武装していってね」

「はい」

「了解です」

 オネガイシマスは頷き、ホフマンは脱皮した。



【王国暦122年10月18日 20:15】


『研究所』エリアの第八階層に移動すると、バイゴットが所在なさ気に胡座をかいて座っていた。

「リック・バイゴット………」

「ん……オネシマスじゃないか。久しぶりギ……」

「バイゴット、気分はどう?」

 私が話しかけると、バイゴットはサッと立ち上がって、硬直した。

「ハイ、マスター。爽快でギす」

 やっぱりギーギー言うのか。まあ、そのうち慣れるでしょう。


「そっか。オネシマス……今はオネガイシマスと呼んでいるけれど……をリーダーにしたので、彼の下に就くように。この指示への異議は、もちろん認めないよ。ただし、意見は言っていい。建設的に解決すること。いいね?」

「はい、マスターに従いギす」

 どうもしゃっくりみたいに、言葉の途中に『ギ』が入るらしい。一人でギ音祭りってところか。


「オネガイシマス、意見は聞いて良い。だけど最終的な判断は君がやっておくれ。そのうちに仲良し集団ではいられなくなるかもしれない。それでも、君らに不和があったら……」

「マスターが、迷宮が悲しむ。肝に銘じます」

 オネガイシマスは即答してくれた。立場が人を作ったのか、元々リーダーの資質があったのか。単に目立つ(おもしろい)名前だったから抜擢しただけだったんだけど、これはアタリかもしれないね。


「バイゴットは一日一回は私から健康診断を受けること。いいね?」

「ギイッ」

 バイゴットは直立不動で了解してくれた。貫頭衣のままだと格好が付かなかったけど、手持ちがないし、衣服に関してはブリストで購入することにしよう。

「じゃあ、皆に改めて紹介しにいってちょうだい。低姿勢が好まれるところだね」

「了解でギす」

 このバイゴットは再度『虫着』出来るのかどうか。変態はこれで終わったのか、まだ観察が必要な個体ね。


《……………………》

「ああ、ごめん、紹介するよ。こちら、クイーンハーメルン。この迷宮の本当のボスになる予定」

《……………………》

「おお、これはこれはご丁寧に……」

《……………………》

「いえいえ、こちらこそ。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 何やら会話が成立しているオネガイシマスを微笑ましく見ながら、メリケンNTに指示をして、全員をエントランスホールに戻す。

《じゃあ、また来るよ、クイーンハーメルン》

《……………………》

『研究所』エリアの第八階層はこの後封鎖。指定の個体のみが対面できる。オネガイシマスとバイゴットだけはフリーパスにしておくか。



―――――魔物同士のコミュニケーションが上手くいっているのは、何か嬉しいよね。





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