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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ブリスト方面波高し
408/870

※塔の戦場1


【王国暦122年10月12日 4:44】


「着弾点をあと半メトル手前、左右そのままで」

「はい、姉さん」

「目標の木は見えてるね?」

「はい、姉さん」

 狙撃用バイザーを降ろした私とサリーは、遠方の木を相手に、『投擲』の練習をしている。

 銃器は色々と問題がありそうだったし、一番ピンポイントに相手にダメージを与えられる攻撃方法、ということで、『投擲』スキルを採用することになった。魔法による狙撃も可能ではあったのだけど、遠距離を進むうちに魔力は減衰するので、有効距離が短いということと、減衰を考慮して最初に大きな魔力を込めてしまうと目立つこと、着弾地点においてはもはや狙撃ではなく爆撃になってしまうこと――――から見送った。


 狙撃用バイザーで得られる光学映像は、魔法によって補正処理され、手が届きそうなくらいに鮮明だ。

 最初は光学映像しか得られなかったのだけど、『遠見』『暗視』『可視領域変換』の組み合わせは、『測量』なるスキルに昇華した。設定した基準点からの角度と距離を出すだけのスキルなのだけど、見える範囲であれば正確な地形が把握できるということ。ただ、LV1の状態では生物や建物を透過するわけではないので、その点は今後スキルLVが伸びれば、透過地形図が描けるようになるかもしれない。


 ちなみに、地図を描く、というのはビートル総統から得た『木炭画』スキルから派生した『描画』というスキルが活躍した。サリーにはこのスキルは発現しなかったので、元々の手先の器用さが影響しているものと思われる。サリーが不器用、という話はスキルや魔力を使わない時に限定される話で、魔力制御が上達してきた現在では、魔道具作りに関しては精緻な細工も可能になっているから、人によっては信じられない話かもしれないわね。

 ま、周囲の人間にはバレているんだけどさ。


「姉さん、魔道具の方に魔力を取られて、制御が安定しません」

「むむ、『測量』スキルを狙撃バイザーに追加したのはきつかったかな。魔核で補助してみる」

 サリーからバイザーを受け取り、魔核…………一時的な魔力の蓄積装置(コンデンサー)を設置してみる。高機能かつ魔力を大量消費するので、私とサリー以外にはすでに使えない魔道具になっている。

「『可視化領域変換』と『測量』の魔法陣が魔力を食うみたいです」

 私の改良作業を見ながら、サリーが指摘してくる。

「わかった」

『可視化領域変換』は、魔力の波を見えるようにするので、実質、『不可視』殺しでもある。音も見えるようになるので『隠蔽』殺しでもあるよね。ただし得られる情報量が膨大で、それを整理して映像に加える処理をするのに、かなり無理をして魔法陣を縮小化して詰め込んだ(右耳の丸い部分が魔法陣アッセンブリ―だ)。これ以上の機能追加は、分割して別装置にせざるを得ない。やり過ぎが祟って、ギリギリのバランス、頭に被る装備としてはかなり重たいはずだ。


「よし、これでどうかな」

 サリーがバイザーを受け取り、頭に被ってから、

「うんしょっ」

 と魔力を込める。バイザー内部にある魔法陣、それに接続された魔核に魔力が行き渡り、薄く発光する。

 魔力の蓄積が確認されると、サリーはバイザーを降ろした。

「いきます」

 と、いつぞやか私が作った弾丸を、親指、人差し指、中指の三本で摘むようにして持ち、やり投げのような見事なオーバースローで投げつけた。


ビッ


 と空を切る音が鋭く響いて、弾丸が飛んでいく。

 二呼吸ほどして、着弾の煙が見えた。さらに四呼吸ほどしてから、パン、という音が聞こえた。

 おー、投擲でマッハ超えてるのか……。衝撃波は小さいから無視できるレベルかな。

 私もバイザーを覗く。

「距離合ってる、半メトル左にずれた」

「はい」

 サリーが再度、調整して投げつける。『投擲』で自然に銃弾に回転がつき、サリーは右手で投げているわけだけど、普通に投げただけでは時計回りの回転をする。だから野球でいうところのナチュラルカーブみたいになって、基本的に着弾点は左側にずれる。このズレが遠距離だと広がってしまい、着弾点のバラつきに繋がる。

「うーん、距離三百メトルではこれが限界かしらね」

 弾体が短いからブレも大きくなるみたいだ。急ぎ銃弾を複数繋ぎ合わせて、弾体の長いライフル弾を作る。ノーマル三つ分の銅弾を使った。

「サリー、今度はコレを使ってみて?」

「はい、姉さん。重いですね……」

「うん、その分着弾点は安定すると思うんだけど」

「はいっ! えいっ!」

 サリーの投擲!


ズバッ!


 先ほどよりも大きい投擲音が聞こえた。

 やはり弾体が重すぎたようで、狙撃(投擲)距離は期待ほど延びなかった。結局、銅弾二つ分にまで減らして軽量化をすることになり、五百メトルの距離であれば、直径数十センチの円に集束できるまでになった。スゲー。イチローみたいだー!


「うっ、肩がっ……」

 仕様が固まったところで、サリーが右肩を押さえた。

 はっ、破滅の音? ああっ、投げさせすぎたか! 百球に投球制限すべきだったか!

「熱持ってるね……」

 サリーの肩に触れると、熱くなっていた。

「大丈夫です、右がダメなら左が……」

 オイオイ、高校中退してメジャーリーグ行っちゃった(ゴロー)や、大リーグボール投げちゃう(ヒュウマ)みたいじゃないか。


「いや、―――『治癒』」

 水系の『治癒』で仮治療する。光系は育った筋肉も元に戻してしまう可能性があるから。

 もう十日も同じ練習をしたら、それこそ量産化を断念したモビルスーツの肩みたいになってしまうよ……。


挿絵(By みてみん)


「お姉様、治癒なら私が」

「ううん、これは水系の方がいいんだよ」

「そうなのですか……」

 エミーが残念そうに目を伏せた。聖女様には後でフォローをしておこう。

「サリー、後でちゃんと治療するから、今は痛みに耐えてちょうだい。感覚を掴んだ今が大事よ!」

「はい、姉さん!」

 ああ、何て素直な弟子だろう。師匠のいい加減な発案を疑いもしないなんて。


「よし、練習終わり、集合地点に急ごう」

 馬車を出し、キャリーゴーレムも伴って、私たちは集合地点へ向かった。



【王国暦122年10月12日 6:15】


「おはようございます、みなさん」

 集まった『リベルテ』のメンバー四名と、王都第三騎士団五十五名。今回の遠征組は、後方に下げた人間を含めて総勢で二百名程度なんだそうな。これはギース卿が教えてくれた。聞いた話では(正確なところは誰も知らないけれど)、遠征組で第三騎士団の2/5程度なのだと。それでも王都の治安機能は麻痺しかけて、第一と第二から補充を受けているから、五百人でもギリギリの数字なんだろうね。普通に考えたら第三騎士団が遠征することは異常事態なんだから、どういう経緯なのかは知らないけれど、馬鹿じゃないかと思いたくなる。


「おはよう」

 と、返事をしてくれたのは『リベルテ』の四人と、ギース卿、以下数人の騎士だけ。というのはハイデン副騎士団長も、ダニエル騎士団長もいないから。

「ま、ここに来たのは命令違反なんだがな」

 とギース卿は笑っていた。何と、私の指示はダニエルには拒否されて、第三騎士団としては後方(学術都市ノックスだろう)に下がるというのだ。それに異を唱えた有志が五十五名もいた、ということは、全然統制が利いていない。味方を助けた後に、味方に討たれる可能性があるというのだ。益々、第三騎士団、馬鹿じゃないのかと疑いたくなる。


 第四騎士団出身者が脱走、反乱を起こして、その処理でまた内部から反乱者を出す組織って何なんだろうね。これ、王都に戻っても、もう一悶着あるよね。


「まあ、私たちだけで二十人の介護は無理ですし、引取先があるのは助かります」

 正直に私が言うと、ギース卿は苦笑しながら、

「作戦を説明してもらおう」

 と、諦観の極みみたいな顔で促してきた。


「はい、作戦は四段階を基本とします」


① 遠距離狙撃による特定魔物の排除

② 偵察による安全確認

③ 陸戦部隊の投入による制圧

④ 救助活動


「狙撃? は弓か?」

 弓には腕に覚えがあるのだろう、顔が濃くて髪の薄いヴィーゴがニヤニヤしながら聞いてきた。

「いいえ、まあ、見ればわかりますが、さっき練習していたんですよ」

「ああ、あの大きな音か……魔法か何かか?」

 ヴァンサンが近づく。大きな体には圧迫感があるなぁ。こんなに大柄でも隠密部隊のリーダーなんだから面白いよねぇ。

「魔法のようなものです。①のような措置を採るのは、特定の魔物が元凶だと見ているからです。恐らくは使役系の魔物ですね。迷宮には割といますから珍しくはないですが」

「そうなのか……大陸には迷宮がないからな……」

 へぇ~? その辺は詳しく訊いてみたいけど、話の腰を折っちゃいけないね。

「②の偵察部隊はこちらで選抜します。私と、『リベルテ』の四人は確定、騎士団の方から二名、選抜してください」

「それなら卿が参ろう」

 ギース卿が力強く宣言した。

「ギース卿は、この騎士団救出部隊の発起人でしょう? リーダー的な存在の人を連れて行くのはちょっと……」

 私がやんわり拒否すると、ギース卿は首を横に振った。

「いや、某は部隊長でも何でもない、平の騎士だ。このような任務にこそ適任」

 決意は固いみたいだね。むしろこの人、死にたがっている気がしなくもないな。

「わかりました。ではもう一人、騎士団から選んで下さい。選んだ皆さんはこれを着用していてください」

 簡易バイザーを手渡す。エミーとラルフ少年は既に着用している。サリーは狙撃用バイザーを既に頭の上に載せている。

「ガラス……? お高いんじゃないか……?」

「ああ、もちろん貸与ですよ。作戦終了後には回収しますので。お高いのは確かですね。制作費も含めたら、騎士さんの全装備二人分くらいじゃないですかね。割れやすいので注意してください」

 割れやすい、とは言うけど、初級攻撃魔法の直撃くらいなら多分耐えると思う。

「わかった。注意して扱おう」

「はい。では、我々は配置につきます。皆さんはここで待機していて下さい」

「まて、連絡はどうする?」

 ヴァンサンが訊いてくる。

「『気配探知』を使いましょう」

 簡単な符丁を決めておく。たとえば三回の発動を三度。進行して集合せよ、などと決める。

「わかった」

 頷くヴァンサンとギースを確認してから、私は『道具箱』に馬車をしまい(これはやはり目を丸くされた)、ゴーレムと共に林の北側を迂回するように進行を開始した。



【王国暦122年10月12日 6:30】


「お姉様、私たちもあの場所に残っていた方が動きやすかったのでは……?」

 ゴーレムの椅子に座ったエミーが、併走している私に訊いてくる。

「うーん、全員の思惑が一致してるならいいんだけどねー。王都の騎士団だから――――」

 エミーのことを知っている輩がいてもおかしくはない。人質として弱点を握られてしまう事態はまあいい。問題は、その事態を解決するためには武力を以て第三騎士団を殲滅しなければならないことだ。


 少なくとも、ボンマット出張所のカレルは私がここにいることを把握していて、第三騎士団の動きも知っている。私たちをぶつけることに意味があるのかどうかは知らないけれど、万が一作為が見えるのであれば、徹底的に反発し、カレルを追い込むことになる。


 カレルはいいとして、そうなると王都騎士団と冒険者ギルドで戦いが……。ああ、それを狙っているのかな……。どうも火事場泥棒をしたがる人ばっかりだなぁ。

「――――ま、人質に取られたら動けなくなる。手元に置いておきたかった」

 と、半分だけ本音を出す。ラルフ少年には余計な情報を与えない方が、彼の身の安全に繋がるだろう。

「そういうことか」

「うん。『リベルテ』のメンバーはどう感じた?」

 察しのいいラルフ少年に訊いてみる。

「目が気持ち悪かったな……」

「あー、うん、そうだね」

 彼らからはやっかみと興味が半々、って感情が伝わってきたものね。どうでもいいことだけど、興味の中にはラルフに対して性的な視線も混じっていたよ。やっぱり、一定の数、少年スキーは存在するんだねぇ。ああ、あの場所に女性は一人もいなかったよ……。組み合わせ(カップリング)は自由自在だねぇ。


 私は自分に『風走』LV2を付与して、ゴーレムとラルフ少年にも同じようにLV2を付与して移動をする。『風走』は重量に比例して使用魔力が増えるので、LV2が魔力的に騒がしくない限度、というところ。このキャリーゴーレムはとても重いので大変……。

 十分程度走ったところで林の北側を迂回できた。ここから狙撃地点まで南に向かって移動する。

「『風走』切るよ」

 さすがに接近するには向かないのが『風走』だものね。


 南下を続けるとブリスト街道が見えた。

「おおよそ、ここから狙撃対象は一キロメトルほどだけど。どうする? やってみる?」

「いきなり倍の距離ですね。狙撃回数が激増するのを前提にするならそれでもいいと思いますけど……」

 サリーには暗に拒否された。狙撃回数を抑えた方がいいのは確かね。

「街道を越えて接近しよう。まだ、バイザーは降ろさないでね。何があるかわからないから」

「はい」

 サリーは短く答えた。緊張してるのかしらね。


 さらに十分ほど前進。パッシブの『魔力感知』によれば、魔物と、囚われた人たちに動きはない。

「停まって。ここから狙撃するよ」

「はい、姉さん」

「エミーとラルフ少年はもっと後ろに下がってて。ラルフ少年は周囲を警戒。東の林の中を特に警戒。エミー?」

「はい、大丈夫です、お姉様」

 それだけのやり取りで、エミーはブライト・ユニコーンを呼び出した。さすがね。


「―――『召喚:光球』『召喚:光球』」

 万が一のセーフティとして召喚光球を出して、自分の目と、サリーの目を覆う。サリーは私の背後に配置。

「よし、バイザー下ろし。まだ遠くは見ないで。太陽も見ちゃだめだよ」

「はい」

 サリーの固い声。

「万が一、私が狂ったらぶっ殺していい。よろしく」

「そんなっ」

 非難の声を聞く前に、遠距離監視を始める。

「見えないとはじまらないものね」

 私はちょっと格好いいことを言ってみた。



――――ガリレオ・ガリレイみたいに。





どうでもいいことですが、作者の誕生日はイチローと同じ日です。

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