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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ブリスト方面波高し
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石の台地


【王国暦122年10月10日 7:55】


 坂を下り終えると、今度は急な上り坂になった。

「変な地形だ、なっ」

 ラルフ少年は四肢を突っ張らせて体を御者席に固定している。

 坂を上り終えると、カレルの言った意味がすぐにわかった。

「なんだこりゃ……」

「ふわぁ……」

「すごい光景ですね」

「石の大地、いや台地だねぇ……」

 見渡す限り、灰色の石、という光景が、そこに広がっていた。石は凸凹していて、平坦な場所など一つもない。荒涼とした(行ったこと無いけど)月の大地を思い出させる。この点は嘘をつかなかったんだね、カレルさん。

 嘘といえば、さっきの話は、ホントとウソが混じり合っていて、どれが真実なのかわかりにくい。


① 小金をためた町民がたまにくる店である

② 従業員(ギルド職員)はいない

③ 塩を自由に使えない

④ 外部的な環境からいえばボンマットは詰んでいる

⑤ 逃げだそうとした領民たちを押さえつけている

⑥ 大陸冒険者たちのリスト

⑦ 情報漏れ

⑧ 陸路が困難である


 ①はウソ。むしろ大陸からの冒険者たちの憩いの場だろう。理由としては、煙草のヤニが新しかったこと。小金をためた町民は少しは来るかもしれないけど、煙草はとても高価で、見るからに生気のない、カツカツの暮らしをしている人たちがお酒以外の嗜好品に手を出す余裕があるかどうか。余裕があるのは法外なお金を得ている人たちで、それは、あの街では、領主に雇われた冒険者たちしかいない。

 ②はホント。掃除はしているけれど余裕がないのが見て取れた。

 ③はウソ。他に産業もなく、得られるものがそれしかないから。領主は、塩を与えて、塩を税として搾取して、それで儲けている。恐らく領民(町民)たちは、お金の代わりに塩を通貨として使っている。飲み代がお金じゃなくて塩で払われていても不思議じゃない。ついでに言えば、あの油煮はカレル氏作の料理で、単に味付けに失敗したものだ。

 ④はホント。だから放っておけばいい、という発想なんだろうね。もしくは、領主を追い込んで、大陸の冒険者たちと一緒に街の実権を握ろう、くらいのことは考えているかもしれないね。

 ⑤もホント。カレル氏が一緒になってやっているとしたら、領主の依頼で、ってことになるはず。これは監査が入ればわかることだろう。

 ⑥はわからない。七割ホント、くらいの感じだと思う。注意すべきチーム『リベルテ』のメンバー数はもっといるのかもしれない。

 ⑦は、情報を漏らしているのはカレル氏本人。ただ、規約に違反する云々も、支部(出張所)の責任者が『必要がある』と判断した場合は任意の人間に伝えても良いから、単純に罪に問われるものでもない。

 情報が漏れてる、と伝えた時に、慌ててカレル氏が考えたストーリーが、ブリスト支部内に内通者がいる、という話。情報漏れはカレル氏の責任でもあるのだから、責任転嫁する先として、私と接近してほしくないブリスト支部を選んだと思われる。攪乱しようとしている、と想像できる。ま、ある程度、ブリスト支部には、カレル氏の素行はバレているんじゃなかろうか。

 ⑧は半分ホント。困難には違いないだろうけど、馬車の通過が難しいだけで、徒歩ではそれほど難しくないんじゃないかな。


 これだけ嘘をつかれていたわけだけど、冒険者ギルドでも、領民でも、領主のためでもなく、自分自身の保身、野望のために誘導しようとしている気がするね。

 あまり気分のいいものではないし、冒険者ギルドに直接的な被害があるわけじゃないけど、これらはブリスト支部とザンには報告しなきゃいけない話だろうねぇ。


「これ、馬車は通れるのか?」

『風走』を全開にした、スーパーモードを発動すれば走破はできるだろうけど、接触している車輪が石で削れて壊れちゃうかな。

「無理。ゴーレムに切り替えよう」

 さっさと諦めて、『道具箱』からゴーレム球を取り出して、石の上に置く。

《ノーム爺さん、素材が変わるけど大丈夫?》

《ふぉふぉふぉ、儂にかかれば指先一つじゃよ?》

 どこの世紀末救世主だよ……。


 ノーム爺さんの頼もしい発言そのままに、キャリーゴーレムが石製になって再生した。

「石のゴーレムさんですねぇ」

 サリーが楽しそうで、そのサリーを最初に見たゴーレム(最初に姿を探したね)は、エルフ好きなのかもしれないね。

《素材が固いからのう、余り長くは保たんかもしれんのう?》

 石材同士で擦れて摩耗しちゃうんだね。


「これ、腕組ませて、そこにラルフ少年、乗れるかな?」

《強度は問題ないと思うぞい?》

「大丈夫かな……ちょっと怖いな」

「まあまあ、乗って乗って」

 馬車と馬アバターを『道具箱』に収納して、ゴーレムに椅子をセットする。

「お姉様、ずっと寝てないのでは?」

「ああ、うん、魔力使ってないし。大丈夫。――――『召喚:光球』」

 イルカ睡眠で行きます……。たぶん、この石製ゴーレムは、四人乗ったら壊れるから、歩いていきます……。



【王国暦122年10月10日 9:37】


 光球に意識を移して、体は寝ているけれど、光球側から操作されているという、すごい状況で、凸凹の石の上を、走るのと変わらないスピードで歩く。岩山登山だと思えば、楽勝だよね。


 んっ!

 何だあれは!

《ノーム爺さん、停めて停めて!》

《む……?》

 本格的に岩山歩きを始めて一刻半ほど。ゴツゴツした岩に埋もれるようにして、それはあった。

「姉さん?」

「お姉様?」

「なんだなんだ?」

 急に停まったゴーレムに、何か異常事態か! とラルフ少年が改めて周囲をキョロキョロと見渡す。


 私は召喚光球から本体に意識を戻す。寝ているような、寝ていないような。体はちゃんと寝ているので、目覚めた直後と同様に体が重い。元々体重が重いのは放っておくとして。

「実に心惹かれるものがあるねぇ」

「何があ――――骨?」

 骨のような岩が、凸凹の形に紛れるようにして横たわっていた。化石だ。

「ドラゴン? なんですか?」

 サリーの疑問符が可愛いね。

「うん、古い生物の骨が変質して石になったものだね」

 うおー、すごいテンション上がるなぁ! 化石とか琥珀に入った虫とか、ロマンが溢れてるよねぇ。

 サリーが漏らした第一印象の通り、これは竜の一種のようだ。


「―――『地脈探査』」

 ちょっと思いついて岩山の内部を探索してみる。

 と、飛び出ている骨は肩胛骨辺りで、岩山の内部に、ほぼ完全な骨格があるのがわかった。

「お姉様、目の色が変わってる」

 エミーの感想は比喩だろう。未だ目の色は金色のままだから。ワーッハッハッハ。

「ちょっとね、これ、回収するから」

 誰が見ているわけでもなし。全長十メトルほどの化石を、まるごと『掘削』して『道具箱』に入れてしまう。

「わはははー、骨ロマンじゃぁー」

 周囲を探してみると、百メトルもいかない間にもう一体、さらに三体が重なっていたのでこれもゲット。

「カラカラ、ゲットだぜ!」

 合計五体を入手して満足したところで、頭痛が始まった。何と魔力切れだ。

「お姉様、少し休みましょう」

「うん……。少し寝かせて」

 馬車を出して固定し、その中で寝ることにする。


「二刻くらい休もう。交替で周囲を警戒しておくれ」

「ああ、任せてくれ」

 今はラルフ少年の安請け合いも頼もしく感じる。


 馬車の中に入って、椅子を倒して横に寝ると、すぐに睡魔が襲ってきた。どうにも生き急いでいる私に骨たちが語りかけてくる。

「こどくポケモン………ううっ……」

 悲しいストーリーを思い出しながら、意識が落ちていった。



【王国暦122年10月10日 12:30】


 目が醒めた。

 いやあ、化石を見たら収集しなきゃいけないと、強烈な義務感に襲われてしまった。

「っていうか、ボンマットって、恐竜の街(ランド)として成立しそうな勢いなんだけどな……」

「あ、姉さん、起きたんですね。魔力は?」

「ああ、うん、おはよう。スッキリ全快……とまではいかないけど、半分くらいかなぁ」

 仮眠でこのくらい戻れば問題なし。

「エミー姉さんがスープ作ってくれてますよ。頂きましょう」

「うん」


 石の大地の上でキャンプをしていると、本当に他の星に来たような錯覚に陥る。

 エミーが作っている、というスープの匂いが漂ってくる。

「あ、お姉様、おはようございます」

「もういいのか、小さい隊長?」

「うん、回復した。骨の回収に興奮しちゃったけど、この石の大地はどこまで続いてるんだろうねぇ」

「姉さん、骨好きだったんですね」

 櫻子さんって呼んでくれてもいいわよ。


「いや、でも、わかるよ。オレも古い鏃とか見つけるとドキドキする」

「ふふ、いつまでも子供みたいですね」

 エミーがスープの入った器を私に手渡しながら笑う。

「ありがと。それにしても、この石の台地はどこまで続いているのかねぇ……」

 座りながら、軽く溜息を吐く。

「姉さん、この石の台地が交通の障害なんですよね?」

「うん、だから、まるまる一日かかるかもしれないね」

 直線距離だと、ボンマットからブリストは二日強。船だとかなり迂回することになるので丸一日。交通の障害になる、っていうのなら、石の台地はそれこそ邪魔をするように横たわっているわけね。

「石の骨くらいしか採取できるものがありませんね」

 サリーは残念そうに言った。サリーはあまり化石にはロマンを持てないようだ。

「石は採れそうですけどね」

 石大好きですもんね、とエミーが悪気ゼロで笑う。

「うん、この石、加工はしやすいはずだから、もっと利用されてもいいはずなんだけど。ブリストの方では石切場があるかもしれないね」

 スープを啜りながら私が言うと、

「それってさ、運搬手段とか、どうしてるのかな。ポートマットなら、小さい隊長がにゅーっと出すのをよく見かけるけど」

 と、ラルフ少年がぶっきらぼうながら、身振り手振りを交えて訊く。ラルフ少年は段々と感情表現が豊かになってきている気もする。

「馬車だろうけど、都市間を一気に運ぶような運搬手段は難しいね。それこそ、石に動いてもらわない、と……」

 んっ、石に動いてもらう、か。

 チラリと石を材料にしたキャリーゴーレムを見上げる。


《フフフ……何を考えているのかはわかるぞ……?》

《フフフフ……お見通しのようだねぇ、ノーム爺さん……》

 心の中で不敵に笑い合ってから、皆に向き直る。


「とりあえずさ、化石は我慢するからさ、日が暮れるまでに石の台地を抜けちゃおう。夜になると、ここは物凄く寒くなるから」

「え、そうなんですか?」

「たぶんね。凍え死ぬほどじゃないと思うけど、快適じゃないのは確か」

「わかりました、姉さん」

 スープの残りは鍋ごとキャリーゴーレムに持たせて、ラルフ少年と私が先導することにして出発した。



【王国暦122年10月10日 15:45】


 途中で、キャリーゴーレムに乗る人間を交替してみた。

 半刻ずつ、といった形で、その間にラルフ少年を休憩させる意図があった。

 エミーは運動神経も良く、どの岩に足をかけると上手く動けるのか、すぐに把握して、むしろラルフ少年より動きがいい。さすがは聖女様、サバイバルもおこなしになる……。

 サリーはというと、ぶっちゃけ運動神経はよろしくないので、怪我をしないことを前提に、ゆっくり歩かせた。というよりキャリーゴーレムが自分から速度調整してくれた。


「あっ」

 かーなーりー先の方だけど、石が切れているのが見えた。ゆっくり行って三刻ほどの距離だろうか。

 終わりが見えたのでちょっとホッとして、

「休憩しよう。スープも食べちゃって身軽になっちゃおう」

「はい、あの……」

「うん、ほら、あそこ、石がもうないじゃん? 台地だから多分下りることになると思うんだけど……」

「あ、ほんとですね」

「おお……」

「どうやって降りましょうか……?」

 サリーが余り心配していない顔で訊いてきた。


「階段を彫ってもいいし…………飛ぶ……のは危ないか……。まあ縁に沿って西に行けば、降りられるところがあると思うよ」

 ちょっぴり、この石の台地が終わるのが残念に感じるのは、何かに飼い慣らされているということなのか。

 途中、化石のありそうな場所を見つけたのだけど、残念ながらスルーせざるを得なかった。いつかゆっくり化石発掘をしに、再訪したい場所ができてしまったようだ。


 それにしても、この石の台地は、ヘベレケ山の真西に存在するんだけど、ポートマットから見ると、ヘベレケ山と同様、壁のようにも感じられる。特にヘベレケ山は脈絡なくポン、と置かれた感じがする。そうそう、痩せてるのに胸のある女の子みたいな? ああ、うん、男はそういうの、好きだよね。

 チラッとエミーを見ながら、そんなことを考える。

「? お姉様?」

「ううん、何でもない」

 胸を見てたなんて言えないからさ。



【王国暦122年10月10日 18:52】


 暗くなってから、やっと縁に手が届くところまでやってきた。

 縁の上から見下ろすと、高低差は三十メトルくらいありそう。

「冷えてきましたね……」

「風もすごいです……」

 どういう理屈か、時々下から風が吹き付けてくる。気温も下がってきたし、馬車をここに置いて寝るのは危ない気がする。

「ちょっと穴掘る。今晩はその中で寝よう」

 言うが早いか、足元の石を『掘削』でスロープ状に掘り始める。

 露天でスロープを掘ったあと、水平に角度を変えてトンネルを作る。

 トンネルの内径を広げて天井をアーチ状に成形、床は水平に削る。

「うん」

 馬車が入れる空間の広さだと確認してから馬車を出す。

「入ってきていいよー?」

 中から声をかけると、キャリーゴーレムごと、中に入ってきた。

「広いな……」

「うん、じゃあ、フタしていくから」

 私は一度外に出て、スロープの上部を隠すように石材を置いて蓋をしていく。周囲に馴染むように偽装も忘れない。

 最後に内部から蓋を閉じて密室完成。ちょっとピラミッドの玄室みたいだなぁと思ったり。

 スロープを下って部屋に入ると、エミーとサリーが『灯り』を使っていた。


「何ででしょう、石の中なのにすごい安心感………ああ、工房みたいだからかな……」

 サリーがそんなことを呟いた。

 四方を囲まれているのに安心するのは私も同じ。

 サリーと頷き合い、師弟の間にシンパシーを強く感じた。



――――今晩は化石(ロマン)を抱いて寝ます。





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