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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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巡回チームの報告会


 遮音結界の中で、私とフェイ、セドリックとクリストファーが対面してソファに座って、慰労の言葉もそこそこに報告会が始まった。

「報告にあった穴? 池? に関しては、こちらも確認したっす。迷宮は……」

「―――あれは言われないとわからなかった」

 大きく私は頷いた。あれが迷宮だと気付く方がどうかしているもんね。


「……とりあえずは無事の帰還を祝福したいところだな」

「らしくないっすね」

 皮肉そうに笑うセドリックの揶揄は、普段のフェイの言動を知っているからこそ。信頼関係が見える言動だ。

「私も、心配してましたよ」

 先の反省もあって、多少の演技を込めて、心配そうに私は言ってみた。

「お嬢ちゃんに言われると、何かグッと来るっす……」

 クリストファーも顔をしかめて頷いている。おや、私の演技も捨てたモノじゃないわね。


「……大きな魔物の反応もなかったか?」

「―――なかったですね。迷宮を中心に、螺旋状に動いてみたのですが。入り口も、魔法陣らしきものも、見つかりませんでした」

 上級の二人なら、魔力感知に頼らない、経験と勘というやつも併用して探したのだろう。それでも見つけられなかったということは、常設ではないのかもしれない。

「……あのレベルの魔物を管理する迷宮であれば、予備を含めて転移―――召喚魔法陣が二つだけ、なんて危ういことはしないはずだ。……普通に入れる出入り口が存在するか、やはり、まだ他に魔法陣が存在するか。……迷宮は最低でも三通りは管理層に到達する方法を求められる、そうだ」

 フェイが伝聞調で言う。誰に聞いたのやら。

「そうですね。魔法陣の設置そのものは術者が簡易設置できるような実力があれば、一日かからないと思うんです」

「―――簡易設置?」

「はい。つまり、予め魔法陣を羊皮紙か何かに描いておいて、任意の位置に設置して、迷宮内部にあるだろう魔法陣と接続するのです。ただし、その場合は、大型の魔物は登場しないかと」

「……何故だ?」

 私は『道具箱』から、自作の紙を取り出して、皆に見せた。

「これは、最近私が自作した紙です。羊皮紙にしても、この紙にしても、大型の魔法陣を描くには、紙が小さすぎるのです。『転送』の魔法陣では、陣の大きさ以上のモノは通過できないのです。ゴブリンやワーウルフの幼生体程度の大きさなら召喚は可能でしょうけど」

 これはアマンダから聞いていた話。ついでに陣の大きさが転送可能距離を示すとも聞いている。


「……ふむ」

「ですから、一定の実力を持った冒険者以外は周辺地域への立ち入りを禁じておけば、安全かと思います」

「―――なるほど」

「じゃあ、少し間を空けて、油断も誘いつつ、巡回は継続っすね」

 セドリックの進言に、全員が同意した。

「……では、安息日後に出発するようにするか。……次回は四日後にお前が行ってくれ。……それ以降は大体十日前後の間隔で。……立ち入り禁止のお触れは出しておこう」

「了解しました」

 めんどくさい。けどまあしょうがないか。


「……では次の話題だ。……頼んでいたジャックの件だが―――」

 フェイが、私の報告をそのまま二人に伝えた。やはり二人はフェイの子飼いのようだ。

「ああ、やっぱり、そっちに繋がっていたっすか」

「―――こっちは領主の件から調べていたのだが―――。港湾機能の拡大、大型保管庫の建設、これらは領主単独で出資するには額が大きすぎだ。その資金の出所は、領主自らが行った貿易で―――」

「万能薬として『オピウム』は、既に少量が国内外で取引されたみたいっす」

「え、本当ですか?」

 国外はわかるとして、国内にも流通させるつもりなのだろうか。


「一部の金持ちには評判になりつつあるらしいっす。治療魔術師に頼らずとも痛みが取れるとか、嬢ちゃんの言っている薬効がピッタリはまるっす。法外な額の取引が存在しないと、領主が資金を工面できた説明が付かないっす」

「―――市場調査の意味もあるんじゃないか?」

「今のところは、『怪しいけれど良く効く薬』って感じだと思うっす」

「うーん、沈痛効果があるってだけで、病気を根治させるような薬じゃないんですけどねぇ。それに副作用を考えると、無計画に服用するのは、緩やかな自殺ですよ」

 私は肩を竦めてみせた。

「―――その副作用、中毒とやらは、魔法で治癒はできないのか?」

「程度にもよると思いますけど……。重度の患者は無理じゃないかと」

 毒素を抜く魔法、というのも、人間の新陳代謝や対毒性に頼る部分が多いのだ。トーマス商店で売っている毒消しは、そもそも、特定の毒に対して解毒できるように調整されている。それで三種類も売っているわけなのよね。毒素を分解する機能を高めて、錬金術で濃度を上げて、魔法で無理矢理、薬効を高めているに過ぎない。

 だから、アヘン―――この世界でいうオピウム―――を解毒できる薬が、魔法での治療であっても必要になる。

 一応、経口用の特効薬はあるらしいのだけど――――患者の肉体が耐えられるかどうかは不明だ。そもそも解毒薬が必要になる『万能薬』というのもどうかと思うんだけど……。


 それよりも問題は、少量とはいえ、オピウムが流通してしまったらしい、ということだ。そのものの薬害もさることながら、それに付随する甘い蜜を知ってしまった。

 私はフェイを見た。元の世界では、麻薬に関連する事件が生む悲劇が後を絶たない。この世界でも、それを繰り返す可能性は高い。

 止めるべきだろうか。

 止めるとしたら、それは『ラーヴァ』としてだろうか。

 視線に気付いたフェイは、難しい顔を一層難しくした。そして、ゆっくりと首を横に振った。

「……この件は……。……いずれ悪化する形で進展するだろう。……だが、今のところは傍観せざるを得ない」

「支部長がそう言うなら、そうするしかないっす」

「―――ああ」

 義憤に駆られていただろう二人が引き下がる。二人にとって、フェイの決定は絶対みたいだ。その忠誠心がどこからくるのか訊いてみたいけど、一晩はかかる話なんだろうなぁ。

 まあ、私的に見過ごせない状況なら、黙ってでも焼き討ちしに行けばいいか。

「……お前も単独で、勝手に動くのは止めてくれ。……余計な詮索をされることになる」

 っと、釘を刺されてしまったか。

「わかりました……」

 私は引き下がることにする。


 しかし、アヘン禍、いやオピウム禍は、いずれ来る。備えはしておこう。…………時が来たら、最大限利用できるように。

「……無論、調査は継続してもらう。……巡回の方を優先せざるを得ないが」

 フェイの優先順位の基準は『使徒』からの『神託』だろうか。それほどに重視しているのなら、『神託』を受ける立場のユリアンが恣意的に歪めて伝えることで、私たちを操作することも可能なんじゃないだろうか。

 冒険者ギルドとしては町の治安維持に協力する義務があるとはいえ、この辺は聞いていないけれど、『神託』の影響なんだろうか。

 私たちは『神託』の全てを聞いてるわけじゃなく、曖昧な伝聞で動いているに過ぎない。歯がゆいけれど、全てを知ってしまうと動けなくなることもあるんだろう。

 そう思うことで納得しておこう。


「……では次の件だ。……実は、騎士団の方から依頼があってな。……魔術師の教官をしてほしい、とな」

 私は全員を見渡した。全員が私を見ている。アレっ?

「私が? ですか?」

「他にいないっすよ……」

「―――あの魔法が扱えるなら、理解出来る話だ」

「……という訳なんだが。……受けるか?」

 何その面倒臭いの。やるわけないじゃん。

「お断りしたいです……」

 だって、私の魔法は習ったものではない。他人から黙ってコピーしたものだし。他人に教えられる訳がない。生徒に向かって、コピーしてください(笑)とか言えない。


「……これはフレデリカからの指名依頼でもあってな。……正式の依頼なのだが、冒険者ギルドとしては、受けてほしい依頼でもあるな」

「ダグラス騎士団長は何と?」

「……承諾しているとのことだが。……騎士団長(アーロン)は疑惑の渦中にいる男でもある。……情報収集的にはメリットがあると思うのだが?」


 フェイとしても、ギルドとしても思惑があるのか。なるほど、アーロンはワーウルフ然り、オピウム然り、怪しいことこの上ない。外部の人間が堂々と内情を探るには悪い話じゃないのか。


「……………期間はどのくらいですか?」

「……春までだな。……それまでに、ある程度の成果が上がれば良い方じゃないか?」

 くっ、このダークエルフは、どれだけ私をこき使おうとしているのかっ……。春になればまた採取の季節になるし……。


「毎日拘束ってわけじゃないですよね。それならまあ……」

 フェイは私の了承の言葉を聞いて、フッ、と笑った。してやったりとか思ってるかもしれないけど、そういう風に仕向けたのはフェイじゃないか……。しかし、フェイがこういう風に強引に決めつける時は、きっと何かあるんだろう。

 ははっ、私って物わかりのいい部下だなぁ……。

 はぁ、良いように使われてるなぁ……。


「……それじゃ、とりあえず明日、騎士団に行ってみてくれるか。……詳しい話や条件などは騎士団とした方がいいだろう?」

「はぁ、わかりました」

 気乗りしないなぁ……。でも、受けたからには精一杯……内部調査を……頑張るか。

「嬢ちゃんなら大丈夫っす」

「―――大丈夫だ」

 我々二人が見守っているぞ、と仏のような笑みを私に向けるのは止めて下さい……。


「……さて、最後の案件だ」

 まだあるんですか……。

 と思ったけれど、セドリックとクリストファーは真剣な表情を崩さない。二人が真面目だと、私がサボれないじゃないか。

「……今の騎士団の戦力増強の話には裏があってな。……大陸で物資の動きに変化があるとの情報が入っている」

「まさか……………攻めてくるっすか?」

「……と、冒険者ギルド本部は見ている。……春、遅くとも夏までには来ると想定している」

「商業ギルドの方も同じ見解なんですか?」

「……そうだ。……トーマスも同じ見解だ。……保存性の高い、つまり輸出に適したような食料品が殆ど入ってこなくなった」

「あー、お茶関係とかキツイみたいですねー」

 ユリアンとのやり取りを思い出して、私は言う。食べ物には敏感な方だし。

「嬢ちゃんは軽い調子っすね……」

「―――大陸からの攻勢を退けるのは、毎回ギリギリらしい……」

「いや、ええと、そんなつもりでは。前回は十五年くらい前でしたっけ?」

 戦争が起こることに現実感のない私は、慌てて誤魔化すように訊く。

「……そうだな。……十……六年前だな」

 フェイは少し考えながら答えて、続けた。

「……本当に毎回ギリギリだ。……神風が吹いたり、大波が襲ったり、クジラの大群が襲来したり……。……殆ど偶然のような退け方をしている」

 そう言って、フェイは腕を組み、目を瞑った。つまりこれは『使徒』が介入をしていたということか。


 ついでに、『使徒』介入の可能性を明言していない辺り、セドリックとクリストファーは、フェイの子飼いではあるものの、勇者殺し関係とは少し離れて位置するということもわかった。私が勇者殺しである『ラーヴァ』とは知らないのだ。

 今の段階では、知らないことは強みだし、安全圏にいられる。だけど、『ラーヴァ』とフェイの関係が疑惑以上の物になったとき、二人は蚊帳の外ではいられなくなるかもしれない。

 知らない事が危険に直結する、とフェイが判断すれば、話すだろう。

 いや、でも、『ラーヴァ』の事をカマ掛けしてきたように、二人は聡い。気付いてはいるかもしれない。気付いていないフリをしているだけ、かもしれない。

 訊くに訊けない状況というのは、もどかしいものだわ。


「……そこで前の話とも関連するのだが。……要するに防衛戦力を増強したいわけだ」

 んー、確かに、ワーウルフにも苦戦するような騎士団じゃなぁ。そりゃ心許ないよなぁ。

「これまでの防衛戦で、上陸部隊と戦闘になったことは?」

「前回はポートマットに数人、上陸したはずっす。それでも大騒ぎになったらしいっす」

「―――殆どは船を撃退、というか()()()()()()()()()()終わり、と聞いている」

「……杞憂ならいいのだが。……今回は規模が大きいような気がする。……大陸側に集積されている物資の量が多いのだ。……その辺りは、トーマスから話が来ていて、トーマス経由で領主に、フレデリカ経由で騎士団に警告しておいたのだ。……つまり、この依頼の大本は領主でもある」

「冒険者ギルドは、国家間の争いには関与しない、という方針だったように聞いていますが?」

 私の質問に、フェイはカッと目を開いた。ちょっと怖い。

「……その通りだ。……冒険者ギルドそのものは国家の縛りを受けない。……だが、ちょっと思うこともあるし、グリテンは特別だと思ってくれていい」

「特別? と言いますと?」

「……察しろ」

 無茶を言う。

 要するに『使徒』が介入しているわけね、毎回。

 で、予想できる侵攻に対して、先に手を打っておいたと。


「……表立っては行動出来ない。……ので、個人が勝手にやった、という形にしているがな」

 フェイが現職に在職中、『神託』があった際は防衛に協力していた、とのこと。冒険者ギルドの運営に関わるようになって五十年、だそうな。何と言うかもう、長寿種族は時間のスケールが違うんだなぁ。私もそのうち、そういう感覚に慣れていくんだろうか。長寿ではないヒューマンとは……。別れを繰り返していくのだろうか。

 パッと脳裏にドロシーやエミーの顔が浮かんだ。

 彼女たちとも……いずれ、別れるのだと。急に自覚して、焦るような寂しいような不思議な気持ちになる。


「……他に手段はないと思うが……。……今回も船団による侵攻だと思われる」

 フェイの言葉で我に返る。何と言った?

「他の手段というと……」

 フェイは私の表情から色々なものを読み取ったようだ。この世界の技術レベル的には、ロケットやミサイル、内陸まで届く砲弾、航空機による爆撃……はあり得ない。だけども、私と同等の知識レベルを持った召喚者がいたら? 創意工夫に溢れた魔術師がいたら?

 船団による侵攻であれば攻撃対象は判明しているからいい。だけど、大陸から攻撃されたら?


「……いや、いまのところは……実現不可能だろう」

 目を伏せたフェイは、私の想像と同じことを考えていたのだろう。この世界は、魔法利用が発達している反面、近代兵器は驚くほど発達していない。正直なところ、火薬が発明されて広まったら、魔術師万歳の世の中は激変するだろう。

 航空機の開発がされていないのもそうだけど、開発に至らないように誘導されている気がする。それがアマンダを始め『使徒』の意図なのかもしれないし、勇者殺しは、その一環なのかもしれない。


 確かに……戦争に勝つことを求められて召喚された者が、持っている知識を総動員してみたら、奇跡的な技術進歩がなされるだろう。

 技術進歩を潰すための抑止力として私が存在している反面、私自身が技術進歩を促している事案もあるんだけど、これはどういう扱いなんだろうか?


「まあ、守りますよ。たとえ何が襲来しても。ここには失いたくないモノが多すぎます」

 それが他者に誘導された結果だとしても。

 これは、私の本音だった。



―――剣と魔法だけの世界が健全だって言うのも、(いびつ)ではあるんだよなぁ……。



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