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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
旅ロマンはハミングを歌いながら
388/870

※録音の魔道具


【王国暦122年10月6日 19:28】


 ああ、小麦粉を取っておけばよかった。格好つけて半分は残っていた袋ごと置いてきてしまったのを、今更ながらに後悔する。

 あんなのでもパンはパン。

 ううん、パンがなければご飯を食べればいいんだわ!

 ちゃんと食べる用に米は確保してあるのだから、これを食べよう。昨日の夜は梅毒の治療とか色々あったし、本当に面倒臭かったのだ。


 誰かがいて、食べさせよう、とかなら凝った料理や面倒な下拵えも気にならないのに、一人だけで食べる食事なら、割とどうでもいいというか、四日目のカレーでも別に良いっていいうか。

 なので、ズボラな夕食を楽しみたいと思う。別に楽しくないけど。


 まずはお米を洗う。の前に精米しなきゃいけない。あ、めんどくさい。いきなり挫折したぞ。

 いいや、安西先生の声が聞こえる。

「スペースノイドごときが地球の大地を踏むなどっ! あってはならんのだっ!」

 やってやろうじゃないか。貴重な時間を食に使う、食めよ国民!


 脱穀されている、種籾の状態からスタート。

 実は以前にサリーにオムライスを教えた時にお米を扱っているので、この迷宮には精米セットがある。

「グラスメイド二体を工房へ」

『……了解しました、マスター』

 うむ、籾摺り~精米をやらされるグラスメイド、まさに糟糠というべきか!


「ノーム爺さん、こういうの、作ってほしいんだけど。そんなに固くない仕上がりって可能?」

 にゅにゅ、とノーム爺さんが現れて、

「また変な注文じゃのう……?」

 と呆れかえった。それでも普通の陶器よりも柔らかい感じの、軟式野球ボール型……の玉を作ってくれた。ちゃんとC球(小学生用)だよー。


挿絵(By みてみん)


 グラスメイドがきてくれたので、摺り籾の作業に入ってもらった。いちいち指示しないと動いてくれないのが難点なんだけど、黙っていても食事が出てくるなんて、至高の贅沢なんだと痛感してしまう。

「指定された量を『摺り籾』した後は『精米』すればよろしいでしょうか?」

 んや、グラスメイドも、めいちゃんも進化しているね。次の行動を伺うようになってきてるね。予想されてるね。

「うん、それでお願い。頼むよ」

「了解しました、マスター」

 グラスメイドは恭しく、ザルに入れた種籾を陶器製ボールでぐりぐりしつつ返事をしてくれた。ちなみに精米は、あの『はだしのゲン』で有名な、瓶に入れた玄米を棒でぶっ刺して糠を取る方法…………しか知らなかった。


 たとえば、魔道具で精米器を作ろうと思ったら、精米器の仕組みをよくわかってないので、単に棒で突っつく魔道具を作ってしまいそう。その場合、摺り籾の魔道具があるなら、C球を使うしかないな。L球とか、C球の形が違うとか言うと年代がバレるって聞いたけど、まあ、それはどうでもいいや。


 魔力を使って原始的な動作をさせる、って感覚は、元の世界で言えば原子力発電みたいなものかなぁ。アレって核分裂みたいな面倒なことをさせているのに、やらせているのはお湯を沸かすことだもんね。


 んー、迷宮も動力源として使っているところは発電所みたいなものだけど、一歩間違うと人間が制御できないって点で、原子力発電所と似ているかもしれないね。『迷宮再稼働はんたーい!』とか反迷宮テロとかが将来起こったりしたら……。

「笑えない想像だなぁ……」


 グラスメイドにお米の用意をさせている間に、『歌う魔道具』の製作に入る。

 これは魔法陣部分をケチって、銅を使っていたから、上手く音声が再生できなかったのだ。つまり基本の仕様と外装は出来ているので、アルパカ銀で魔法陣部分を作り直して終了――――。

――――のはずなんだけど、改良すべき点も見えてきたので、そこから直していこう。

 現行の仕様の問題点は、


① 長時間の音声再生には大きな魔核が必要

② 魔力の通りに精緻なコントロールが必要

③ 可搬性に著しく乏しい


 ③に関しては今後の課題ではある。ただし②がかなりナーバスで、単純な音声波形の記録、再生がこれほど難しいとは、汗顔の至りというやつかしらね。

 ところが先日、大きな魔核に一つの音声ファイル(ファイルの概念とはとても言えないけど)という構成ではなく、中級程度の魔核に分割することを思いつき、それで難易度が一気に下がった。


 昨日の『解毒』と同じで、考えついてみれば、なーんだ、という類のものだけど、要するに、大きな音声ファイルを記録するためには大きな魔核を用意する必要があり、大きな魔核をコントロールするにはより大きなシステムと精緻な魔力コントロールが必要になっていただけの話。


 ブレイクスルーはいつだってひょんなことからもたらされるもの。中級程度の魔核、三つに分割して、それを順番に再生させれば、考えていたような、難しいシステムではなくとも再生できそうだった。


 魔核一つに一ファイル、しか入らなかった原因は、恐らくだけど、音声ファイルがアナログデータで、そもそもサイズが大きいということと、ファイル管理の仕組みが荒っぽいということだと思う。

 三つの魔核を一つのストレージとして扱う、というのは領主用サーバで構築した魔法陣が流用できた。んー、まあー、これもRAIDみたいなものだけどさ。


 リクエストとしては三つの生活魔法、『飲料水』『点火』『洗浄』だっけか。

 一般市民まで、この三つの魔法を覚えていたら、これはインフラが相当変わっちゃうなぁ。いまでも上水道が無いに等しいのに、何とかなっちゃってるものね。


 三つの中級魔核を一纏めにしたカセットにして……。これがまたファミコンのカセットみたいだなぁ……。差し込む口もファミコンみたいにして……ただし三つ連続している。ちょっと格好いいな。

 発生した音声は、木製の筐体が響かせて、左右についているスピーカーモドキを通って、拡大される。これは魔法の『拡声』とかではなく、普通に紙製のスピーカーだ。

「珍しく陶器で筐体を作らなかったんじゃのう?」

「うん、音の関係でね、紙と木の方がいいんだよ」

 そう言いながら、蓋を閉める。

 蓋と底部に一体になった『施錠』の魔法陣を設置してある。

 ちょっと遠目に眺めてみる。うーん、木の箱でしかないな……。ジュークボックスのつもりで最初は作ったんだけど、入っているのが三曲しかないので、今回は単にボタンをつけてみた。

 これはいずれ、音声のデジタルデータ化が成った暁には、バージョン2を作らざるを得ない。そう心に決めた。


「マスター、精米が終わりました」

「あ、ありがと」

 丁度いいタイミングだったのか、私の作業が終わるまで待っていたのかはわからない。もし、気遣っているのなら、プログラムの更なる進化を目の当たりにしているのではないだろうか。



【王国暦122年10月6日 21:19】


「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな。いい?」

「了解しました、マスター。赤子が泣いても蓋を決して摘み上げません」

 グラスメイドは丁寧に断定してくれた。セットした土鍋には、軽く塩をして、ソーセージを数本、丸のままぶち込んで、火に掛けた。


 この迷宮のどこに赤子がいるんだ! と叫びたくなったけど、実はいたりする。

 第一階層~第三階層のゴブリンやらオーク、ミノ、ワーウルフ辺りの、数の多い魔物は、普通に子作りして出産までする。時々、お腹の大きくなったオクさんあらいやだわ、を見かけるもんね。ちゃんとオス、メスがいるんだよねー。


 一つ心配なのは、彼らは元々培養されて生を受けた存在で、遺伝子的には数匹が元になっているクローンだということ。近親相姦による弊害が出ないか、注意深く観察しているところだ。培養されたクローンだというのは、恐らく、ホムンクルスたる私も似たようなもので、そこにシンパシーを感じないこともないんだけど、果たして私は自分のルーツを探しに行く余裕があるかどうか。

 ま、死期を悟ったら、ノーム爺さんが止めようがなんだろうが、ドワーフ村に特攻してやろうと密かに考えているけど。


 近親相姦っていえば、今のスチュワート国王一家がそうじゃなかろうか。姫二人は薬に依存していたとはいえ、元々丈夫ではないそうだし、お隣のウェルズ王国と交換結婚してたりを繰り返していれば、百年程度で弊害は出てくるだろうしねぇ。


 そこまで思考が飛ばしつつ、ソーセージ炊き込みご飯が、土鍋で調理されているところをジッと見つめる。

 グラスメイドは律儀に『ちょろちょろ』『ぱっぱ』を会得しようと、魔導コンロに張り付いている。プログラムだからな……。いろんな変数が気になるんだろうか。


 ソーセージが煮込まれる匂いと、お米が炊ける匂い。

 これは凶悪だ。元日本人ホイホイかもしれない。

 今回は短粒種を使ってみた。長粒種の時はチャーハンにしてみようと思うけど、ゴマ油や小ネギがないとなぁ。ここでもゴマとネギか……!

「そろそろ、ぱっぱ、ね」

「了解しました、マスター」

 うん、摺り籾から精米、炊飯までやってくれるなら、こんなに嬉しいことはない。

「糠はとっておいてよね。籾殻はスライムにあげてちょうだい」

 糠は、溜まったら糠漬けを作ろうと思う。買ってきたお米はあまり品質の良いモノじゃないけど、米に貴賤はない……はず。三俵あるから、それなりに糠は採れると思うし。色々試してみよう。ああ、でもグラスメイドの手が糠臭くなったらどうしようか。


 日本食の再現に積極的なわけじゃないけど、米があるからにはやらざるをえない。よくわからないポイントに血道を上げるのが元の世界の日本人というやつだ。あのフェイでさえ、米とか日本食に食い付くものね。

 お米の生産には今のところ私だけが食べられればいいので、迷宮内部での栽培に特化した品種改良をする予定でいる。あー、でもオムライスはホテルトーマスのレストラン用に提供したいから、それなりには生産しなきゃいけないかなぁ。


 と、そろそろかな………。

「蓋を開けてみよう」

「マスター、赤子は……」

「いや、もう出来上がり。赤子は気にしないで」

「了解しました、マスター」

 納得してない様子を見せたグラスメイド。すごい人間臭いなぁ……。



【王国暦122年10月6日 22:03】


 蓋を開けた途端に、キッチンが米とソーセージの香りで包まれた。

「ふああ……」

 三合くらいのつもりでいたけど、炊き込みご飯にはこのくらいの量がいいよね。味付けはソーセージと軽い塩のみ。

 ノーム爺さんに作ってもらった、飾り気のない茶碗と手製のマイ箸、そしてシャモジ。


 軽く土鍋の中をかき混ぜる。ソーセージの色か、薄く色づいて、おコゲができている。

「もうたまらん……」

 血走った目で山盛りにお茶碗に盛って、ご飯を一口。

「~~~~~」

 オムライスの時にはなかった感動だ。やはり、元日本人は塩だけでもご飯が食べられるのだ。

 ソーセージをパクリ。

「うん」

 多少味が逃げているけど、具としては十分な塩辛さが残っている。肉汁こそ少なかったけれど、全体としてみれば丁度良い。


 お米は、精米の技術ではなく、おそらく元々割れた米が多かったのだろう、少しベッチャリしていた。これは水が多かったとも言える。新米だったのかしらね。

 もちろん、元の世界の現代(現代、がどの時点を指すのかは自分でもわからないけど)日本で流通しているブランド米には遙かに遠く及ばない。香りも薄く、甘味も弱い。だけど、このソーセージご飯はとても豊かに感じられた。



【王国暦122年10月6日 22:13】


「はぁ~、満足満足」

 あっという間に三合完食~! と、どこかの大食い選手権みたいな。

 いやあ、美味しかったな~。カツオブシご飯(ねこまんま)も実現したいところだなぁ。だけどカツオブシってメチャメチャ手間がかかるから、私にとっては黄金より価値があるよ……。あー、誰か作ってくれてないかなぁ。北の魔族領で作ってたりしたら最高なんだけどなぁ。


「お焦げが最高に美味かったなぁ……」

 まだ口と胃袋がソーセージ炊き込みご飯を欲しがっている。

 んにゃ、もう時間も遅い。これ以上食べたら太っちゃう。


「♪痩せた~痩せた~痩せた~♪」

 痩せる願望の歌を歌ってみるけど、多分痩せないだろうなぁ。早稲田の人が痩せているわけでもないだろうけどさ。


 さて、お休み前に音声再生魔道具の付属品を作ろう。

 歌を録音する魔道具は、基本的な構造は再生のものと同じで、『再生』に関係する魔法陣が『録音』になるだけ。あとはハードウェアの調整ね。


挿絵(By みてみん)


 うーん。

 こんな形になるんじゃないかとは思ってたんだけど、やっぱりなっちゃった。

 音声カートリッジが元々ファミコンカセットを模していたから、しょうがないよね。どこからどうみてもファミコンだよね。


 1P側は操作用、2P側がマイクになっている。

 ああ、バンゲリングベイはできないよ?

『可視領域変換』スキルを出力側に使って、ディスプレイについてはサーバ用のものを流用して取り付ける。

 これで、音声の編集も可能になった。


 しばらく『録音の魔道具』を眺めて、ノスタルジックな気分に浸って満足して、今日はここで寝ることにしよう。

 どうせ明日は早くに起きなきゃいけないし。



――――ハドソン! ハドソン!





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