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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でカボチャプリン
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電気魔物の解体


 どんよりとした曇天の多いグリテンでは、晴天は貴重だ。

 夕暮れを待たないと褒められないかもしれないけど。


 丸一日、重しをかけた紙からは、綺麗に水分が抜けていた。

「うーん、自然って偉大だなぁ」

 寝起きの頭でそんなことを考える。加○雄三みたいだなぁ。


 太陽が昇る前に、紙を乾かしてしまおう。木の板を斜めにして、東に向けて固定。そこに剥がした紙を貼っていく。

 まあ、二~三時間もあれば乾くんじゃなかろうか。この、天日に晒すというのも、紙の品質、曰く白さに関係してくる……かもしれない。だって、自然は偉大だもんね。

 今回は数量が少なかったので、買ってきていた木の板の数で間に合った。教会の人たちにやってもらうとなれば、もう少し効率良く乾燥させられるモノが必要だろう。


 この試作では、幾つか問題点も浮き彫りになってきている。

 一つは蒸しの作業を大がかりにするには大樽を使った方が良さそうなんだけど、樽を持ち上げる仕組みがないこと。人間が抱えるには樽は熱すぎる。

 大樽を使うとなれば、カマドも設置しなきゃならない。設置は、他に干し台と『晒し水機』か。ドロドロの紙を入れる水槽みたいのも必要かな。

 裁断機は、専門に設計した刃物を作りたい。これは後で冒険者ギルドの魔法炉を借りて、刃物部分を作ろうと思っている。ルーサー師匠に依頼するには毛色が変わりすぎていて、ちょっと遠慮しちゃうし。

 漉きに使う木枠にはめる細かい網も必要か。重しを載せて水を切る、水切り機? みたいなのも一応作った方がいいか。


 うーん、これらを秘密裏にしようと屋内でやるとなると、『晒し水機』の設置が問題になりそう。ああ、海の家みたいに土間にすればいいのか。いやいや、そもそも陶器で作ればいいんだけど……。これは運用してみて改善の必要があるならやればいいか。

 うん、初の試みだし、場当たり的な対処が有効な時もあるさ!


 二十枚ほどの紙を乾かし終えると、とりあえず回収する。裁断と整形については後でやればいいわよね。

 よし、まだお昼前もいいところなので、材料を買いにいこう。

 こういうときは職人街の南、つまり東南地区に行こう。材料メインのお店が多い。東地区全体は、元の世界で言えば秋葉原とか合羽橋とかに相当するのかも。


 夕焼け通りを東に走り抜けて、ロータリーを越えて、少し南下。うーん、規模からすると、秋葉原(とうきょう)よりは日本橋(おおさか)の感じかなぁ。オタク文化が花開いたら、この辺が聖地になったりするのかしら。


「こんにちはー! 鉄を買いにきましたー!」

「おー! トーマスさんのところの! 久しぶりじゃないか! ちょっと手が離せないんだが!」

 中規模の製鉄所が幾つか並ぶ中、トーマスに紹介されたあと、ちょくちょく材料を買いにきているのが、このロック製鉄所。岩を溶かして鉄を取りだしてるわけだから、ある意味ピッタリなネーミングだと思う。

「どのくらいほしいんだー!」

 製鉄所の中は、蒸してるどころではない暑さ、いや熱さか。五人ほどの職人さんが、手を台座付近に充てて、魔力を補充している。そうそう、魔力炉は、ああやって、魔力を供給し続けないといけない。小型の炉なら一人で魔力供給も可能なのだけど、ここにあるのは高さが二メトルほど。中型の炉だ。

「鉄の塊! 五個くらい! ください!」

「持っていけ! 金は置いていけ!」

「わかりました!」

 職人たちはビショビショになった麻布で汗を拭きながら、魔力充填作業を止めない。この大きさの炉でも魔力を絶やすことはできないのだという。一日中、炉を加熱し続けなければならない。


 しかしこりゃあれね、製鉄は近代工業の礎なわけだけど、結局は人力で鉄を溶かしてるわけよね。何となく、元の世界にあったような、奴隷が歯車を回して動力にしている巨大戦車を思い出してしまった。

 この、ロックさんたちの作業は、石炭を使えばもっと楽になるだろう。だけど、魔力で回っている社会を壊してしまいそうだ。だからきっと、このままでいいのだろう。


「お金ここに! 置いておきますね!」

 叫び、保管スペースに置いてあったインゴットを『道具箱』に入れる。一つ五キログラムくらい? 不純物も混じっているだろうから、予備も含め五個ほどあれば十分だろう。

「おーう!」

 代金を置いて、灼熱地獄から退避する。いつもお疲れ様です!


 冒険者ギルドへ向かう。そろそろお昼になる。

「うーん、網職人さんのところにも行きたかったけど、仕様の説明が面倒だし、明日にするか……」

 本当に時間って有限なんだなぁ。


 少し急ぎ足で歩き、冒険者ギルドに着くと、すぐに受付へ行く。

 ベッキーが応対してくれた。

「こんにちはー!」

「ああ、いらっしゃい。話は聞いてるわ。どっちから使うの?」

「解体場は夕方には空けた方が良さそうですから、そちらからいきます。支部長も立ち会うなら、呼んだ方がいいですか?」

「あら……そう書いてあるわね。じゃあ、一声掛けてくれる? 一番奥の解体場を使って? ジェイソンさんから許可は取ってあるから」

「はい、ありがとうございます」

 私は礼を言って受付を離れた。


 フェイに声を掛けに行こうとしたのだけども、フェイは支部長室前で待っていた。

「……遅いぞ」

「え、ホントに同席するつもりだったんですね?」

「……うむ。……興味がある」

 支部長ともあろうお方が魔物解体の見学とは。まあいいや、手伝ってもらおう。

「一番奥の解体場とのことです」

「……こっちだ」

 いやまあ、通い慣れてる場所でもあるから、場所はわかってるんだけど……。なんかフェイのテンションが高めだなぁ。


 第一解体場に入ると、まず施錠をした。と同時に血の、蒸れた臭気が襲ってくる。まるで体中の穴という穴から染みこんでくるような、粘度を持った湿気。

 前回はジェイソンとトーマスと一緒だったから、というかジェイソンの風体に驚いてそれどころじゃなかったんだけど、ガラン、とした部屋の中は、この世の感じがしなかった。今日は地獄からの使者、ジェイソンさんは不在のようだ。

 ゴクリと唾を飲んでから、部屋を見渡す。解体台と滑車に繋がれたフック、それに刃物入れがある。


「あれ……」

 そういえば、ここには滑車とフックがあったっけ。これ、そのまま大樽の引き上げに使えそうだなぁ。

「……一応、遮音もしておくか」

 フェイが『遮音』を使ったのを確認してから、私はエレクトリックサンダーの死骸を取り出して、解体台に置いた。

 改めて見ると大きい体だなぁ。

 死骸にはまだ張りがあって、死亡直後と言われてもおかしくない。『道具箱』に入っている物品は多少劣化することもあるから、時が止まっているわけじゃないと思う。ただ、進みがやたらに遅い、というだけね。


「―――『洗浄』」

 泥だらけだった死骸を洗っていく。

 ここには水道はない。ので、解体担当の職員は『飲料水』や、水を取り出すスキル持ちのことが多い。


「新鮮ですね」

「……うむ」

 エレクトリックサンダーは、パッと見は大きなハリネズミだ。ただ、毛の色は黄金色と黒の縞々模様。毛は硬く、当たり所が悪ければ、これで人間を刺せそう。


 私は解体用の包丁を取り出す。昨日ルーサー師に作ってもらった包丁でもいいのだけど、あれはまだ柄を作っていないし、何だかもったいない気がしたので、どうでもいい刃物で解体する。

 けれども、その包丁はすぐに欠けてしまう。

「あー、刃が通らないや」

 それで現場での解体を諦めたんだっけ。

 チラ、とフェイを見る。

「……誰も見ていないはずだ」

 と了承されたのを確認してから、ミスリル・ストライク・ダガーを取り出す。

「むんっ」

 刃に魔力を通す。これならサクサク作業が進むはず。

「お、さすがにスッと刃が入りますね」


 まずは普段やっているように、腹を割く。

 デロ~ンと内臓が出てくる。うん、普通の獣と同じだね、内臓は。

 小腸と大腸、肝臓を切り離す。心臓のちょっと上に、黄色みがかった光る魔核があった。

「これ、雷属性とかなんでしょうかねぇ」

「……詳しくは知らないが……。……アマンダによれば、電気を扱う魔法陣の管理がしやすいとか言っていたな」

 なるほど、じゃあ、『雷の短剣』に使われている魔核はコレなのかな? しかし魔核に『属性』があるなんて聞いたことないしなぁ。


「あれ、じゃあ、この魔核が電気を産み出してるわけじゃないんですか?」

「……魔核は死亡しないと生成されないからな。……他に器官があるんだろう」

 それもそうだ。生前の機能として魔核を使うのは道理に合わない。


「毛同士を擦り合わせても発電は可能そうですけど……」

 あれだけの雷撃を行うには、作ったそばから放電しているようでは難しいはず。

 スキルにもあったわけだし、この魔物は、どこかに電気を溜めているはずだ。そして、そこに溜める電気を作る仕組みが、他にちゃんとある。

 この魔物が雷撃を行う直前、体全体が光っていたから、恐らくは、毛に電気を貯める仕組みがある。

 とりあえず、その辺も調べるために、皮と肉を分けよう。


「んんっ?」

 どうも、毛と皮が固いだけで、肉は柔らかい感じ。毛がついたまま皮を剥がすと、肉は意外な模様をしていた。ハッキリ紅白の縞々が筋繊維に沿って並んでいた。

「……うむ」

 フェイの顔が心なしか緩んでいるけども……。


「もしかして、この魔物、食用になるんですか?」

「……うむ。……美味だ」

 ああ、それで、こうして解体に付き添ってるわけね……。そういえばエレクトリックサンダーの名前を出した時に、フェイは唾を飲んでいたっけ。

「この縞々が美味しいんですか?」

「……うむ。……脂になって柔らかいのだ。……私がこの世界から来てからの、美味い物トップ10に入る」

「へぇ~」

 凶悪な獣なのに美味しいのか。ここで肉をあげませんよ、とか言ったら泣いちゃうかなぁ。この縞々が美味しいのかー。


 ん?

 縞々?


 筋肉を動かすのは電気信号だとか、神経の動きは電気なんだとか聞いた事があるなぁ。ということは、この魔物は、雷撃前にスクワットみたいな運動して電気溜めてるんじゃないかな?

「この魔物について、詳しいんですか?」

 フェイが解答を知ってるかもしれないので聞いてみる。

「……いや、王都西の迷宮に潜った時に闘ったことがあるだけだ。……アマンダが、コレは美味いというので食べてみたのだ」

「そうなんですか……」

 このトゲトゲのシマシマを食べてみたとか、どんだけゲテ食いなんだとツッコミを入れたいところではある。まあ、魔物が跋扈する世界だし、普通に食べるか。


「……その時の素材で『雷の短剣』を作ったはずだ。……アレの刀身を作ったのはルーサーだ」

「え、そうなんですか」

 それは驚きだ。ということは、ルーサー師匠も少なからず巻き込まれてるじゃないか。確かに『雷の短剣』は、魔剣というよりは魔道具だ。刀身自体はミスリル製で、柄の部分に電撃発生の仕組みがある。

 仮に、『雷の短剣』の刀身を精査すればルーサー作ということがわかる……判別できる人はいるかもしれない。だけど、この短剣の形状はありふれたものだし、遠目に作者を断言できるはずがない。銘も入っていないし、私の鑑定でも作者不明と表示される。

「……あの男は口が固い」

「フンしか言いませんしね……」

「……だがまあ、お前がアマンダの後継者だとは知らないはずだ。……ルーサーは単なる鍛冶師だしな。……自分の打った短剣が二本ともお前に渡っていることも知るまい」

 え、じゃあ、これもルーサー師の作か。じゃあ、この二本って兄弟剣なのか。

「ということは、柄の魔道具部分を作った人は―――」

「……アマンダだ。……簡単な魔道具なら作れたからな」

 まあ、『雷の短剣』の電撃発生の仕組みは、それほど複雑なものじゃないけど。この短剣もちょっと後で調べてみるか。作者が雲の上だから質問は出来ないだろうけど。

「そうでしたか……」


 意外な繋がりと事実に驚きつつ、改めて、皮と肉、内臓と頭部を見渡す。

 内臓には、特に変わった点はない。頭部にも、電気を発生させる器官は見あたらない。

 となると、皮と肉、特に肉に秘密がありそうだ。


「うーん」

 とりあえず肉は骨と切り離してみよう。骨の中にも秘密があるかもしれないし。

 サクサク、と短剣を刺し入れていく。骨は……なんだこれ、やたらに重いな。骨太にもほどがあるというか……。

「これ、骨髄とか食べました?」

「……骨を? 食べられるのか?」

「それなりの時間煮込めばいけるんじゃないですかね。これでラーメンとか」

「……なにっ、ラーメンだと!?」

 フェイの顔が驚愕に彩られる。そんなに驚かなくてもいいと思うのだけど。

「調査後でよければ、試作してみましょうか?」

「……うむ。……是非に頼む」

 エレクトリックサンダー骨ラーメン。語呂が悪いなぁ。エレ骨とか?

「……調査とは言ったが、何を調べているんだ?」

「この魔物が雷撃を発生させる仕組みが知りたいんです。スキルで電気を発生させてるわけじゃないみたいで。それと、電気を溜める仕組みも。こちらは毛が怪しいと見ているんですが」

「……毛に溜めているのかもしれんな。……一つ割ってみたらどうだ?」

 言われた通り、毛の一本を切り取って、いや毛を割るのは細すぎて無理だって。

「割るのは無理そうです。顕微鏡でもないと……」

 私の苦笑を見て、フェイは渋面を返す。

「……む……そうか……」

 そう言いながら、フェイは毛皮を手で擦り始めた。静電気で毛皮から毛がピン! と立ち上がる。

「普通に逆立ちますね」

「……うむ」

 何となく、セルロイドの下敷きで髪の毛を逆立てる遊びを思い出す。


 あれっ?


「ずっと立ったままですね」

「……うむ」

 フェイが擦る手を離しても毛が立ったままだ。

「電気を溜める性質があるんでしょうか」

「……かもしれん」


 毛の蓄電については継続調査として。電気発生の方は―――。

「肉は、とりあえず部位ごとに分けてみます」

 腿、足、背中を三分割する。筋肉の収縮が電気を生むのであれば―――。

 腿を持ち上げて、クニュクニュ、と筋に沿って動かしてみると―――。

「あっ」

 ピシッ、と小さいながらも静電気。やっぱりそうか。

「……何かわかったのか?」

「いや確認です。筋肉を動かして電気を発生させて、毛に溜める。ほぼ確定ですね」

 雷撃をもっと簡便に扱うための杖が欲しい。あとは導電の仕組みがわかればいいかな。電撃杖の構想は練れてきた。

「えーと、この肉ですけど。半分持っていってください」

「……いいのか?」

一人(ソロ)焼き肉とかしたくありませんし」

「……ふむ。……それなら、ラーメンの時にでも関係者を集めて焼き肉パーティーでもするか」


 普段は寡黙なダークエルフは、背景に花が見えるくらいの、実に楽しそうな笑みを向けた。

「あー、いいですねー。それならフレデリカも呼んであげないと」

 っていうかラーメン確定なんですね。ふっ、いいでしょう、作りましょう!



―――元ジロリアンの実力を見せてあげますよ……。



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