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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
秋の味覚ツアー
359/870

※尋問の結末


【王国暦122年10月1日 3:15】


 やはりと言うべきか、ウーゴの図には不備があった。三十二カ所、と記述されていた罠魔法陣は、王城から見て北方向と南東方向に一セットずつ、つまり八カ所残っていた。

 当たり前だけど、私がファリスから依頼されているのは『罠魔法陣の撤去』であって、『ウーゴに渡された配置図に記された魔法陣の撤去』ではないので、()()()()不備をフォローしておいた。もちろん入手したアルパカ銀は根こそぎ懐にいれておいた。

 アルパカ銀を銅だと考えても、かなりウハウハな状況ではあるんだよね。ウーゴも案外素直なのだろう、損して得取れみたいな発想に至ってないみたいだ。たとえば、このアルパカ銀はロンデニオン市の資産であるからして、王宮の所有物であるので、安価で売ってやる、と恩着せがましく()()で私に売りつける格好にするとかさ。

 ただ、そういう条件だったら、この土木工事の依頼は受けていないと思う。私が実入りもなく騎士団や王都の役に立とうと殊勝なことを考えるわけがない。私だって損得で生きる生身の人間(ドワーフ型ホムンクルスだけど)なのだ。

 ついでに言えば、このアルパカ銀は、通常のミスリル銀と同等に扱うべき素材だ。そんなものが大量に騎士団にあったら、私とファリスの懸念通り災禍の種になるのは間違いない。だから、私に預けちゃう、っていうのは客観的に見て正しい判断だと、珍しくファリスを褒めてあげたいところだ。


 第三層をくまなく歩いて精査した格好になって、もう、この層には魔力を注入して発動するタイプの罠魔法陣はない、と断言できる。第二層は基本的に一般人は入れないのであるかもしれないけど。この魔法陣、こうも綺麗に配置されているところを見ると、やっぱり都市防衛機構の一つらしい。石畳を張った時期を見るに、相当古いのも間違いない。だから、()()()の錬金術師ギルドが、この罠魔法陣を設置した、というのはどうにも考えにくい。


 うーん、第四層も調べてみようか。っていうか、移動して暴漢を量産して大量捕獲しようかな。

 でも…………午前三時を過ぎた辺りからパタッと暴漢に出会わなくなったんだよね。もう二時間もすれば起床時間、ということもあるのかな。そういえば、日付が変わるかどうか、って時間でも『こんな夜中に』なんて言ってた人もいたなぁ。ということは、王都で危ない時間っていうのは、二十一時~翌朝二時みたいな感じになるのかな。私の王都の思い出って、迷宮の第七階層で不死者と戯れたことしかないし……。どうも普通に暮らしてないから、こういう常識的なことでボロが出ている気がする。


 あー、そうだ、エスモンドの尋問もしないと。じゃあ、そろそろ店終いということにしよう。エイダ、レダ、ジーンと、起きているだろうブリジットにも短文を送る。お肌に悪い時間まで活動してもらってありがとうございます、皆さん……。



【王国暦122年10月1日 3:32


 迷宮に戻ると、入り口近辺にはウーゴと第一騎士団、第二騎士団の面々が整列していた。

 確かに来てもいい、とは言ったけど、結構な大所帯だなぁ。

「お疲れ様です、ウーゴ副騎士団長」

「ああ、作業お疲れ様です」

 やや疲れた表情のウーゴだけど、普通に考えたら熟睡している時間だというのに、私に付き合わされてずっと起きてる訳か。ご愁傷様だね。

「どうですか、収穫はありましたか?」

 穏やかに訊いてみる。

「いいえ、目的の人物は含まれていませんでした」

 疲れを加速させて、溜息こそつかなかったけれど、深い失望がウーゴには浮かんでいた。

「そうですか、それは残念です」

 残念そうな顔を作って遺憾の意を表明する。ここに送りつけたのは無所属の者や冒険者ギルド所属(本部以外の所属が半分くらいだった)の者ばかり。錬金術師ギルド所属員は……エスモンド一人だけだったものね。ウーゴが残念そうにしているということは、フレデリカこと『ザ・タームの星』が上手くやったということかな。

「魔術師殿の方はどうですか?」

「土木作業の方は終わりましたよ。暴漢捕獲もここで打ち止めです。もう二~三日やった方がいいんでしょうけど、残念ながら私たちには時間がありませんので」

「……………そうですか。ご多忙のところ、骨を折って頂きありがとうございました」

「いいえ。暴漢の骨なら何本か折りましたけどね」

 はてさて、ウーゴは私が隠していることに気付いているのかいないのか。ウーゴは油断ならない男、隙あらばこちらを攻撃してくるだろう。

「ははは、それでは騎士団は撤収します。一時駐屯に許可を頂きましてありがとうございました。そのように迷宮管理人様にもお伝え下さい」

 ウーゴが合掌してお辞儀をする。背後の騎士団もそれに倣った。あれ、第二騎士団の人もいるけど、パスカルがいないなあ。心に傷を負っちまったか。それにしてもウーゴめ、ちゃんと私と迷宮管理人を切り分けてます、ってポーズを見せたな。如才ないよなぁ。

「はい、おやすみなさい」

 微笑を湛えつつ、同じように挨拶をして、騎士団を見送った。


《……お知らせ:脅威度(中)の団体が警戒範囲から離脱しました。……現在、迷宮内部に脅威度の高い存在は皆無です》

 迷宮に入ると、めいちゃんからの念話っぽい連絡が入る。あの騎士団でも脅威度は中くらいなのか。ポートマットとは規模が違うとはいえ、勇者オダがどれだけ迷宮システムに警戒されていたのかと考えると、彼の存在はちょっと恐ろしい。瞬時に無力化は可能だけど、出来る限り懐柔する方向が正しい気がする。

 それに、王都騎士団の武力トップ連中は、上級冒険者に匹敵すると聞いたこともあるから、騎士団を過小評価してはいけない気もする。


 一度管理層に下りて、宿泊客全員(ドロシーたち)の様子を確認する。

 ゲストエリアで起きている人は誰もいない。エミーもちゃんとベッドで寝ているみたいだ。フレデリカも……寝てるね。よしよし。

 じゃ、暗黒面に戻りましょう。



【王国暦122年10月1日 3:32


 柱も壁もない、端っこに出入り口になる魔法陣が設置された小部屋があるだけで、北東エリア第十階層はだだっ広い空間だ。灯りは壁の燐光だけ、普段は薄暗い。

 その空間の真ん中に、ポツン、と布袋が置いてあった。動きがなく、エスモンドの生存を疑う。窒息して死んでるかしら。

 近づいて、袋の口を開ける。

「う………」

 生きてる生きてる。

「――――『治癒』。こんばんは、エスモンド・ヘッドさん」

 水系の『治癒』をかけ、袋に入ったままのエスモンドに声を掛ける。

「うう……」

「聞こえますか?」

 果物の皮を剥くように、袋から頭を取り出して、再度訊く。

「ここ……は?」

「悪の組織のアジトですよ」

 自嘲気味に言ってみる。()()()()()()一般人をぶん殴って拉致したのだから、まあ、間違いじゃない。

「悪の組織………………お前がっぶし」

「お嬢様」

「お……お嬢様が『ポートマットの魔女』?」

 一発殴るとエスモンドはちゃんと言い直してくれた。素直でいいね。


「そうです。訊きたいことがあるんですけど、素直に答えてくれますか?」

 背景に花が表示されそうな笑顔をエスモンドに向けると、顔が一気に青くなった。失礼な。

「お、俺に選択肢は」

「ありませんね」

「そうか…………」

 答えるとか確約した訳じゃないけど、逆らってもムダなのは理解したみたいだ。

「まず。単独行動みたいだったようですけど、錬金術師ギルドの他の人は手伝ってくれなかったんですか?」

「えっ……あっ……」

 エスモンドが言葉に詰まった。喋ってください、と視線で促す。薄明かりの中でも、袋の中に入れられていたから目は慣れているはず。

「もう一人……ローズマリーが……北方向にはジェフたちが……ギルマスの指示で……」

「ギルマスの名前を教えて下さい」

「セルウェン。ラシーン・セルウェン」

 誰それ?

 呆けた顔を思わず向けてしまう。

「元々は王宮管理の書庫の管理人だったという話で」

「へえ、じゃあ貴族様?」

「没落したとかで」

 没落した連中ばっかりだなぁ。どこかに中央集権の達成のため、頑張ってる連中がいるってことかね?

「その時に盗み出した本に載っていた内容を基にポーション製作を独自に行い、販路に乗せるために組織が必要だったとかで」

「ほうほう」

「ですから、俺も最初は運び屋として採用されたクチでして」

 その言われ方だと一気に黒い組織だ。

「その後に製造に関わるようになりまして」

「え、『錬成』スキルも使えないのに?」

「…………本当に貴女が……お嬢様が『魔女』なんですね」

 エスモンドはキッと私を睨む。なんだなんだ。

「ええ、ええ、その通りで! 俺はこの年になっても小分け作業しかやらせてもらえなかったんで!」

 逆ギレされた。



【王国暦122年10月1日 4:15】


「ふむふむ」

「俺が知ってるのはこのくらいで」

 口が軽い男だ。丁稚みたいな口調でペラペラとよく喋る。


 エスモンド曰く、錬金術師ギルドは二十年ほど前に設立された組織で、ギルマスのセルウェンが体力回復ポーション販売のために立ち上げた。

 十年ほどは殆ど独占販売で左団扇、その金で貴族に取り入り、販路を広げた。

 ところがもっと安価な体力回復ポーションが出回るようになり、売り上げは急降下。安値合戦になり、ジリ貧になり、組織はズタズタになったそうだ。金の切れ目が縁の切れ目、貴族からも見放され始めたと。副業でやっていた魔道具も、当初は良い値段で売れていたのに類似品が出回るようになり、こちらも急降下。


 最初は羽振りも血色も良く優しかった(エスモンド主観)セルウェンも、この五年くらいはすぐに叫ぶヒステリックな人間になっていたようだ。

 起死回生の()()が完成して、これを親交のあったポートマットの領主に売りつけたところ反響があり、万能薬として販路を広げようとした矢先に潰されたんだと。この()()の製造はポートマットで行っていて、エスモンドは関わっておらず、レシピも見たことがないのだという。潰されたとはいえ、結構売れたみたいで、その資金を元に、また貴族に取り入り、ポートマットを足がかりにポーション市場を奪い返そうとした矢先に、また潰されたそうな。

 極めつけは『錠剤(タブレット)』で、王都で流通するようになって、完全に手詰まり。

 この証言が正しいとすれば、王都にある罠魔法陣を設置したのは錬金術師ギルドではなく、罠の存在を知っていただけの任意団体、ってことになる。


「商売が上手くいってたのは最初の五年くらいだそうで」

「それじゃあお給金も滞りがちだったんじゃないの?」

「その通りで……。今回の作戦が上手くいけば、またお金が入るようになるからと」

 取らぬ狸の皮算用、実に見通しが甘い。

「作戦っていうのは具体的にどういうことだったの?」

 正直、下っ端だろうエスモンドが正確なところを知っているかどうかは不明だ。話半分に聞いておこう。

「『魔女』を捕らえて製法を吐かせる、って言ってたんで」

「それさ…………。『魔女』がどんな人物か下調べしての発言だよね?」

「どうなんでしょう? 正面で対峙するな、出会ったら逃げろ、罠に追い込め、としか」

 大いに嘆息する。大雑把過ぎる……。

「罠に追い込んだあとはどうするの?」

「捕獲して、()()を飲ませて、言うことを聞いてもらうって」

「バカ?」

「ええまあ、俺もそう思ってたんで……」

 発想が893だよなぁ……。私をヤク中にしようって? 解毒スキル満載の私を?


「一つ聞きたいんですけど、今回、私が王都に来ることをわかっていての行動ですよね。どうしてわかっていたんでしょうね?」

「ただ、来る、としか」

 うーん、今回、私が王都に来ることを知っている人は大勢いる。特急馬車? 冒険者ギルド? いや……恐らくは社会的(ソーシャル)な情報じゃなくて、超常的(ファンタジー)な情報じゃなかろうか。それの方がわかりやすいし正確だし納得できる。


 つまり――――。

「魔術師ギルドと縁切りをしたとか仲違いをした、とか言う情報はデマか。ギルド同士は切れていても、マッコーキンデール卿と個人的につき合いが続いている、ってことね?」

「マッコーキンデール……まっ、まっここここ」

 あれ、エスモンドの呂律が回らなくなって、右耳の後ろに瘤が出来ていた。視点も怪しくなっていく。

「むっ…………――――『障壁』」

 右半分の頭部が異様に膨らんでいく。経絡秘孔でも突かれた人みたいだぞ…………。


「たわば!」


 こいつ、お約束をわかってやがる…………。

 パン! と風船が破裂するような軽い音と共に、脳髄を含んだ血肉が飛んできた。それは『障壁』で作られた見えない壁に遮られて、一瞬、血のカーテンが出来て、やがて迷宮の床に落ちていく。

「爆発するだべー…………」

 凄いな、錬金術師ギルド……………。ドクロベーも北斗神拳もビックリだ……………。


 首なしのエスモンドを見る。質の悪い人間爆弾か。特定のキーワードに反応するようになってたみたいだけど、これ、修復できるかなぁ…………。

 この状態で生きている訳がないから、不死者として復活はできるかもしれないけど、リヒューマンまでは無理か?

「いーや、出来る限りやってみよう」

 第十階層の床は土が剥き出しになっている。飛び散った肉片ごと、『掘削』でえぐり取る。

「――――『成形』」

 とりあえず適当に丸める。

「――――『接合』」

 木に竹を接げる謎スキルである『接合』。生物と生物さえ試してないけど、生物と鉱物だってきっと接げるはず! 信じろ!


――――――生産系スキル:接合LV4を習得しました(LV3>LV4)


「ぐぬぬぬぬ」


――――――生産系スキル:接合LV8を習得しました(LV4>LV8)


「ぬおおおお」


――――――生産系スキル:接合LV10を習得しました(LV8>LV10)

――――ユニークスキル:限界突破が発動しました

――――――生産系スキル:接合LV11を習得しました(LV10>LV11)

――――ユニークスキル:限界突破が発動しました

――――――生産系スキル:接合LV12を習得しました(LV11>LV12)


「よしっ」

 と言ってみたものの、これで本当に繋がってるのか………。丸い土塊と人間の首から下が密着しているのは間違いない。これで血液が循環するのかは微妙なところだけど!

「――――『治癒』」

 ここでエミーからコピーした、上級の光系『治癒』を発動する。

 土塊の形が変わっていき、人間体との一体感が増してくる。徐々に人間体が飲まれていき、足まで消えてしまう。

 まだ『治癒』は継続中だ。つまり、これは癒されてるのだ!


 ボコッと土塊から、土の手が出た。どこかのポケモンみたいに…………。

「イシツブテ? いや、イシツブテのようすが…………? ゴローン?」


挿絵(By みてみん)


 最後にボコッと口と目に相当する穴が空き、パクパクパク、と何かを喋る様子を見せた。

 何てことだ、リアルポケモンを作ってしまった!



―――とりあえずこのままじゃ自分で移動できないから、せめてゴローニャに進化してほしいところ。





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