表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
土をかける少女
301/870

レックスの覚醒

今話が301話目となります。もともとは300話目でした。

プロローグが頭についたので1話ずれたということであります……。

ここまで続けられたのは皆様の励ましのお陰であります。

今後ともカボチャプリンをよろしくお願いいたします。


【王国暦122年8月5日 15:53】


 レックスが魔力回復……半固形ポーション? の寄せとろろ風、③を食べてしまった。

 これには強度の催淫作用がある…………。

 やべえ……どうしよう、普通に考えたら吐き出させる方がいいんだけど、それは観察者として憚られる。

 しかし、このまま放置したらレックスが性の(セックス)(アニマル)になってしまう!


「これは食べちゃだめ、食べて良いのはコレだけ!」

 ⑤以外を隔離してしまう。

「何だか体が熱いです、姉さん」

 やべぇ……どうしよう、レックスの目が血走ってきてる……。

「ちょっと、レックス、二階に来て! 急いで!」

「え、やっぱり危ない試作品だった?」

「姉さん……」

 レックスは不安気に呟いた。

 手を握って引っ張っていると、レックスの呼吸が荒くなってくるのがわかった。


「ふっ……ふぉぉぉぉ!」

 二階に上がるやいなや、レックスの体から魔力が噴出した。体が熱いのか、服を脱ぎ始めた。どこかの校長先生かよっ! いや! これは下着仮面戦士誕生の瞬間か、魔闘気を操る世紀末覇者の誕生か!


「――――『魔力吸収』」

 魔力制御をしながら、レックスから溢れる魔力を吸い取っていく。おおおう、抜いても抜いても湧き出てくるレックスの情動! じゃない、魔力!


「ふおおおおおおお!」

 力こそパワーだ!

 ええい、自然に抜けきるまで付き合うしかないか!

「私に合わせて魔力を制御するんだよ。大丈夫、レックス、君ならできる」

「おっ、おだてないでください!」

 アムロかよ!

 自分でコントロールできていないだろう魔力を補助して、少しずつ抜き取っていく。


「ふおお……」

 レックスは両腕を広げ、拳を握り、漲る魔力を気力で制御しようとしている。薄いオーラのような光に体が包まれている。

「ああ、何とかなりそう。安定してきたよ。でも気を抜かずに頑張って!」

「はい、姉さん! この力……一体何なんですか!?」

「せいなる力だよ!」

「せいなる力……!」

 あろう事か、ヒューマン語スキルは私の曖昧なニュアンスを直訳した。


「レックスは、その力を……正しく使うのだ!」

「正しく……!」

「守りたい人を、守りたいものを守る!」

「サリーを……下着を……守る!」

 おい、カミングアウトしちゃってるよ。

「今は、この力を制御するのだ」

「はい、姉さん! ふおおおお!」


 レックスの、どこにこんな意志の力が隠されていたというのか!

 無駄に発散されるレックスの魔力、それを吸い取る私。勿体ないので、空き(ブランク)の魔核に魔力を注入していく。それも一杯に補充されてしまったので、人工魔核の袋を出して、そこに注入する。


 魔力を吸い取る、という行為だけなら『首輪』でもしておけばいいのだけど、量産品の『首輪』は過剰に魔力を放出されると壊れてしまう。それに丁寧に吸い取ることでレックスの最大魔力保有量がグングン上がっていくのが確認された。

 正直なところ、レックスはサリーとは違って、それほど強い魔法を使えるわけじゃないから、魔力保有量が上がったところで使い道がないのだけど、器を広げておくのはきっと何かの役に立つ。……と思う。

 自分で制御できなければ、ここで出来上がるのは性の魔神だ。頑張れレックス、自分を律するのだ!



【王国暦122年8月5日 17:41】


 レックスへの治療行為(正確にはそうじゃないんだけど、実質は治療だ)が終わり、グッタリしていたので寝かせたところでドロシーとサリー、そしてトーマスがお店に戻ってきた。トーマスは事情説明のために私が呼んだ。


「それで――――レックスの体に問題はないんだな?」

 トーマスは厳しい口調で私を詰問する。

「はい。急激に魔力量が増えたことで違和感はあるかもしれませんが……」

 私はしおらしく……下を向きながら呟く。

「ならいいが……。実験も程々にしてくれ。心配の種が増えるのはかなわん」

「はい、すみません……」

 しゅん、と私がしているのは半分はポーズだ。ごめん、全然反省してません……。

「その、半固形ポーション? っていうのがコレなの?」

「ああ、うん、そう。タマスの肝が入手できなかったから、植物性のもので代用してみたんだ」

 そう言って寒天シリーズを並べてみせる。


① 錬成陣を組んで魔力を送りながら真っ当に溶液を作り寒天で固めたもの

② 錬成陣を組まずに適当に寒天で固めたもの

③ すり下ろした生の月光芋を寒天で固めたもの

④ 茹でた月光芋をペースト状になるまで練って寒天で固めたもの

⑤ 寒天にレモン汁と果肉を入れて砂糖で調味して寒天で固めたもの


 こうやって並べてみて、元の世界では梅の産地のお菓子、『のし梅』を思い出した。


「食感については⑤をお試しください」

「ん……」

「これは食べない訳にはいかないわね」

 トーマスとドロシーは、おそるおそるレモン寒天に手を伸ばして、口に含む。


「お?」

「え?」

 一口を食べて驚き、もう一つ口に入れて何やら頷き、三回目でやっと口を開く。怒気溢れる目から興味津々の目に素早く変わった。チョロい。

「これ、原材料は何なんだ?」

「これです。海草を煮詰めた汁です」

 テングサを掲げて見せる。

「海の雑草か。そんな使い方があるとはな……」

「え、そんな白い海草なんかあったっけ?」

 ドロシーの質問はもっともだ。

「天日に干したものだからだよ。色が抜けるの」

「ほう…………」

「へぇ…………」

「③はシャレで作ったものでして、薬効が強すぎるのはわかっていたんですよ。レックスのは……純粋に事故だったんです」

 悲しいね、バナージ、と自分の責任を棚に上げて、事故でした、の一言で済まそうとする。


「薬効か。賞味期限……いや、どのくらい日持ちするんだ?」

「そこはまだ実験してないのでわかりません。冷蔵しておけばいいのか、魔力に晒しておけばいいのか、その辺りもまだ。分量についても細かいところはまだです。今のところお菓子として商品になるのは⑤だけですね」

 実験次第では①、④も商品化できそう。②は、冷却の段階で魔力がかなり抜けてしまった。適当に煮て固めればいい、というのは調子が良すぎるものね。


「この海草の煮汁? あのヤナギ茶に使えないかしら」

 何ということでしょう、ドロシーから商品開発のヒントが得られるとは!

「それは……面白いかも……」

 ああ、なるほど、それなら濃度調整するか、濃くしても切り分けて分量が調節できるから、都合がいいかもしれない。なるほど、液体を()()()()()っていうのはニーズがあるんだなぁ。馬糞は嫌だけど、半生も時にはいいものね。


「姉さん、経過観察ですよね? 私にやらせてもらえないでしょうか!」

 今まで黙って、私たちのやり取りを聞いていたサリーが声を上げた。

 思わず、魔力回復ポーションの正体が何なのか、トーマスと顔を見合わせる。これをサリーに任せることは、性教育そのものだからだ。


「うむ……………儂が触れてこなかった話でもあるな。ドロシーとレックスも含めて、いや、四人組にも……話しておいてもらえるか?」

 トーマスは男親っぽく、私に丸投げしてきた。

 舌打ちをしそうになるけれど、今日、レックスが昏倒しているのは私に責任がある。だから説明する責任も生じただろう。

 溜息を一つ。


「わかりました。内容が内容なので、ドロシー、サリー、レックスと四人組は分けます」

「任せる。頼んだぞ」

 ホッとした表情のトーマスに、これから親になろうっていうのに、こんな調子でいいのかしら、と他人事ながら心配になった。

「あの、いいんでしょうか、悪いんでしょうか」

 サリーは不安気だ。

「今夜話す……よ」

 ニヤッと妖しく笑っておいた。



【王国暦122年8月5日 18:59】


 寝ているレックスをカレンが背負ってアーサ宅に戻ると、やはりレックスが倒れた顛末をアーサお婆ちゃんに詰問された。

 私とカレンは正座で説教を聞いた。

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「そう、でも、謝るのはレックスに、よ?」

 夕食もお預け状態でお腹が鳴ったところで、レックスが起きてきた。


「お婆ちゃん、姉さんとカレンさんを責めないでください。どうか、お願いします」

 レックスは美少年というわけではないけど血色が良くてふくよか。上目遣いにアーサお婆ちゃんを見上げると、見る見る憤怒の感情が抜けていくのがわかった。

「お願い、お婆ちゃん」

「そ、そう……」

 ああ、この仕草を仕込んだのはドロシーだな。しかしレックス、その上目遣いが通用するのは今だけかもしれない。十分に活用しておくようにな!


 お婆ちゃんのお怒りが去ったところで、ドロシーが補足をする。

「お婆ちゃん、落ち度は皆にあるわ。それに、これは世界を変えてしまう発明かもしれないの。全ての女性、ううん、男性も、レックスに感謝することになるわ」

 それは言い過ぎじゃないだろうか。でもまあ、媚薬そのものだから男女とも恩恵はあるか。


「そう……。本当なの?」

「事実であると肯定いたします」

 真摯に訴えた。

「そう、わかったわ。貴女たちはお姉さんなんだから、レックスやサリーの体を気にしなきゃいけないわ」

「はい、お婆ちゃん、肝に銘じます」

「同じく、肝に銘じます」

 カレンも生真面目に頷いた。



【王国暦122年8月5日 20:43】


「レックス、体調はどう?」

「何だか力が漲ってくるみたいです」

 心なしか肌も艶々しているね。

 チューブのリビングで、今日は教育上、大事な話をします、と宣言したため、アーサお婆ちゃんとカレン、シェミーは少し後ろに下がり、傍聴してもらうことにした。


「コホン。今回は()()()のお話になります。レックス、女の子の話になるけど、どこがどう違うとか、実地で見るのは大人になってからね。予備知識として持っておいてほしい。思いやりのある、包容力のある男になるために!」

「ほっ、ほうようりょく……!」

 レックスの心の琴線に触れたようだ。グッと拳に力を入れたね。

「必要ならメモを取って下さい。まずは、体の構造の違いから――――」


 私はゼロから、元の世界の知識も交えて、ガチ性教育の講義を始めた。レックスの目が爛々と光っていた。



――――ついに目覚めたね………!





資料編は、迷宮フロアガイド、人物設定、ちょこちょこ更新しております。

「誰よ、コイツ……」

「迷宮のどこでトマト作ってンんだよ……」

など、疑問を感じた際に見て頂ければ幸いであります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ