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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
土をかける少女
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ユリアンの補足


【王国暦122年8月1日 0:12】


 エミーを寝かしつけると、ブライト・ユニコーンを叩き起こした。

《ちょっと話を聞いてくれるかな?》

《我は主以外の指図は受けん》

《それが主の身の安全に関わることでも?》

《む…………。了解した。何用だ?》

 コイツ、めんどくさい性格してるなぁ……。


《幾つか、魔法を会得してほしい》

《どのような魔法だ?》

《光系の、疑似魔法に分類されているけど恐らくは精霊魔法である『光盾』。エミー本人がLV2を覚えているはず。それを強化してほしい。対魔法、対物理衝撃、鉄壁の盾に昇華できればいいね》

《む…………。対魔法はすぐにできるが、対物理は他の精霊の力も借りねばならんな》

《では借りて頂戴。主人を守るのが契約精霊でしょう?》

《………………善処しよう》

《よし。次は攻撃魔法だね。『光球』は殆ど攻撃力を持たないから、光系じゃなくてもいいので、殺傷能力のある魔法が一つ二つ欲しい》

《善処しよう。確かに光系は他者を害する魔法はあまりないな》

《ああ、うん、そうだな、光線って飛ばせる?》

《光るだけ、出すだけなら可能だな》

《ああ、じゃあね、思い切り細く、指向性を持たせてみてよ。光って波じゃん? 波の震える幅を短くしたり長くしたりできるよね?》

《む…………可能……だと思う……》

《波長を短くしたものは、目に当てると目つぶしになる。波長が長いものは火精霊の力を借りなくても……いや実際には借りてるんだろうけど……照射した物体の温度を上げることができる。エミーに断ってから、戸外で練習してみてよ》

《恐ろしいことを考えるな…………了解した》

《最後に、疑似魔法で……これも実質、精霊魔法なんだろうけど、『不可視』ってスキルがあるんだ。こういうやつ》

「―――『不可視』」

 スキルを発動してみせる。精霊だし、私が何をしたのか理解できるはずだ。

《光の反射を消す魔法か。それならばすぐにでも出来るぞ》

《うん、今の三つ、エミーと練習してみてよ。『不可視』は身を守るのに使える。ただし、『魔力感知』に優れた人にはバレバレだから注意ね》

《あいわかった》

 ブライト・ユニコーンは素直に聞いてくれた。



【王国暦122年8月1日 0:25】


『魔力感知』によれば、ユリアンはまだ起きている様子だった。

 こういうのが筒抜けなところが、プライバシー皆無なファンタジー世界なんだろうな、と諦観する。

 ユリアンに短文を送ると、『執務室へどうぞ』という返信があった。


 いつも密談をしている司教の部屋に入ると、寝入る直前、という格好(寝間着だね)をしていたユリアンがソファに座り、手ずからハーブティーを煎れているところだった。

「お疲れ様です。シスター・エミーの様子は如何ですか?」

 私に座るように勧めながら、ハーブティーを差し出す。さすがにこの時間だとカフェインの入ったものは飲まないみたいだ。

「寝ていますよ。少し――――情緒不安定かと思いますけど」

 ユリアンに出されたハーブティーを啜る。レモングラスを煮出しただけの簡単なものだ。鼻から香気を出して、また空気を吸い込む。

「長い時間、話していましたね?」

「はい、彼女、知っていたんですね。私の裏稼業? いえ、本業かな? を。全て受け入れてなお、自分を守ってくれるようにと、好かれるようにと努力していましたよ」

 皮肉を隠さずに笑みを浮かべる。


「好意そのものは、シスター・エミーが純粋に抱いている感情だと、私は思います。トーマス商店に行ったのがドロシーではなく、シスター・エミーだったら、毎日過保護に接していると思いますよ?」

 ユリアンも笑みを浮かべる。諭すような聖職者の笑みだった。


「それはまあ、私もそう思いたいですね」

「そうですとも」

 エミーが私に向ける好意をそのままの形で受け入れられるほど、私は純真でも初心でもない。ブライト・ユニコーン以上に面倒臭い性格なのは自覚しているところだし。

「まあ、『神託』を受ける後継者がエミーではなくてカミラさんだった理由も納得です。エミーは近い将来、政変の御輿に担ぎ出されてしまうんですね」

「そうなってほしくはありませんが、残念ながら、着々と外堀が埋まってきています。他ならぬ『ラーヴァ』によって」

「…………」

 私には黙る他に術がない。ユリアンが話を続ける。


「私が受け取る『神託』は単体の………そうですね、『短文』に似ています。一言だけ伝言が来るのです。背景や流れ、『使徒』がどのように考えての指示なのか、その辺りはまるで説明がないのです」

「それでも、『神託』を並べてみれば、朧気ながら意図は読める、と?」

 ユリアンが頷く。

「点を繋ぎ合わせてみれば線になった、というだけですけどね」

「今回、王都騎士団が主体的に動いて謀を企てたわけですけど、第一騎士団長、第二騎士団長は、二人とも潜在的に王宮に対して翻意があるんです。政治的なものか、個人的な都合なのかはわかりませんが」

 案外、ファリス、パスカル、共にオーガスタと結婚したくないだけだったりするかもしれないからなぁ……。


「第一騎士団長はブノア伯爵、第二騎士団長はメイスフィールド伯爵でしたね。シスター・エミーのことを知っているかもしれません」

「と、仰いますと?」

「ヴィヴィアン王妃の姉がメイスフィールド家に嫁いでいるのです。パスカル・メイスフィールド伯は、その縁で第二騎士団団長に叙任されたと噂がありましたし」

 えー、あの人形フェチがエミーの親戚の可能性もあるのか。んー、でもなんか似てないような気もする……。

「本来であればシスター・エミーの存在が知られる訳はないのです。ヴィヴィアン王妃は出奔した直後に亡くなったことになっていますし、受け入れたマザー・フッツも亡くなっていますし、ウィートクロフト卿は行方不明、正確な出自を知るのは私ともう一人だけで――――」

「爺が余計なことを喋っているかもしれません」

「ああ見えても口の硬い御仁ですし、それはないでしょう。考えられるのは」

 ユリアンがジッと私を見た。ああ、なるほど。


「スキルですか。『鑑定』系統スキルで見た本名から、類推は可能かもしれないと?」

「はい、そう思います。貴女のように能力を複写できずとも、看破することが可能なスキルはあるかもしれません」

「なるほど。仮にエミーの存在が王都騎士団に伝わっていた場合は………」

「何らかの混乱を巻き起こし、その渦中でシスター・エミーを担ぎ出そうとするでしょうね」

 わかりやすいところでは内乱を誘発させて騎士団が鎮圧、国王に責を問う、みたいな流れか。いや、スチュワートが崩御したら事態は一気に加速するか。


 ユリアンが話を継ぐ。

「しかし、ここまで行っても、政変が都合良く、成功するかどうかは五分五分というところでしょう」

「その成功率が高いのか低いのか、はちょっと判断しかねるところですね」

「そうですね。国王直属とも言える王都第三騎士団の団長は、第三王子ダニエルなんです」

 殿下とか付けない辺りがユリアンの心情を示しているか。

「ん、第一継承権は第一王子デイヴィットですよね?」

「はい、そうなんですけど、デイヴィット王子は大人しく、治世にあまり興味を持っておらず、暗愚間違いなしです。ついでに彼の母は、故人である第一王妃テレサ」

「第二王子と第三王子が第二妃ロザリンドの息子でしたよね」

「そうです。現在、王宮にいる妃―――実質の正妃ですね―――はロザリンドのみ、第二王子か第三王子を次期国王に、と考えるのは当然、なのでしょうね」

 つまり、王宮では恒常的にデイヴィット排斥が進んでいることになる。暗愚という噂も強ち信憑性の低い話なのかもしれない。


「第二王子アベルは暴君と評判です。デイヴィットとは違った意味で暗愚となる可能性があります」

「それで暴力装置を握っているのが第三王子と……。王権の継承は一筋縄ではいきませんね、コレ」

「そこに一石を投じようとしていたのが、かのダグラス元宰相だったのではないでしょうか。背後にいるだろう魔術師ギルド、いえ、マッコーキンデール卿も、国の将来を憂いていたことは間違いないのです」

 全員が良かれと思って行動している……という訳じゃないと思うけど、全員が違った思惑で動いているのか……。

「ああ、だから意見がまとまらずに、どの王子も不適格だと断じられることになると?」

「そのように考えています。となると残りの王子、四男エドワードは…………」

 ユリアンが少し言い淀み、私が言葉を継ぐ。

「司教様も気付いていたんですね」

「はい。かなり以前にフェイ支部長から相談がありましたしね。エドワード王子は継承権は放棄しているものの、未だ巻き込まれる可能性があるということでした。彼は真面目で、それこそ王になったら苦労しそうではありますが、平穏な治世を行うことでしょう。人心掌握にも長けており、適格者に間違いはないです。ところが、彼は王としてより、一人の女性を選んだのです」

「おお……」

 ロマンティックな話だなぁ。


「ドロシーのこともあり、冒険者ギルドが保護をするという名目で、王宮が手出しをしにくいように幹部教育を施す、ということですね。なかなか上手い発想だと思います。完全に憂いを絶つことになるかどうかは疑問ですが」

「もう一人の……五男がいましたよね?」

「五男のシャロンは……病弱……ということになっています」

 含みを持たせた言い方をされた。近親婚が続いている弊害ということなんだろうか。ただ、シャロンの母親はヴィヴィアンなので、問題があるとすれば父親のスチュワートの方かも。

 まあ、遺伝子検査なんかないし、たとえ判別できたとしても、遅きに失しているというもの。元の世界でもハプスブルグ家とか、その影響が強く出ていたって話もあったものね。


「エミー本人は、この辺りの事情はどこまで把握してるんでしょうか?」

 どこまで首を突っ込んでいるものやら。

「情勢が変わる度に伝えている、と言いたいところですが、スチュワートが存命であるうちは、これら諸々は、まだ可能性の域を出ません。必要以上に怯えさせないようにしています。あの子は……シスター・エミーは、産まれた時からずっと、王宮の影に怯えてきたのですから……」

 それを考えると不憫だよなぁ。

 まあ、巻き込まれるっていえばド平民の私にしてみたら大いに迷惑な話ではある。んー、でも巻き込まれるために呼ばれてきたんだから、今の状態で正解なのかな?


「今のところの自衛手段としては精霊にも伝えておきましたけど、これ以上なら魔道具、もしくは武器が必要かもしれません。作るにしても仰々しいのは作らないようにしようと思いますけど」

「是非お願いします。ポートマットの()()がヴィヴィアン妃の係累だと思われないように教会としても気をつけていきます」

 ユリアンは立ち上がり、合掌して深々とお辞儀をした。



【王国暦122年8月1日 1:15】


 客間に戻ると、エミーは毛布にくるまって寝息を立てていた。

 その側で、ブライト・ユニコーンが何やら悪戦苦闘していた。

《不可視……なかなか難しいな》

《最初から人型でやろうとするからだよ。エミーを包む繭を想定して、繭の中に入る光線をずらすんだよ》

《……繭……おお……うむ……なるほど……》

《魔法陣で言うとこんな感じなんだけど》

「――――『転写:不可視』」

 空中に魔法陣を描いて見せてみる。

《ああ、なるほどなるほど、なるほど……ああ、そういうことか》

 魔法陣に描かれているのは精霊の文字と言われている。やっぱりそうなんだね。一つ発見をしたよ。


「ん?」

 精霊は魔法陣の内容がわかる。疑似魔法は魔法陣である。召喚光球は当たり前のように疑似魔法を使っている。

《ということは………精霊って、普通に疑似魔法が使えるんじゃないかな……?》

《我に低俗な偽物の魔法を使えというのか?》

《エミーを守るんじゃないの?》

 思っていたよりも、精霊って単体だけだと何もできない感じがする。要は使いようなのだけど、融合して誕生したばかりのブライト・ユニコーンにとっては、自身のプライドを刺激されることだろう。しかし、エミーを守るというお題目の方が優先順位が上なのも確かだ。


《一つ、実験としてやってみてもよかろう》

 ちょろい。簡単に折れた。

《じゃあ、いくつか魔法陣見せるから。攻撃魔法はここで使っちゃだめだよ?》

《心得ている》


 ブライト・ユニコーンに、『障壁』『魔法盾』『魔法反射』『火球』『水球』『風球』『土球』の魔法陣を見せる。一発で覚えた、って言ってるけど、どうなんだろうね。

 あー、こうやって見ると、『~球』って属性(と言われてるけど、性質が違うだけだ)の記述部分が違うだけだね。

 ということは、置き換えてみたら色々出来るかもしれないな。


 ええと、『風走』をちょっといじってみよう。

 地面から反発するような方向に擬似的に風系魔法……を使っているのが風走だから、ここを光系に変えてみる。あれ、文字数が合わないや。無理矢理合わせてみて、全体のサイズを調整して真円にして…………。


――――――補助魔法スキル:光走LV1を習得しました

――――――補助魔法スキル:光走LV4を習得しました(LV1>LV4)


「!?」

 何だかおもしろスキルが出来たぞ。

「―――『光走』」

 足元がボンヤリと光りながら消えていく。

 ああ、ええ? なんだコレ、足元を見えなくするスキル? こんなものに何の意味が………。ジオン○のコスプレの時くらいしか役立たないんじゃ……。あ、でもあれか、間合いが掴みづらくなるか。それだったら普通に『不可視』でいいんじゃないかというツッコミが入りそうだ。それに何だか魔力消費が物凄い。

 しかし、これは応用が利きそう。


《―――――『障壁』》

 おっ。

 ブライト・ユニコーンが疑似魔法を使った。やっぱりできるね。意志のある魔力でできた個体、ということは、考えて喋る召喚光球みたいなものだと考えていいわけか。ノーム爺さんも説得して、覚えて色々やってもらおうかな。

 これもまた応用範囲が広がるなぁ。



【王国暦122年8月1日 4:46】


「おはよう、エミー」

「お姉様……」

 うはっ、これピロートーク? 気怠い聖女様を片手に抱いて、もう片方の手で金髪を撫でつける。

「ちょっと早いけど、もう起きるよ」

「はい、おはようございます」

 まだ思考が定まっていない様子のエミーをベッドに残して、ミスリル銀の固まりを『道具箱』から取り出す。エミーに銀アレルギーはないのはわかっているので、この素材にしよう。


 幅五ミリほどの薄いテープ状に切り出して、直系八ミリほどの木の棒に巻き付けていく。長さが五センチほどになったらカット、木の棒を抜く。軽量化のために筒状にしたわけね。『成形』でテープの隙間を埋めて、前後の穴も埋める。先端には鳥の頭を模した造形にして……。


「―――『転写:魔力制御』」

 魔法陣を刻み、色を乗せる。もちろん柄の部分と目玉はピンク、先端は白、くちばしの部分が赤。

「それは? お姉様」

「首飾り? 杖?」

 何で疑問形なんだと自分でも思いつつ。


 本当は、『レリ○ズ!』なんて、舌っ足らずに叫んだら大きくなって杖になればいいんだけど、この世界の魔法はよくわからないものの、一定の物理法則に則っているので、質量を劇的に増やす魔法なんかは使えない。空間魔法でも使えば不可能じゃない気もするんだけど、『道具箱』は生物じゃないと使えないし、そもそも、この小ささに魔法陣を収めるのは至難の業だった。

 ので、予め杖の形にせざるを得なかった。その代わり、ペンダントでも不自然にならない大きさにしてみた。

「杖なんですか、それが?」

「一応ね。普段は首飾りを意識しないで魔法を使って、いざ! と言う時に首から外して、杖として使ってみてよ」

 長さ五センチだけどね。

 杖は増幅器でもあり、指向性を持たせるものでもある。必須ではないけど、より魔術師として動きやすくなる。


「ありがとう、お姉様」

 聖女様の首に、革紐を通したミニ杖をかける。小さな銀のチェーンがあれば良かったんだけど、それはそのうち。

「マリアには内緒ね。見つかって文句言われたら、暇になったら何か他に考えるから、って言っておいて」

「はい、お姉様」

 ニコッと笑うエミーは、光の精霊たちの姿こそ見えずに後光は差してなかったけれど、何故か、以前よりずっと輝いて見えた。



――――こうなったらハリ○・ポ○ターの杖も作ってみようかしら……四種類ほど……。






ちなみに、ミニ杖のオリジナルは、『封印の杖』と言います。名前あったんですねぇ。





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