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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
土をかける少女
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半分の優しさ


【王国暦122年7月25日 12:45】


「魔術師殿は変なものを欲しがるのだな」

「変ですかね?」

 スタインの感想に少々の反発を覚えつつも、無事に柳の枝を葉っぱ付きで入手できた。やはり、領主の館に植えられていた木は、記憶通り柳だった。


「生育が早いそうだ。それ以外に取り柄のない樹木だと思っていたが……。魔術師殿が欲しがるということは、何か有用なのか?」

「実験次第ですね。自分の体で試してみます」

「大胆だな……。程々に頼むぞ。代わりのない体なのだからな」

 一月の間で、今日が私の最弱の日なのだけど、知ってか知らずか、スタインはそんなことを言った。それが私を気遣ってのことか、ポートマットを気に掛けてのことかはわからない。

「ありがとうございます。気をつけます」

 動き回れる程度には回復している。だけどプロセア軍侵攻時みたいなパフォーマンスは期待できない。まだ新薬の被検体として有用な状態だ。

 スタインに礼を言って、マホニーさんのスパイスショップへ向かう。


「久しぶりだね。今日はどうしたね?」

 うん、確かに久しぶりだ。それには理由があって、カレンとシェミーが同居するようになってから、王都冒険者ギルドの誰かに依頼をして、王都価格でスパイスを入手するようになった。輸送費を考えても、その方が格段に安価だったりする。これはマホニーさんのお店が暴利というわけではなく、王都が安いのだ。

 とはいえ、ポートマットの港に荷下ろしされて、王都へは行かずに、ポートマットで消費されるスパイスの量も増えているらしい。入荷量も増えていて、安価になり、余計に消費が増える、という好循環になっている。


「トーマスさんから助言を貰ってね。直接船主に注文してみてはどうだ、とね。そんな金はない、と断ったんだけどね、融資してもらってね。お陰様で儲けさせてもらっているよ」

 何だ、トーマスの入れ知恵だったのか。


「それはよかったですね。何だかスパイスの種類も増えているような……」

「そうだね。インディアより東の国のスパイスが入手できてね。量がないからお高くなっちゃうけれどね」

「あ、クミンシードだ」

 へえ、王都でも扱ってないスパイスがあるや。いくつか買っておこう。おお、シナモンがある。買いだ、買い。

「これとこれとこれとこれとこれと」

「いいのかい? かなりお高いよ?」

「珍しいものですから。あ、(グリーン)ペッパーだ」

 生なんて珍しい……。


 支払いを済ませて、やっと本題に入る。懐から柳の枝を見せる。

「これなんですけど」

「何だい? 木の枝?」

「はい、柳です。これ、スパイスとして使用例ってありますか?」

「ああ、ヤナギか。樹皮を乾燥させたものが歯痛に効くっていうのは聞いたことがあるね。大陸の南、ロマン帝国が建国される前にあった国―――の賢人が勧めていたとか何とか。まあ、伝説の類だね」

「へぇ……」

「鎮痛剤が欲しいのかい? それならこれだね」

 マホニーさんはカルダモンを出してきた。

「じゃあ、それも包んで下さい」

 もう大人買い。ドロシーが見たら腰を抜かしそう。

「はいよ。カルダモンは体冷やすから、生理痛とかにはあんまりよくないね」

 なんだとー! 先に言えー!

「あ、そうなんですか」

 スパイスとか薬学とかの知識はまだまだ足りないなぁ。こういう基礎的な情報は、どこかにまとまってないかしら?



【王国暦122年7月25日 13:14】


 アーサ宅に戻り、お婆ちゃんに許可を得てから、柳の枝、下の方の樹皮を剥き、葉っぱをいくつか取って、挿し木として植樹する。やはり柳だから敷地の端っこの方、薄暗い場所に植えてみた。例によってノーム爺さんが土壌を整えてくれたので、すくすく育つだろう。

《変な木を欲しがるのう?》

 ノーム爺さんにまで言われてしまった。


 採取した樹皮は『凝水』スキルで乾燥させた、というより脱水した。

「そう、なぁに、それは?」

「ちょっとした実験なんですけど……」

「嬢ちゃん、それは? 木の皮? 食べるものなのか?」

 カレンの感覚では、これは食べ物ではないらしい。

「食べられます。飲めます。たぶん」

 脱水しただけだから……。日陰で時間を掛けて干したものとは厳密には違う。このまま煮出しても時間がかかりそう。


「――――『粉砕』」

 まずはこれだけで飲んでみるか。

 アーサお婆ちゃんとカレンは興味津々に私のやることを見ている。

「そうね、お湯が沸いたわ」

 新設した魔導コンロの調子は実に良いらしい。ボタンが一つなのが良いわ、とはお婆ちゃんの評だ。実際にはスイッチとダイヤルを兼ねてるんだけど。

 キッチンにテーブルを持ってきて、そこでハーブティーの要領でティーポットにヤナギの樹皮粉を入れて、そこにお湯を注ぎ、しばし待つ。

「………………」

 じわじわ~と粉がお湯を吸って、徐々に底へと沈んでいく。

 うん、樹皮を煮出した色をしてる。茶色だ。

「香りは…………うーん、あんまりない?」

 うーん、これ、『鑑定』によると『毒』の表示がされてるねぇ。お腹壊すってさ。

 だけどチャレンジャーな私は、ほんの一口飲んでみる。二人の視線が痛いから。

「…………にが……」

 二人の視線が落胆に変わった。


「えとですね、まだ、このままだとお腹下しそうです。原料はこれでいいんですけど……」

「そうね、もっと分量を少なくして、他のハーブを入れたらどうかしら?」

 そっか、他のハーブとかスパイスと混ぜてみるか。

 胃粘膜の保護といえばシナモン。シナモンだって大量に摂取すれば不調を招く。程々に……。

 ヤナギとシナモンを1:2の割合にして、粉にして、紙で作った小袋(ティーバッグ)に入れて煮出してみる。かなり薄めに作ったためか、今度は『毒』の表示はされなかった。毒と薬の境目が濃度だなんて、曖昧にも程があるなぁ。


 また一口飲んでみる。

「うーん?」

「そう、どうなの?」

「不味そうな顔してるさ……」

「シナモンの香り高く、苦い……美女の仮面を被った悪女みたいな感じです」

「ああ、誰のことかは言わなくていいさ……」

 ブリジット(ゲテ)姉さんのことだなんて一言も言ってないのだけど。

「そうね、ちょっと私も味見してみるわ」

「私も舐めてみるさ」

 お腹痛くなります、と事前注意をしておいたけど、二人は大丈夫を連発して一口だけ飲んだ。

「そうね、もう一味欲しいわ」

「酸味? 甘味?」

「両方じゃないか?」

 これ以上香りを立てるようなハーブは混ぜない方がよさそう、という判断だ。レモングラスは少量に留める。


 酸味はレモングラス、甘味は外道だけどお砂糖で付けてみた。再び三人で味見をする。

「どうでしょう?」

「甘苦酸っぱく、シナモンの香りが高いさ」

「そ、そうね……」

 それぞれの香り、味の構成要素が自分を主張して譲らない感じ。

 試作会を始めて三十分ほどした頃だろうか。

「むっ」

 下腹がポカポカしてきた。と同時にお腹の上の方がジクジクしてきた。何だ、このお風呂のナゾナゾみたいな現象は?


 これは便意ではなく……胃痛だ。最終的にはお腹急降下になるんだろうけど……。

「そう、これは……」

「くっ………………」

 アーサお婆ちゃんとカレンにも同じ現象が起こっているようだった。二人は別に生理中(お婆ちゃんが()()()()いるのかどうかは知らない)じゃないだろうから、胃を押さえている感じ。

 訊いてみると、激痛、とまではいかないものの、少し胃がムカムカする感じらしい。

 私は最初に濃いのを舐めていたので、その傾向が顕著に出てしまった格好なのかな。

「これ以上は危険だと判断しましたっ。戦略的撤退を具申します!」

「そうね、了承するわ」

「騎士殿に礼っ」

 三人で合掌してお辞儀をして、試作会はお開きになった。

 なお、お陰様で今晩のメニューは胃に優しいものになりそうだった。



【王国暦122年7月25日 17:53】


 その後の三人の様子を見ると、お婆ちゃんとカレンはすぐに持ち直したようだった。

 私の方は変わらず胃がムカムカしていて(つまり胃壁が荒れた)、お腹の痛みは散った感じがする。いわゆる解毒の自浄作用に関しては、通常の人間よりも高い能力がある。耐性もある。なのにこの副作用は、さすがに『毒』表示と言うべきか。


「うーん、―――『治癒』」

 ここで水系の治癒を使ってみると、胃のムカムカは収まり、お腹のポカポカは強まった。水系の治癒は体内の自己回復を補助するから、併用するのは正解かもしれない。


 俗に光系と水系の治癒と呼ばれている二系統の『治癒』だけど、他の系統でもあるんだろうか。

《ノーム爺さん、土系の『治癒』っていうのはあるの?》

《うーん? 疑似魔法はとんとわからんぞい?》

《光系は精霊魔法じゃないかな?》

《ああ。光の精霊たちが強引に矯正しているやつかの?》

 え、あれで強引なんだ?

《水系、というのが今、お主が使った疑似魔法かの?》

《そうそう。体力回復ポーションと同等。魔法で再現したようなものだね》


 念話しながら、ああ、なるほど、と自分で得心する。体力回復ポーションの主原料である日光草は、いわゆる万能薬だ。胃腸を丈夫にして体の各所に栄養を行き渡らせ、生体の回復を補助する。錬金術的に薬効を濃縮して(というよりは抽出のための時間を短縮するのに錬金術的な手法を使っている)、魔法的に薬効を上げている。


 光系は欠損部位さえ治す奇蹟にも見えるけど、魂が記憶している(それしか記憶する器官はない。頭部の欠損さえ治すのだから)と思われる状態に、ノーム爺さん曰く『強引に矯正』する。その無理、無茶を実現しているのが光の精霊たちなんだな。なんだっけ、元気の押し売りみたいな感じ?


 光系は精霊魔法と言い切っていいと思う。

 水系は疑似魔法を使って体力回復ポーションを再現したもの。

 疑似魔法そのものは、精霊がなす奇蹟を、魔力によって再現しようと試みたもの。だから、本来は光系、と名乗りたかったに違いない。だけど本物の奇蹟がちゃんとあるから、畏れ多いとか、そんな理由があって光系とは名乗らなかったんだな。

 それにしても水系とは言うけれど、よくよく考えてみれば体内の水分を操作する――――なんてことはしていない。だから他の系統を名乗ってもよかったんじゃないかな?

 ということは……先にノーム爺さんにした質問は、とてもお馬鹿な質問だったことになる。ちょっと恥じ入って、それきり黙る。


 鎮痛、という意味では日光草でも良かったわけだ。

 でも、オピウムがそうだったように、神経回路のどこかをブロックして、一時的に痛みを忘れさせるためには、日光草由来の体力回復ポーションではちょっと役立たずではあったと。

 痛み止めも強力ならいい、というわけではなく、痛みは体内から送られる重要な信号でもある。完全に遮断するのは逆に危険だ。ついでに、これもオピウムがそうだったように、恐らく鎮痛剤の類は、程度の差こそあれ、常習性がある。ヤナギにもあるかもしれない。アスピリンって割と常飲してる人っていたものね。単に習慣としてならいいかもしれないけど、無為に体が欲してしまうようだとよろしくない。

 症状が出たときにだけ飲むようにすればいいか。処方する人、管理する人がいればいいか。病院? 薬屋? もいずれは必要になるんだろう。

 とりあえず言えることは、薬効は確認できたということだ。胃痛の副作用を緩和する策も目処が立っている。


 常習性があるかないかは今後の実験をするとして、薬湯の状態では(毒ではあると表示されたけど)特にそんなことは『鑑定』できなかったけれど…………。どこかで実験をしなければならないのは確か。被験者をどこで調達すればいいか……。娼館の奴隷たち? 街の若奥さんたち? 農場で働く娘さんたち? 冒険者ギルドの女傑たち? うーん。

 こう、もっと野生に近い、それでいて閉鎖環境で、なおかつ体調に不備がでても不満も言わず、そもそも契約する必要もない………。


「あっ、迷宮に千匹単位でいるじゃん」

 光明が差したような気分になった。ゴブリン、オーク、ミノタウロスのメスを被検体にしよう。


「さて……」

 お薬の方は、自分の生理痛は緩和されたし、意識の外へと追いやっていいね。

 魔力供給の問題へと思考をシフトさせる。


 昨日やっていた、魔核の整形、変形は、遠距離からの魔力供給が可能か、という実験の前段階、受信装置を作るとしたら、高効率を得るためにはどうすればよいか、そのブレーンストーミングの一環だった。

 だから、色々な形にしてみること、そのものは、やろうとしていることの本筋ではない。魔核は魔物が生成した魂と魔力の残滓と言われている。それを粘土のごとくいじくり回すことに多少の忌避感はある。でも、そんなのは今更のこと。遺伝子をいじくり回すのと変わらない。そう割り切れる感覚はちょっと一般的な人とはズレてきているだろうか?

「自分がマトモだと信じよう」

 マトモの基準はわからないけど。


 魔核の成形の方は、ずっといじっていたからか、どのような形が崩れにくいか、作りやすいか、わかってきた。


① 球形

② お椀型

③ 平面


 粘度をグミ状にすると形状の変更はしやすいものの、形状の固定は難しい。そのため、①を柔らかくして②にしてから硬度を上げて固定すると、お椀の縁にあたる部分が欠けやすい。『硬化』を付与する際に、お椀中心部と縁では付与魔法の影響する距離が微妙に違うからだ、と解釈できた(対象が小さすぎるということもあるだろう)。

 つまり、一番安定するのは①でも②でもなく、③だったりする。


 もちろん、魔核として、というよりは魔核加工品として、と但し書きが付く。

 二辺が長い、二等辺三角形を八枚作り、それを組み合わせてパラボラアンテナのように組み上げてみる。元の世界の人工衛星とかで使われる技法だ。

「よくよく考えたら、これ、ミスリル銀板で十分なんだよな……」

 球状であることを前提に、魔核つきの魔道具は作られているから、カード状にしたら、接続部分の形状も変えなければならない。全ての魔法陣はまん丸だから、中央に置ける形状である、球体が都合が良かったということもある。

 まあ、実験してみよう。魔核アンテナを!



【王国暦122年7月25日 19:12】


「アンタ、何してるのよ」

 背後からの声に振り向く。ドロシーだった。ん?

「あ、おかえり」

 私の挨拶に、ドロシーは盛大に溜息をついた。ん?

 なにこれ、デジャブ? コピペ?


「それ、なによ? って、まさか、それ魔核?」

「ああ、うん、そう。ちょっと思いついてね。実験してたんだよ」

 ピザのピースのような形状を重ねて円形にした、お椀状アンテナが一組。だから二つ同じ物がある。検証用に、ミスリル銀板でも同じ形状の物を作って、差し替えができるようにしてある。

「それに何か意味があるわけ?」

 一応訊いてあげるわ、とドロシーの目が鷹揚に語る。

「遠距離から魔力の受け渡しができないかどうか、受信効率のいい方法はないか、の実験の一つ」

「へぇ~? で、どうなのよ?」

「芳しくないね。でも成果はあった」

「どっちよ?」

 意味がわからないわ、とドロシーは眉をひそめた。


「指向性……指定の方向にちゃんと向く……が想定通り得られたからね。ただ、魔力の受信装置としては失敗」

 うん、失敗だ。送信側の魔核に魔力が溜まってしまう。そこから魔核が壊れないように調整すると、僅かな魔力しか受信できなかった。

 それでは、と送信側をミスリル銀板に変えてやってみたところ、指向性は確認され、魔核同士よりは高効率で魔力が受信できた。だけど、まだ仕様通りではない。

「魔力の受信、ね。この家が魔道具だらけになったから?」

 その通り、と私は頷いた。


「アンタが迷宮で見せてくれた、あの大っきな魔核? あれじゃ駄目なの?」

「人工魔核はね、魔力を吸い取るものでもあるから。うちに設置したら、全員シワシワになっちゃう」

「それは困るわね……。昼間は魔力を発散して、夜には吸い取って補充するような、都合のいいものはないの?」

「はは、まるで月光草………………」


 ふむ?


 月光草そのものを栽培するんじゃなくても、時限性にして、夜に余剰魔力を補充して、それまでは発散し続けるシステムがあればいいのか。元の世界であった、深夜電力でお湯を沸かすシステムみたいな。もしくは揚水発電所みたいな。


 遠距離送信の夢は保留かしら……。でも、これはこれできっと発想の元になる。だから無駄じゃなかったと信じよう。あんまり先進的過ぎるのも、例によって『使徒』チェックが入りそうだし。


「いや、でも、その方向で考えてみるよ。ありがとう、ドロシー」

「そう? よくわかんないけど。感謝ならされてもいいわ」

 ふふん、とドロシーが小癪な笑みを浮かべた。



【王国暦122年7月25日 20:40】


 夕食後、結局工房に集まる面々に、諦観を醸し出しつつも、本日の成果について色々話し合った。

「生理痛のお薬ですって?」

 今まさに周期になりつつあるドロシーが喜色の声を上げた。

「そうなのさ。たださ――――」

 一緒にヤナギ茶を開発していたカレンが問題点を列挙した。胃痛の副作用があること、お茶として飲む濃度では恐らく効き目が強すぎること、他の副作用については不明なこと。

「そうね。ヤナギだけではキツイかもしれないわね」

 開発に参加しました! とアーサお婆ちゃんは誇らしげにカレンを補足した。

「一回に服用する濃度が薄くてもいいなら、副作用は気にしなくてもいいんじゃないの?」

「うん、他のスパイスで誤魔化しは利くんだけどね」

 ドロシーの、飲んでみたいオーラが迫ってくる。未完成品でも飲んでみたいのかしら。

「飲んでみたいわ」

 どうする? と私はアーサお婆ちゃん、カレンに目を向ける。行ってみろ、という視線が返ってきた。

「じゃあ、薄めのやつを。食後だし、いいよね」

「食後が、何か関係するの?」

「空きっ腹で飲むよりはマシかなーという程度だよ」

 うん、直接胃の粘膜を刺激しないから、食後という指定はありかもしれない。

「ふうん?」


 首を捻るドロシーに、薄いヤナギ茶、シナモン多めを提供する。

「このスパイスは?」

「シナモン。これも樹皮を乾かしたやつ」

「良い香り。少し甘い?」

「少しだけ甘くしてあるよ」

 コクリ、と飲んだドロシーの喉が上下する。全員の視線がドロシーの喉に集まった。ああ、いいね、ドロシーの喉。良い形してるね。


 そして、ドロシーは感想を口にする。

「結構……美味しい気がする?」

 何で疑問形だよ。でもまあ、疑問()ドリンクではあるかな……。



【王国暦122年7月25日 22:10】


「少しだけ……胸に違和感があるけど。お腹が何だか温かい……」

「じゃあ、もう横になろうよ」

「うん」

 経過観察という名の宴会が終了して、工房から皆が出る。

「姉さん、生理って辛いんですか?」

 サリーの質問に、レックスの耳がピクッと動いたのを見逃さない。


「個人差があるね。全然辛くない人もいるし。私みたいに行動不能になる人もいる」

「姉さんは動きまくってるじゃないですか」

「動けてないよ……」



――――当社比五十パーセントというところでございます。





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