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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
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討伐隊の報告会

「……本当にご苦労だった。……疲れているところに悪いが、報告を聞かせてもらおう」

 フェイは一応は申し訳なさそうな顔をして、ソファに座った私たちに言う。

 報告そのものは、一番年長のセドリックがするだろう。今まで確認してなかったけど、セドリックさんがパーティーリーダーっすよね?

「自分が報告するっす。討伐部位はこちらっす。自分たちのパーティは、ワーウルフを全部で五十二体、駆除したっす。それで巣を潰したっす。リーダー個体は無しっす。当面はワーウルフによる脅威は去ったと判断して良いと思うっす」

 セドリックは、自分の『道具箱』から袋を取り出して、口を開けて、そこに貯めておいたワーウルフの牙を見せた。


「……その口ぶりだと、他にも出たようだな?」

「―――その通りです。雷を使うトゲトゲの魔物―――二体に襲われました」

「……なに?」

 フェイの眉根が寄る。

「一体は死骸を丸ごと持ってきました。もう一体は肉塊にしたので、何の魔物かは判別できていないと思います」

「……その魔物は雷を使ったのか……。……『エレクトリックサンダー』か」

 おそらくそうです、とセドリックが頷く。フェイはゴクリと唾を飲んだ。

「パーティメンバー全員の見解っすけど……その魔物は、何者かに召喚されて、攻撃するように仕向けられていた可能性が高いっす」

「―――特に二体目は、巣に集まっていた騎士団や冒険者もろとも、攻撃しようとしていた」

「……それは騎士団長も巻き添えに、ということか?」

 その通りです、と私たちは頷いた。

「……むう。騎士団長―――ダグラス子爵(アーロン)は、今回の討伐遠征の直前に王都に呼び出しを食らっている。……本来の職務とは関係のない呼び出しだな。……それ故にポートマットの街を害する襲撃を容認するように強要されていたのだと推測していたのだが」

「彼は宰相ダグラスの息子っすからね」

「―――それは妥当な推測だと」

「……実際、前回の遠征失敗で憔悴していたダグラス卿は、王都から戻ってきて、さらに憔悴していたしな」

「ええ? 事前に面会してたんですか?」

 初耳だ。フェイとアーロンは連絡を取っていたのか。思わず聞き返す。

「……うむ。……ワーウルフの街への襲撃がなくても、今頃は冒険者ギルド主体で討伐隊を編成していたはずだ。……それを邪魔するような動き、ダグラス子爵までも巻き込んで―――事情の一部を知っているだろうから、口封じだと思われるが―――の襲撃。……かなり乱暴なやり方だな」

 フン、とフェイは鼻を鳴らす。


「ワーウルフを使ってのポートマット襲撃の犯人がいるとすれば、王都騎士団か、召喚できる魔術師ってことですよね。そういう、荒っぽいやり方をしてくる人物に心当たりはありますか?」

「……魔術師ギルド……かもしれないが……」

「やはりそうっすか。でも、魔術師ギルドといえば搦め手を好む印象があるっす。乱暴な手口とは対極にいると思ってたっす」

「……そうだな。……いやしかし、なるほど……向こうには余裕がないのかも知れないな」

 一人納得したように、フェイは呟くように言った。

「―――余裕、ですか?」

「……うむ。……『ラーヴァ』の噂は聞いたことがあるだろう。……どういう経緯かは知らないが、『ラーヴァ』はポートマットに縁のある人物ではないか、と目星を付けているらしいのだ。……まあ、王宮かそれに近い筋、話を統合してみる限りでは魔術師ギルドが、『ラーヴァ』のあぶり出しのためにポートマットに攻撃を仕掛けてきた。……そのように解釈できるな。……つまり、私は―――ポートマット冒険者ギルドは、今回の件は、王宮、もしくはロンデニオン市からの攻撃だと見ている」

 フェイは肩を竦める。

 セドリックとクリストファーはお互いを見てから、フェイに向き直って、体を乗り出すようにして質問する。

「実際問題、その情報の確度ってどんな物っすか?」

「……『ラーヴァ』の素性について王宮が判断した基準はわからん。……当てずっぽうにしては自信満々にも見える。……何か確証があるのかもしれんな。……王宮が攻撃してきたという証拠としては、エレクトリックサンダー級の魔物を召喚、もしくは転移させることのできる術者は多くなく、それは私の知っている限りでは、魔術師ギルドのトップ連中―――恐らくマッコーキンデール卿―――しかいない。……連中は王宮の指示なしには動けない、はずだ」

 断定はしかねるのか、想像に想像を重ねる愚をおかしたくないのか、フェイの言い回しは少し慎重だ。


「―――魔術師ギルドは王宮の直属でしたか?」

「……その通りだ。……魔術師ギルドが主導したとしても、許可を得ての行動だと思う」

「質問があります。魔術師ギルドが王宮直属なのは何でですか?」

 基本的な情報が足りない。報告会の邪魔になるかもしれないけど、ここは訊いておかねば。フェイに訊いたつもりだったけど、答えてくれたのはセドリックだった。

「有名な昔話っす。何代か前の王様のとき、大陸からの軍隊を撃退した、クレイトンって魔術師がいたっす。王様が褒美を与える、と言ったら『愚王の首を頂くっす』と言ったらしいっす。その王様は首を差し出して、『よいぞ、ほれ、愚王の首っす』と言ったらしいっす。クレイトンは笑って、試したことを詫びて、恭順を示したらしいっす」

「―――『クレイトンの試験』だな」

「え、その昔話が実話で、その流れが今も続いてるってことなんですか?」

「……実話だ。……多少の脚色はされてるがな。……魔術師クレイトンはそれ以降、魔法の研究をするための人材や資金を国庫から掠め取ることに成功したというわけだ。……王の方から見れば、身の安全と軍事的優位と高位魔法を利用できる代金だと思えば安いものだっただろうな。……ただし」

 フェイは言葉を止めた。言いたいことはわかる。

「それが魔術師ギルドで、潜在的に反乱因子ではあるっす」

 セドリックが続けた。


 そうだろうなぁ。王様の首と引き替えの恫喝だもの。それでもその、魔術師クレイトンが王に従うことには金以外に何かのメリットがあったのだろうか?

「……『クレイトンの試験』は、魔術師から見ると国に飼われていることの自己正当化を、国から見れば、魔術師が国に飼われて素直に従うことの正当性を、それぞれの立場で言い訳をしている、と皮肉る逸話に変遷していると思われる」

 フェイにしては長文を喋っている。思うところがあるのかもしれない。もしかしたら、フェイはこのクレイトンと会ったことがあったりして。フェイがこの世界に召喚されて百年ちょっと? 可能性はありそうだなぁ。

「もう一つ。王宮が、自分のところの国の、他の領地を攻めるっていうの、容認されるものなんですか?」

 フェイは私の質問に、……許されるはずがないだろう、と笑った。

「じゃあ、これは侵略行為なわけですよね。同じ国の違う街で。理解できないなぁ」

 これは私の感性が過敏なのか、常識を知らないだけなのか、判断しかねる事案だわ。


「……これも何代か前の王様の話で―――」

 え、また愚王様の昔話ですか?

 と思ったら、それよりももっと前の時代の話らしい。


 フェイの話をまとめると、武力に優れた兄と反目しあっていた、知略に優れる次男がいて、譲位に際して兄弟の不和を憂慮した先王が、親馬鹿というやつで領地を次男に割譲して、それがしっかり禍根として残っているのが、王都ロンデニオンと、ポートマット領地の関係なのだという。

 元々、ポートマットは分家みたいな扱いだったのに、不毛の海岸を豊かな港町にした努力への理不尽なやっかみも多分に含まれているんじゃないかと。ポートマットは客観的に見ても立派な港町だし、海流の関係でロンデニオンに大きな港が作れないでいる現状では、物流を握られてしまう現状に不安があるのだと。


「……間接的な嫌がらせはこれまでにもあったが、ここまで直接的なのは珍しいな。……過去の記録にもなかったはずだ」

「今までは内戦とかにならなかったんですか?」

 フェイは軽くため息をついて、

「……内戦になる……というところで、大陸から敵が攻めてきて一致団結させられたり、天災があったり……という事が複数回あったようだな。……何とも都合のいいことだ」

 ああ、なるほど、つまり『使徒』の介入があったわけか。グリテン島や王国は保護というか加護? が手厚いような気がする。アマンダもグリテン島を中心に監視していたようだし、ここが召喚の本場ってことなんだろうか。


 大陸にも召喚体制が整ってるところがあって、そこがどの辺なのかは詳しくは聞いてないのだけど、そちらは別の暗殺チームが活動しているらしい。この別チームについても、あんまり詳しい情報は聞いていない。

 うーん、これは私、もしくは私たち『グリテンチーム』に意図的に情報が降りてきてない気がする。その辺りの事情を、私が知る機会があるのかどうか、その辺りもわかんないけど。


「……それで、これからの対応だが」

 フェイは身体をググッと寄せて、私たちを順に見渡していく。

「……召喚魔法は使用に条件がある。……特に強い個体は、おいそれと使えないものだ。……よって、すぐに状況が悪化するとは考えていない。……再度、強力な魔物が攻めてくる事態にはならないと判断している。……当面は巣に近い場所への立ち入りを禁止する方向で冒険者ギルドは対応しようと思う。……ワーウルフ程度であれば頻繁に召喚される危険性はあるが、それ自体は脅威ではないしな。……ワーウルフに関しては、ポートマット所属の上級冒険者で定期的に巡回してもらう。……冒険者ギルドとしては、街の防衛に寄与する義務があるとはいえ、騎士団もいることだし、この辺りが運営上の妥協点だと考えている。……セドリック、クリストファー、定期巡回に参加してもらうことになるが、いいな?」

「もちろんっす」

「―――問題ない」

 格好いいなぁ。大して実入りは良くないだろうに、即答だよ。

「……と、お前もだ」

「はい?」

 私もだってさ。って、上級って言ってたよね?

「……支部長権限だ。……たった今から上級ということだ」

 あー、まあ、派手な活動しちゃったからなぁ。隠すよりは状況を進めた方がいいって判断なのかな。

「はい……」

 状況に流されるのはいつものことか。採取行きたいんだけどなぁ。

「お嬢ちゃんの実力は中級ではないっすね」

「―――なに、その辺りはすぐに覚える」

「……そうだな。……この三人で行動するのを基本とするか。……不満はないな?」

「不満どころか、大歓迎っす」

「―――ああ、今回は助かった」

 セドリックとクリストファーは穏やかに笑みを浮かべる。幼女スキーじゃないと思うのだけど、二人とも何だか楽しそうだし。

「……よし。……では、細かい巡回日は追って決める。……特に指定の無い日は自由にしてもらって構わん。……ギルドには毎日寄るようにしてくれ。……私か副支部長(ベッキー)なら話が通るようにしておく」

「了解っす」

「――了解」

「はい」

 私たちの返事に、フェイは満足そうに頷いた。

「……これをベッキーに渡して、今回の依頼の精算をしてもらってくれ。……ああ、あとな、対応については騎士団と協議の上で公表するが、それ以外のことは他言無用だ」

 フェイは羊皮紙をセドリックに渡す。一応見てみるけれど、ああ、それなりの金額が提示されてるねー。各々に十万ゴルドの支払いかぁ。

 これは多分、口止め料とご苦労さん代も含まれているか。あ、お金と言えば……。


「あ」

 ちょっと面倒な事を思い出してしまった。全員の顔が私に向く。

「ええと…………エレクトリックサンダーの死骸が丸々あります。これ、どうしましょうか?」

「……後日、お前が単独で解体してくれるか。……素材の売却については……」

「ちょっと試したいことがあるので、私が買い取ってもいいでしょうか?」

 うん、ちょっと作りたい物があるんです!

「お嬢ちゃんに差し上げるっすよ」

「―――同意だ」

 くそう、さすが上級冒険者……って、私も今さっき上級になったんだっけ。

「いえいえ、そうはいきません。市場に流したら結構なお値段になるでしょうし」

 私が首を振ると、セドリックとクリストファーは思案顔になり、やがて何かを思い付いたのか、ニヤっと笑った。

「じゃあ、今から夕食を食べに行くっす。そこのお代ということでいいっす」

「―――いい案だ」

「はい、わかりました」

 タハハ、と私は苦笑して、支部長室を辞去することにした。もう眠気もそうなんだけど、空腹が限界を越えている。

「……明日、何時でもいい。……来てくれるか」

 去り際にフェイはボソっと私に伝え、私は無言で頷いた。


 セドリックとクリストファーの定宿だという『銀の暴れ牛亭』に席を移す。

「さ、注文するっす」

「―――フフフフフフ」

 二人は店に入るなり黒髪の看板娘さんに、

「まずは煮込み、鍋ごと、っす」

「――オーク(ニャック)、樽で」

 ちょっとまてー! というオーダーをさらっとする。看板娘さんは、気の弱そうな表情を更に暗くして、諦めたように、はい、と小さく応えた。

「あのぅ、そんなに食べられる、飲めるものなんですか?」

 胃袋に空間魔法でもかかってなければ無理じゃないか、そんな量じゃないんですか、これは。

「ああ、これは他の客にも振る舞うっす。半分くらいしか食べられないっすよ」

「―――半分くらいしか飲めないな」

 トーマスならまあ、そのくらいは飲んでるのを見たことはあるなぁ。普通のヒューマンでも飲む人は飲めるものなんだなー。


「おまちどうさま」

 看板娘さんが小さい声で、大きな鍋をそのまま持ってきた。あら、案外力持ちですこと。

「ここはリオーロックスのハーブ煮込みが名物料理っす。ああ、野菜盛り合わせ二十人前っす。白パンを五十個、角チーズ二十個、芋二十人前、ステーキ十人前っす。お嬢ちゃんは?」

 これだけ注文しておいて私に振るのか。呆れつつ、

「じゃあ、水―――」

「―――あーん?」

 クリストファーが斜に構えて私を睨む。え、酒じゃないと駄目? いや私アルコール飲めないんですよ、ドワーフなのに。

「水を十人前っす!」

 セドリックが勝手に注文量を増やす。そんなに水を飲ませてどうするつもりですか。アイアン○ングですか、ガ○ラちゃんですか。


「こちらがお酒と取り皿と」

 本当にオーク樽ごと持ってきた。この看板娘さん、力持ちを越えているなぁ。『シモダ屋』のカーラちゃんとは別種の生き物かもしれない。

 次々に注文した皿が到着すると、テーブルの上には載りきらずに、もう一つテーブルをくっつけるけど、山盛りの料理で、そこも埋まっていく。

「食べるっす」

「―――飲むぞ」

「いただきます……」

 さっきまで空腹のはずだったのに、食欲がなくなる、料理が花咲いたようなテーブル。

 まあ、次の料理も待ってるみたいだし、食べよう!


「むっ!」

 煮込み! 美味しい! 柔らかい! 臭みがない! マイケル以外でこんなに美味い肉が食べられるとは!

 セドリックとクリストファーが私の反応を見てニヤニヤしている。お勧めの料理だものね。それにしても、この二人とパーティを組んでから、二人が私の反応を見て楽しんでいる――という図も、馴染んできている気がする。

 お兄様たち―――というと無骨な二人だけど、まあ兄貴? に囲まれての食事は楽しい。干し肉スープでの食事も楽しかったけど、こういうのもいいな。トーマスとかフェイとか、年齢的にはお爺ちゃんみたいなものだしね。


 あれ、幼女視点で見るのが自然になってきてる……かな……?



―――もうお腹一杯です。食べられません。





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