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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
忘却は忘れた頃にやってくる
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暗殺の後始末

今更な感はありますが、死体や人体に関してグロい表現があります。


【王国暦122年7月7日 6:11】


 静かに撤退、無事にロンデニオン西迷宮に戻ることが出来た。

 一度通信室へ寄って、フェイに短文を送る。『無事に終了、被害大だが生命に異状なし、夜には一度戻る』と。すぐに『……無事の遂行、了解した』、という返信があった。


 その後は各部屋を巡って、消されたスキルの復帰をするために、魔物たちからコピーを繰り返す。

 加速、風走、魔法盾、障壁……。くそっ、アグネスめ、色々消してくれたじゃないか。

 入門用の疑似魔法は戻ってサリーから、筋力強化はカレンからコピーすればいいか。初級以上の疑似魔法を消されなかったのは僥倖だった。

 いやいや、ぶっちゃけアグネスが、私を『ラーヴァ』として短剣用スキルから消していったからこそ倒せた面があるのは否定できない。

 私を魔術師として認識していれば水刃とか風刃あたりから消すだろうし。要するに『スキルキャンセル』スキルで私の能力を削ぐのであれば、もっと遠距離からジワジワ消していく……のが正解だったように思う。私のスキルが多すぎたせいで、継戦能力が失われなかったのだから。

 つまり、私は勝つべくして勝ったことになる。


「ジュリアスはどういう作戦だったの?」

 ちょっとノーム爺さんに訊いてみる。ちなみに字面としては『ノーム』は、正確には『グノーム』なんだけど、『グ(G)』はあんまり発声しないんだと。だから『ノーム』でいいらしい。

《そうじゃの。ジュリアスの坊主は、拘束して土槍を投げていれば勝てると思っていたようだのう?》

 ずいぶんと甘く見られたものだ。

「ああ、じゃあ、未だに『ラーヴァ』は短剣使いだと認識されてるわけね?」

《それで間違いないのう。契約して気付いたが、この国、いや世界で、お主は疑似魔法使いとしては最上位かもしれんのう?》

「スキルとして最上位でも、それが強い魔術師かどうかは別問題でしょ?」

《……驚いた。それが本音で、そのように本当に自覚しているなら、お主が最強かもしれんぞい?》

「別にそんなものには興味はないし。最低限、自己防衛できる強さがあればいいんじゃないかなぁ」

《ほう…………お主なら、儂を使いこなしてくれるかもしれんのう?》

 思わず吹き出した。

「はっ、言われなくても酷使すると思うよ? 楽しみにしてて?」

 ノーム爺さんは焦ったかのように間を空けてから、

《楽しみにしてるぞ?》

 と言葉(意志か?)からは緊張と軽い怖れが伝わってきた。



【王国暦122年7月7日 6:58】


 ポートマットに戻る前に、いくつか処理をしておきたい。

 午前中にはここを出なければならないから、時間はあまりない。


 南西エリア第六階層へ移動してトマトを見に行く。人殺しの直後にトマトの心配が出来る感性が、実に私らしいな、と自嘲しつつ。

「うーん?」

 確かに順調に育ってはいる。だけど、葉っぱやら茎やらが太い。花も咲き乱れているけれど、すごく小さい。

《変わった赤茄子じゃのう。これはツルボケかの?》

「ああ、これが蔓惚けかぁ」

 さすが土精霊、一発で見抜いたね。

 葉っぱやらに養分が行きすぎて結実が悪くなるってやつね。黒いラバーロッド、グラスメイドを呼んで、摘葉の作業に入ってもらう。要するに間引きね。ノーム爺さんによれば、本当は花が咲く直前くらいに追肥をして、それ以前は養分を絞った方がいいみたい。ついでに言えば、このトマト畑は土壌に適当に種を植えてるものだから密生してしまっている。もう少し株同士の間隔を空けた方がよかった。

「苗を育てて、それを植えるようにした方が確実だし管理しやすいかな」

《苗? とは何かの?》

「ある程度種の状態から育てて、元気に育っているのを、改めて土壌や水耕で育てるんだけど……」

《なんとっ! お主天才か!?》

「いや、普通に私がいた元の世界ではやってたよ。この世界ではお米の国ならやってるんじゃないかなぁ?」

《ほうほう、慧眼だのう?》

 土の精霊も知らない農法だったというのか……。いやあ、誰も考えつくでしょ、こんなの。


 南西第十一階層に行って、保管してある石材から少量を確保、十センチ四方の四角に切り出す。円錐台形を被せた形の穴を空けて、そこに土を入れていく。苗床にするポット代わりね。底には小さな穴を四つほど空けておく。苗床はズラッと並べると三百個くらいあるかなぁ。試験だからこんなものかな。

「うーん、肥料はどうしようかな。めいちゃん、スライムの切り身なんて用意できる?」

『……可能です。……分量の指定をしてください』

「あー、うん、二センチ四方でお願い」

『……了解しました、マスター』

 めいちゃんも色々学習しているのかしら。

「苗床にトマトの種を深く入れて……土を被せて、と。……水やりは任せるよ」

『……了解しました、マスター』

 苗が育つ頃にはまた来よう。

《ふむ……手助けはいらんのかえ?》

「何か助言はある?」

《特にはないのう。土壌の改良程度なら容易いぞ?》

「うん、今はいいや。間引きやってるし、そこまで貧弱な土壌じゃないし、追肥もするし」

《そうじゃの。必要になったら言ってくれていいぞ?》

「その時は頼むね、ノーム爺さん」

 名前を呼んだからか、少しノーム爺さんの機嫌が良いみたいだ。別に精霊のご機嫌取りをしているわけじゃないけどさ。

 あー、ビリー・ミリガンとかこういう気持ちだったのかしら。

 当面のトマト畑の指示をめいちゃんに出して、工房へと戻ることにした。



【王国暦122年7月7日 8:41】


 持参していたガラスから流体ガラスを製造して、第十一階層のアバター製造機で、二体のグラスメイドを作る。耐熱ガラスみたいな性質を持たせようと一瞬考えたのだけども、流体ガラスの性質からは改変が無理そうだったので、結局、通常のグラスメイドとして作った。ガチガチに耐熱の魔法を付与するのであれば、ガラスよりはミスリル銀の方がマシ、という事情もある。ついでに言えば『省ミスリル銀キャンペーン』中でもあるわけで、なるべく使いたくなかった。貧乏性がまたまた顔を出した格好だ。


「ノーム爺さん、この迷宮の範囲に、銀の鉱脈とかある?」

《物凄く深い場所にならあるぞい?》

「どのくらいの深さ?」

《今いる場所の二倍ほどかの?》

「わかりにくいねぇ。うーん、地表からだと七百五十メトル地下?」

《というのかの? 人間の世界は何でも単位があるんじゃのう?》

「そうだね。この迷宮が大体、二百五十メトルの深さがあるからね」

《覚えておこうかの?》

「そうして下さいな」

 七百五十メトルか…………。いまの迷宮の地下を掘り進むには危険な深度かも。構造物に影響を与えないようにして掘り進むことが出来ればいいんだけど……。全くの新規に掘ることになるだろうか。これは保留かなぁ。



【王国暦122年7月7日 9:24】


 南東エリア第十階層の、まるごと空きになっている階層へ移動する。

 ちょっと後回しにしていたけれど、飲み込んだ土塊の検分をしたかったのだ。

 一度全部出してから、確認しつつ、少しずつ土を飲み込んでいく。

 装備品、食料、素材は失われたものはなかった。リスト化しているわけじゃないけど、これは間違いない。

 今回、非常に役立った銅弾は、潰れたものばかりが発見された。

「ゴーレムはどうしたかな?」

《土に還ったようじゃの?》

 ふうん。力仕事に使えそうなら使役しようと思ったんだけどな。


「おー、腕があった」

 ミスリル短剣を握ったままの、私の右手が出てきた。とは言っても前腕の半分から先だけ。肘と二の腕は消失している。忌々しいね。

《………………?》

「ああ、別に爺さんに怒ってるわけじゃないから」

 シュン、としているのが感じられた。可愛いところがあるじゃないか、ノーム爺さん。

 右手は何かに使えるだろうか。ガイバ○みたいに手から全身が再生されて、私のクローンが出来る……なんてことはなかった。切り離した部位は活動を停止しているし、そうじゃなければ、破壊時に飛び散った、無数の細胞から無数の私が生まれることになる。自分の毛を千切って吹いて、小さなクローンがワラワラと飛んでいく……西遊記の孫悟空を思い出した。

「うーん」

 右手を右手で掴んでいる違和感……。血の気の無い右手が怖い……と思っていたら、ピクピクと動き出した。

 もしかして、継げたりするかなぁ。

 あははっ、ちょっとやってみようっと。

 今の手首辺りにちょん、と右手を置いてみる。右手オン右手。

「あ」

 ミチミチミチ………と私の手首、置いた方の右手、双方から肉が盛り上がって合体した。


「ゲッ!」


 今の私は梅図先生もビックリの表情だろう。

 右手首から右手首が二つ生えてる。

 これ、服とか袖とかどうすればいいんだ!?

「むむむ……戻れ戻れ……」

 念じまくる………。

 継いだ右手首が小さくなり………元の手首の上に瘤のようになって収まった。

 おー。

 いやあ、片手で剣を二本持てるビックリ人間になるところだった。

 良かった良かった。でも瘤になっちゃったから、隠すものがあった方がいいかしら。でもなぁ、絶対お婆ちゃんやドロシーに心配されるよなぁ。腫れてる、ってことにしておこうか。

 しかしなぁ、継いでみたら継げちゃったけど、そうなってなかったら、それこそ培養して、手だけの魔物(ガブリン)……でも作ろうかと思っていたところだし。凶悪な強さのボス魔物が出来上がったかもしれないけど、制御、支配できるとも思えないので、これはこれでいい結果なのかな。


 図らずしも自分の体で検証することになっちゃったけど、勇者オダの殺害時、首を一発で落としたのは正解だったんだな。今の合体(?)速度から想像するに、手足や内臓だと瞬時に再生されてたかもしれない。意識を絶つ、という意味で、頭部への攻撃が有効ということね。もう一つわかったことは、接合した部分は、完全には元通りにはならない。勇者オダの首には傷跡があったし、私の右手も瘤になっているし。私の方は()()()()形だからちょっと違うケースかもしれない。手を足すっていうのも何か日本語だと変だね。


 さて、他の死体を探そう。


 死体は――――全部で七体あった。アグネス、ジュリアス、ジュリアスの手下が三体、身元不明の男性が二体。一般人を巻き込んでしまったようだ。死体の状態だと、『~の死体』としか出ないから、所属とかわからないのよね。

 アグネスの死体は、首が消失していて、頭部と胴体が分かれていた。

 ジュリアスの死体は、皮と骨だけ。内臓は…………多分土に混ざったね。その辺に投げ捨てたもんね。

 手下三名は魔術師ギルドの人間だろうか?

「ノーム爺さん、この五人って見たことある?」

《此奴らは見たことがあるぞい?》

「五人とも?」

《うむ。こっちの三人は迷宮の中でも見たことがあるぞ。あとの二人は若造の下僕じゃよ?》

「ああ、なら外部の人間じゃないね。その迷宮っていうのはウィザー城西迷宮だよね?」

《この迷宮の南にある迷宮だと思うがの?》

「じゃあそうだね」


 さて、この死体、どうしてくれようかな。どれも割と綺麗な死体なんだよね。不死者に仕立てるにしても……………生前の特徴を備えたままだと死体の身元が判明しちゃう可能性があるし……。

「めいちゃん、不死者を生成するのに、素体誤魔化す、迷宮的なやり方ってある?」

『……提案します。……紋様を施しては如何でしょうか?』

 あ、なるほどね。身体的な特徴があっても体表に模様が付いていたらわからないよねぇ。

 あとは倒されたら自壊するようにすればいいか。

 七体の死体を検分して、お腹の穴など、目立つ傷などは縫い合わせる。死体の改変なんて趣味じゃないけど、証拠隠滅と勿体ない精神の両立のためには仕方がない。

「――――『転写』」

 化粧のつもりで………物凄く怖い模様を全身に施す。あまりに怖いので、どんな模様なのか……口には出せない。


「これは……怖すぎる……」

『……もう一件、提案があります。……精霊魔法が使えるなら、擬似的に外装を付与してみては如何でしょうか?』

「擬似的な外装? って?」

『……魔力で作られた装備のことです』

《ホレ、『土槍』なんかがそれに当たるぞい?》

「ああ…………なるほど……。魔力供給してないと形状を保てない、っていうんじゃなくて、その形に固定しちゃうわけね」

《その通りじゃ。魔力供給をされていた方が経年劣化は抑えられるがの?》

 ふむふむ、言われてみれば、ヴァンパイアたちが着用している服も、どこから取り出したのやら……みたいなマントとかあるし、魔力的に作り出したものでも形状は固定されるものなのか。建築物ばっかりに心を奪われていたけど、服装にだって可能だよなぁ。


『……蛇足ながら。……レシピで作るものは、本来、純然たる魔力だけで作るものでもあります』

 おっと、めいちゃんが補足を……。そうか、素材とかを持ってくるものは、難易度を下げる意味以外にはないわけか。

 その発想なら木剣に近いものは出来そうね。

「不死者の姿形を何とかするなら……『成形』で形を作って……」

《儂が固定するぞい?》

「うん、じゃあ、やってみよう。――――『不死者生成』」

 七体を不死者として生成する。

《すさまじい外法じゃの?》

「ああ、世界の理から外れてるのはわかってるよ。でも、ここは迷宮だから、魔物を作る装置なんだよ」

《正論じゃの?》

 納得したようなしないような。このスキルはユニークだし、疑似魔法でも精霊魔法でも空間魔法でもない。本当に理の外のスキルなんだよね。不死者を作ることが出来る()()は私一人かもしれないけど、巷に不死者は結構いる。魔物ならスキルを持ってることもあるし、ヴァンパイアなんて低級な不死者を作る病気の元みたいな存在だし。

 それを加味して考えても、勇者ヤマグチは結構凄い存在だったんだな。死霊使い、不死者使いに加えて治癒魔法使いか。なるほど、『勇者殺し(ハーケン)』が取り逃がすのも納得か。


 アグネスの不死者生成時には、少し魔力を送ってみた。頭部と胴体がくっつくかと思ったけど、何度やっても元には戻らず、仕方なく頭部を持たせた。

「アグネス・ブリッジ?」

 頭部を小脇に抱えた元アグネスに話しかける。口と気管が分離しているから発声できるはずがないか。一応は目が開いているけど、虚ろな瞳には何も映っていないようだ。対峙した私だからわかるけれど、この元アグネスも、骨と皮だけになった元ジュリアスも、元の魔力波形じゃない。淀んだ不死者のものだ。

「うーん、これは別人かなぁ」

 魂が入っているとは思えない。たとえアグネスの魂が入っていたとしても、ユニークスキルを奪った結果、そのままの形で魂は蘇らないはず。アマンダにはそう教えられてきたし、だからこそ、勇者の殺害とユニークスキルの奪取はセットだったのだから。


 目の前にいるのは、意識のない、低級な不死者(ゾンビ)だ。一度『道具箱』に入れてしまったからか、死亡から時間が経過しているからか、死亡現場から離れているからか…………原因はわからない。

 ああ、アグネスはゾンビっていうよりはデュラハンだよね。姿形を歪められた、腐りつつある、動く肉塊。彼らのなれの果てを見ても、特に何も感じないなぁ。スキルを奪われたことに腹は立ったけど、かえって強化されたからか、憤りも収まっているし。

 うん、彼らには悲しいことだったけれど、私は迷宮管理者で、彼らは敵だった。それだけのこと。

 こういう割り切りの良さも、私が迷宮に囚われている証左なのかなぁ。感性が狂ってきてるのかなぁ。


《………………?》

 ノーム爺さんは肯定も否定もしないし。変なところで空気読むよね。

 土塊を出して、七人にはフルフェイスの鎧と盾、土剣を作った。彼らには全く愛着がないので、デザインはかなり適当で、シンプルなものにした。

《固定するぞい?》

 ノーム爺さんが宣言すると、土精霊たちが、ワーッ、と土装備に群がって、吸着された。土の色が徐々に白く抜けていき、陶器……白磁のようになった。ピカピカ光って(たぶん、上薬の光沢だ)ちょっと格好良い。

「これ、結構いい装備じゃないかい……?」

 惜しいことに、本体が倒された後、装備の一切は消滅するように設定した。本人確認をされると困るし。

 まあ、動きはそれほど速くはないけど、屈強な不死者が第七階層に誕生したことは間違いない。

「新規に生成した不死者は、東北エリア第七階層へ移動をよろしく」

『……了解しました、マスター』

 陶器(セラミック)装備がノーム爺さんの協力で量産できるなら、人間の鍛冶屋だけに頼らなくて済みそう。材料が安いのがいいよねぇ。



【王国暦122年7月7日 10:44】


 さて、ちょっと早いけどポートマットに戻ろう。

 王都にいる今、ティム・カーンも暗殺に行った方がいいんだろうけど、ポートマットに戻ってから接触した方が安全な気がする。暗殺方法については腹案もあるし。

『南B』の転送ポイントから、出て、一気に南下を始めた。



【王国暦122年7月7日 16:23】


 ポートマット西迷宮管理層に到着。

 王都に日帰り出張が可能なレベルで早いわね。

 ケリーたちを呼んで、アグネス、ジュリアス以外の五人の名前を確認してもらう。

「マッ、マスター! この威圧感、まさか最上位精霊…………を従わせているのですか!」

 名前を出す前に、先に驚かれた。あれっ、君らノーム爺さんが見えてるの? おや、『精霊魔法(土)LV1』がみんなついてるじゃないか。おめでとう。


《なんじゃ、あの若造か……?》

「これはっ! 最上位精霊のノームではないですか……! なんて恐ろしいマスター! まさか! ジュリアスめを討滅したと仰るのですか!」

 大興奮のケリーに対して、ノーム爺さんのテンションは低い。

《強い存在には媚びへつらい、弱き者には慈悲の欠片もない……クズじゃのう?》

「ああ、うん、うん、うん……。ジュリアスは殺したよ。クズなんだ?」

「クズです! あの不逞の輩の末路に相応しい! さすがマスターです!」

《クズじゃ。相変わらずじゃのう……?》

 ふむ………。何となく会話が続いているけど、どこも噛み合ってないな。


「まあ、名前言うから、ちょっと聞き覚えあるかどうか、教えてよ?」

 三人の名前は魔術師ギルドの構成員で間違いなかった。あとの二人は、ノーム爺さんの見立て通り、

「ジュリアスの従士かと思います」

「私も会ったことがあります。ジュリアスの実家、家臣の者だと思います」

 と、ハンスとブレットが声を上げた。ケリーは一人で興奮していて役立たず。

「なるほど」

 この三人に加えてジュリアスを失ったことで、魔術師ギルドに武力工作をする実行部隊がついに消えたことが確実になった。ただし、マッコーキンデール卿の個人的な私兵についてはわからない、とのこと。本人の能力もあるから、まだ油断はできない。

 ちなみにミネルヴァは雑用係として扱われているのでカウントされていない。ノーム爺さんの印象にも残ってないそうだ。大事にされてるんだか不遇なんだかわからない扱いだなぁ。ウィザー城西迷宮で私と戦闘になったのがイレギュラーで、本来は直接戦闘をさせないように気配りされている気がするんだけど。考えすぎかな?



【王国暦122年7月7日 16:55】


 工房に入ると、まるでサウナに入ったかのような錯覚……いや錯覚なんかじゃなくてサウナそのもの……だった。

「メイドさんには負担かけちゃってるなぁ……」

 作業を担当しているグラスメイドは、出発前と比べて、さらに形状が甘くなっている気がする。明らかに鼻が低くなってきてるし……。


「おや………?」

 で、そのグラスメイドが製造していたガラスをチェックすると、割れているものがいくつか。透明度もばらつきがある。

「一旦、作業を停止して下さいな」

 指示通り、グラスメイドは手を止める。

「うーん」

 出発してすぐの製品には品質に問題はない。

 逆算してみると…………。アグネスにスキルを奪われた時間辺りから、ガラス製造の精度が落ちていることがわかった。

 要するに迷宮のアバターは、一時的に私からスキルを参照して拝借しているのかもしれない。離れていても影響があるのか……。本当に不思議。

 それにしてもアグネスめ、後々まで悪影響を残すやり方をしてくるとは、本当に腹立たしいね。

「ここから後はやりなおし。ここまではガラスの貼り合わせをよろしく」

『了解しました、マスター』

 接着作業を手伝い、六十枚の完成品を持って、納品を兼ねて地上に戻ることにした。



【王国暦122年7月7日 17:47】


「おうっ! 娘っ子! すっかりガラス職人の顔だなっ!」

「痩せましたかね……?」

 トボけながら薄く笑う。グラスメイドたちが代わりに作ってくれていたのだけど、当の私はガラス工房に籠もっていることになっていたから。

「ああっ! もう少し太らないと、男にはモテないぞっ!」

 大きなお世話だよ……。はにかみながら、六十枚の合わせガラスを納品する。

「早いなっ! しかも恐ろしい透明度だなっ……!」

「魔法攻撃とかに耐える強度ではないので……。設置後に必要なら、サリーに頼んでください」

「サリーっ? ああ、娘っ子の弟子かっ! いろんなところに弟子がいるなっ?」

 そんなにいるかなぁ……。

 工事関係者と騎士団員、合計数十人に私の顔は目撃されて、これにてアリバイは成立と言っていい。どこの誰が、王都との往復十二時間弱で、殺人を実行できるのかと。



――――ここにいますが。





本当に今更でした。この章ではポンポン死体が出るものと思われます。

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