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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
忘却は忘れた頃にやってくる
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爺のレコンキスタ


【王国暦122年7月7日 4:44】


 土槍が飛んでくる。

 盾になるものはない――――。


 左手のバックラーは魔法には有効でも、魔法で生成された物体には盾の意味がない。

 咄嗟に―――手近にあった人物に手をかける。

「あっ?」


ドガガガ!


 アグネスの周囲に障壁が展開されて、その範囲内にいた私の左手は無事だったものの、結界で切り離された。つまり、左手の肘から先が落ちた。


「『道具箱』!」

 銅の弾丸をイメージしながら叫ぶ。

 目の前に現れた銅弾は、両手がないからキャッチできない。マスクの呼吸穴――――口で受け止める。

 アグネスに抱きつくように密着する。

 そのアグネスは、イヤイヤをして、弾かれたように、私に()()()()叫んだ。


「―――『スキルキャンセル:『道具箱』」


―――スキル:道具箱が消失しました


 システムメッセージが流れ、そして――――――。

 数トンの土塊が私、いやアグネスの周囲に出現した。


「ギャッ、わっ、ぷっ」

 思った通り、もう『障壁』は発動しなかった。これだけ長く効果が続いているとなると、これはアグネス自身のスキルではなく、魔道具によるものだ。一定の威力の攻撃からは守ってくれはするものの、いきなり現れた土塊を攻撃だと判定するだろうか。

 生き埋めにされる量の土砂であっても、それは攻撃ではない、と判定されたようだった。

「賭だったんですけどね。おっと、ここが首かな?」

 私の顔はアグネスの長い髪に埋まっていたようだ。少しだけ空気がある。

 私はモゴモゴ言いながら、口に一つだけ含んでいた銅弾を、仮面越しに、アグネスの首筋に口づけるように触れさせた。


「―――『人物解析』」


――――魔法スキル:火球LV3を習得しました

――――魔法スキル:水球LV4を習得しました

――――魔法スキル:風球LV3を習得しました

――――魔法スキル:土球LV2を習得しました

――――補助魔法スキル:魔法盾LV1を習得しました

――――補助魔法スキル:魔法反射LV1を習得しました

――――補助魔法スキル:道具箱LV2を習得しました


「フッ」

『投石』を意識しながら勢いよく吐き出した。

「ひっ」

 短い悲鳴は空気の漏れる音だったか。軽い衝撃のあと、傍らにあったアグネスの肉体がビクビクッ、と震えだした。


―――スキル:強吐LV1を習得しました


 何て名前のスキルだ。センスの欠片もない。

「―――『人物解析』」


――――ユニークスキル:スキルキャンセルを習得しました


 よし、任務完了、後始末に入ろう。

 アグネスの道具箱に入っていたのは少額の現金と、水筒、小汚い魔法杖と、何らかの契約書の束だけだった。本当に極貧だったんだなぁ。

 私には手がないので……遺品はそのままにして、目を閉じて念じる。


「掘る………掘る!」


――――補助魔法スキル:掘削LV1を習得しました


「―――『掘削』」


 ()に向けて掘削。空気穴を作る。

「ぷはっ」

 細かく動いて、落ちた左前腕を、足で探す。アグネスの首なし死体が邪魔だ。

 あったあった。細かく掘削をして、足で取り出す。


 切断面は土に触れていた。このままじゃ雑菌が入ってしまう。

「―――『浄化』」

 殺菌だ。


 ギザギザになっているけれど、お構いなしに切断面を接触させる。ネチャッ、と生肉が触れ合う音が気持ち悪い。

「―――『治癒』」

 光系の治癒を発動。ほぼ瞬時に左手が接着され、右手を意識すると骨と肉が盛り上がって、モリモリ右手が再生される。某人造人間(セル)みたいだなぁ。自分の事ながら笑っちゃう。


「よし」

 戦闘の継続は可能だ。再生された右手を握りしめる。

 アグネスの死体を足場にして、穴から出る。

 と、すぐに土槍が飛んできた。


「――――『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』『障壁』」

「なっ……………」

 ガガガガガガ、と障壁が削られて消失し、また次の障壁がフォローし合い、土槍を受け止めた。一つ一つの『障壁』はアグネス由来のスキルなので低レベルながら、それを数で補った格好ね。


「―――『人物解析』」

 私は、土槍を()()()()続ける男を見た。『人物解析』スキルは半分パッシブスキルみたいなものなので、言わなくても発動するのだけど、ちょっと腹立たしいので呟いてみる。


-----------------

【ジュリアス・ジュリア・オードノギュー】


性別:男

年齢:24

種族:ヒューマン

所属:ロンデニオン魔術師ギルド

賞罰:

スキル:気配探知LV5(魔法) 細剣LV3 長剣LV4

魔法スキル:光球LV5

      初級 光刃LV5

      浄化LV5

精霊魔法スキル:精霊魔法(火)LV6

        精霊魔法(水)LV4

        精霊魔法(風)LV6

        精霊視LV10


治癒魔法スキル:初級治癒LV1(光) 

補助魔法スキル:道具箱LV3 光刃LV1 魔法盾LV5 魔力感知LV5

ユニークスキル:精霊魔法(土)LV10

生活系スキル:飲料水 点火 灯り ヒューマン語LV5 エルフ語LV3

-----------------


――――精霊魔法(火)LV6の習得に失敗しました

――――精霊魔法(水)LV4の習得に失敗しました

――――精霊魔法(風)LV6の習得に失敗しました

――――精霊魔法スキル:精霊視LV10の習得に失敗しました

――――精霊魔法(土)LV10の習得に失敗しました

――――補助魔法スキル:道具箱LV3を習得しました(LV1>LV3)

――――補助魔法スキル:魔法盾LV5を習得しました(LV1>LV5)


-----------------


 ああ、この男がケリーの言っていた高慢ちきな男か…………。土から脱出したせいで泥だらけだけど。

 私の道具箱に入っていた土塊は、道場の建物を内側から破壊して、綺麗に盛り土がされていた。

 日光が眩しい。


「―――『精霊召喚:ゴーレム』」

 ジュリアスは口の中に入っていた土を吐き出すようにスキル発動を指示する。盛り土がみるみる消費されて嵩を減らし、一メトルほどの高さの土人形が形成された。これ以上の大きさでは確かにスピードが落ちる。人体というものを、よくわかっているサイズと言えた。

「いけ! ゴーレム!」

 タタタタタ、と軽快にゴーレムが走ってくる。予想よりもずっと軽やかだ。

「むん!」

 しかし私は土塊の上に手を載せて、『道具箱』に収納してしまう。

「なにっ!!」

 元々私に収納されていた土塊や素材、道具、武器………諸々………が私の道具箱に戻ってくる。無生物であるゴーレムも一緒に。

 いきなり足場がなくなり、三メトルほどの高さから落下する。穴は四角く………元の敷地を大きく抉っていた。

「―――『風走』」

 落下に備えてホバークラフト発動。


――――魔法スキル:風走LV1を習得しました


 忌々しいことにLV1に戻っていた。入門用魔法スキルが派生魔法系統樹の基本なのだと改めて思い知る。

「っ!」

「うがっ!」

「ぎゃっ!」

「うわっ!」

「ってぇ!」

 魔力感知によれば、探知範囲に、この四人以上の魔術師はいない。ここで伏兵―――たとえばマッコーキンデール卿―――がいたら詰む。お願い、これが全員であってほしい!


 落下の衝撃は最小限に抑えられた。

 着地して、即、ジュリアスを狙う。銅弾……はしっかり『道具箱』に入っていた。残り九発を取り出して右手に握る。


「――――『投石』」

 呟きながら散弾のようにぶっ放す。そしてジュリアスに向けてダッシュ!

「くっ! ノーム! 守れ!」

《ふむ……?》

 また老人の声が聞こえる。

 ジュリアスの前に厚い土壁が生成される。


ドン! ドン! ドドドン!


 貫通力を増した投石―――投げたのは弾だけど―――が、たやすく壁を打ち砕く。

 壁で確かに投石の直撃は避けられた。

 しかし、土壁の破片は避けられなかったようだ。


「かっ…………」

 それでもかろうじて頭部への直撃は避けたのだろう。その代わりに脇腹から出血していた。いや、脇腹が欠けていた。

 直進を続けていた私は、小さな背丈を生かして、立ち上がろうとしていたジュリアスの懐に入り込む。

「ッヒッ」

 手持ちの武器はない。右の手刀を脇腹の傷に差し込む。

 グチャッ、ヌルッ、と柔らかい何かと堅い何かに当たる感触。

 こちらの手も、向こうの肋骨に当たって無事ではない。鈍い痛みが走る。

 だけど、右手を失った時の痛みは―――一瞬過ぎて痛みもなかったけど―――こんなものじゃない―――ということにしておこう。

「―――『土球』」

 ジュリアスの内臓の結合が緩み、溶けて、私の右手に土……じゃないと思うけど……が集まる。

 土球は発動させずに、そのまま手を引き抜いた。

 右手には赤黒い肉の玉が握られている。


「………………」

 肺や心臓を含む、内臓の一切合切を失ったジュリアスは、単なる皮袋だ。虚ろな視線を私に向けて、パクパク、と口を動かした。その口臭は汚物の臭いがした。それでもスライムの死体に比べれば芳香のようなものね。

 同時に、ジュリアスが自身の『道具箱』に入れていた物品がぶちまけられた。


《おや…………死んでしまったのう…………。土の娘よ、どうするね? お主には儂と契約する権利……いや、義務があるが?》

 老人の声だ。ノームとか言ってたなぁ。ああ、土の精霊の親玉か。

「押しつけがましい話だけど断れないんでしょう?」

《まあ…………その通りだのう……。儂も生意気な男より、生意気な娘と契約したいしな?》

 娘ね。私の中身、オジサンかオバサンかもしれないよ?

 そんなことを考えて、思わずクスッと笑う。

「契約しましょう。ノームよ」

《うむ……なんじゃ、その笑みは?》


――――土精霊ノームと契約しました

――――スキル:精霊魔法(土)LV10を習得しました

――――スキル:精霊視LV10を習得しました。


「早速、そこで伸びてる魔術師ギルドの連中を始末してくださいな」

 ノームの姿が見える。土で作ったドワーフの人形みたいな姿をしている。

《なかなか冷酷じゃの……『土槍』でいいかの?》

「何でもいいです。一発で殺せるなら」

《土槍よ! 穿て! でいいかの……?》

 私の周囲………に茶色と緑色の斑模様の精霊が集まり……ざわざわ……とお互いに会話をしたかと思うと、土槍が形成され、すぐに飛んでいった。

 三方向に放たれた土槍は、それぞれ、四角い穴に落ちていた魔術師ギルド員のお腹に穴を開けた。

 声も出なかったね。

 お願いしてみてわかったけど、ノームに頼んで使ってもらう魔法と、自分が精霊たちに頼む魔法があるみたい。どちらも精霊たちがやることには変わりないんだけどさ。


―――補助スキル:加速LV1を習得しました

―――補助スキル:筋力強化LV1を習得しました


 ちっ、碌なスキルを持ってなかった。

 失われたスキルを補填したい、と、またまた本能が叫んでいる。

 とりあえず………周辺の証拠隠滅を図っておこう。四角い穴の周囲を削る形で四方に向けてスキルを発動する。


「―――『掘削』」

――――補助魔法スキル:掘削LV6を習得しました(LV1>LV6)

――――補助魔法スキル:道具箱LV7を習得しました(LV3>LV7)


「―――『掘削』」

――――補助魔法スキル:掘削LV9を習得しました(LV6>LV9)

――――補助魔法スキル:道具箱LV9を習得しました(LV7>LV9)


「―――『掘削』」

――――補助魔法スキル:掘削LV10を習得しました(LV9>LV10)

――――補助魔法スキル:道具箱LV10を習得しました(LV9>LV10)


「―――『掘削』」

――――ユニークスキル:限界突破が発動しました

――――補助魔法スキル:掘削LV12を習得しました(LV10>LV12)

――――ユニークスキル:限界突破が発動しました

――――補助魔法スキル:道具箱LV13を習得しました(LV10>LV13)


「よし……」

 そうか、『限界突破』スキルがこんなところで役に立ったか。失う前より強化された気がする。

 軽く周囲を見渡す。『掘削』は何も指定しない場合、残土を『道具箱』に入れるのが基本。

 これで……一度『道具箱』スキルの消失で排出された物資類も完璧に戻せたかな。串刺しにした魔術師どもが拾っていたとしても、死亡時に中身が出てるから一緒に回収出来たはず。アグネスやジュリアスやらの死体も込みだけどね。


 道場の周囲にあった住宅も被害を受けているだろうけど、もはや知ったことじゃないな。コトを大きくした魔術師ギルドを恨むがいい。周辺住民の死体も入っているかもしれないけど……。安心してほしい、迷宮で再利用するから無駄にはしないわよ。


「―――『加速』『隠蔽』」

 ここまでだ。迷宮に戻ろう。

「ノーム爺さん、上まで上げて下さいな」

《やれやれ……ホレ、これでいいのかのう?》

 四角い大穴の底にいた私の体が、下からエレベーターのように盛り上がった土で地表に出る。

 これは………ノーム爺さんを酷使したらいろんな建物が出来そうだなぁ。

《おいおい……程々にしてくれんかのう?》

 何だ、ケリーたちと一緒で心の声も聞こえてるのか。

《念話のつもりでいてくれれば良いぞ?》

《ああ、なるほどね、こうすればいいのね》

《うむ。思ってることが筒抜けというわけではないぞ?》

 よかった。私の妄想に爺さんがツッコミ入れてくるのかとヒヤヒヤしちゃった。



【王国暦122年7月7日 5:31】


 周辺に私がいた痕跡が残っていないか検分して、安全を確認した後、迷宮に向かって歩きだそうと歩を進める。

「……………!?」

 と、そこに、四角い穴に向かって、そこそこの魔力の持ち主が近づいてきているのに気付いた。その魔力の主は、一定の距離になったところで止まり、それ以上は近づこうとしなかった。


《これ、マッコーキンデール卿かな?》

《おそらく、そうじゃないかのう?》

 ということは、襲撃に気付いて助太刀に来ようと思ったら既に終了していて、様子を窺ってるってところか。接近して殺っちまうか?

「っ」

 頭痛が始まったか。腕の修復と再生で相当魔力使ったしなぁ……。このまま対峙して殺しておきたいけれど……。

《儂と契約して間もないのじゃからのう。今戦っても望み薄じゃろうな?》

《うん、精霊魔法の専門家が言うなら間違いないなぁ》

 撤退だ。

 静かに離れよう。


《それにしてもノーム爺さん、今まで敵側(むこう)にいたっていうのに、寝返った格好になったけど、思うところはないの?》

《ないのう。儂は最上位の精霊、()()()()の一つでしかない。契約した相手に従うのみ、じゃよ? 征服されるのは吝かではないがのう?》

《必要なら諫言もしてくれるということね。あれ? でもさ、疑似魔法を習得していると精霊魔法は覚えられないんじゃないの? 実際、拒否されたよ?》

《儂は土の精霊では一番偉いんじゃ。一人しかいないんじゃよ?》


 ああ!

 そうか、ユニークスキルだからか。だから習得できたのか。

《いやでも、ちょっと待ってよ、ユニークスキルって、召喚者だけに存在するものじゃないの?》

《召喚者? ああ、異世界の魂を持った者たちか? いや? そんな縛りは聞いたことがないのう?》

 何てことだ。

 真っ当な現地生まれの現地人にも、ユニークスキル持ちは存在するのか! じゃあ、アグネスは…………。


《よく考えてもみよ。種族スキルだって、ユニークスキルの一種じゃろ? 後天的に習得する輩もいるぞい?》

《まあ、そうかもしれないけど……。おっと、迷宮に着いた。中に入るよ》

《儂は穴蔵に籠もるのは好きじゃよ?》



――――土精霊だもんな、そりゃそうだろうよ……。



ちなみに、御大の作の方は、レコン ギ スタであります。

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