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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
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討伐隊の帰還


 ワクワクしながら、今か今かと、エレクトリックサンダーを召喚した存在の登場を待ちつつ、夜の森の探索は続く。

 しかし、待っている時には相手は現れないもの―――という、何とかの法則が発動しているということか。


 ちなみに横並びの順番は、左からセドリック、私、フレデリカ、クリストファーだ。私が一番襲撃の的になる可能性が高いと推察されると同時に、単独でも何とかなる。他の誰かが襲われた時は私が後から駆けつける。つまりは、襲撃に備えたシフトだ。

 緊急事態を告げる合図は、アクティブの『気配探知』を使うこと。探知されたのがわかることを利用しての合図だ。


 しかし――――。来ないなー。

 高レベル魔物も、召喚者も姿を見せない。

 今歩いている場所はヘベレケ山に近い。位置的には、元狼の巣だった場所よりはポートマットに近いくらいで、ここで高レベル魔物を呼ばれると、街に逃げ込まれた場合は被害が出る可能性がある。


  おっと、東の空が明るくなってきた。夜明けかな。騎士団の連中は夕方に仮眠取ってたみたいだけど、体力、気力ともに辛いだろうなぁ。

「フッ、朝日が目に沁みるぜ……」

 だなんて言っていると、セドリックからのアクティブ『魔法探知』が二回発動された。

「一度、巣に戻って合流、か」

 面倒臭いなーほんとに。

 予定の探索範囲は異常なし。召喚した存在が余計なことをしなきゃ、最初から平和だったんじゃないか。アホらしい。


 私たち四人が急反転すると、アーロンだろう気配も、慌てて反転を始めた。

 んー、魔物と間違えたことにして、落雷でも一発撃っておこうかな?

 まあ、本物の勇者殺しである私には、もちろん監視される理由があるから、別に怒りはしないけどさ? 助け船まで出してくれたセドリックとクリストファーにしてみれば、騎士団側が私たちを監視をするのは、恩を仇で返す行為じゃなかろうか。

 二人が大人しくしている間は、私も追撃をかけることはしない。スネに傷を持つ身なもので。


 巣に戻ると、騎士団の面々はすでに集合していた。北や西方向はすぐに他の領地になるから、越権になる可能性もあるので早々に引き上げたのだとフレデリカがそっと補足してくれた。

「諸君、ご苦労だった。脅威は取り除かれた――――と判断する。これより町に戻り―――安全宣言を行おうと思う。冒険者のお三方―――協力に感謝する」

 アーロンが声高々に宣言すると、セドリックとクリストファーは気怠げに手を挙げて応じる。


「お二人はどうしますか? 寝不足ではありますけど、すぐに戻りますか?」

「そうっすねぇ」

「―――まだ昼前だ。直帰してゆっくり宿屋で休んだ方がいいだろう」

「はい。わかりました。お供します。じゃ、フレデリカさん、またね」

「あ……ああ。また」

 部下や上司の目があるからか、フレデリカの語尾の乱れは少ない。手を振ってフレデリカと騎士団に別れを告げる。

  騎士団の連中はまとまって移動するようだ。練度は悪くないみたいだけど、総じて実力が低いというか。根本的に訓練メニューが間違ってるんじゃないか、というのが、私の騎士団への印象だ。


「お嬢ちゃん、いくっす」

「はい」

 セドリックに促されて、最速で森を駆け抜ける。移動速度は、最初にここに来た時よりもずっと速い。遠慮がなくなってるということと、今さら実力を測ろうとはしていないからだろう。単純に早く帰りたいだけかもしれないけど。


「―――何か! 理由があったとしても!」

 走りながら、クリストファーが叫ぶように言う。クリストファーにしては大声を上げている。

「―――だからと言って! あの場にいた全員を! 攻撃しようとしていた奴は! 許せん!」

「そうっすねぇ! お嬢ちゃんには! 心当たりはあるっすか!?」

 セドリックも声をあげる。

 ありまくりです、と答えることは、私が勇者殺しの犯人だと言ってることと同義なので……。魔術師らしく誤魔化しておこう。

「二回とも! いきなり! 出現しましたよね! あれは! 召喚魔法じゃないかと! 思うんです!」

「―――魔術師には! 感じるものが! あったのか!?」

 このままでは全員の喉が嗄れてしまう。ので、私は速度を落とした。他の二人も急停止に近い止まり方で速度を落とす。


「ええと―――。そういうやり方が可能なのかはわからないんですけど―――特定の場所から特定の場所に、魔法陣を描いておいて、そこに向けて転送したのではないかと」

 仕組みそのものは、ウィザー城などで見た、空間移動装置そのままだと思う。可能かどうかわからないとか言っておきましたけど、可能ですよ。

「ああ、召喚陣とか転送陣とか言われてる奴っすね」

 軽く息を整えながらセドリックが補足する。

「現れたのは転送か召喚、って理解は出来るんですけど、同時に魔物を使役することって可能なんでしょうか?」

「―――どういうことだ?」

「召喚後に襲撃せよ、って命令されてたわけで、そんなスキルはあるのかな、と」

 この世界にならあるかもしれない。けど、あんな高レベル魔物を操れるスキルは、残念ながら見たことがない。

「うーん、聞いたことはないっすねぇ」

「―――うむ」

「あー、でも……そうか、迷宮産かも知れないっす」

 セドリックがポン、と手を打って思いつきを口にする。

「迷宮……産? ですか?」

「そうっす。迷宮産まれの魔物には、迷宮管理者に従う因子が出来る……とか聞いたことがあるっす」

「は~。なるほど~」

 面白い着眼点だと思う。つまり、元々命令に従う魔物を、何らかの手段で転送したのではないか、ということね。それが迷宮によるものであれば、辻褄は合う。

「ただ、迷宮管理者っていうのを見たことがないっす」

 ははは、とセドリックが乾いた笑いを見せる。クリストファーも肩を竦める。

 この世界には魔法などと、元の世界の常識では考えられない現象が実際に起きている。であれば、迷宮産の魔物を操って(けしか)ける存在がいないとは限らない。

 これは実際にスキル、もしくは持っている人を見てみないと何とも言えない。


「―――迷宮に管理者なんているのか?」

「王都の迷宮なんかは半自動らしいっすよ。支部長とそんな話をしたことがあったっす」

「じゃあ管理者不在なのに、生きている迷宮もあるんですか」

「詳しくはわからないっす」

 申し訳ないっす、お嬢ちゃん、とセドリックが謝る。

「いえ、謝ることじゃないです……。あの場にいた全員を攻撃した、って話ですけど」

 二人の視線が私に向く。

「ワーウルフ騒動も含めて、何か試していたような気がするんです」

「―――試していた? 何を?」

 勇者殺しをあぶり出すためかもしれない。

「わかりません。ただ、召喚魔法を使える者は稀少とも聞きますから、そう何人もいるとは思えませんし―――騎士団長が直前に王都に呼び出しを食らっていたということを合わせると―――」

「魔術師ギルドの連中かもしれないっすね。そいつらが仕掛けてきたかも、ってことっすね」

「―――しかし、何故……ああ、あの噂は本当だったのか」

「噂って……『ラーヴァ』っすか」

 そうそう、とクリストファーが静かに頷く。

「ラーヴァ?」

 勇者殺しがそう呼ばれている、ってフェイが言ってたなぁ。厨二全開で恥ずかしいなぁ。っていうか、それって私のことじゃんね? ちょっとドキドキしちゃう。


「一部の冒険者……には有名な話っす。勇者として召喚された人物を、召喚直後に殺して回ってる、とか言ってたっす。その暗殺者の通称らしいっす」

「―――しかもそれは一人じゃないとか、もう二十年以上も続いているとか」

「金髪女性とも、金髪幼女とも、魔族とも、霊的存在とも……正体不明っすね」

「へぇ~」

 私は興味深そうに、一応聞いてみてるけども、驚くほどに正確な『噂』じゃないか。この二人がカマをかけてる気がしてきた。私がシッポを出すのを待っているのかな?

「ええ? 女性なんですか?」

「そうらしいっすよ。でも、認識阻害の魔法は存在するっす。だから皆、額面通りに捉えてないんじゃないっすか」

「ほぇ~」


 認識阻害の魔法はあの金髪カツラに魔法陣が刻まれている。

 なるほど、天井裏に潜んでいた時や、これまでに召喚魔術師の姿をハッキリ捉えられず、スキルをコピーできなかったのは、そういう理由もあるのかも。そりゃ、向こうが使えない理由はないよね。

「―――つまり、俺たちの中にラーヴァがいるのでは、と疑われていたわけだ」

「それなら全員が攻撃されるのも、納得したくないっすけど、納得できるっす」

「はぁ~。迷惑な話ですねぇ」

 シレっと私は言う。ゴメンゴメン、巻き込んで。

「ホントっす」

「―――まったくだ」

 三人とも微笑を浮かべたけれど、セドリックとクリストファーの腹の中はわからない。二人がフェイに近い人物であれば、私に関して何か聞いていることがあるかもしれない。でも、それを問うのは藪蛇というもの。


「あ、街道ですね」

 話しながら歩いていたら、街道へ出たようだ。石畳が南北方向に延々と伸びている。


「結局、支部長は他の冒険者たちを再出発させなかったんですね」

「増員しないと思ってたっす」

「―――そんな無駄なことはしないだろう」

 この三人で十分だ、という判断なのかな。信頼されてるんだか放置されてるんだか。

 それにしても、セドリックとクリストファーの自信ある態度は、同じ冒険者として頼もしい。私が試行錯誤しながらスキルを使っているのに比べて、使いこなしている感がある。上級冒険者は単純に凄腕なだけではなく、中級以下の指導係の意味合いもある。それをこなしているからこそ、彼らは尊敬されているわけだ。


 そうだなぁ……兄者たち! という感じ? 実際の精神年齢―――元の世界での人生も含めて―――からすると、私の方が、多分、ずーっと上なんだろうと思う。だけど、彼らがこの世界で暮らしてきた重みは、私の軽薄なチートよりもずっと確かな物に思える。

 自己否定じゃないけれど、矜恃が溢れ出る、二人の上級冒険者は、側にいて眩しい。

 多分! 多分だけど、これはゲイの発露ではなくて、有名スポーツ選手に憧れるのに似ているような気がする。エドワードたちも、同じような感じ方をしているんじゃないかなぁ。


 街道に出てからは南へ。木々を縫っての高速移動に比べると、石畳で舗装されている街道の道は天国だ。ゆっくり歩いているつもりでもペースは上がる。

 巣を出たのが昼前くらい。今は夕方で夜ちょっと前、くらいの時間なので、行きよりも相当に早いペースで復路を走破したことになる。


 ポートマットの淡い町の灯りが見えてくると、急に現実の中に戻ったような、これまでの討伐遠征が夢だったような気もしてくる。

「もうちょっとで到着っすね」

「―――ああ。腹は減ったが―――先にギルドだろうな」

「はい」

 私もお腹は空いていたけど、安全宣言やエレクトリックサンダーの件を考えると、報告を待っているだろうフェイに会いに行くのが先決だと思う。


 北門に到着すると、門番に話し掛ける。

「討伐から帰還したっす。騎士団の皆さんも後から来るっす」

「おお、セドリックさんじゃないですか! そうですか、ご無事で」

 ワーウルフじゃ命の危険はないと思うけどねー。門番の顔からは緊張が取れて、見た目にも柔和になった。騎士団でもセドリックとクリストファーは有名人なのかな。

 門番に手を振って、北通りを南へ走り抜ける。

 ロータリーまで来ると、

「帰ってきた……」

 と思わず独り言。やっぱり私の帰巣本能はこの周辺に向いているみたい。

「そうっすね」

 セドリックが苦笑しているのがわかる。

「―――いくぞ」

 と短く言うクリストファーの言葉からも険が取れて、緊張感のなさが伝わる。


 冒険者ギルドは、夕方の依頼達成報告ラッシュも過ぎて閑散としていた。いや、ワーウルフ騒動で初級依頼を遂行する人間自体が減っているのかもしれない。

「あら、おかえりなさい」

 受付に残っていたのはベッキーだけだった。

「ただいまっす」

「―――ただいま」

 なんだなんだ、その『お袋、帰ってきたよ』みたいな表情は……。ベッキーさん大人気だなぁ。

「ただいまです。ええと、支部長は……」

「支部長室で待っていますよ」

 ベッキーは慈母の笑みで言う。お、おかあさん……。おおっと、私までベッキー母教に入信するところだった。

「はい、ありがとうございます」


 勝手知ったる冒険者ギルド、私たちはベッキーにお辞儀をして、支部長室へと向かう。

「……ご苦労だった」

 私たちが戻ってきていたことは、パッシブの『気配探知』でわかっていたのだろう。部屋の扉前でフェイは待っていた。威厳はないけど、こういうフットワークの軽さがフェイの良いところなのかも。

「ただいま戻ったっす」

 セドリックの晴れやかな顔。

「―――戻りました」

 クリストファーのやり遂げた感のある顔。

「ただいま戻りました」

 二人の顔色を見てから表情を作る私。ちょっと疲れてるかな……。

「……うむ。中に入ってくれ」

 フェイが自ら扉を開けて、中に入るように言う。



―――お腹空いたなぁ……何か食べたいなぁ……。


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