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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
人はそれをドボジョという
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山歩きの研修4


【王国暦122年7月2日 6:14】


『魔力感知』によれば、六人の魔力波形は把握してあるので、誰がどのように動いているか、というのは何となくだけどわかる。

 大体の感情の発露も、とてもアバウトながらわかる。うん、とてもアバウトに。


 私は昨日の月光草が観察できる場所に陣取って、マントを敷物にして座り込んだ。今日は一日月光草の観察をする予定。


「んっ」

 サリーが『魔力感知』をアクティブで使った。続いて……これはジゼルの『気配探知』か。アクティブで使ったのかな。もう一回サリーが『魔力感知』を使った。

 この二つのスキルは、先に覚えた方に適性がある、と俗説ながら言われている。つまり、先に『魔力感知』を覚えたら魔術師の系統、『気配探知』を覚えたら物理攻撃職系統になる、と。

 その意味では私は物理攻撃職なんだけど、両方使える人も別に珍しくはない。元の世界で言えば、ボールペンと毛筆くらいの差というか。うーん、結構違うかな、それって。


 野営地に残った六人は、二名ずつの三組に分かれて行動を開始した。サリーには私の位置がバレているので、何かあれば呼び出しが来ると思う。そもそも『通信端末』も持ってるんだけどさ。私が六人を(一見)放置した意味は理解できてるはずだから、余程の緊急事態でもない限りは連絡は来ない。


 さて、三組のうち、一組は火の番兼お留守番。ちゃんと二名残したところが偉い。これにはフローレンスとジゼルが就いた。

 他の二組は食料の調達。えーと、サリーと一緒にいるのがダフネかな。ペネロペとは双子なので波形も似てる。似るものなんだよね。そのペネロペはレックスと行動している。

 この人選、フローレンスが音頭を取って主導したかどうかは気になるところだけど、概ね正解の組み合わせだ。サリーかペネロペが意見具申をしたのは間違いないところ。だけど、それを受け入れて決定したのなら、それはフローレンスの意志だ。名前の通り、花を持たせた形になればいいのだ。



【王国暦122年7月2日 7:39】


 観察を続けている月光草は、これまた興味深い生態が発見された。

 日光が射してきた途端、まるで休眠するかのように活動が穏やかになって、魔力吸収を止めた。

 漏れ出す魔力もなく、魔力感知だけで見ている分には、普通の、葉っぱに毛の生えた植物でしかない。


「ふむ………」

 発光の仕組みそのものは、どうやら二系統あるみたい。

 純粋に日光を蓄光物質に蓄え、暗くなってから光る。もう一つ、蓄えた魔力を消費して光る。ただし後者は吸収しきれなかった魔力が漏れていて、可視光線レベルにまで高まってるだけという見方もできる。

 魔力吸収は、明るくなると止めちゃうみたい。で、暗くなると魔力吸収を再開すると。

 うーん、ずっと暗かったらどうなるんだろうねぇ……。


 立ち上がって月光草の周囲を手掘りしてみる。

 と、結構根が深い。

 複数の根が……地下茎で繋がっているようだ。

 いや、これ、球根だわ。分球して一見繋がってるように見えるだけかも。

 へーへーへー。

 タマネギみたいな格好じゃなくて、お芋に似た球根ね。これだと土に植えた方がいいのかしら。水耕栽培できると便利なんだけど……。

 植えられていた土を観察する。栽培に適した土壌は、と言えば、岩場を好む植生で、乾燥、とは言わないまでも、水はけのいい環境ね。

 水耕栽培が可能かどうかはやってみないとわからない、か。

 分球が出来れば大量に確保できそうだけど。両面作戦で行ってみるかなぁ。


『魔力回復ポーション』を作るには、あとタマスの肝が必要なんだけど、この材料は凝固剤というか安定剤に相当するので、『水薬(ポーション)』という形態に拘らないとすれば、他の添加剤を用意する必要がありそう。


 往々にして魔力回復ポーションを飲む時は、『やべえ、魔力足りねえ!』とピンチの時にサッと飲めることこそが肝要なわけで。錠剤や粉薬のような、乾燥している状態よりは、水薬、もしくは半生? のような、人体への吸収が速やかになるような形態の方が望ましい。

 それに、体力回復錠剤の初期製造品を試供用にばらまいた時には、効果が高すぎて鼻血続出だった、ということを考えると(こちらは媚薬でもあるので)濃度も考えないといけない。

 つまり、形態の決定と濃度の調整が一度に行えるような添加剤がいいわけだ。

 まあ、月光草の栽培が成功して、粉状の『魔力回復剤』の精製が安定して製造できるのが先かな。


 十本ほどの球根を採取して、穴を埋め戻す。群生地に生えている数の1/4を採った格好だ。

「んっ?」

 球根にも魔力が溜まってるのが感じられる。

 もしかして、だけど、葉っぱを加工するんじゃなくて、球根を加工した方が効率よかったりするのかしら。

 これも要テストかな。

 ふふっ、オラ、ワクワクしてきたぞ!



【王国暦122年7月2日 8:43】


 少し移動して周辺を探索する。

 もう一つ、月光草のコロニーを見つけた。

 崖の岩場の危険な場所に、儚げに群生していた。

 何だかわざわざ、植物として厳しい場所を選んでいるような、そんな気さえする。

 このコロニーの月光草も魔力吸収はせずに、おとなしく日光から隠れていた。

 岩登りをしながらコロニーに近づき、球根を採取した。球根は『道具箱』には入れず、腰に下げた袋に。

 コロニーの半分は残しておこう。

 もう一カ所くらいあるといいんだけど……。

 生息域が明らかに減ってる印象がある。冒険者ギルドの方で、依頼や買い取りを止めて貰わないと月光草は増えないだろう。


 さて、野営地の方はどうだろうか。

 おや、中型の獣が二匹、野営地に近づいてるね。狼だね。夜じゃなくて今頃来るなんてなぁ。

 戻ろう、と思ったけれど、サリーがもう動いてるや。

 動き速いな! 『風走』使ってるね、これは。


「!」

 サリーが魔力を練り始めた!

 山の中で、狼に対して発動する大きさの魔法じゃない。

 ええい、若い子は加減を知らないわね!



【王国暦122年7月2日 9:26】


 ダッシュでサリーに向かう。

 途中でサリーは私に気付いたようで、魔力を練ることを止めた。

 魔力という名のプレッシャーを与えられた狼の方はといえば、生物の本能で危険を感じて逃げ帰ったようで、それもあって魔法の発動をしなかったのだろう。

 と、そこにサリーから短文が入った。えーと何々、『大丈夫です、『威圧』を覚えていないので魔力を練って脅しました』とさ。なるほどねぇ。

 こうやって放置するのも我慢というか根気がいるんだよね……。本質的に私は過保護だし……。

 グッと唇を噛みしめて、『了解、任せるよ』とだけ返信しておいた。

 まったく、出来の良い弟子っていうのも可愛げがないわね。

 私は遠くのサリーに笑いかけて、月光草の探索に戻った。



【王国暦122年7月2日 11:57】


 野営地の方は、食料の採取に行っていた面々が戻ってきて、食事の準備などをしている様子だ。

 私も何も食べてないなぁ……。

 お、クルミ発見。しかしまだ青いか。

 あとは……桃かな、これも果実が青いなぁ。

 ブルーベリー。これはまあいける。酸っぱい! けど食べちゃおう。

 お、カナブンみっけ。後で調理しよう。

 森の恵み的には秋の方が多いんだなぁ。アケビみたいのってあるのかしら。あれこそ東アジアだけかなぁ。

 小鳥を三羽ゲット。これは火を熾さないとだめね。

 よし、食事にしようっと。



【王国暦122年7月2日 15:22】


 岩場っぽいところばっかり重点的に動いているからか、食材っぽいのはあまり見つからない。代わりに月光草のコロニーはもう一つ見つけた。

 影が長くなってきたから、夕方に入って暗くなるところの生態は見られそう。

 野営地の方が気になる……。ちょこちょこ誰かが離れて採取したり、薪を採ったりしてるみたい。大慌て! という感じではないので放置推奨といったところ。

 ………ちょっと寂しい……。



【王国暦122年7月2日 18:23】


 太陽が落ちて、代わりに細い月が光り出した。珍しく晴天で、雨の代わりに星が降ってきそう。

 月光草は想定通りに活動が再開された。魔力吸収を始めたのだ。

 と、同時に、緑色の光を淡く放ち始める。

 試しに葉っぱをすり潰して、その辺の岩に塗りつけてみると、元の世界にあった蛍光塗料のように淡く光り続けた。一時間も光ったところで、やがて淡い光が消える。

 そこで魔力を送ってみると、再度光り出し、今度は二時間ほど光ったところで消えた。送る魔力量によって違うみたいだ。

 今度は『光球』を出して蓄光させてみる。と、日光ほどの光量ではなかったからか、三十分もしないうちに淡い光が消えた。

 街路灯の代用として使えるんじゃないか、と思っていたのだけど、それにしてはちょっと発光時間が短すぎるか。

 もう一工夫必要そう。

 そういえば、迷宮の壁も淡く光っているのだけど、それは『壁面強化(迷宮専用)』というスキルに内包されている。耐火、耐水、耐衝撃、耐魔法と蛍光がセットになっている。つまり魔法的に光っている。

 月光草の方はといえば、魔力を使って魔法的に光っているのとは別に、化学的にも光っている。夜に頑張りすぎの植物なんだなぁ。


「ああ………」

 月光草が何で娼婦の隠語なのか、やっとわかった。

 昔の人は上手い喩えをしたものだ。



【王国暦122年7月3日 3:15】


 今夜もちゃんと二人一組で巡回しているようだ。

 そろそろ野営地に戻ろう。

 じゃあ、お土産を何とかしないと。手ぶらじゃ戻れないじゃん?

『暗視』を使い、野営地より少し下った位置で採取を開始。

 先ほどの岩場とは違って、もう少し豊富な食材が手に入る。


 コケモモ(これもベリーなんだよね)、ラズベリー、可食キノコ。

 タンパク源が足りませんな。

 コウモリが逃げるように飛んでいくのが見えた。コウモリは……食べるものによって味や臭みに違いが出るから、初心者にはお勧めしない。というかグリテンのコウモリは美味しくないです。

 もう少し明るくならないと小鳥は動かないから採りにくい。フクロウはいるけど、森の王者なんだよね。生態系に影響がありそうなのでパス。不思議なことにリスがいない。まさかとは思うけど…………。狩り尽くしたとかじゃあるまいな?


「んっ?」

 山芋を半端に掘った跡があった。下半分を取り出しておこう。

 お土産としてはこんなものかしら。小鳥はいいや。



【王国暦122年7月3日 5:00】


 野営地に戻る。

「おかえりなさい、姉さん」

 って、全員が起きていた。

「あれ、寝てなかったの?」

「順番に寝ましたよ。寝不足ですけど――――」

 レックスがギラついた目で嗤った。

 え、なに、この野性味は?

「姉さんが遠くから見守ってくれている。サリーが教えてくれましたわ」

 フローレンスが自信に満ちた目で私に報告する。無事に生き延びましたよ、と。

 サリーも、ペネロペも、ダフネも、ジゼルも。

 たった一日でどこかたくましくなったような……。

 いったい何があったのかしら……。



――――まさか精神と時の部屋に入って修行していたとか……?





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