公衆浴場のお披露目
【王国暦122年6月29日 6:55】
昨晩は四人組を四人の(四つの)ベッドに分けて、二人ずつ寝た。
私が、恐らく一番の問題児であるフローレンスと一緒。フローレンスはさっさと寝息を立ててしまい、なかなかの図太さに感心してしまった。ドロシーが足の長いジゼルに体型のことで愚痴りながら寝ていた。ペネロペとダフネは二人で寝たい、と言ったので、自然とサリーとレックスが同じベッドになったんだけど、思春期直前の二人がベッドを共にするのは、きっと最後なんだろうなぁ、と思いつつ、この同衾がレックスの性的嗜好にどんな影響を与えるのか……お姉さんは楽しみだよ……。まだ間違いはないと思うけどさ。あったらあったでレックスの男気を褒めてあげたいところ。
赤い目のレックスとサリー(二人ともよく寝られなかったらしい。理由は推して知るべし)、四人組とドロシー、シェミーはお店へ。
肝心のサリーと四人組の仲だけど、共同作業をやったせいか、アーサ宅という他人宅で大人しくしているせいか、多少は軟化している様子。まだまだ経過観察は必要だと思うけれど。
私は八百屋と酒屋、お魚屋さん、鶏肉屋(卵ね)、油屋に、公衆浴場休憩所への定期仕入れについて、それぞれ相談しにいった。ついでに食材も買い入れた。公衆浴場が正式オープンするのは、迷宮の開放と同時。それまではプレオープンとして、迷宮近辺で働いている『第四班』や騎士団、工事関係者に無料で利用してもらう。
今のところ問題があるとすれば……女性従業員の確保ができていないので……女湯担当がつけられず、稼働できない状態であるということ。今のところは完全にセルフサービスでやってもらってるけど、正式オープン後はそうもいかないから、どうしようかと考え中。
昨晩、トーマスにそれを相談したら、王都の奴隷市場に行かないと入手は難しいだろう、とのこと。
【王国暦122年6月29日 10:22】
新西門前に集合した『ビルダーズ』の面子は二十名。
「次の工事は新西門から旧西門の石畳敷設だっけ?」
ガッド親方が一同を代表して私に訊く。リーダーはあんただ! と言い続けてきた効果か、段々とリーダーらしくなってきた感がある。
「そうですね。石畳の仕様そのものは迷宮街道、新西通りと同じでいいと思います。私が関わらないのであれば少し施工方法を変える必要がありますね」
「小さい親方の無茶な能力があってこその工法だしなぁ」
でもまだ、私のことは親方って呼ぶんだよなぁ……。区別しようと、小さい親方って言ってるけど、小さいは余計だよ!
「その認識があるうちは大丈夫でしょう。あくまで私の手助けは導入部で、軌道に乗るまで。それまでに皆さんが地力を蓄えて頂ければと思います」
「おう……。期待に添えるかどうかわからねえが……努力はする」
手助けじゃなくて全部やっちゃってるじゃん! というツッコミは野暮だと思われたのか、ちゃんとスルーしてくれたぞ。
「で、今日はですね、これから迷宮へ行きます。大工ギルド、石工ギルド、商業ギルドと打ち合わせですね」
名目上は、建設ギルド設立の顔合わせ。一発で即発足が決定して事務的な作業に入れるとは思えないけど、出来る根回しは各方面に実施済みだ。
「それじゃ、みんな、馬車に乗ってくれ」
小さい親方も乗ってくれ、とガッドは言いかけて、やめた。
私は苦笑しながら馬車の荷台に乗る。
「しかし、この馬車すげえな。二十人が一度に乗れるとか、初めてみたぜ」
屋根もないから雑魚乗りだけど、まあ、言われてみればすごい、かなぁ……。
「サディアス、出してくれ」
「おう」
御者の経験がある―――サディアスが軽く鞭を入れて、馬車がゆっくり走り出す。グラーヴェとラルゴ……どっちがどっちだっけ、というのは訊いちゃイケナイ。この老馬二頭は体高が高い。一メトルくらい? 馬車や軍馬にする品種らしいのだけど、グリテンには、この『大きい馬』と、成体でも小型な『小さい馬』の二種類しか見たことがない。そのうち、サラブレッドとかも出てくるんだろうけど、競馬の浸透だったり、品種改良の概念の伝播だったり、その辺りの必要性が高まらないと発生しないのかもしれない。
無蓋の馬車の荷台は、さすがに少しギシギシ音を立てている。補強はしたんだけど、専用で作ったわけじゃないから、この程度は仕様ということで許容してもらおう。床下の『風走』LV1の魔法陣は正常に機能していて、本来は少し地面から浮くはずなのだけど、二十一人の重みで車輪は接地していた。ホバークラフトの分だけ重量を軽減できているわけだ。だから、通常の馬車からすれば驚くほどの荷物を載せられる。
計算上は私が石畳用に切り出した石ブロックで言うと三本分を二頭立てで運搬可能なんだけど、『風走』がなければ一本分でもギリギリなことを考えると、恐るべき効率アップと言えた。
たとえば今回の新西街道で使った石ブロックは一本が三トンくらいあるので―――実質、人力でどうこうするには色々と無理がある。ほとんど巨石文明の遺跡みたいなものだし。対策としては『道具箱』に一度入れて、設置場所に出しながら、という技を使うことになるんだけど、これが出来るのは、グリテンでも二~三人じゃなかろうか。サリーならいずれ出来るようになるかもしれない。
「御者、とまでは行かなくても、作業時に馬車を活用できるようにはなりてえな」
「そうですね。追々やってくださいな」
うん、実は、荷台部分だけ取り外して、人力で動かした方が効率いいんだよね。今走ってるグラーヴェとラルゴが死んだ時に発覚するかな? 気づくかな?
結局のところ、馬車である、というのは偽装で、この荷台は『浮遊台枠』の劣化版だ。『風走』がLV1なのは、魔力総量の低い人でも運用できるようにという配慮だったんだけど、『凄すぎない運搬能力』としては丁度良かったかも。
元々、『使徒』にNGを食らっていた『浮遊台枠』には車輪がなく、フルフラット、かつ『ロダ』が引っ張るその姿が鉄道を連想させてしまう危惧があった。
馬車は引っ張る生物の制限があるため、連結した荷台、という発想は出来ても、実際に引っ張れないし、引っ張れてもコスト相応にならない。大体、八頭立てとか十頭立てにしたところで制御が素人には無理。
ま、ちょっと頭が回るなら、これが馬車鉄道の始まりでもあるから、これを見逃している時点で『使徒』チェックが甘いなぁ、と思ったりもする。
【王国暦122年6月29日 11:07】
ところで新設したチーム『ビルダーズ』は、親方のガッド、御者のサディアスの他に特筆すべき人物がいる。副リーダーのタイニーは、名前が小さいけど体は大柄でムキムキ、細面で―――。まあ、ぶっちゃけ私の好みの人物だったりする。元の世界の格闘漫画に登場した、世界最強のお医者さんとか、好みなんだわー。そう考えると、漁協のモーゼズ辺りってストライクなんだよねぇ。ファリスはもうちょっと線が細いけど、脱いだら凄そう。
ああ、見た目はいいとして、このタイニーは、『計算』スキル持ちで、頭の回転も速かったりして、副官の適性があった。それでガッドの補佐をさせている。
ガッドは典型的な『気は優しくて力持ち』という男で、まあ、『ビルダーズ』全体の傾向がみんなそんな感じではあるのだけど、多少リーダーシップがある、ってだけで、本質的には大組織のトップになる資質を持っているわけじゃない。
そりゃ、その日暮らしの冒険者だったから、深遠なビジョンを持ってるはずがないし、他人との付き合いが上手いとも言い切れない。
ただ、それらは、今までやったことがない、ってだけであって、出来ないはずがないし、本人が変わろうと思えば、きっと何にだって化けられると思うんだけど。
当の私は、買った奴隷もそうだけど、ムキムキマンたちに囲まれてウハウハ。グフフフフ。
おっと、迷宮宿舎に到着したね。
「ここかい? ここに駐めるよ?」
サディアスが私に許可を求める。別にここは私が管理してるわけじゃないんだけど、迷宮近辺で駐車場は、今のところここにしかない。今後の発展次第では他に大規模な場所を造る必要がありそう。それはきっと私の仕事じゃない。それこそ『建設ギルド』みたいな組織が請け負うべき仕事だ。
「えーと、ガッドさん、タイニーさん、サディアスさん。お三方、私に付いてきてくださいな。他の方はここで待機でお願いします。大工、石工ギルドの方もここに来ると思いますけど、主要な方たちは向こうにいると思いますので」
私が指し示したのは―――公衆浴場の建物だ。
「あの石の建物―――遺跡だよね?」
「それを修繕して公衆浴場にしました」
タイニーの問いに答える。そして意外そうな顔をされる。そうか、『ビルダーズ』の中には、最初の遺跡発掘を経験していない人もいるわけか。そりゃそうだなぁ、淘汰されて気合いの入った連中だけが残った感じだもんなぁ。
「ふろ?」
「そうです。大きなお風呂ですね」
「話し合いをするんじゃないのか?」
ガッドの問いはごもっともだ。
「だから、お風呂で話し合いをするんですよ」
「え?」
戸惑う三人の前に、今日の話し合いの相手が現れる。
「おう、来たか」
「……待っていたぞ」
「ようっ!」
「あれ、支部長もいらっしゃったんですか」
トーマス、ギルバートに加えて、フェイまで来ていた。
「えっ、支部長?」
『ビルダーズ』三人組から見れば、フェイは雲の上の人物だろう。
「萎縮することはありません。フェイ支部長は……単にお風呂に入りに来ただけでしょう」
オブザーバーの立場になるのかな? 本当にお風呂に入りに来ただけかもしれないけどさ。
「ガキぃ、ワシらに風呂に入れってぇのか?」
「あ、スクエア親方、お疲れ様です。裸の付き合いというものがあるでしょう? 心も体も裸になれば、きっと話し合いも進むことでしょう」
「俺らの組んだ石壁だからよう、仕上がりも見てほしいな!」
「コンパス親方、お疲れ様です。こちらです、どうぞどうぞ」
コンパス親方は丸顔のヒューマンだ。さすがにまん丸じゃないけどさ。この顔で四角い石を積み上げるんだぜ? 顔は関係ないけどさ。
「さ、ガッドさん、タイニーさん、サディアスさんも建物の中へどうぞ。中の人間の案内に従ってどうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
ま、女性がサービスするような施設じゃないから、中の案内役はウチの男奴隷。奴隷の十人を全部、お風呂管理人に異動させた。売上金が発生したら、めいちゃん操作のグラスメイドが回収しにくるように設定。迷宮にお金なんか必要ないんだけど、お金が存在することで犯罪の芽になるのも困る。
男性陣がおとなしくも好奇心一杯の様子で男湯に入ったのを確認すると、休憩所二階(一階は浴場の入り口でもあるので、本当の意味での休憩所は二階だ)へと上がる。
今頃、客人たちには初回サービスで番台のクレメンスから、綿の手ぬぐいが手渡されているはずだ。使い方もクレメンスが教えているだろうし、フェイがいるから補足もしてくれることだろう。
「ご主人様、準備は万端です」
コイルがごつい親指を立てて気合いを見せつける。
「うん、今入ったばっかりだから、慌てなくていいよ。『揚げたての揚げ物に勝る料理なし』」
「『時間の経った揚げ物ほど不味いものはない』でしたっけ」
「そうそう」
料理に関しては薫陶が行き届いている。ちょっとうれしくなった。王都では今後、揚げ置きの屋台が増えていくことだろう。厚切りのフライドポテトだけはまあ、揚げ置きに意味がある(ゆっくりとデンプンが糖に変わる)からいいとしても、魚や肉のフライに関しては愚以外の何物でもない。美味しいものを美味しいうちに提供するのがポートマット精神…………。その料理を作るのがプロセア出身の奴隷だっていうのが、色々とややこしくしているけどさ。
朝に買い込んできた食材を渡しながら、他の準備についても確認を取っていく。
「エールは冷えてるね?」
「はい、ここに」
エールは日持ちしないって聞いてるけど、ホントなのかしら……。それなら醸造所を買い取ってラガービールを作らせるべきだろうか。うーん、醸造の方面の知識がちょっと足りない。これも後回しだなぁ。
まずは公衆浴場を認知させること。利用してもらうこと。
足下に魔物が蠢いているという事実を忘れてしまうほどに経済、文化の中心地にしてしまうこと。
そして、迷宮が生活に溶け込んでいく。一町に一つ迷宮を!
うん、リスクの説明と理解がすっ飛ばされる方が、管理者側としてはありがたい。
元の世界の原子力発電所みたいに、論点をずらしたり広報でミスリード誘ったりする手間が減るから。
【王国暦122年6月29日 12:34】
「いやぁ~」
「……うむぅ………」
「むふぅ~」
ホカホカに茹で上がった本日の客人たちが休憩所二階に案内されてきた。ダークエルフは湯上がりでも肌の赤みがわからないんだなぁ。どうでもいい豆知識だけどね。
「湯加減はいかがでしたか?」
「……風呂は……いいものだな……」
恍惚のため息を漏らすフェイは、かなり色っぽい。ブリジット姉御が惚れるのも納得ではある。うん、私の好みじゃないってだけだね。
「それはようございました。ささ、皆様、お座り下さい。ただいまお飲み物をお持ち致します」
奴隷たちに指示を出して、エールと軽食を配膳し始める。
「ご希望でしたらエールではなく、果実水をお出しします」
「いや、これでいい」
トーマスがぐでんぐでんに茹で上がっている。かなり緩んでる。
軽食メニューは思い切って二品に絞った。これ以上が欲しければ近所のレストラン(まだ建設に入ってないけど)でどうぞ、というスタンスに割り切ることにした。
「……枝豆か……」
「え、これは新種の豆か?」
「茹でた豆なんて食えるのか?」
「まあ、召し上がって下さい。その豆は大豆です。ポートマット特産……と言えなくもないです」
「えっ」
枝豆は盲点と言える食材で、生の大豆を食べる習慣がグリテンにはなかった。過去の勇者は大豆の活用方法について、醤油、味噌、豆腐にする以外の知恵を与えなかったのだ。だからもったいないことに、大豆といえば乾燥させてから戻したもの、という固定観念があった。
なお、軽食のもう一品はフィッシュ&チップス。衣の薄い天ぷら風と、衣の分厚いフリッター風。だからまあ、実質三種類か。
「揚げ物はまだ試行錯誤中です。試食のつもりでどうぞ」
どのソースがベストマッチなのかは検討中で……というかマヨネーズに手を出したくなかったんだけど……恐らくこれが一番人気になると思う。ケチャップの量産が開始されれば人気は二分されると思うんだけど……。
「むう! これが! 王都で流行しているという!」
「……天ぷらじゃないか! ……これは天ぷらだ!」
「サクッとジュワッとしてるじゃねえかっ」
「ちっ、エールもう一杯じゃあ!」
「揚げ物同士の組み合わせなのに……何故美味いと感じるんだ?」
「小さい親方ぁ! 美味いよこれ!」
本当はこの場で建設ギルド立ち上げについて意見を出してもらったり、参加意思やらを確認するのだけど、落ち着くまでは飲み食いしてもらおう。
「ジャンジャンバリバリお召し上がり下さいませ」
よし、このままダラダラとギルド結成まで持っていくかな……。
【王国暦122年6月29日 14:19】
揚げ物と枝豆とエールだけでお腹一杯になった客人たちには、あまり正常な思考能力があるとは思えなかったのだけど、一応訊いてみる。
「ところで本題なのですが、内々でお話をしている通り、『建設ギルド』を立ち上げたいと思うのです。大工、石工という分類や領分に囚われず、構造物一般の建設を行うギルドです」
「商業ギルドは賛成だ。手数料が入るとはいえ、現状では折衝などの手間が多すぎる。専門のギルドがあるならそこに任せるべきだ」
赤ら顔だけれども、まだ言葉がしっかりしているトーマスが賛意を示す。
「……冒険者ギルドも賛成だ。……迷宮が開放されれば話は別だろうが、現状では底辺の冒険者が多すぎる。……連中を活用、再起させる意味でも別ギルドの立ち上げは正しい選択だな」
フェイも賛同を表明。あとは大工、石工なんだけど……。
「うぇーい」
ギルバート親方、スクエア親方はドワーフでお酒に強く、顔にも出ていない。ヒューマンのコンパス親方がベロンベロンに酔っていた。エールはそんなに強くないお酒なんだけど……。私みたいに全然アルコールが駄目なドワーフ(ホムンクルスだけどね!)もいるから、個人差があるってだけか。
「事前の話ではなっ、大工ギルドは概ね賛同だっ。全体として移行するか、完全に意思統一はされていないがなっ」
「ちっ、石工ギルドは、そこの酔っぱらいの胸三寸じゃけん」
石工ギルドではコンパス組が最大手のチームで、スクエア組はへそ曲がりな強面集団なんだと。
「うぇーい、いいぞぉ。スクエアのところが了承ならギルド全部が移行して構わないぞぅ」
コンパス親方はそれだけを真顔で言って、電池が切れたかのように寝入ってしまった。
アルコール入りとはいえ、主要ギルド、主要人物の言質は取った。お風呂とお酒は人間関係の潤滑油ね。サリーと四人組にも応用したろうかしら。
『ビルダーズ』の面々は大人しいけれど、彼らに関しては最初から巻き込むつもりだから反対意見とかはあり得ないし、聞き入れません。
「では商業ギルドの方から何人か出して頂いて事務局を作ることにして……当面の運営費は仮に商業ギルドで肩代わり、いずれ建設ギルドの方に振り替える、ということでよろしいでしょうか。こちら、通信端末をご用意させて頂きました。各々の連絡はこれでお願い致します」
未だに作り貯めを続けている通信端末を、酔っぱらっているコンパス親方、スクエア親方、ギルバート親方、ビルダーズの三人向けに設定して渡してしまう。
「通信端末は私の持ち出しということで結構です。建設ギルド設立に向けて、事業に必要と思われるなら追加で提供します。また、資金、魔道具についても同様です」
「お前にしてはいやに熱心だな……」
「何ででしょうね? 私にもわからないんですよ。私以外に建設を素早く行える組織がないと、私が動けなくなっちゃうから、って説明はできそうなんですけど……。あとは本能的な衝動に突き動かされてる感じです」
「……ふむ……。……本能か……」
フェイが意味深長に呟いた。ホムンクルスだからと言っても、中の人が叫んでいるのだ。造れ! 作れ! と。
「よし、連絡会を作りつつ、一月後か二月後には正式に立ち上げよう。それまでは準備期間だな。商業ギルドの人選もまだだしな」
「この『ビルダーズ』を、ギルバート親方、コンパス親方に預けますので……。好きに使って下さい」
「いいのかっ。しかし素人じゃなっ」
「ちっ、それがな、コイツら素人のくせに妙に覚えがいいんじゃ……」
「俺たちにもどうしてかはわからないんですが……。ギルバート親方、何でもします。よろしくお願いします」
ガッド、タイニー、サディアスが合掌して深くお辞儀をする。
「わかったっ。明日から迷宮の宿の基礎を作るからなっ。朝イチから参加してくれっ」
「わかりました、ギルバート親方!」
こうして、建設ギルドが、設立に向けて動き出した。
「うぇーい」
コンパス親方が時間差で今頃返答した。半分寝てたんだな……。
――――これがゼネコンの始まりか、はたまた某秘密結社の始まりか。それはわからない……。




