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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
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雷撃の魔物

 走りながら、セドリックとクリストファーは、いつの間に持ち替えていたのか、弓を射っていた。そういえば二人とも『道具箱』スキル持ちだっけ。

 狙いもなにもあった物じゃないはずだけど、威嚇になればいいのだ。


「ガアアアアア!」


 エレクトリックサンダーは遠吠え……だと思う……をあげて、怒りを表現しているようだ。

「さて……」

 電気を操る、か。確か『雷の短剣』の材料の一つなんだよね、あの魔物。


 スキルをコピーしてわかったけれども、『落雷』は、先に『蓄電』しないと使えないようだ。『蓄電』するためには、魔力を変換するか、毛でも擦り合わせて静電気を作る、のだろう、多分。前者なら一撃で無力化が必要だし、後者なら水をぶっかければ優位になるはず。


ドーン!


 落雷。

 お二人とも無事でいてください……。

「――『水砲』」

 単体の上級魔法を選択。さっきの中級範囲の比ではない魔力が、私の周囲に出現した、光る魔法陣に吸い取られていく。これは―――消費魔力が大きすぎて、何発も撃てない。

 魔力チャージが完了、狙いを定める。イメージは、渦を巻きながら進む、水の砲弾。

 いっけぇぇぇぇ!


ゴッ!


 水砲が風を切って進む。

 しかし、そこに落雷が。


バーン!


 響き渡る騒音。

 なんと!

 偶然かどうかわからないけど、水砲が迎撃された。

 ショックはショックだけど、次弾を考えなければ。

 水砲はそう何発も使えない。初級魔法でチマチマやって、向こうの継戦能力を奪うのが正道か? 最終的には水でやるとして、とりあえず動きを止めて、目を潰さなければ。そして絶縁体といえば―――。


「―――『土球』」

 イメージは、泥玉のショットガン。しゃがんで、イヤイヤをするように地面に土をくっつけては指の一つ一つに土球を作って、飛ばす。


 バチャ、ドチャ、土球が魔物に着弾する。

「ゴオオオオオオオ!」

 痛みを与えてるだろうか。いや~、あの声は嫌がらせに怒ってる声だよなぁ。

「―――『土球』」

 どんどん繰り返していく。エレクトリックサンダーの表皮が、泥にまみれていく。

「ガアッ! ガアッ!」

 土球を投げながら接近していく。

「――『土拘束』『土球』」

「ガバッ」

 開いた口に土球を詰める。もがき苦しむ雷の獣。


 この至近距離なら、どの魔法でも当たるだろう。自分の魔力残量はわからない。上級の魔法を使う時間的な余裕はない。だから、入門用の魔法に魔力を込める。


「――『水球』『水球』」

 イメージは水砲の時と同じく砲弾だけど、小さくして貫通能力を高める。そして連射。

「――『水球』『水球』」

 ビシッ、ビシッ、とエレクトリックサンダーに穴を穿っていく。

 土が剥がれ、光っていた表皮の輝きも失せていく。

 やがて、力尽きたのか、大きな音を立てて、倒れた。

 漏れる光はない。けど、念のため。

「――『風刃』」

 大きな、風のギロチンを、首筋に向けて投げる。

 魔力量の割には大きな音は立てず、首が落ちた。

「死んだ……かな?」

 これで死んでなかったら、ミミズかゴキブリだよな-。副脳があるとか。表皮は穴だらけだし、死んでる……よね?


「お疲れっす……」

「―――見事だ」

 セドリックとクリストファーが近づいてくる。

「死んだと思いますけど、まだ雷の元が残ってるかもしれません。注意してくださいね」

 電気、って言ってもわからないだろうし。さっき習得した『蓄電』って使えるかな? 

 エレクトリックサンダーの死骸に恐る恐る近づき、ちょっと離れたところから掌を向ける。近づいてみると、体長二メトルほどだとわかる。特に大きくも小さくもない。機動性に富んだ厄介な大きさと言える。


「――『蓄電』」

 バシッ! と放電の音。ちょっと掌が焦げた。

「ビックリしたー」

 暢気に言いつつも蓄電を続ける。ポニーテールにまとめていた紐が切れて髪の毛が逆立ち始め、ローブは肌にまとわりつき、体中が震えている。

「んお?」

 身体が浮いている。


―――補助魔法スキル:電荷浮遊LV1を習得しました


 おおっ? なんじゃこりゃ。飛べるスキル? いやこれ浮くスキルじゃないか? けどなんか色々条件が厳しそう。

「離れてくださーい」

 私は二人に離れるように言ってから、安全地帯に向かって、

「――『落雷』」

 カッ! と閃光が走り、ドーン! と大音響の後、静寂が広がる。


 ちょっと耳が痛い……。煙と耳鳴りが収まり、セドリックとクリストファーの位置を確認する。

「んっ、もう大丈夫、かな」

 逆立った髪の毛はまだ形がそのままだけど、ささっと撫で付けると元に戻る。紐は……あったあった。けど、もう使えないかな、これ。

「もう大丈夫っすね」

 セドリックが近寄り、死骸をぺたぺたと触る。ところどころの毛が尖っていて、

「痛いっす」

 などと遊んでいる。

「―――周囲には魔物の気配はない」

 クリストファーは冷静に周囲を探索しているようだ。


「お疲れ様です」

「それにしても、この魔物と同じ魔法が使えたっすね」

 今さっき覚えました。とは言えなかった。

「はい、お陰で助かりました」

 シレッと言う。無垢な幼女の仮面は崩さないのだ。

「―――解体しよう」

 クリストファーがそう言って解体用のナイフを突き立てるけど、刃が入っていかない。

「これは硬いっす」

「硬いですねぇ」

 さすがはレベル60超えの魔物。普通の刃物じゃ切れないのか。少なくとも魔力を通した刃物じゃないと無理かもしれない。

「うーん、『道具箱』に入れちゃいましょうか。冒険者ギルドで解体をお願いすることにすればいいかと」

「そうっすね」

「―――同意だ」

 私はエレクトリックサンダーの死骸と、その頭部を収納する。


「ふう……」

 さすがに魔力を使いすぎた。初見の敵は苦戦するものとはいえ、力任せでは勝てる戦も落とす危険性がある。反省だわ。

「安全なところに移動するっす。そこで休憩するっす」

 セドリックが、足の止まっている私に声を掛けてくる。クリストファーも頷いている。私は元気なく頷いて、二人を追尾することにする。この辺りの判断はさすがだ。私一人なら、この場で動かなくなっていたところだ。

 空を見ていると、山の向こうが白くなってきていた。明け方が近い。セドリックが向かっているのはポートマットに戻る方向、つまり南東に向かっているようだ。


「この辺で休憩するっす」

 森の中には、時々開けた場所がある。元々沼だったところが年月が経過して埋め立てられたり、怪しい物が埋まっていたり。

 小さな草原のようになっている場所に、二人は腰を降ろした。一人は立っておいた方がいいか、と周囲を警戒する。

「座っても大丈夫っす。周囲には魔物の気配はないっす。今は休むっす」

 セドリックが静かに言う。頷いて私も草むらに座る。


「―――あんな高レベル魔物がいるとはな」

 クリストファーがポツリと言った。三人の率直な思いを代弁している。

「まったく想定外っす。ウチらじゃなかったら全滅してるっす」

 クリストファーが、ゆっくりと、二回首を縦に振る。

「―――いや、正直、俺たちだけだったら詰んでたな」

「そうっすね。弓だけじゃ、いずれやられてたっす。支部長の先見の明は半端無いっす」

「フェイ―――クィン支部長は、高レベル魔物が出てくることを予想していたと?」

「そこまでは考えてないと思うっす。でも、想定外の何かが出てくるとは思っていたんじゃないっすか。じゃないと、こんな変な編成にしないっす」

 セドリックは少しだけ笑みを浮かべる。変、というのは、有名な上級冒険者二人に、無名の―――採取では有名だと思うけど―――小娘という組み合わせを強要されたことだろう。そりゃ、自分でも変だと思うけどさ。


「―――いや、でも実力は見せてもらった」

「そうっすね。助かったっす」

 二人が頭を下げる。え、これ何かのイベントなんですか?

「やめてくださいよ……」

 照れながら、私は白パンと干し肉を取り出す。釣られて二人が『道具箱』から取り出したのは、硬い黒パンだった。思わずセドリックとクリストファーは顔を見合わせる。

「お一ついかがですか?」

 私は二人に白パンを手渡す。

「頂くっす」

「―――頂こう」

 んー、こういうときにカップラーメンとか、粉末スープとかあるといいんだけどなあ。いつか試作してみようかしら。ちょっと寂しい食事だしなぁ……。あ、そうだ。

「これもいかがですか?」

 ジクを取り出して、二人に渡す。砂糖煮にしなかった、生のジクだ。

「これは……」

「―――頂こう」

 私もジクの皮を剥いて一口。酸っぱ甘い。

「果物持ってくるとか、さすが女の子っすね」

 え、それは嬉しくなるところなのかな。どうなのかな。

「―――ああ、生き返るな」

 ちょっと照れ隠しのように、私は話題を変える。

「この後はどうするんですか? 直帰ですか?」

「他のパーティが全く追いついてないみたいっす。雷の獣みたいな高レベル魔物がまだいるかもしれないっす。周辺探索をしながら、他のパーティと合流して、情報も交換したいっす」

「―――一度、ワーウルフの巣に戻るのが賢明だな」

「寝てないですしね。わかりました」

 一応、魔力回復ポーションを取り出して、グイッと一気飲み。性欲が高まるみたいだけど、私は()()()()()()ので問題なし。


 ああ、でも、こんな吊り橋効果が抜群な状況で、普通の男女が魔力回復ポーションを飲んでたら、冒険者同士の恋も芽生えるというものか。実際多いみたいだし、職場結婚みたいなものかなぁ。ついでに言うと、同性の恋人もこういう時に生まれるんだろうなぁ。

「それじゃ、巣に戻るっす。そこで仮眠を含めてキャンプするっす」

 クリストファーと私も立ち上がりつつ、了解の意思を見せた。


―――いやっ、セドリックxクリストファーを妄想したわけじゃないよ?




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