ロンデニオン西迷宮の石壁工事2
【王国暦122年4月23日 0:30】
色々やっていたら壁設置の開始が遅れてしまった。
コンピュータ制作のせいで魔力は心許ないけれど…………やろうっと。
『ロダ』はローラーを外して、フォークを取り付けた。重量物運搬用にチェンジ!
昨晩と同じく、私本体には『隠蔽』をかけたまま、グラスメイド二体を使って魔法の行使を代行してもらう。
北西エリアの北側が、新規採石場となる。ここから露天掘りをするのだけど、ほとんどの石にはすでに切れ目が入っている。
上にある土を『掘削』でどかしていくと、切れ目の入った白い石が姿を現した。
『―――『水刃』』
『―――『水刃』』
グラスメイドが切り終えると、ミノタウロスが『ロダ』のフォークに石を載せる。
石の大きさは一メトルx一メトルx二メトル、重量はおおよそ三トン。ミノタウロス十人かかりだ。
『ロダ』にチェンジして、待ち構えるオークと閣下の前にブロックを下ろす。
「フハハハハハ、その辺がよかろう!」
居丈高に笑う閣下はいいね。そうじゃないとね。細かい位置調整は頼むよ、閣下。
「フハハハハハ、任せるがいい!」
意志が伝わった。石だけに。
周辺の警備はヴァンパイアたちとオーク第二軍。現在はミノタウロス第二軍だけが第四階層で待機中で、その他はここで作業中。なので、かなり賑やか。
「ブモモモ!」
「モモモモ!」
力仕事だし、かなり鍛えられることだろう。
『―――『水刃』』
『―――『水刃』』
グラスメイドが露天で採石していく。
ぐっ。
魔力切れが近いな。隠蔽したまま、魔力回復ポーションをゴクゴクと飲む。即効性はないけどやらないよりマシ。
そういえば、『道具箱』から物を取り出した程度じゃ『隠蔽』って解除されないのよね。これは以前、ウィザー城で長期間天井裏に滞在していたから知っていたけどさ。
【王国暦122年4月23日 3:43】
『ロダ』の稼働を中止して、ミノさんたちだけで運んでもらう。
私とグラスメイドは切るだけ。
何とか粘ったけれど、ブロックが敷地を一周したところで魔力切れ。ダウン。
【王国暦122年4月23日 5:17】
魔力仮復帰。
ダラ~っとやることにした。
『ロダ』はローラーに戻す。
全部石で壁を作ってもいいのだけど、間に土を挟んだ方が一体感が出て強固になる、というアドバイスを、なんとめいちゃんから貰った。
そこで残土処理も兼ねて、上から見ると内周から石壁ー圧縮土ー石壁という構造で積み上げていくことにした。
必然的に私が北西エリア採石所に置いてある大量の残土を飲み込んでから壁に向かって吐き出して、私が操作する『ロダ』で均して、石壁で蓋をして………という工程になった。
ぶっちゃけ、私以外はそんなに忙しくない。
なんで管理人が一番苦労してるんだろうとか一瞬思ったけど、もうこれは流れだ! もう運命なんだ!
【王国暦122年4月23日 6:44】
思いっきり太陽が昇ってきた。いい加減まとまった休みを取らないと、私だけじゃなくて魔物たちも倒れてしまう。
石切場から北西エリアに入れる通路はすでに潰したので、セキュリティ上は問題なし。
石壁はサンドイッチが二層積まれるところまで完成。五メトルくらいには積み上げたい。また今晩ということで。
【王国暦122年4月23日 7:12】
「毎晩大変だねぇ。ほれ、朝食だよ」
「ありがとう」
『黄金虫亭』に戻るやいなや、グリーンさんは麦がゆを出してきた。スープを作っているようなものだから、手間は変わらないらしい。
最近はおかゆに虫を混ぜるのではなく、付け合わせに虫を持ってくるのが、ここのご主人のマイブームなんだとさ。
魔力回復ポーションを飲んで、バタ、とベッドに倒れ込んだ。
【王国暦122年4月23日 12:36】
今日は夜間の作業に集中しよう。ミノさん、オクさん、閣下も疲労が溜まっていたし、夕方になったら迷宮へ行こう。ということでダラダラと宿で過ごす。
【王国暦122年4月23日 16:09】
お弁当を持って迷宮へ。
改良ラバーロッドは順調に動いているみたい。特に何かをやらせているわけじゃないから、今日の私と同じようにダラダラしているに違いない。
「ミノタウロス、オーク、消耗度はどうかしら?」
『……土木作業への動員であれば問題はありません。……敵襲に備えて二個大隊は待機させておくべきです』
「じゃあ、今日は第一軍を休ませて。土木作業には第三軍を」
『……了解しました。……ミノタウロス、オーク、第三軍を動員します』
「よろしく」
今晩で終わらせる。
そんな決意を胸に、『隠蔽』ではなく『不可視』に切り替える。『闇球』を召喚して、防衛の備えにする。
丸太を使ってコロにすることをミノたちに教えて作業効率をアップ。『ロダ』のリンクを切って、めいちゃんが操作するように変更。
結局のところ、私の魔力が切れなければどうとでもなる。
「よし。作業再開!」
「フモォォォー!」
「ゲガガガガ!」
「フハハハハ!」
「ピーピッピー!」
魔物も、めいちゃんもテンションが高いわね! 事故だけ注意、ご安全に!
【王国暦122年4月23日 21:52】
石を積み上げ、土を寄せて、また石を積み上げて、サンドイッチ。
一番外周の五メトルの積み上げが完了。
その内側、土を盛ったところは高さ調整をして四・五メトル。
内周の石壁の高さも五メトル。
壁に登ることができるように四カ所にスロープを作る。
門は東側正門、北門と南門の三カ所。現在はまだ門ができていないのでただ口を開けているだけ。
門の材料は、材木が乾燥したら、それを転用しようと思う。ので年単位で後回し。
「もう少しやるぞー」
「モォォォー!」
「ブヒイイイ!」
「フッハッハッハッハ」
「ビビビビー!」
えー、まだやるのー? という心の叫びが聞こえてきた。テンション低いな! 事故に注意ね!
石壁の設置をしたときと同様の工程で、石壁の外側に堀を掘っていく。
一応、下に迷宮があるので、それほど深くは掘れない。むしろ水路的なものなので一メトルほどの浅い掘だ。
山の部分には堀は設置しない。平地部分だけ。
掘って、『ロダ』で均して、石壁用石材を四等分したもので組んでいく。
今は特に水は入れないけど、そのうち淀んだ水で満ちることだろう。
防水にだけ注意して石組みを『結合』をしていく。
門のある場所は、橋の代わりに、閣下に指示を出して丸太を渡してもらう。
おおよそ二時間強でお堀完成。突貫工事にしては素晴らしい仕上がりに満足。
【王国暦122年4月23日 23:50】
次の工事に入る。
北東入り口の周囲が広場になるように整地。窪地状にして、入り口を頂点として緩い坂にする。微妙に傾斜をお堀に向けて、排水できるようにした。この作業に偉く時間を取られる。
採石場から半端な石材を持ち出して砕き、砂利の代用として窪地に撒かせる。『ロダ』が撒いたそばから均していく。
そこに細長い直方体(長さ五十センチほど)の石柱を石畳として敷設開始。
私が石を切り出すそばから、ミノ、オクがバケツリレーのように石材を持ち出していく。
何万本切り出したかわからないけど、切り出す方が圧倒的に仕事が早い。
一旦切り出すのをやめて、敷設作業を見に行く。
バケツリレーは延々続いて、ミノ、オークたちが石畳を敷いていく様は圧巻だった。
すごーい、みるみるうちに窪地が道に、石畳になっていくぞ!
北東広場の南側を中央通りとして設定。
あとは碁盤の目になるように何となく道筋を作る。道は山側までは通さず。
下水システムは………後でいいな。うん、後回し。とりあえずの排水はお堀に流れるから、そのうちに立派なお堀になって、多様な生物の住処となることだろう。お堀の防水は確認していないけど、水量があまりないだろうし、これも年単位で確認しなきゃいけないから後回しね。
さて新採石場だけど、石壁、石畳用の採石で、相当に深くまで掘った。
うーん、第三階層か第四階層相当かな。
魔導コンピュータ増設の暁には、この穴はレース場に転用することになる。フフフフ。
【王国暦122年4月24日 3:00】
『……マスター、お知らせがあります。……王国暦122年4月22日 14:01に、偵察と思われるヒューマン個体……十体が確認されております。……そのうちの四個体は、先日第七階層まで到達した個体です』
「ほうー」
パスカルの部隊のことかな?
「危険な魔力量、脅威とは認められなかったんだね?」
『……肯定です、マスター。……石壁建設の観察を目的にしている、と推測しており、脅威と認定はされませんでした』
「了解したよ。そういうときの受け答えの入力もしておくよ。魔導コンピュータの増備が先だろうけどさ」
さて、石畳の方も作業は終わりそうだし、コンピュータ作りの続き、しましょうかねぇ……。
【王国暦122年4月24日 6:08】
塗り絵を重ねていくように魔導コンピュータ本体が完成した。
「あとは天井に対数表魔法陣を転写するだけ……」
だけど、残り魔力がない。帰って寝よう。
大きな魔力を使う作業は、それさえ終われば、あとは皆無。
「うん、よくがんばった。土木関係者、みんな良くやった!」
『…………………………ミノタウロス、オーク軍団が雄叫びをあげています』
――――そりゃよかった。




