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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
異世界でシステムエンジニア(汗)
223/870

プロポーズの返答

投稿開始から五ヶ月!

妊婦ならお腹が目立ってくる頃ですが……!



【王国暦122年4月20日 16:52】


「ううっ……」

「団長、元気出してください……」

「団長、勇気見させてもらいました!」

「団長、漢ッス!!」

「メイスフィールド伯爵様の! 健闘を称え! エールを贈る!」

「パ!」

「ス!」

「カ!」

「ル!」


 えーと。

 プロポーズはお断りしたんですけど。

 迷宮周辺が変な盛り上がり方をしているようで……。

 ちなみに……『告白回避』LV1はグラスアバターの状態では発動しませんでした。


「では……これにて失礼……」

 そそくさと迷宮へ逃げる。

「ああっ!」

「ガラス少女が逃げてしまう!」

 ええい、面倒臭い連中だな!

「―――『威圧』」

 迷宮の放出魔力も使った強烈な『威圧』が従者たちを襲う。


「ああっ!」

 しっかり直立していたのはザンだけで、パスカルは地べたから手を差し伸べたまま、悲しそうな顔をしていた。

「ううっ!」

 ファリスは…………中腰で………嬉しそうに顔を歪めていた。


「強化しすぎたか……」

 ハマ○ン様の気持ちが今ならわかる。

 さようなら、薔薇のイケメン騎士団長。



【王国暦122年4月20日 17:09】


「あー、つかれたー」

 まーったく、ずっとグラスアバターでいるのもシンドイし、話してる内容もシンドイし、面倒臭いったらないよねー。

 はー、こういう政治的なお話にもいずれ絡んでくるんだろうけどさ……。


 フェイやザンが積極的に絡もうとしているのがとても偉く見える。私と同じように、今までは忌避してきたんだと思うけど、ここに来て関わらざるを得なくなってきたってことか。

 むしろ積極的に関わった方が面倒じゃない、って結論に至っただけなのかもしれない。

「本当に攻撃は最大の防御なんだなぁ……」

 よくわからない嘆息をして、ベッドの上でゴロンゴロンする。少し体が熱い。何だろう、サドっ気でファリスに萌えた影響かしら。困らせたらもっといい顔してくれるかしら。うーん、あの人なら打算アリで抱かれても……いいや、抱いてもいいな!


 おっと、迷宮管理に思考を戻そう。

「えーと、めいちゃん? 記録上、迷宮近くに集落が存在したことはあった?」

『……当迷宮のグランドオープン時には約一万人が、迷宮を中心に居住していました』

 千二百年前かぁ。


 めいちゃんと今後の拡張計画について話し合う。

「簡易城壁みたいなのがあった方がいいよねぇ」

『……昨今の治安悪化を考慮しますと、防壁の建設を強く推奨します』

 うーん、お城まで作るとなるとなぁ……。まあ、建物は造らないで、壁を作って、境界線を主張した方がビジュアル的に理解しやすいか。


 城下町っぽくするとして……門を作って、有事には閉鎖するとして、仮に住民がいたら? 避難場所が必要になる。迷宮の中に入れるとしても、今の階層は一杯だから、ワーウルフとゴブリンを動かすのは無理か……どこかを拡張せざるを得ないとして……。普段は何かに使っているような、いざとなったら避難場所になるような施設が必要か……。


「ん」

 そっか。アレだ。

「めいちゃん、ドッグレース場を作るとしたら、管理能力は間に合いそう?」

 ドッグレースの概念は説明しなくても理解してくれたらしい。めいちゃんが即答する。

『……規模にもよりますが、魔導コンピュータを増設、もしくは強化した方が賢明だと思われます』

「ふむー。この迷宮をそのまま拡張して、コンピュータを増設するなら、めいちゃんの下位存在にしておいた方がいいわけだよね?」

『……肯定です、マスター。……仕事(タスク)の割り振りをさせて頂ければ、大幅に処理能力が改善されることになります』

「ふむふむ。その場合、第十三階層の、お隣のエリアを増設した方がいいよね?」

『……通信に要する魔力のロスが減るという点で、第十三階層、の新エリアの増設をお勧めします』

 ということは、だ。

 掘れってことだ。


「おっけ、よくわかった。ありがと」

 ベッドから起き上がり、『隠蔽』を発動する。

「色々下準備もしてくる。今日は一度宿に戻るね」

『……いってらっしゃいませ、マスター』

「あと~どれくらい~掘れば~いいのだろう~♪」

 何かの替え歌か、自作のフォークソングか、掠れたビブラートが悲しみを背負って生きる哀戦士を……。

 などと言っている間に転送ポイント東Aへ到着。


 通信端末を取り出して短文を確認する。

 フェイとアーロンからは定時連絡で、異状なし。フェイには少し詳しく会談の内容を、アーロンには単に了解、とだけ返信しておく。

 トーマスからは工場の建材を集め終えるのは五日後くらいだという連絡。暗にそのくらいにはポートマットに戻ってくれ、ということらしい。ポートマット西迷宮の近く、街道予定地脇に建築作業者用宿舎の建築が開始されたとも書いてあったので、五日を過ぎても問題はなさそう。

 ドロシーからは、サリーが順調に通信端末のパーツを量産しているという話。スス紐がそろそろ欲しい、ってさ。

 ブリジットからは焼き菓子と蜂蜜に感激した、という話と、ザンが塞ぎ込んだので、出来ればギルド本部に来てほしい、というヘルプ要請。


「うん、そうだろうなぁ……」

 そのつもりでギルド本部に向かってはいるんだけど、何か食べたかったんだよね……。

 ギルド本部に行く前に、『雌牛の角亭』に寄ろうかしら。


「あら、いらっしゃ~い」

「こんばんは」

 揚げ物は胃にもたれそうで……。

「フィッシュ&チップスを一つ」

 と、私の後ろから注文が。振り向くと、勇者オダがいた。

「あら、こんばんは」

「お、おう」

 この店に通っているっていう噂は本当だったんだなぁ。


 お店は混んでいたので、勇者オダと相席になった。

 私はお肉と野菜の煮物とパンとスープ。

「よく、このお店に来られるとか?」

「ああ……。魚のフライもいいけど、イモがな。類似商品も増えてきたけど、ここのが一番うまい」

「ああ、そうかも。ロンデニオンでは、この店が元祖になるはずですよ」

「へぇ! なるほどな」

 オダはポテトフライをモソモソ、と口に入れては水で流し込んでいる。決して旨そうには食べてないように見える。

「ケチャップが欲しい………」

 ああ、うん、わかるわかる。

「ケチャップ、ですか?」

 素知らぬ顔で訊いてみる。

「ああ、こう、トマトを煮詰めた感じの……」

「ああ、その植物は、私も探しているんですよね」

「へぇ! あれ、確か、姫が何か言ってたな……」

 思案顔と一緒に、勇者オダの表情に翳りが入る。

「ほう?」

「ああ、そうそう、温室にそれらしいものがあるという噂がある」

「それは是非欲しいですね」

 興味深げに、それでも落ち着いた口調で所望する。

「よしわかった。アンタには恩も義理もあるしな。頼んでおくよ。いつまでこっちにいるんだ?」

 首をすっ飛ばした相手にこの温情。私が言うのもなんだけど、キミ、騙されてるよ?

「二~三日は王都に逗留予定です。色々と仕事が溜まってまして」

「へぇ……。忙しいんだな」

「はい。ああ、あまり揚げ物ばかり食べてはいけません。お水じゃなくて、紅茶の方が健康にいいと思いますよ」

「忠告、受け取っておくよ。フィッシュ&チップス、もう一つね!」

「は~い」

 コイツ、聞いてないな……。まあいい。十年後に貴様はハゲるのだ。フフフフフ。

 いや待てよ、不死の勇者は毛根も頭皮も不死なのか?

「それではまた」

「ああ」

 勇者オダは、手を振りながら、まだモソモソ食べていた。

 私は食事を終えて、ギルド本部へ向かった。



【王国暦122年4月20日 18:31】


「こんばんは、ブリジットさんはいますか?」

「こんにちは。はい、少々お待ち下さい」

 受付に行くと、以前に蜂蜜を渡した職員がいた。覚えていてくれたようだ。良かった、あのカードを提出しないで。


「本部長室にいらっしゃいます。どうぞ」

「はい、ありがとうございます」

 案内されることなく、さっさと受付カウンターから中へ入ってしまう。

 と、すでにブリジットが迎えに来ていた。

「ご足労をお掛けします」

「いえ。何かあったんですか?」

 シレっと言うと、ジトッと睨まれた。


 本部長室に入ると、ザンはソファに横になって唸っていた。

「こんばんは、本部長―――『遮音』」

 ザンは私の姿を確認すると、目をカッと開いて飛び起きた。

「お、おう」

「ブリジットさんから短文が来て、本部長が憔悴してるから何とかしてくれ、って」

「そうか……。すまんな、心配をさせた」

「いいえ」

 ニコリともしないでブリジットが肩を竦める。


「確かに……うむ……確かに、騎士団と話し合え、とは言ったが……主導権を握ったままの、あれでは恫喝だ。ドワーフの娘よ、お前ならもっと上手く立ち回れたんじゃないのか?」

「自分……不器用ですから」

「嘘をつけっ」

「いや本当に。いきなり攻められた迷宮の立場になって考えれば、疑心暗鬼になって当然ではないでしょうか。慎重に、武力を背景にするしか交渉の手段がなかったんじゃないですかねぇ」

「むう……」

「それはそうと、迷宮絡みで商売上の提案があります」

「む?」

 あくまで、私自身、私の()()は迷宮とは関わりのない第三者。決定的な言葉は避ける。


「王都西迷宮近くに、冒険者ギルド支部を作りませんか? 素材、魔核の買い取りが便利になるだけでも相当な利益が見込めます」

「むう……」

「それは良い案ですね」

 ブリジットがしなやかに賛成してくれた。


「それに伴って鍛冶屋も複数の人が移動してくると思うのですけど、冒険者ギルドがかけあって、大型の鍛冶屋さんを誘致、もしくは経営してみませんか?」

「鍛冶屋? ですか?」

「はい。迷宮の魔物たちは無手だと聞いています。それにしては集団行動に特化しているとも。これ以上の防御力や攻撃力を欲しよう、とした場合、防具と武器を求めるのではないかと。需要があるのに勿体ないと思いまして。ただし、これは迷宮の脅威度も向上するということですので………」

「騎士団に黙ってやるか、もしくはバレたとしても黙認せざるを得ない状況にしたいということか?」

 さすがザン。憔悴していても頭は働く。


「その通りです、本部長」

「その―――武器や防具っていうのは、どのくらい必要なんだ? それこそ市井の鍛冶屋に注文すればいいんじゃないか?」

「合計で六百体分程度は必要じゃないんですか。そのくらいの個体数が防衛戦で活動したという噂があります」

 ザンとブリジットは少しだけ目を丸くした。

「六百……か……。それは確かに急ぎではあるだろうが静かにやりたいところだな」

「補修作業も含むとなると、鍛冶屋を常駐させたくなる数字ですね」

「なるほど……あからさまに王都やポートマットの鍛冶屋に注文できないから、治外法権を欲しがったというわけか……」

「王国の法で裁けないのであれば集めやすくなりますか……」

 ブリジットは少し渋い顔をした。ブリジットから籠絡してみるか。


「迷宮が落ち着けば、迷宮産の食材が円滑に、それも安定して大量に流通する可能性が高まります。容器や梱包材などの手配は実質、迷宮だけでは手が足りないでしょうから、事情を良くわかっている冒険者ギルドにお願いすることになろうかと」

 今回はここに王都の商業ギルドを噛ませるつもりはない。冒険者ギルドの利権にした方がスムーズだと思うから。


「そ、それはつまり」

「冒険者ギルドに食材の融通をするんじゃないですかね……」

「本部長、乗るべきだと思います」

 フッ、さすがゲテ姉さん、あの半魔物蜂蜜は衝撃的な美味しさだったものね。フフフフフ………。


「あー、わかった。どちらも検討しておく。それでいいな?」

 ザンの投げやりな承認を得て、私は頷いた。

「騎士団には内々に受諾はさせるぞ? ファリスもちょっと壊れ気味になってきたしな……正常な判断は下せるとは思うが」

「それは宰相(仮)みたいなことをしているからだと思いますよ。加えて騎士団長を兼任させている、王宮の人材不足にこそ原因があるんじゃないですか?」

「正式な宰相候補は、ファリス騎士団長以外では、魔術師ギルドのマッコーキンデール卿くらいです。マッコーキンデール卿では、ダグラス元宰相の二の舞になる可能性が大きいですから、何とかそれを阻止しようと奮闘なさってるんだと思います」

 ブリジットがファリスをフォローした。

 うーん、確かに、今の不安定な状況も怖いけど、またまた敵性人物が国のナンバー2、実質のトップになるのは、トラブル頻発の未来予想図しか思い描けないものね。


「皆が皆、奮闘してはいるんだが……上手くいかんものだな……」

 そういって、ザンは項垂れた。



―――ザン本部長、がんばってー(ゲス顔)





パスカル騎士団長、撃沈でした。でも全然諦めてないみたいです。

ファリス騎士団長は何かに目覚めてしまったようです。

お二人ともいい年のいい男で上位の貴族なんですけど、結婚してないんですよね。

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