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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
22/870

討伐隊の編成

 私が北門に戻り、夕方になる頃には、ポートマットに侵入したワーウルフは、駆除が完了していた。北門の脇には、天幕が張られ、そこが臨時の戦闘指揮所になっていた。フェイを初めとするギルド職員が何人かと、騎士団が集まっていた。


「……結局、何匹がいたことになるんだ?」

 フェイがフレデリカに訊くと、フレデリカは少し考えてから、

「門で撃退できたのが十五匹、内部に入り込んだのが十匹。合計二十五匹……だ」

「結構な数ですねぇ」

 思わず唸ってしまうほどの数だ。それに、ピンポイントにポートマットを襲ったというのも気になる。


「団長が戻りました!」

 この一大事に、アーロンは王都に呼び出しを食らっていたらしい。もちろん、彼の身分はポートマット領主の直属だから、職務放棄とも取れる。だけども、実家絡み―――つまり宰相絡み―――であれば、領主からの咎めも弱くなるだろう。

 一連のワーウルフ騒動が人為的に計画されていて、ポートマットに潜伏しているだろう勇者殺しの犯人をあぶり出すための罠ではないか、とする説は、アーロンが呼び出されたタイミングを考えると、もう正解と言い切っていいのではないか、と思える。


「町が魔物に襲われたというのに我が身が不在とは、全く不徳の致すところである」

 アーロンはそんなことを言いつつ、臨時指揮所にいた騎士団、冒険者たちに一礼をする。謝意を述べているつもりなのだなぁ、とは思うものの、その表情からは謝意は見えない。つまり本心で言っているのではない。


 私とフェイの目が合う。フェイは軽く頷いた。ここに至って、アーロンは宰相辺りから説明を受けたのではないか、という共通認識だ。事前にフェイに相談しておいて良かった、と今更ながらに思う。


「……それはそうと、ダグラス卿。……すぐにでも山狩りを行った方が良いと思うが?」

「無論である。薬品、食料関係の手配はどうなっておるか?」

 フェイの提案に即答するアーロンは、部下に向かって尊大な言い方で訊く。

「携帯食と飲料水については十分備蓄があります。体力回復ポーション、魔力回復ポーションは、今の戦闘で使用したため、数は少なめです」

 フレデリカが口を出そうとする前に、彼女の隣にいた、男性の騎士団員が代わりに答えた。フレデリカの副官なのかもしれない。そういえば、先日泣かせた時にも見つかった人だ。まあ、スキル的にも人物的にも興味を惹かれないので、名前さえ覚えていないけど。


「あの、これはトーマス商店の方から、皆さんでお使い下さい、と体力回復ポーションを預かってきました」

 ここでドロシーの商人魂を見せておこう。私は『道具箱』から木箱を取り出して、床に置いた。

「おお……。かたじけない。ありがたく使わせて頂く」

 アーロンは貴族の矜持など欠片も見せず、ありがたみも表現せず、当然だな、的な口調だ。まあ、別に騎士団にだけ使わせるつもりはないし、これから山狩りに参加することになるだろう冒険者へのアピールの側面の方が強い。


「……騎士団の方はどうする? ……冒険者ギルドは、緊急依頼として山狩りを行うが?」

「うむ。我が騎士団は小隊に分けて捜索範囲を広げつつ山へ入る」

「……いいだろう。……こちらはこちらで編成させてもらうぞ?」

 フェイがアーロンを一瞥する。アーロンは一瞬考える素振りを見せてから、

「いや、騎士団の補助を頼みたい。混成を希望する」

 と、フェイの意見を否定した。フェイの眉根が寄る。

「……卿の提案は呑めない。……指揮系統も練度も違う両者が同じ部隊で運用できるはずがない」

 実際、アーロンの言っていることは無茶振りだ。監視したい冒険者を混ぜて行軍させることに同意せよ、と言っている。

 フェイは冷酷な目をしている。立場上、公的な領地軍である騎士団と、独立した権限を持つゲリラの集まりである冒険者ギルドは、相容れる存在ではない。元の世界の感覚で言えば、騎士団は警察組織だし、冒険者ギルドは、社会のためになる暴力団、というところか。はみ出し者への救済措置としての側面もあるので、私の冒険者ギルドの見方というのは、そう外れてはいないはずだ。


「……そちらが折れないのであれば、冒険者ギルドは独自に行動することになるが?」

 冒険者ギルドは国家や領主の意のままにはならないことを是としている。その成り立ちに起因するらしいけど、詳細は知らない。コロコロ変わる施政者へのアンチテーゼだとは思うけれど。

 だから、フェイ以下、冒険者ギルドが騎士団に従う義務はなく、フェイが山狩りへの参加協力を申し出ているのは、フェイの独断ということになる。地元への最大限の協力、というのは冒険者ギルドの規約にも書かれているから、それに従っての事かもしれないし、本来は暴力装置である自らの存在を容認してもらうための処世術とも言えるだろう。


 フェイはアーロンに決断を迫る。今ならば騎士団主導ということにして部隊を動かしてやるぞ、それを逃せば騎士団は失敗の上塗りの揚げ句に権威さえ失墜するぞ、と。

 つまり、フェイは助け船を出しているわけだ。さすがにそれを理解できない騎士団長ではないはずだけど、この掛け合いの裏では、勇者殺しの犯人捜しなんぞに付き合わんぞ、バカめ、とも言っている。アーロン側がそれに気づいているかどうかは、今のところわからないけれど。


 天幕内の視線がアーロンに集中する。

「うむ、了解した。捜索部隊の振り分けはこちらの指示で動いて頂く。よろしいか?」

 アーロンが折れる。

「……いいだろう。……捜索の経路は相談の上、そちらの指示ということにして構わない」

「それも了解だ」

 アーロンは素直に頷く。意外にあっさり退いた。プライドと実務のバランスを取ったとも言える。頭ガチガチのアホ貴族というわけでもない辺りが、アーロンを油断のならない人物にしている。


「……うむ。……ボリス、一応王都の本部にも備えるように鳩を飛ばしてくれ。……一番早く着くやつで連絡しておいてくれ」

「わかりました」

 ボリス、と言われた男は時々受付で見る人だった。小走りに冒険者ギルドの方へ消えていった。


「……時間もない。……具体的な編成に入ろう」

 フェイがそう言うと、アーロンも頷く。だけれども、その視線は天幕にいる冒険者たちを確認するように、まるで落ち着きがない。目が口ほどに物を言うのを見て、交渉術はフェイの方が上なのかな、と少しだけ誇らしい気分になった。まあ、二人とも組織の長だし、政治家の側面がないとやっていけないだろうけど。


 フェイとアーロンは、ポートマット周辺の地図を見ながら、騎士団三〇名を六隊、冒険者三十三名を七隊、合計十三の班に分けて、それぞれの班長に進むべきルートを指示する。

 捜索範囲そのものを広げるために、一つの班の人数を絞り、進行ルートを増やすらしい。

「……セドリック、クリストファー、いるな。……こいつと組んでくれ。……三人で先行してくれ」

 おやおや、この二人は―――ポートマット冒険者ギルドが誇る有名な上級冒険者じゃありませんか。

「了解っす」

「―――わかりました」

「はい……」

 セドリックは調子よく、クリストファーは静かに、私は諦めたように、返答した。

「じゃ、早速出発するっす」

 セドリックがクリストファーと私を促す。長く冒険者をやっていて、上級にまで上り詰めると二つ名が付いてもおかしくない。

 たしか、セドリックは『微笑み』、クリストファーは『惨殺』だったか。セドリックの方は確かにニコニコしていて、逆に何を考えているのかわかりにくい。クリストファーの方は無表情で、これが『惨殺』に変化するのかと思うと、あまり話し掛けたくない人種の気がする。


-----------------

【セドリック・マシュー】

性別:男

年齢:28

種族:ヒューマン

所属:ポートマット冒険者ギルド

賞罰:

スキル:気配探知LV3(物理) 強打LV5(汎用) 高速突きLV5(汎用) 長剣LV6 両手剣LV4 短剣LV3 細剣LV5 弓LV3 

魔法スキル:水球LV2

補助魔法スキル:道具箱LV2 加速LV2 筋力強化LV1

生活系スキル:採取LV3 解体LV5 飲料水 点火 灯り ヒューマン語LV4

-----------------

【クリストファー・フィルビー】

性別:男

年齢:27

種族:ヒューマン

所属:ポートマット冒険者ギルド

賞罰:

スキル:気配探知LV3(物理) 強打LV4(汎用) 高速突きLV4(汎用) 長剣LV4 両手剣LV5 短剣LV3 鈍器LV5 強弓LV2 突進LV4

魔法スキル:火球LV1

補助魔法スキル:道具箱LV1 加速LV2 筋力強化LV2

生活系スキル:採取LV3 解体LV3 飲料水 点火 灯り ヒューマン語LV3

-----------------


 見たところ、セドリックの方はスピード重視のバランスタイプ、クリストファーは突撃から殲滅のパワー重視タイプ。

 セドリック辺りは、戦術考えたらフレデリカと互角に戦えるんじゃないだろうか。この二人相手なら、私でも苦戦するかもしれない。

「―――ルートは?」

「北門からまっすぐ北西に向かうっす。支部長から地図も貰ってるっす」

 ニッコリ笑うセドリック。笑顔が怖いわーこの人。

「―――わかった。―――その恰好で行くのか?」

 クリスファーは、セドリックに頷いたあと、私を見た。

 あー、確かにいつもの若草色の採取用チュニックだなぁ。

「いえ、途中で着替えます」

「この子が噂の『魔術師』っすよ」

 なんだよ、噂の、って。気になるじゃありませんか。

「―――ああ。なるほど」

 セドリックのフォローに、クリストファーが大きく頷く。うわ、納得してるし。どんな噂なんだろうねぇ……。


 二人は天幕の外に出たので、後を追いかける。

「じゃあ、行くっす。途中で接敵したら殲滅するっす」

「―――わかった」

「はい」

「――『加速』」

「――『加速』」

 二人は同時に『加速』をかけた。『加速』LV1を覚えるかどうかが初級から中級の境界だと聞いた。LV1からLV2が、中級から上級の境目だ、とも。

「――『風走』」

 私も同じように加速系補助魔法をかける。

 私たち三人は、沈む夕日を左手に見ながら、爆走を開始した。


―――ちょっと、ジェットストリ○ムアタックみたいだなぁ……。



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