神託の裏側
【王国暦122年4月13日 13:10】
馬車がポートマットの町中に入った。
私のアバウトな建設ルート調査は、新西門に入ったところで終了。
たった二日、帰宅しなかっただけで、こうも懐かしい気分になるとは思わず、ちょっと狼狽える。人間の感情っていうのは魔法陣で制御できないんだな、なんて考える。
「少し――――遅れてしまったからな」
多少の揶揄が入っているアーロンの弁だけども、別に不快じゃない。
アーロンも私も、結論を聞くのが怖いのだ。
ウィザー城西迷宮が魔術師ギルドとイコールである、というのは状況証拠に過ぎない。私が確認した『敵』の所属は『鑑定』スキルによるもので、これ自体に証拠能力はない。口のある死体もいるにはいるけど、魔物の証言に証拠能力は、おそらく皆無。
魔術師ギルドとコトを構えることは、背後にいる王宮の存在も気にしなければならない。たとえ、魔術師ギルド―――マッコーキンデールの独断であったとしても。
それに、付け加えるならば、ポートマットの町に被害は出ていない。領地内部には違いないけれども『遺跡』は相当に外れの位置で、アイザイアが軽々しく、私に遺跡(迷宮)の権限を与えたのは、領地境界に近く、曖昧な場所だった、という事情もある。
本当に微妙なところを突いてきたということだ。
【王国暦122年4月13日 13:36】
この世界的には昼過ぎ、と強弁できる時間に領主の館に到着した。
「ちょっと―――急ごう」
小走りにアーロンと会議室―――円卓のある部屋だ―――に急ぐ。
「遅れて―――申し訳ない」
「遅れました。すみません」
すでに、他の面子、アイザイア、フェイ、トーマス、ユリアンは揃っていた。アイザイアの後ろにはスタインとトルーマンもいる。フルメンバーだね。
遅れたことについては何も言われず、アイザイアはただ頷いた。早速始めるぞ、ということらしい。
「まず、二日前からの状況についてだ。クィン支部長、頼む」
「……うむ。……ポートマット西にある『遺跡』を発掘中の作業員が、何者かに襲撃された。……軽傷者はいるが、こちらに死亡者はいない。……襲撃は本格的なもので、『遺跡』直下にある『迷宮』の奪取が目的だと推測されている」
議長であるアイザイアが偉そうに言ったのに輪を掛けて、フェイは偉そうに報告した。
「魔術師殿、『敵』は撃退できたんだな?」
座ってすぐに、アイザイアが私に話を振った。
「襲撃者は全て撃退しました。大型の魔道具―――は鹵獲しており、すでに分解、再構築して再利用を予定しています。この魔道具を操作していた人物は排除。素性については確認はしていますが………」
「証拠にならない、んだな」
トーマスが言葉を継いでくれた。頷いて、私は話を続ける。
「その通りです。所属不明の魔物集団が勝手に襲ってきて、それに乗じて、連携しているとしか思えないタイミングで、謎の集団が攻撃を加えてきました。この集団の正体はウィザー城西迷宮を管理していると思われる魔術師ギルドです。これは本人たちにも確認しています」
「……不死者を作ったんだったな?」
それを聞いてフェイ、アーロン以外の面子がざわついた。
「はい、三体作りました。いずれも敵性の人間で、魔術師ギルド所属です。恐ろしいことに、魔術師ギルド側は、私が不死者を生成することを含んで計画を遂行していたのです」
あえて断定口調で言った。
「殺される覚悟で―――攻めてきたということか……」
アーロンの漏らした感想に首を捻ってみせる。
「いいえ、彼らは不死者になる可能性があること、その後に操られることを受け入れての出撃ではなかったようです。一見すると、自分で行動を選択したようで、全体としては操られていた、と思わざるを得ません」
「もうちょっと詳しく解説してほしい」
眉根を寄せたアイザイアが質問を挟む。頷いて、私は話を続ける。
「迷宮には『メイドシステム』といって、一定の仕様の人形を使役する仕組みが存在します。広義には、そこの乙女騎士像、港の巨人と同じ仕様ですね。ただし、正式な仕様に沿った人形を作ることは、特殊な装置が必要で、費用もかかり、現代の魔法技術では作り出すことができません」
全員が口をぽかーんと開けて聞いている。
「ところで、骨の襲撃があった、というのは記憶に新しいと思います。骨は全部で四体分あったのですが、この骨の頭蓋骨に埋め込まれていたのがコレです」
私は『道具箱』から、骨に入っていた金属板を取り出して見せる。
「危険なものじゃないですから触っても問題ありませんよ。この板を生きた人間に埋め込むことで、その『メイドシステム』に組み込むことが可能になります。生きたまま、迷宮に従う人形となるわけですね。これは『メイドシステムイージー』と言って――――長いので『イージー』と呼びますが――――少なくともポートマット西迷宮には存在が確認されています。どういう経緯か、迷宮直上の公衆浴場で働かされていたんですけど」
「……つまり、その『イージー』の支配下にあった三人が迷宮を攻めてきたということか」
フェイの言葉に頷きながらも、訂正をする。
「四人です、支部長。巨人の操縦者がいたからです。彼には金属板―――『子機』と呼ばれていますが―――は埋め込まれていませんでした。で、ですね、本題はここからでして」
長い前置きに全員が呆れた後、すぐに緊張感が高まった。
「この『イージー』には不具合がありまして。『イージー』を導入した魔物に対して『魔物使役』を使った場合、『魔物使役』を使った存在に干渉できる、というものです」
「なんだと」
「……なんだと……」
トーマスとフェイが同時に声をあげた。
「ただし、『魔物使役』を使う側にも魔核がない限りは発動しません。私にはありませんし……。『精神防壁』で防御されましたし。そもそも、生前に魔核を別に持っている魔物は一部の特殊なものを除いては存在しません」
「むう……」
「……むうう……」
トーマスとフェイは何を唸ってるんだろうか。
「事後……つまり、『魔物使役』を使用後に『子機』を埋め込んだ場合、ちゃんと発動するのか、逆にこちらから向こうに干渉できるようになるのか、その辺りは不明です。なお、この『子機』は配下の不死者……によれば全部が、今現在、私の手の中にあります。最後の一枚は私に埋め込むつもりだったそうですよ」
「それはまた……机上の空論としか評せないな」
アイザイアが嘲笑した。
「はい、私も同じ感想です。ですが、新機軸、新発見を使い、罠を仕掛けてくる魔術師ギルド―――ウィザー城西迷宮は看過できません。『子機』は全てが手中にあり、向こうが再度の侵攻を行う可能性は低いものの、私は、ウィザー城西迷宮の攻略を強く推します」
会議室が静寂……いや、沈黙に支配された。
「……脅威だということは理解している」
フェイが口を開く。
「……だが、ウィザー城西迷宮が……捨て鉢になって、迷宮の中身を解放してくる可能性がある」
冒険者でもある、スタインとトルーマンが、それを聞いて顔を顰めた。
「その魔物とは―――前に出会った、雷の魔物のような?」
「その魔物も、今回の襲撃にいましたよ。あの魔物でも、迷宮の魔物としては中の上、と言ったところじゃないですかね」
フェイの言っている脅威の理由が、自分の理解と追いついて、アーロンも身震いをする。
「すると、だ。黙って攻め入って殲滅、というのが一番いい訳だよな?」
トーマスが軽く言う。
「管理者がちゃんといて、それが一定の知能を持った人間であるなら、そのやり方での攻略は困難を伴うと思います」
「なぜだ?」
アイザイアが訊く。
「一つには『管理者』に登録された人間を全て排除する必要があるということ。実際の攻略に関しては、任意の場所に迷宮内部の魔物を自由に転送できることから、相当に困難でしょう。戦闘中、いきなり背後に転送されたりします。安全地帯は実質ないと言えます。それに、狭いので近接攻撃が主体にならざるを得ません。大規模な範囲攻撃魔法は使えません。よって、少数対多数で、戦闘に関してはこちらが有利になる要素は無いかもしれません」
うーん、と全員が唸った。ウィザー城西迷宮の管理者が節度ある人間ならいいのだけど、そうではない可能性を踏まえておかないと、痛い目を見るのはこっちだ。
「では、魔術師殿は―――どのような攻略が望ましいと考えているのだ?」
アーロンの質問に、私は少しだけ考えてから、
「迷宮の魔物生産能力には限度があります。周辺を封鎖して、百人ほどの中級以上冒険者で一ヶ月……いや二ヶ月攻め続ければいけます」
「費用がものすごいことになりそうだな」
「素材も魔核も得られるので、そうそう赤字にはならないでしょう。体制の確立とやる気の問題かと」
私が強硬に主張するも、『会議』のフットワークは重そうだ。
「お待ちください。沈静化しているのであれば、魔術師ギルドへの対応はひとまず置いておいて、現状の報告を持ち寄ることも大事ではないでしょうか?」
ユリアンが軽く手を挙げて発言をする。アイザイアが続きを促す仕草を見せ、ユリアンが頷く。
「王都の教会本部からは、都市間移動、町の外での活動に関して注意を促す連絡が来ました。王都側で把握している情報というものはどうなっているのでしょうか?」
唯一情報を把握しているだろうフェイが答える。
「……冒険者ギルド本部の方はかなり混乱している。……王都西迷宮にも、ウィザー城西迷宮からと思われる軍勢が攻め入っているからな」
「なんだって……」
アイザイアにはその情報は伝わっていなかったようで、目を丸くした。
「ザン本部長からも、それは連絡がありました。すでに王都西迷宮側が制圧して、こちらも現在は沈静化しているとのことです」
私も補足しておく。
「ポートマット領民への注意勧告は?」
「騎士団の名前で出してあります」
「……冒険者ギルドも出している。……間に合ったかどうかは怪しいが、遺跡に向かった魔物以外は弱い。……脅威ではなかった、という報告を受けている」
「なるほど……ウィザー城西迷宮を攻めると、今の比ではない魔物を出してくるぞ、という脅しなのか」
「……うむ」
「むう……」
フェイが肯定し、アイザイアが納得する。
「ザン本部長は、何て言ってたんだ?」
トーマスが訊く。何について、は言わなかった。
「……コイツを。……王都に送ってくれ、だそうだ」
フェイが私を見る。私も肩を竦める。
「魔術師殿を……?」
ザンが私を呼んでいるのは、王都西迷宮の管理者だから。王都西迷宮で、ウィザー城西迷宮の魔物の進入を牽制してほしい、ってところだろう。便利に気安く呼ばれるものだなぁ、と呆れもするけど、事はそんなに単純じゃないか。
「まだこっちの迷宮が落ち着いていませんし、二~三日後に出発、くらいに考えています。騎士団の通信設備の設置を行いますし―――」
「商業ギルドへの通信端末の方は?」
トーマスが流し目を送ってきた。
「商業ギルドへも一部は明日か明後日やります。残りは王都から帰ってきたらということで」
確約しちゃったけど、まあ、大丈夫でしょう。サリーが外装部品を量産してくれてるから、こっちは内部だけに集中できるし。
「どちらにしても、ですね、迷宮の警備体制の確立は必須ですね」
「それについては、迷宮に分隊を駐屯させよう――――と話し合っていたところだ」
「……ほう」
「演習場の運用も兼ねて、という持ち込み企画です」
「工場の方は?」
またまたトーマスが流し目を送ってきた。
「お……王都から帰ってきたらということで」
またまた確約してしまった。
「工場の建物は、ギルバートに依頼しておく。建材も手配しておくぞ」
「はい、作業員の宿舎建設も併せて、ヨロシクお願いします」
「話が中断してしまったが」
コホン、とアイザイアが芝居じみた咳を一つ。
「ウィザー城西迷宮からの攻めは、これ以上はない、と皆は見ているのだな?」
「……うむ。……こう言ってはなんだが、向こうも、こっちが攻めに行かない前提で動いているからな」
「その根拠は?」
今日のアイザイアはツッコミが鋭いな。
フェイの代わりに、本意ではないけど私がいくつかの根拠を述べる。
「先ほども言いましたけど、魔物を生産、搬出し、展開させるには限度があります。また、『イージー』による計略も実行が難しくなりました。攻めがない、とする最大の理由は、虎の子の巨人を撃破されているからです。解析しましたけど、現在、あれを量産するのは技術的には可能でも、お金が掛かりすぎます。よって、あの巨人は、魔術師ギルドが造ったものではなく、どこかに保管されていたものを持ってきた、と考える方が自然です。運用方法について頭を捻った跡がありましたし、『本体』の残存機数は皆無だと断言します」
「その、巨人が向こうにない、というのが何故、攻めてこない理由になるんだ?」
「巨人は、私への対策に必須だと思われるからです」
ずばり言った。こういう言い方は好きじゃないけどさ。
「なるほど………。魔物であれば、魔術師殿抜きでも警備は可能、ということだな?」
「……そのように考えている。……このような事態に、王都冒険者ギルドから応援が期待できないのは痛手だが、幸いにして二名の上級冒険者が逗留している」
カレンとシェミーのことね。ずっといるもんね。
「よし、よくわかった。さらなる動きがない限り、ポートマットとしてはウィザー城西迷宮を攻めない。攻める危険、手間の方が大きいと判断されるからだ。よろしいか?」
アイザイアが決を採る。
全員が挙手をして、私も渋々手を挙げた。
「全員一致だな。魔術師殿の動向は任せるが、単独で攻めるような愚は冒してほしくない。魔術師殿の行動は、即ちポートマットの行動と取られてしまうだろう」
仕方なく私は頷いておいた。勝手にやるなってことね。
「無論、監視は怠らないように編成をするし、異変があれば臨機応変に対応することになるだろう。少なくとも、今の時点で積極的にウィザー城西迷宮を攻略しない、というだけの話だ。将来的にはわからんよ?」
不満げな私をフォローするかのようにアイザイアは薄く笑った。
「なお、遺跡の警備と駐屯については、フェイ支部長とダグラス卿に任せる。…………巨人の所有権の話だが……」
アイザイアの言葉をトーマスが遮る。
「ああ、茶番はいい。街道は造らなきゃならんのだ。領主の判断が遅ければトーマス商店単独で建設を始めるところだった。トーマス商店とコイツで折半して費用は出す。建設の認可についてはいいな? あとな、相当に優遇してもらうぞ?」
トーマスは、お前馬鹿だね、見かけの費用をケチって、美味しいところを逃すよ? と言っている。
「うむ、街道の件は全面的に言うとおりにしよう。領主側で負担できるものはする。当面は新西門まで公営で乗合馬車を走らせるつもりでいる」
アイザイアは立ち上がって合掌した。演技ではなさそうだけど、そういうのを利用するのも政治家ってやつだよね。
「……スタイン」
フェイが、アイザイアの後ろで渋い顔をしているスタインに声を掛ける。
「……コイツが言うことを聞いているのは、ポートマットに人質が住んでいるようなものだからだ。……お前たち自身が人質の域になるまで意思の疎通を密にするべきだ。……今回の件は失望を禁じ得ない」
フェイの口はコミュニケーション、と動いていた。
「はい……」
「ああ、私はさほど気にしていませんので。やりたいようにやらせてもらうだけですから」
フォローのつもりで言っておく。オッサンが意気消沈している姿に、ちょっと萌えただけなんだけどさ。その姿を見せて私の同情を引こう、とか考えてたのなら、多分、それは私の攻略として正しいかもしれないよ?
「では、連絡を密に。多忙なところ、ご苦労だった。解散する」
アイザイアが会議の閉幕を宣言した。
【王国暦122年4月13日 16:01】
「某は一度戻って―――通信設備受け入れの準備をしておく。設置は騎士団本部でいいのだな?」
「はい、そのつもりです。準備ができたら連絡してください。こちらもまだ用事がありますので」
チラリ、とアーロン以外を見ると、フェイもトーマスもユリアンも、わずかに顎が動いた。
「うむ―――!」
少し興奮したように見えるアーロンは、全力で北街道を本部のある駐屯地に向けて走り出していった。
「……よし。……支部長室でいいな?」
あー、会議の第二ラウンドですね。
ゾロゾロと冒険者ギルドに入ると、私たちに合掌している人がチラホラ。
ユリアン司教は確かに徳のあるお方ではありますが……。
「いや、あれはお前を拝んでいるんだ。何かいいことありますよう、ってな。ベッキーがそう言ってたぞ」
「はぁ」
何かご利益があるんだろうか。それは鏡にお辞儀しても有効だろうか。
なんてことを考えているうちに、支部長室に到着した。
すぐにベッキーがお茶を持ってきてくれる。
ベッキーはお茶を置いたあと、チラリとフェイを見た。同室した方がいいのか、を伺ったみたいで、フェイの方は、いや、無用だ、と小さく首を横に振った。ベッキーはわかりました、とごく小さく頷き、視線をフェイからトーマスに向けた。トーマスも小さく頷くと、ベッキーはそのまま、支部長室から出て行った。
言葉はなかったけれど、会話が成立していた。何だ、この人たちのコミュニケーション能力は……。
「……さて――『遮音』。……始めるぞ」
さっきの会議が『表』なら、こっちは『裏』だ。ああ、恐ろしい世界だなぁ。
「まず。『神託』の件からお伝えします」
ユリアンが話し始める。今まで話すのを我慢していた風だ。
「『使徒』が複数存在している、というのは皆さんお気づきと思います。実は、今回、複数の『使徒』から相反する『神託』が入っていたのです」
え、そんなことあるんだ?
「先に、『迷宮を明け渡せ』という神託が来て、直後に『迷宮を渡すな』という神託が降りています。私は後者を優先しました」
「珍しいこともあるもんだな」
「はい、私も初めてのことでして…………。正直困惑しているのです」
ユリアンにしては珍しく、素直な感情を表に出してきた。
「……それで別々の使徒による神託だと判断しているわけか」
ユリアンは頷いた。
「後者の神託はポートマットの利益です。それに、前者では無為に貴女を危険に晒してしまう」
「いやぁ、十分危険でしたよ。直撃していれば、死んでたと思います。それにですね、王都西迷宮にも絶妙なタイミングで攻めてきましたし、計画性がある、というよりはですね、こちらの行動を読み切った行動に思えました」
「……考えたくないが……考えられるのは……」
「魔術師ギルド側にも、『神託』の受け手がいる可能性が高いですね」
「……うむ………」
「じゃあ、儂らは『使徒』同士の争いに巻き込まれてるっていうのか?」
「少なくとも、今回はそのように取れますね」
「あ、そういえばですね、『骨』が襲ってきたときなんですけど。最初に接触してきた『骨』は攻撃しようとしていた、というよりは、何かを知らせに来ていたような。事実、『骨』の襲撃がなければ、王都西迷宮からの緊急の報を聞いて、そっちに意識を移動させていたと思うんですよ。ですから、最初の『骨』に助けられたようなものなんですよね」
「……それは興味深い話だな」
「『骨』は全部で四体いたわけなんですけど、残りの三体は手刀で攻撃してきましたので、こちらは別の人ではないかと。というかですね、アバターがあの遺跡にある、と知っていた者の行動にしか見えませんね」
「……アバター? ……というのは人形のことか」
「はい、遠隔操作できる迷宮管理下の人形、みたいなものです。先ほども言ったように広義には、港の巨人もアバターです。狭義では」
プラスチック製の小型アバターを取り出して操作する。
「…………………」
口が固定されていて動かないので言葉は出なかった。ので本体に戻る。
「こんなのです」
「ほう~」
トーマスの目がキラキラしている。
「……その『アバター』とやらの、操作の条件はあるのか?」
フェイが真面目な顔をしている。これは真面目に答えよう。
「最初に『リンク』を行って、登録したアバターは、許可無く他人が動かせなくなります。港の巨人―――タロスは、この腕輪がないとリンクできません。一般の、リンク前のアバターなら、『召喚』スキル持ちなら、動かすことは可能だと思います。遠距離なら相応の魔力総量が必要になりますけど」
「……うむ~。……その『アバター』の存在を知っていて、かつ操ることが出来るのは」
「ユリアンの言っている、魔術師ギルドにも神託の受け手がいる、という話の信憑性を高めるな」
なるほど、と私も頷いた。いちいち辻褄が合う。
「その後の『神託』はないんですか?」
「今のところはありませんね」
「ということは、敵巨人の鹵獲も、ポートマット西迷宮の管理も、認められたと思っていいんでしょうかねぇ……」
「……そう考えるべきだろうな。……ついでに言えば、今日の会議でウィザー城西迷宮を攻めるかどうかは、『使徒』にとってはどちらでも良かった、ということになるか」
「いい加減なもんだな」
「受け取る私たちにとっては重大な問題だというのに」
トーマスの弁に、ユリアンは苦笑しながら返した。
その苦笑はちょっとやさぐれていて―――。
今まで『使徒』の手先として無理難題にも応えてきたというのに、場合によっては、それ自体にNGが出されてしまう。聖職者としても価値観が根底から変わってしまう出来事なんじゃないか。
だからと言って、我々が上位存在である『使徒』を見限ることは不可能だ。
「……今後は」
全員の不安を代表して、フェイがポツリと言葉を紡ぐ。
「……今後は、盲目的に『使徒』の指示に従うのではなく、二重、三重に手を打っていこう。……我々はすでに首を突っ込み過ぎている。……特に、お前は」
フェイが私を見る。トーマスも見る。ユリアンも見る。
「……お前は気をつけてくれ。……お前はもう、存在が強大過ぎる。……自覚することも保身に繋がっていくだろう」
強大って……。迷宮を二つ持ってるだけじゃないか。いや、でも、自覚しろ、って言われたよね。
「はい。はい、わかりました」
二度、大きく頷いた。
私は、自分で思うほど、私という人物を把握していないのだ。
拝まれる存在なのかどうかは知らないけど、さ。
―――鏡を覗けば、御利益があるだろうか……。
次回から新章であります。
本作の場合、あんまり意味ないですけどネ。




