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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ここ掘れ迷宮
210/870

無人の迷宮1


【王国暦122年4月12日 10:04】


「ぷはっ」

 息を吐く。

「ぐあっ!」

 頭を押さえる。

「ぐぬぬぬ」

 唸りながら周囲を見渡す。


 どうも布を敷いて地面に寝かされていたみたいだ。ヘベレケ山の中腹に到着していた。『ボル』とタロス02がガッチリ絡み合っている。矛を投擲した姿勢のままだった01も近くに立っていて、小さなクレーターの中心には、その矛が突き刺さっている。


 両脇を見ると、トゲトゲの獣が私を守る位置にそれぞれ座っていた。

「守ってくれてたんだね。偉いぞ」

 と言って撫でたら静電気が走ってビリビリきた。


「小さい隊長、起きましたか」

 私が起きたのに気づいたのか、ラナたんが声を掛けてくる。

「死体があったはずなんだけど、どうなってるかしら?」

 痺れた体をさすりながら訊く。頭痛は少し治まったか。

「そこにあります……うぷ……」

 うーん、平面人間なんてあまり見ないしなぁ。グロ注意って言っておいた方が良かったかしら。内容物をまき散らした生物は臭いものね。人間だって例外じゃない。


 例の仮称『ボル』は、めいちゃんの推定通り、ずばり『ボル』という名称だった。

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【ボル(試作二号機改)】

 汎用に使える戦闘用アバター

※本体に魔力源はないため別途必要

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【魔力供給制御魔法陣収納容器(ボル専用)】

 ボルに魔力を供給する魔核および魔法陣群を可搬できるように集約したもの

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【魔力伝達索】

 ボルと魔力供給制御魔法陣収納容器を接続する

※ミスリル銀製

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【魔導式弾頭加速型狙撃銃】

 物理弾頭を風魔法で加速させて打ち出す筒

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【魔力連動型検器】

 標的の魔力波形を検知して追尾を行う

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【仮設大型魔法陣(不可視)】

 野戦時に於いて迅速かつ広範囲に展開するために記述された大型魔法陣

-------------------------

【仮設大型魔法陣(障壁)】

 野戦時に於いて迅速かつ広範囲に展開するために記述された大型魔法陣

-------------------------


 むう、こうなってくるとネーミングがキテレ○大百科みたいだなぁ。無理矢理な和訳感がある。ついでにBGMも脳内で鳴ってる感じがする。

 要するに本体(ボル)と、箱、ケーブル、狙撃ライフルっぽい武器にスコープ、と。

 しかし、これだけの仕組みが存在するとは、素直に驚きを禁じ得ない。

 めいちゃん曰く、ボルは未完成品だったとのことだけど、その後の千年で完成にこぎ着けたってことなんだろう。

 この中で明らかな()()の技術は大型魔法陣だけ。これは傘のように開くことで一瞬にして魔法陣を展開できる、私も感心してしまうアイデアだった。

 ボルの運用を含めた技術の再現が可能だとすると、魔術師ギルド、侮れないな……。

 っていうか『使徒』が気にしているような産業革命の阻止とか吹っ飛ぶような技術じゃないの? これ?


 深刻なため息を押し殺して、矛が作った爆心地へ向かう。

 魔力回復ポーションを取り出してチビチビ飲みながら、白ローブの男―――今は赤黒く染まっているけど―――の死体に近づく。

 歩いている間に『通信端末』をチェックする。


 フェイからは、カレンとセドリック、クリストファーを遺跡に増援として送った、との連絡。

 ザンからは、十通ほどの短文が来ていた。迷宮同士の戦いに、王都がパニックになりつつある、情報をくれ、頼む、お願いだから、何とか言って――――と、徐々に泣き言みたいになっていた。

 それぞれに返信をしておく。


 フェイには、

『魔術師ギルドからと思われる攻撃を受けたが撃退、敵巨人を一体鹵獲。敵の目的はポートマットへの攻撃ではなく、新規迷宮の制圧および奪取と推定される。魔術師を含む増援をさらに希望する(意訳)』

 と送っておいた。

 ザンには少し動いてもらわねば。

『ウィザー城西迷宮から、王都西迷宮への攻撃があったが撃退した模様。魔術師ギルドへの牽制を求む。これは間接的にはポートマットへの攻撃である。この件に関して、魔術師ギルドや王宮への譲歩は難しいと思います☆(意訳)』

 と送っておいた。


 そもそも、ザンを初めとして冒険者ギルドは、ウィザー城の西に迷宮が存在しているのを知っているわけだから、恫喝は難しいかもしれないけど、王都騎士団―――ファリスを通じて、少しでもいいから魔術師ギルドの行動を邪魔してほしい。


 赤黒くなった白ローブ男の、平たくなった死体を改めて検分する。

 死体の状態ではロクな情報は得られない。魔術師ギルドの一員だとすれば、私の知らないスキルを保持している可能性があったのに。『死者蘇生』をしても、平面人間として復活直後に死んじゃいそうだし、『不死者生成』を使っても平面不死者となって、尋問に耐える知能が維持されるとは思えない。


 これでは王都西迷宮側で確保している死体から得られた情報と変わりない。つまり何もわからない。死亡時に解放される『道具箱』の中身も、ポーション類が数本だけ。実に徹底しているじゃないか。

 妙に感心しながら、死体を麻袋に詰めてもらう。

 ラナたんは嫌な顔をしていたけど、リーダーとして率先してやってくれた。


「ミノさんたち、その麻袋を持って付いてきて。ワーウルフたちは―――『洗浄』。私たちを乗せて。遺跡に戻ろう」

 魔物とラナたんたちに指示を出して、01と02にはそれぞれ『ボル』本体と『箱』及び付属物を持たせて運ぶことにした。

 獣臭いワーウルフに、それぞれが『洗浄』をかけて跨ると、ワーウルフは最初だけ嫌々をした。なかなか可愛い仕草でほっこりしたけど、我慢しろ、と思念を飛ばす。



【王国暦122年4月12日 10:34】


 遺跡に戻ってきた。

 十年分は働いたような気がする。

「小さい隊長!」

 ラルフ少年が近づいてくる。後ろにはセドリック、クリストファーとカレンがいて、ラルフ少年の表情には、責任が軽くなった、とあからさまな安堵が見られた。


「お疲れ様です。朝早くから申し訳ありません」

「どうもっす。久しぶりっすね」

「―――大したことではないが―――」

「うん、状況を知りたいさ。何も情報貰ってきてないのさ」

 どう話すべきか、何を話すべきか、この後どう動くべきか。


「冒険者ギルドに、もう少し増援を要請しましょう。その間にも敵から襲撃がある可能性があります。みんなもこっちきてー」

 セドリック、クリストファー、カレン、『第四班』の全員を呼び寄せて、崩落した穴へ向かう。

「獣たち、私が戻るまで、この女の子の言うことを聞くように」

 と、ラナたんを指名した。ラナたんは何を言われたのか理解したときには、楳図かずおの漫画みたいな顔になった。

「お三方、歩きながら説明します」


 ()()()に襲撃を受けていること、魔術師と魔物の混成であること、彼らの目的は遺跡の下の迷宮であると推測されることを説明していく。

「すると、この下にあるのが迷宮だと知っていて、それをお嬢ちゃんが発掘し始めた情報を得て、奪いに来たってことっすか」

 勇気あるじゃないっすか、とセドリックは肩を竦めた。


 うん、確かに、これは両面作戦でもあり―――見事な奇襲作戦だと思った。

 仮に………の話だけど、あのタイミングで『骨』の奇襲がなかったら、めいちゃんの求めに素直に応じて王都西迷宮のグラスアバターにチェンジしていたら、ポートマット西迷宮は奪取されて、最悪、私も死亡していたのではないか。

 というか、私が意識を移動させてから『骨』の奇襲があったなら完璧じゃないか。


 あれ? 何かズレてるような? 何だろう?


 あともう一つ。今回の襲撃は紛う事なき大事(おおごと)だ。ユリアンから『神託』があっても良さそうなものなのに、今回に限って何もない。疑問だらけだ。


「っと、着いた、かな」

 穴から洞窟のような回廊を一分ほど歩くと、門のような扉が見えた。

 扉はピッチリ閉まっているのだけど――――。

 扉の下にあっただろうホコリが綺麗になっている。誰かが通過して、その後に扉を閉めたのだとわかった。


「これは、先を越されてますね」

「―――む、そうなのか?」

 迷宮を掌握されたら、今、ここにいる魔物たちは味方ではなくなる可能性がある。上級冒険者を一人は残しておきたい。

「クリストファーさんと『第四班』の皆さんはここで扉の守備をお願いします。敵の応援が来るかもしれませんし、内部から逃げてくる可能性もあります。敵であれば排除、もしくは無力化してください」

「―――なるほど。了解した。任せておけ」

 クリストファーはおとなしくしているエレクトリックサンダーをチラリと見てから、私の指示を了承してくれた。


「では、私とセドリックさん、カレンの姉御。三人で突入します。と、その前に……離れていてください」

 私は召喚の光球を作って、扉を開けさせる。

「あっ?」

 パッ、と光球が消える。

 ん、この罠は……魔力吸収、というかミネルヴァの呪いか。スキル化、いや遅延設置で罠にできるのか。

 でも、ミネルヴァの魔力総量の小ささで、こんな魔法陣を設置できやしないから、紙に書いた魔法陣を展開して設置したんだろう。

 私は教会印の紙を取り出して、紙飛行機を作る。

「………?」

 全員の顔にクエスチョンマークが浮かぶ。

 紙飛行機を亜麻油に漬けて……。


「―――『点火』」

 火を着けて飛ばす…………。

 と、扉の奥に着地した。十秒ほど燃えて、皮が焼ける、いい匂いがした。お腹空いてきたなぁ。


「よし、いきましょう」

「今のはなんなのさ?」

「えーと、罠を無力化しました。魔法陣の一部が欠損すれば魔法は発動しませんから」

 想像通り、扉の後ろには羊皮紙が置かれていた。一部が焦げている二メトル四方の、大きな魔法陣だった。一人で持てる大きさじゃないな。『道具箱』があっても、展開して広げるのには一人じゃ難しいし時間がかかる。

「少なくとも敵は複数です。注意しながら最速で進みましょう」

 くるくる、と魔法陣を丸めて回収する。『道具箱』に入れておけば発動はしない。


 最初に入った場所は小さなホールになっていた。

 壁材を見る限り、素材は違うだろうけども、加工の方法がウィザー城西迷宮や王都西迷宮に近い。ほぼ同じ構造、と見ていいだろう。


「――――『魔力感知』」

 いた。


「下の階層にいますね」

「お嬢ちゃん、接触したら」

「有無を言わさず殲滅します。生死と形状は問いません」

「了解したっす」

「わかったさ」

 カレンは短槍、中くらいの大きさの盾、フルプレートの鎧。セドリックは長剣に革鎧に小盾。私はプロセアの王女から奪った青い杖。そういえば、この杖と赤い杖、カレンが奪った小盾は返還要求されなかったなぁ。されても返さないけどね。閉所だし、雷の杖は使わないと思うけど、念のため、ラバーロッドの手袋ははめておこう。


「―――『暗視』『暗視』『暗視』『風走』『風走』『風走』」

 二人にも強化魔法を付与して、魔力回復ポーションをまたグイッと一気飲み。

「魔力垂れ流しなのでだいたい道はわかります。こっちです」

 複数の、恐らく魔術師ギルド員がここにいる。そのうちの一人はミネルヴァかもしれない。フェイとアマンダの娘、ダークエルフとエルフの間に生まれた忌み子。出会ったら―――――殺せるだろうか。ブリジットを結局殺せなかった私に。


 先行の侵入者は左手法で回っているらしい。あちこちウロウロした跡がある。

 だけど、魔力が通過したところで濃いところを選んでいけば、そこが正解だ。

「こっちです」

 下の階層へ降りる階段を見つけた。

 罠はないみたいだ。

「降りるっす」

 頷いて、私たちも続いた。



――――無人、ではなかった……。





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