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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ここ掘れ迷宮
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迷宮の襲撃3


【王国暦122年4月12日 4:22】



 バシッ。


 指輪の『障壁』が発動した。

 それは一瞬のこと。

 だけど、わずかに光弾が逸れて首を捻ることができた。

 音も立てずに、ポニーテールが焼けて、炭化した髪の嫌な臭いが鼻につく。

 背後はもう遺跡の浴槽だ。


 今のは危なかった。

 やばかった……。

『不死』スキルは挙動がまだ読めないし、できれば不用意な形で死にたくない。


 ここまで苦戦を強いられるとは。『魔物使役』で数は減らせたものの、光弾で狙撃してくる『タロス』は本気で厄介だ。

 見誤っていた。

 なめていた。


 今できることを最大限やろう。じゃないと、私だけじゃなく、ここにいる面子の全員が殺されてしまう。

『道具箱』からありったけの土塊を放り投げていく。

 トーチカを仮設してピンポイントで狙撃されるのを防ぐ。


 慌てていたのか、()()()『手鏡』も『道具箱』から出してしまう。

『手鏡』が鳴っている。

 緊急事態で追い詰められているというのに、元の世界の律儀な国民性が、手鏡通信に応答してしまう。


『あー、アンタ、大丈夫なの?』

「ドロシー……」

『もう起きてると思ってさ。靴、昨日届いてたわよ。ありがとうね』

「ああ、うん。よかったよ」

 そっか、王都で注文していた靴が届いたかぁ。

 エプロンドレスと併せて、オズの魔法使い完成だなぁ。ドロシーもサリーも可愛いだろうなぁ。

『ちょっとアンタ、本当に大丈夫なの?』

「大丈夫」

 即答して、最大限の笑顔をおくる。

「大丈夫だよ、ドロシー」

『え、ちょっと鐘が鳴ってる……?』

「うん、お店に行かないで、地下室にみんなで入ってて。ベッキーさんに連絡入れてみて。また後で」

 鏡の向こうのドロシーが軽く頷いたのを確認して、通信を切って、手鏡をしまう。


 周囲を見渡す。

「ラナたん、私の声、聞こえる!?」

 肉声で――――『拡声』を使わずに――――最大限、大声を出す。

「はい! 小さい隊長!」

「穴の周囲に魔物が行くから! 背を向けているのは味方だから! 穴から出ないで、入ってきた()()だけ対処よろしく! 私が戻ってくるまで踏ん張って! 魔物ども! 穴の周囲で、穴に背を向けて敵を防げ! ラルフ少年! フェイ支部長に現状を報告よろしく!」

 ラルフ少年がフェイにどう報告するか、ちょっと不安は残るけど時間がない。

 魔術師ギルドの連中がここに来たら、言葉は通じても降伏は多分受け入れてもらえない。言葉の通じない魔物のほうが、ずっと対処が楽だわ。


「――――『掘削』」


 周囲五十メトルを掘削して掘り下げる。

「!」

 思ったよりも地盤が柔らかい。

 落ちる!

 陥没した穴に転がっていく感覚。

 私の真上を光弾が通過していった。

 落下して助かったのか。



【王国暦122年4月12日 5:06】


 崩落が終わり、私は土砂の中にいる。

「いてててて……」

 大丈夫、死んでない。

 呼吸できる隙間も空気もある。

 残り魔力も……ある。

 だけど脱出のために魔法やスキルを使うのは悪手だ。位置を特定される。


 ん。

 つまり魔力の発生をモニタしてるってことか。

 もう一つ判明しているのは、即時の追撃がない、ということ。ただ、これはブラフかもしれない。連射が可能なのを隠している意味はわからなくはない。

 光弾は土塊程度じゃ貫通する。だけど、物理的な何かに邪魔されると直進はできない。つまり、あの光弾は魔法ではない。砲弾モドキに魔力を被せて射出していると推定できる。

 あれ、これって、いつぞやか、ブリジットが使っていた、自動追尾の弓矢を射出する魔道具の大型版じゃなかろうか。

 あの模擬戦の後、ちょっと見せてもらったっけ。

 思い出せ!

 確か―――『隠蔽』の状態では全く反応しないようになってた。

『隠蔽』はスキルを使ったり攻撃したりすると解除される。だけど、発動中の魔力の発生は隠蔽できる。でもでも、最初に使う『隠蔽』の魔力の発生は隠せない。

 ステルスウナギの革鎧を着込む空間はなさそう。というか結局スキル発動時に使う魔力は私由来だから同じこと。

 手詰まりか。


「いや」

 僥倖と言うべきか、遺跡の発掘のためにタロスを連れてきている。もう日の出だ。こちらが向こうを目視―――発見できれば勝機はある。

 とはいえ、こちらは接近戦特化と防御特化。盾を先頭にして突貫させるしかないか。

 幸いにしてタロスが発生させる魔力は極小。

 隙を突いて本体を隠そう。

 よし、タロス01、02にチェンジ。


 視点の位置が高くなる。02を先頭に盾を構えて、01に追尾をさせる。


ズン、ズン……。


 ゆっくり、遺跡を陰にして……移動……。

 グリテンの天気が珍しく空気を読んだ。

 朝日が昇る。

 01で『遠見』を発動。北方向を中心に見渡す。



 いた。



 ヘベレケ山の中腹に、それは見えた。

 遠目にも巨大で長い()が見えた。

 まさか……『不可視』を装備しているというのか。

 ウチのタロスに比べると高性能なのか、強化魔法が付与されているのか。後者だとすれば術者、もしくは操縦者が近くにいる。

 狙撃されないように、01、02には麓をぐるっと反対方向に回りながら登らせる。

 接敵するには時間がかかる。ウチのタロスの接近をサポートするか。

 自動進行を指示しておく。

 本体に戻る。


 本体は無事で、いまだ土砂の中。

 思わず息を吐く。

「ふう」

 そして吸う。

「すう……」

 よし。

 いくぞ。


「―――『障壁』『障壁』『障壁』」

 スキルを発動した途端に光弾がやってきた。

 けれども、土砂に邪魔をされて直進していない。

 ここまでは読み通り。


「―――『召喚:光球』『召喚:光球』『掘削』」

 光弾のやってきた方角に掘削を発動。土砂が『道具箱』に飲み込まれて、視界が開ける。


「ぷはっ」

 息苦しさから解放される。

 急ぎ着弾点から離れると、

「―――『隠蔽』」

 姿を隠して、光球には囮として動いてもらう。三分が勝負だ。


 バシッ!

 すぐさま光球が狙撃された。だけど光球はかなり素早く、その場に留まらずに動き続けて被弾しなかった。

 私本体は遺跡の―――浴槽の穴から下へ。


 ラルフ少年、ラナたんをはじめ『第四班』の面々が不安そうな顔つきで穴の外を見ている。『隠蔽』をしている私には気づかずに通過させてしまうほどにザル警戒だけど。

 穴の奥の部屋、竈部屋に―――バラバラになった骨のそばに腰を下ろす。

 あとは―――直撃が来ないことを祈ろう。

 02にチェンジ………。


 01は02を追尾するように設定している。

 プログラム通り。

 敵タロスの(影の)背後に出られた。


 このまま前進。

 背後からは01の足音が響く。

 敵の影はまだ動かず。時折、射撃の音が低く響くだけ。

 このまま――――盾で体当たり。

 02! いっけぇええ!


あああ お おおあ


 吶喊し、突貫する。

 影がわずかに動く。回避行動を取ろうとしているのか。させないよ!


 ギンッ!


 耳障りな金属音が辺りを支配する。

 と、同時に敵巨人の姿が現れた。


 んっ?

 何か小さい? タロスより一回り。

 薄緑色に塗られた曲面主体のデザイン。長い槍―――長銃身のライフルにしか見えない―――を抱えている。

 今の状態では『鑑定』系統は正確に発動しないから、詳細はわからない。


 この敵巨人には『本体』の背後に大きな箱が付いていた。ぶっといケーブルらしきもので本体と箱が繋がっている。

 そんな不自由な箱をくっつけている上に体格も小さく、格闘戦にはまるで向いていないのか、02の盾で殴られて動けなくなる。

 02は盾を投げて、敵巨人を羽交い締め。元の世界の日本人は柔道が体育の正課に入ってるのよ! やったことないけど!

 押さえつけている間に01にチェンジ。


お ああああお


 矛でケーブルを切断する。

 と、敵巨人はライフルを手放し、動かなくなった。

 また動き出すかもしれないので02にはそのまま体重をかけて関節を極めて寝技に持ち込んで固定。

 01に戻り、周囲を警戒する。

 と。

 白いローブの男が木の間を走り去ろうとしているのが見えた。

 この野郎、逃げるんじゃないよ!

 ギリギリギリギリ……と01の体が捻れる音。


 矛を全力で投擲!


ぶぉん


 風を切る音。

 猛スピードで投げられた矛は、ソニックブームを生み、着弾地点が陥没したあと、土煙を上げた。


ドン


 遅れて着弾の音がした。

 白ローブの男は……?

 タロスの状態で使える、最大限の気配探知を行う。


 反応なし。


 うーん………………あ………いた。

 う~ん………。

 平たくなってるな。文字通り。


 死体の状態じゃ『鑑定』しても碌な情報を得られない。これだけグチャグチャだと不死者に生成しても知能は皆無だろうしなぁ。

 だけど、生かして放置しておくことは危険だったし、仕方がない。間違いなく魔術師ギルドの一味だとは思うけど……。

 しかしなぁ、探知圏外からの狙撃、というのは実にいいアイデアだったなぁ。

 これだけの仕組みをたった一人の魔術師がやっていたというのか。

 これで脅威は去った、と思っていいか……? いやどうだろう?

 王都西迷宮の方も気になる。

 01は死体を見張らせたまま、02は抱きついたまま、現地に待機させて、一度本体に戻ろう。




「んっ」

「あれっ」

「小さい隊長? いつの間に……?」

 驚きの声をあげる『第四班』の面々を見渡しながら、全員が無事だったことに安堵する。

「ええと……。そこの麻袋を持って、ラナたんと、あと四人ほど、付いてきてください。ラルフ少年は居残りで連絡係で」

「はい、小さい隊長」

「お、おう」

 あ、自然にラナたん、ラルフ少年、って言ったけど、違和感なく受け入れられているみたいだからスルーしておこう。


 召喚の光球は片方が生き残っていた。片方は直撃を受けたのではなく、『障壁』を張って魔力切れで消滅したようだ。

 光球を随伴させたまま、

「じゃ、あの方向に……私を背負って移動をお願いします……」

 恥ずかしげに言ってみる。

「じゃあ、私が……」

 ラナたんが申し出る。

「よろしくです。―――『筋力強化』『風走』」

 ラナたんに強化魔法を付与する。これで私の体重の重さもごまかせるというものだ。


 ぴょん、とラナたんの背中に飛び乗り、ヘベレケ山の北側を指さす。

「小さい隊長……?」

 なんだっけ、こういう妖怪、いたよなぁ。筋力を強化しておいたので、重いとか言われずに済んでよかったー。


「あそこの中腹に敵の死体があります。検分したいのです」

「えっ!」

 驚いたラナたんをスルーして、おとなしく待機していた魔物たちも随伴させることにした。エレクトリックサンダーはあの二匹がちゃんと残っているようだ。合流しろ、と命令を出しておく。


「獣臭いけど我慢してね。光ってる魔物が後で合流すると思うから。じゃ、なるべく早く戻ってくるから」

 軽く言って、王都西迷宮のアバターへ意識(チャンネル)を移動させる。



――――チャンネルはそのままで! 私はチャンネル変えるけど!





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