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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ここ掘れ迷宮
206/870

迷宮の襲撃1

【王国暦122年4月12日 2:45】


「っ!」

『骨』に気づいて飛び起きるのと、骨の攻撃は同時だった。

 鈍い動きの『骨』の掌が、私の寝ていた場所に打ち付けられる。関節がパキッと割れる音がして、小さな破片が飛んだ。

 不死者(アンデッド)化したのか。フェイの言う通り、先に浄化しておけばよかった!

「隊長! 骨が!」

 誰かが叫んでいる。


「―――『浄化』」


 光魔法を浴びせて骨が………。

 崩れ落ちない? なぜ!

 骨はゆっくりとした動作で折れた手を支えに起き上がろうとしている。


「敵襲! 起きろ!」

 風系魔法に乗せて叫ぶ。

 雑魚寝していた『第四班』の面々が飛び起きる。不寝番はどうした!

 片手になった『骨』はゆっくり立ち上がり、私に向かってくる。威嚇するように掌底を突き出しながら―――。


 これはアンデッドなの? いや、光魔法でダメージを受けていない。

 じゃあ、何だっていうんだろうか? 『鑑定』では骨以外の結果は見えていなかったというのに。


「小さい隊長! ヒッ!」

 起き出したラナたんが悲鳴を上げる。

 黒鋼のメイスを取り出して、骨の―――脚の関節を突く。

 パキッ、と軽快な音がして骨が砕け、片膝をつく。

 続けざまに関節という関節を突く。ついでに頭蓋骨も突く。

「んっ?」

 頭蓋骨から何か出てきたぞ…………。金属板? 魔法陣が書いてある。

「これは……」

 この魔法陣、どこかで見たことある……。これは……人工魔核の皮に描かれていた魔法陣に似ている……? 何で、こんなものが人間だったモノの、頭部に入っていたんだ?


「隊長! 骨が攻撃してきた!」

 外からはラルフ少年が異変を知らせてくる。

「意外に素早い攻撃してくるから離れて! まだ動いていない骨があったら関節を壊して!」

 叫んで、小屋の外に出る。


 骨はあと三体分あった。

 一体がカチャリ、と浴槽脇の穴から上半身を出そうとしていた―――首の骨を薙ぐ。

 首輪に当たって、金属音がして、頭部と一緒に、体の部分も穴に落ちていく。階段状になっているから倒れただけかもしれない。


 これは……不死者ではない……?

 人工魔核の魔法陣を持つ……魔物? ってことは? 迷宮の魔物?

 でも、『魔力感知』では、この迷宮は完全に死んでいる迷宮だ。

 だから、この骨は『迷宮の魔物』ではない。

 そのはずだ。

 そのはずだけど……。


 穴の中に入る。首を砕いた骨の頭部がカタカタと歯を鳴らしていたけれど、そのうちに動きを止めた。

 奥の部屋から、もう一体が出てくる。


 メイスをしまって、諸手剣を取り出す。

「ふんっ」

 ダッシュ。私の突進に合わせて、骨は手刀で突きをしてきた。

 これは―――魔物の動きではない。()()()()()()

 確信した。


 懐に入り、私は腕を畳んで回転半径を小さくして、剣先を首の骨に添えて、スッと差し入れる。

 ぽとり、と頭蓋骨が取れるのを、優しく受け止める。小脇に抱えて、元々骨があった現場へ。

「無駄ですよ」

 最後の骨が立ち上がろうとしていたところだった。

 この骨にも、首の骨を優しく断ち切った。


「小さい隊長!」

 暗がりでもわかる青い顔でラナたんが駆け寄ってくる。

「みんな、怪我はない?」

「はい、なんとか」

「えとね、頭と体を分けておくから。もし、頭部が体を求めて動き出したら、剣で押さえて止めてね」

「は、はい」

 ラナたんたちにこの場は任せて、小屋でばらばらにした骨を回収に行く。


「この骨は安全……だと思う」

 首輪と足輪は普通に青銅製―――だと思っていたのだけど、錆が落ちたことでどうやら魔法に親和性のある、極薄い金属の板がサンドイッチされていたのに気づく。

「ミスリル銀じゃないな……」

 ポツリと呟く。

「そっち、ちょっと不気味かもしれないけど、持ってほしいんだ。穴に持って行くよ」

 私に骨を持ってね? と懇願されて、ラルフ少年は複雑そうな顔をした。

「お、おう」

 弱々しく返答して、数人で手分けをしながら骨を運んでくれた。


「十人は遺跡周辺で警戒、二人一組になって。五人は私と一緒に穴の警備。行動開始よろしく」

 有無を言わさずに指示を飛ばす。

 想像の通りなら骨による襲撃は終わりだと思うんだけど、問題はその後で―――。


「っ」


 ()()()()()()()()()()()()


 王都西迷宮の管理層に置いてある、グラスアバターが、撫でられたのだ。

 この微妙な撫で……ええと、『優しい撫で』は、『至急お伝えしたい事態の発生、緊急度は中くらい』だっけ。

 つまり、王都西迷宮()()何かあったのだ。

 もちろん、この符丁が使われるのは初めてのことだ。

 軽い緊張と焦りが背中に感じられる。


 まずは本体の安全を確保しよう。

 焦りを押さえつつ、転がっている三つの頭蓋骨の()()()に、諸手剣の剣先を入れて、剥がす。

「やっぱり……」

 最初の骨と同じように、頭蓋骨から金属板が出てきた。今はこれを解析しているヒマはない。首輪、足輪も回収して、金属板も一緒に『道具箱』に入れてしまう。

 これで、私由来の空間である『道具箱』にアクセスするためには、私を通じて行う他はない。ついでに言えば、この金属板や首輪、足輪を通じてアクセスしたところで、操れる()()()()は存在しない。


 ということは――――この『骨』たちは、『千年前の奴隷の骨』であり、今し方、誰かに操作されていた『アバター』なのだ。

 そして、全く信じられないことなのだけど、この金属板は生前の奴隷に埋め込まれたものだ。生きたまま、アバターとして扱われたのだ。

 それは単なる奴隷より数段()()()システムかもしれないけど……忌避感があるのも確か。一方で、迷宮で魔力を勝手に奪っているのと何が違うんだ、と諭されたら反論は出来そうにない。

 私だって悪魔の所業を繰り返しているじゃないか。


「ええい」

 首を振る。自己否定はやめよう。無限ループに陥ってしまう。

「小さい隊長……?」

 ラルフ少年が心配そうな顔をしている。

「大丈夫」

 それだけ言って、部屋にいる数人と、自分自身を落ち着かせる。アバターによる奇襲がされた今、二手目、三手目があっても不思議じゃない。となると、チーム『第四班』だけでは戦力不足の可能性がある。

 フェイに増援を依頼しよう。起きてるかな。

 普段は『道具箱』にしまっている『通信端末』を取り出す。

「おや?」

 すぐに短文を受信した。

 冒険者ギルド本部長のザンから三件、フェイから二件。

「あ、短文がきた」

 ラルフ少年の端末に新着の短文。同報通信だったのだろう、私にも来た。


「外で巡回している面子を呼び戻して、この遺跡から目の届くところに。警戒態勢じゃない、防御態勢を取らせて」

「何があったんですか?」

 ラナたんの真面目な顔が不安で一杯に。

「こっちに来るかどうかわからないけど、ウィザー城西迷宮から魔物が溢れているって。今のところ北上してるって」

 私は説明しながら、めいちゃんが連絡してきたのはこれか、とため息をついた。


 ザンからの短文は、『ウィザー城西迷宮と思われる場所から魔物が多数出現中、王都西迷宮を目指している模様、何か情報はないか?』『少数が南下中、ポートマットに到達する恐れアリ』『頼む、至急連絡乞う』の三点。

「『情報提供に感謝、現在状況を確認中』っと」

 ザンに返信しておく。


 フェイの方からは、一件目は『ザンから連絡あり、ウィザー城からポートマット方面に多数の魔物が移動中、そちらの情報はあるか?』『騎士団を巻き込んで町周辺を巡回させる。遺跡周辺も注意してくれ』『百匹以上の魔物がそちらの遺跡方向に移動中との情報あり。注意されたし』と。


 ええと、まとめると、

①王都西迷宮に向かっている魔物軍団

②ポートマット、というよりは恐らく、この遺跡を目指している魔物軍団


 の二系統がいると。両方とも―――()を標的にしている。骨の奇襲も含めて、偶然じゃないな、これは。

「ここに向かっていると思われる魔物、百以上、強さは不明、最大限の警戒をよろしく。もう全員、この部屋に籠城して下さい。入り口だけに集中して守備ね。私の本体をしばらく守って下さい―――『召喚:光球』」

 オーヴを出して備える。

「ちょっとの間、頼んだよ」

 ぺたん、とその場に座り込んで、王都西迷宮のグラスアバターへ……。

 いやちょっと待てよ、途中にアクセスできないアバター? がいるぞ? ウィザー城とこの遺跡の間に一体、同じくウィザー城と王都西迷宮の間に二体。

 これは……アバターじゃない?



 タロスだ。

 タロスが攻めてきているのだ。



―――まさかの巨人VS巨人が……?





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