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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ここ掘れ迷宮
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捕虜送還後の会議

..捕虜送還後の会議


【王国暦122年3月26日 13:55】


 二隻目の船が入港して、残り三十人の引き渡しが行われた。

 騎士団の魔法隊は遠方から監視していたらしく、船が出て行くとゾロゾロと十人ほどがアーロンの下に集まった。そのうちの三人はコイルたち(スーパースリー)だ。この十人中、スーパースリーの魔力の大きさ……が飛び抜けている。


 フレデリカによれば、私からのレクチャーを受けるまで、彼らは味噌っかすだったという。それが今やエース扱いとなれば、魔法隊の他の面子は心中穏やかではないだろう。スーパースリー以外の面子にも、私がレクチャーしてくれ、という話は許諾したんだけど……。


「これは魔術師殿。我らポートマット騎士団魔法隊は、魔術師殿から手ほどきを受けられる日を待ち望んでおります」

 と、ストレートに言われてしまった。

 二十代後半……の彼は、魔法隊の隊長、ロリンだ。アーロンによれば、騎士団の魔法隊、というのは正式な隊ではなく、魔法専門に動く機会があった場合に、攻撃魔法の資質を持っている面子を仮編成する時の名称なのだと言う。つまり、『騎士団内部で魔法の資質の高い団員』一般を指すこともある。

「中々時間が取れませんで……申し訳ありません」

 コイルたちが最初の弟子だから、と優遇しているわけではないのだけど。


 彼らは、純粋に魔法の実力を高めたい、という気持ち以外の、地位だとか名声だとか矜恃だとか、付随する方に神経が行っているようで、あまり乗り気にならないのは確か。

 彼らには、その辺りを修正してもらいたい気持ちはあるけど、それはさすがに押しつけがましいかなぁ、とも思っていて、躊躇している。


「いえ……。魔術師殿がお忙しいのは重々承知しております。お暇が出来ましたら是非にお願い致します」

 凄く謙った口調だけど、ロリンは貴族だ。しかも王国の男爵の、三男とか四男とかだ。アーロンと立場が似ているからか、重用されているような気がする。まあ、それはいいんだけど、貴族がこういう口調の時は裏があるもの。領主アイザイア然り、国王スチュワート然り。

「はい、近々」

 作り笑顔を投げ返しておく。めんどくさい……というのはちゃんと伝わってるはずだから、それを乗り越える熱意があれば私も動かされるんだけど。

 あっ、これはあれか、『儂をその気にさせてみろ!』というやつなのかな? 自分がその気にさせられる立場になるとは考えてもみなかった。



【王国暦122年3月26日 14:05】


 騎士団員が整列して駐屯地と収容所方向に分かれて、ザッ、ザッ、と歩いていく。

 中々に壮観だなぁ。送還と掛けたわけじゃないよ? 私たちが乗ってきた馬車には、なにやら重そうな荷物を積んでいたから、あれが身代金なのかな。

 と、そこにアイザイアから、会議招集の短文が送られてきた。

「了解、っと」

 すぐに返信する。

 恐らくは………今回の身代金で、分割払いになっている私への支払いが出来るから、取りに来てくれということも含むんだろうけど。

 あとは……残った捕虜たちの処遇か。



【王国暦122年3月26日 14:21】


 領主の館に到着すると、演技派の執事さんが出迎えてくれた。セバスチャンだかポールって名前とかだと面白いんだけど、面白くないことに、彼の名前はジョージだ。

 この人は顔に出ている情報と感情に明らかに差があるから、私も素を見せられない。

「こんにちは。いつもお疲れ様です」

 今日、何回目かの作り笑顔。相変わらず私の()()はトーマス商店のイチ従業員でしかないのに、接する相手のグレードが勝手に上がっていく。その結果として腹芸もやらなきゃいけなくなっている。面倒だなぁ。

「これはこれは。会議室にてお待ち下さいませ」

 恭しく合掌してお辞儀をする執事ジョージ。シツジ・ジョージとか、吉本のコンビ名にありそうだなぁ。

「はい、ありがとうございます」

 ニッコリ笑って、演技の応酬。向こうも人間を見るプロだから、私が何を思っているかなんてお見通しなんだろうけどさ。

 執事さんに会釈をして、階段を上がる。


「やあ、護衛お疲れ様」

 アイザイアが上機嫌で上座に座って待っていた。

「こんにちは、伯爵様。こういう時、主人は最後に登場するものでは?」

 貴族らしくない、と諫めるつもりで言ってみる。

「ああ、いいんだよ。貴族に相応しいかどうかは置いておいて、一番力がないのは領主たる自分なんだから。迎えるくらいしてもいいだろう?」

 その考え方は面白い。けれど許容できるかどうかは別問題だ。

「威厳を演出するのも必要かと思うんですが?」

「そうかもしれないな。だけど、そのうちにいやでも威厳は出てくるから、これでいいんだよ」

 アイザイアは笑顔を貼り付けた仮面のまま言った。

「なるほど」

 ステレオタイプな領主じゃなくてもいいんだろう。これはこれで不気味でいい。

 思わずニヤリと笑ってしまう。

「ふ……」

「フフフ……」

 しばらくの間、私とアイザイアはニヤニヤふふふ、と笑い合った。



【王国暦122年3月26日 14:58】


 下の階で身代金の検分をしていたアーロンが到着、今回はジェシカが帯同している。

 フェイ、ユリアン、トーマスも到着して、メンバーが揃った。アイザイアの補佐はスタインがついた。

「まずは捕虜の送還、ご苦労だった。金額については報告を受けている」

 ジェシカから金額をまとめた紙を受け取って一瞥すると、アイザイアが話し出す。

「それで、どのくらいの人数が残ったんだ?」

 珍しく金額ではなく、人数をトーマスが訊くと、これにはアーロンが答えた。

「二百五十三人―――が残っている。騎士団としては収容しているだけでも魔核の販売で利益が出るので―――積極的な捕虜の削減はしてもしなくてもいい、と考えている」

 アーロンはそこで一旦言葉を区切る。

「とはいえ―――実際に管理する側の労力を考えると、収容人数を減らした方がいいのは事実だ」

「どのくらい、市場に提供できそうなんだ?」

 アイザイアは市場、という言い方をした。その問いにはジェシカが答えた。

「発言を許可願います」

 議長であるアイザイアが頷いて、ジェシカが報告をする。


「残留している二百五十三人のうち、十代が十五人、二十代が二百十一人、三十代が十人、四十代が十七人、という内訳になっています。また、二百五十三人中、貴族籍にある者は六十三人、平民が百七十一人、奴隷が十九人になっています」

「……首輪による魔力吸収の効率は、若い方がいいのか?」

 フェイが訊く。ので、これは私が答える。


「魔力量の多い人、ですので年齢はあまり関係ありません。繰り返し魔力を使うことになりますので、その意味では若い方が伸びしろはある、と言えますけど」

 私やロック製鉄所の連中がそうだったように、魔力は使うことを常用化すると鍛えられて、保有魔力量が増える(増えるかどうか、増える量などはランダムのようだ。筋力トレーニングだと思うと理解しやすい)。一定のところで止まる、というのがデータからは確認されているけれど、無為に強化している側面があるのは否定できない。


 ジェシカは私の発言が終わったことを確認して、さらに言葉を続けた。

「魔力吸収の効率化という選定をしますと、十代は十人、二十代は九十人ほど、が市場に流せて利益が出る面子だと愚考します」

「三十代以降は? 残留なのか?」

 トーマスが訊く。

「はい、先にも魔術師殿に補足頂きましたように、三十代、四十代の捕虜からの魔力吸収効率は悪くないのです。労働力という意味では二十代には敵いませんが」

 ジェシカの言葉に、皆がなるほど、と頷いた。


「それに、『市場』に売り払う際には、三十代以降は足下を見られた売却額にしかなりません。このまま魔力吸収をさせた方が彼らの生活環境としてはマシなのではないかと」

 人間の売り買いの話題なのに―――いや、むしろそうだから―――ジェシカはドライな言い方をした。


「本質的には―――収容所にいる以上、捕虜はポートマット領主に帰属する。それ故、伯爵様の一存で決められる事柄ではあるが―――」

 アーロンが言い淀むフリをする。アイザイアはそれを察して手で制した。

「いいだろう。年齢や資質で市場に流す人材を選定してほしい。奴隷、それも戦時奴隷は()()()()()()。ないが………最低限の尊厳は保証してやってくれ。甘いかもしれないが、領主としてより、人間として、そこは越えてはいけないと思うのでな」

 アイザイアは真面目な顔でアーロンとジェシカを見た。二人が頷く。実父を死に追いやった男の台詞ではないかもしれないけれど、いきなり非人情な事を言われるよりは仕えやすい上司だよな、という顔をしている。ジェシカはアーロンの、そんな軽い驚きを受け止めて、何を驚いてるんですか、と視線でツッコミを入れていたのが感じられた。


「では、この百名を推挙します。各々の振り分けは『会議』参加者の皆様でお決めになって頂ければと思います」

 ジェシカが提案すると、アイザイアは髭の生えていない顎をさすって、

「百人はちょっと多いか……」

 と渋い顔をした。

「四~五十人ならトーマス商店で引き受けよう。事業拡大のために人手が欲しかったんだ」

 トーマスが助け船のつもりか、希望数を述べる。ん、これは取り合いになるか。私も乗っておこう。

「私も十人ほど、遺跡発掘と雑用で人手がほしいのです」

 アーロンはちょっと考えた顔をした後、

「それなら―――伯爵様に五十、トーマス殿に四十、魔術師殿に十、という数で奴隷を提供する―――ということでどうだろうか。一般の奴隷市場に全く流れないことになるが―――そちらに気を回す義理もないしな」

 と、平等に聞こえる採択を提案する。

「いいだろう。トーマス殿、魔術師殿が先に決めてくれて構わない。残りの五十人を農奴として買おう」

 アイザイアは寛容なところを見せて、スタインに小声で、現在所有している奴隷用住宅の空き状況を訊いている。

「それでも、新築せざるを得ませんね」

「手配は頼めるか」

「了解しました」

 無表情にスタインは了解の意を表する。こういう手配はトルーマンの方が有能そうだけど。



【王国暦122年3月26日 15:21】


 その後の話し合いで、翌日にトーマスと一緒に収容所へ行き、買い上げる奴隷の選定をする、ということになった。

 トーマスは満足そうだ。

 人権の観念だとか、元の世界の感覚で言えばかなり蔑ろにしているのは確かなのだけど、私自身がかなり、この世界に染まってきているのか、忌避感は少ない。

 うーん、これは良い事なんだろうか、悪い事なんだろうか。

 なお、奴隷紋の固着については、私が『契約』の魔法を使えるので、外部の奴隷商を入れることはしない、ということにもなった。例によって、その方が話が早くて安価だから。便利屋かよっ。



【王国暦122年3月26日 15:35】


 未払いだった分割払いのお金を貰う。なんと、白金貨をメインに現金払いだった。

 うーん、これ、いったい、いくらなの? ジェシカに説明されても全然理解が追いつかないんですが。

「……お前は今、ポートマットで一番の金持ちかもしれないな……」

「いやいや、伯爵様がいるでしょう? それにトーマスさんの資産は私に匹敵しますよ?」

 それもそうだなぁ、と全員が納得の表情になったところで雑談に入った。


「……遺跡発掘の方はどうなんだ?」

「迷宮が存在するのは確定です。どの程度の規模なのかは不明ですね」

 迷宮、と聞いて、場が少しざわめいた。けれども、想定していたことでもあったからか、すぐに収まった。

「復旧はさせるんだよな?」

 トーマスが訊いてくる。先日、迷宮の放出魔力を工場の稼働動力に充当する、という話をしたから、確認というよりは会議メンバーに周知させる意図があるんだろう。

「そのつもりです。余剰魔力は最大限利用したいですしね」

 私が迷宮のノウハウを持っていることに、違和感を持つ人もいるだろう。最悪、アーロンにはバレてもいいけど、ジェシカとアイザイア、スタインにはバレない方がいいか。

 ま、何とでも誤魔化せるし。


「……冒険者ギルドとしては、還元の意味も含めて、発掘に関しては冒険者ギルドの人員を使って欲しいところだな」

「そうですね。それは最大限考慮します。手作業が多いのは想定していますので」

 遺跡の発掘といえばあれね、()()()も用意しないと。ネスビット商店で網を発注しておくかなぁ。


 この『会議』は月末に定例会があるので、次回は四日後、ということで本日は解散、となった。



【王国暦122年3月26日 17:26】


 少し懐が温かくなったので、ハミルトンの果物屋に寄っていく。

「おっ、ガキンチョ! なんか久しぶりだな!」

 おお、今時私をそう呼んでくれるのは君だけだよ!

 感動して潤んだ瞳でハミルトンを見つめると、彼はドギマギしながら赤面してくれた。イイ感じでウブだなぁ。


「そろそろ春の果物の季節かな?」

「まだ代わり映えしないな。薄皮オレンジっていうのが入荷したんだけどどうよ?」

「へぇ……」

 柑橘類は微妙に甘さとか酸味とかが変わってくるから、一見同じに見えて侮れない。

 けれど、薄皮、という割にはあまり薄くなさそう。品種改良の発想とかは、この世界にもあるんだろうか。

 ん、無ければ作るしかないのかな。禁断の遺伝子操作スキルで……。少なくとも温州ミカンは再現したいところだよなぁ。グリテンで栽培するなら温室が必要だろうから、ますますポートマット迷宮をどうにかしなきゃいけない。


「じゃあ、それ二十個ちょうだい。輸入物?」

「いや、(グリテン)産。明日以降は、大陸からの船が増えるって話だけど」

 今でも勇気ある、大陸とポートマットの商船たちが頑張ってるみたいで、細々と輸入は続けられている。関税は掛けてるような掛けてないような、要するに利幅の大きい密輸入なのだけど、戦後ということで領主もそれほど五月蠅く言わないようだ。甘いけれど、商人が動きやすいように配慮してるとも取れる。

「そうねぇ……。終戦というよりは休戦だからなぁ。でもうん、増えるのは間違いないよ」

「だといいな……」

 ハミルトンはとても小市民的な感想を漏らした。それが生活している人の偽らざる本音なのだと思い直す。


「はい、これ二十個ね。麻袋でよかったか?」

「うん、上等。ところでさ、ハミルトンさ、カボチャのプディングが流行してる話なんだけど」

「あっ」

 ばれちゃった? という顔をしたので、手を振って、糾弾する意思がないことを示しておく。

「ああ、いいのいいの。別に広まってくれるならそれでいいんだ。ハミルトンが考案した作り方(レシピ)ってことにしておいてくれてもいいよ?」

「えっ? ああ、まあ、名前が名前だしな。レシピの作者についてはボカしておくよ。毎度あり!」

 紅潮した顔に戻ったハミルトンに手を振って、店を辞する。



―――カボチャのプディングで世界征服……いや世界平和を狙ってみるか? この黄金の食べ物で、世界を……制するのだ!





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