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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ここ掘れ迷宮
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ポートマット迷宮の発掘1

..ポートマット迷宮の発掘1


【王国暦122年3月23日 21:47】


 アーサ宅での夕食後、お土産のエプロンドレスを披露する。

「なっ、にっ、これ……。あの絹布なの? これが?」

 ドロシーの顔色は驚きと好奇心と女子的歓喜で三分割されていた。

「うん、王都の仕立て屋さんが手早くやってくれました」

「ほう……」

 トーマスは仕立て屋さんの正体に見当が付いているようだった。

「そう……これは……」

 アーサお婆ちゃんが仕立てを検分して、珍しく眉根を寄せている。そりゃーそうだなぁ。

「他には提供しないということでした。販売用に作るつもりもないと」

 他人事のように言ってみた。

「そうね。見る人が見れば、これは手縫いじゃないのはわかるわ。魔法か、あるいは……」

 自動的に縫う『魔法』はさすがに存在しない。自動的に近い状態で『手縫い』する『スキル』はあるけれどさ。タハハハ。


「うむ。トーマス商店の販売用制服? として採用はしよう。だが、これに付随する技術は売れないな。危険過ぎる」

 トーマスは青い顔で言った。誰に対しての恐れなのかといえば、それは当然『使徒』だろう。既存のテクノロジーを遙かに凌駕する、危険度の高い技術を潰して回っている一派の一員なのだから。

 しかし今回、その技術をもたらしているのが、その一派の一員である私だというところが問題だ。


「なるほど、これが危険だということはわかりました」

 ドロシーは毅然とした態度で了解の言葉を口にした。機械で縫った服がどれほど仕上がりが良く、素早く、安価に作られるか、それに伴って何が起こるのか、容易に想像がつく。

 ドロシーが言葉を続ける。

「でも、この制服を着用することで得られるお店の印象度向上の効果は測り知れません。着用する従業員には守秘義務と管理義務を課す、ということでいいですか?」

 これって、むしろ私が言いそうな言い回しだなぁ。


「うむ……」

 トーマスは苦渋の表情のまま頷いた。

 服一着で大袈裟な、と思わなくもないけど、服一着から透けて見える技術的背景は、この世界の人間が見ても大きな広がりを持つことだろう。


「どちらにしてもですね、まだ靴が到着していないので……。着用はそれからということでお願いします。ああ、試着はどうぞ。あと、男性用はないので、これはどうしようかと」

「うむ……しかしこれは……凄いのは確かだな……」

 トーマスがエプロンドレスの縫製状態やデザインなどを手で触って確認しつつ、時々中空を見つめている。

「レックスはともかく、トーマスさんには似合わないと思います」

「うむ……。そうだよな……」

 男性用も何か考えないといけないか。とはいえ……。ドロシーとセットで男性衣装を考えると……。ブリキ男かカカシかライオン? うーん、その前にドロシーの衣装が二名以上いるのがおかしいのか。

「覚えていたら作りますよ」

 もの凄く製作意欲の湧いていない言い方で、私は制服談義を打ち切った。



【王国暦122年3月23日 22:29】


 トーマスとベッキーが帰宅した後、相も変わらず地下工房に皆が集まった。

「ふうん、アンタが何をしに行くのかは聞いてなかったけど、まさか王様に会ってたとはね……」

 別に驚いてないわよ? と口では言っているけれども、内心はどうだかはわからない。ドロシーのことだから、是非驚いていてほしい。

「さすが姉さんです……」

 レックスは実に素直な感想を漏らした。こんな素直な良い子は……トーマスの薫陶を受けていれば、そうだな、二年くらいでいっぱしの商人モドキに変わってしまうだろう。そして、その時下着フェチ、制服フェチとして開眼することになるのだ!

「あの、姉さん?」

 レックスが訝しげに私を覗き込む。

「ああ、うん、いいんだ。レックス、君は素直なままでいいんだよ……」

 まるでサリーが素直じゃないみたいだけど、彼女はいいの。いつも冷静だから。


 そのサリーはというと、放出魔力を抑える術を完全に会得しつつあるようで、『魔力感知』で見ても一般人と同等にしか見えない。

 どんどん育っていくなぁ……。

 サリーが私への対抗因子だという想像はほぼ正解っぽいし、成長を喜ぶと同時に複雑な思いもある。まあ……なるようになるだろう。


 チラッと加工ポーションのサンプルたちを調べる。

 ここに放置を開始したのは三月十七日。


① 銅箱にスプレー状に散布して軽く水分が抜けたもの(上級相当)

② 熱した銅箱にスプレー状に散布して水分が抜けたもの(上級相当)

③ ②を『成形』で固めたもの(中級相当)

④ ②を強引に指で固めたもの(上級相当)


 六日が経過しているわけだけど、このうち、①は中級相当にまで薬効が落ちていた。結構な水分量が残っていると思うのだけど、青カビなどの類は発生していない。なんだろ、魔力に殺菌効果でもあるんだろうか。

 ②はほぼ変化なし。③と④も変化なし。

 うーん、つまり…………。水分量の多さが薬効の抜けに関係してくるんだろうか。

 もうちょっと放置してみるか。



【王国暦122年3月24日 0:01】


 ドロシーが寝息を立てているのを確認してから、迷宮のグラスアバターに意識を移す。


「ただいま」

『……おかえりなさいませ、マスター。……第三階層に複数のパーティーが到達しております』

「へぇ!」


 ミノさんは単体ではなく、四人の小編成で冒険者パーティーに対峙したようだ。

 冒険者パーティーのうち、一つは中級冒険者の八人編成。

 もう一つは荷物持ち付き、十人編成。

 前者のパーティーは明らかに第三階層を目指した編成で、後者のパーティーは第二階層での狩りの後、少し覗いてみよう、という感じだったようだ。事実、後者のパーティーは一度目の接敵で半壊、即時撤退している。

 前者の方は二回、ミノさん、オクさんと戦って、被害なし、とのこと。ただし相当に物資や魔力を消費してしまったようで、こちらも二回の戦闘後に帰還したようだ。


「この八人パーティーの方は、魔力波形は記録してる?」

『……記録しております。……次回入場の際には優先して記録します』

「うん、よろしく」

 迷宮は順調に攻略されているようだ。あまりに難易度が低いようなら、また再調整が必要だろう。

「迷宮管理って難しい……」

 そう呟いて、この日は本体に戻った。



【王国暦122年3月24日 5:36】


 トーマス商店に出勤するドロシーたちを見送った後、夕焼け通りを西に向かって歩き出した。

「土、って言ってもなぁ」

 アイザイアが指定していた場所は徒歩で丸々一日(一般人基準)かかるところなので、往復に二日かかることになる。収容所の西、というのが一番近そうだけど、正式にどこからどこまで、と決まったわけではないので、これも掘りにくい。

 ということは、迷宮近辺を掘ってみるしかない。


 トーマス商店の工場予定地を横目に、白い石柱のある遺跡を目指す。『風走』LV4の状態なら、一刻ちょっとの時間で到着する。


「うーん」

 遺跡周辺を見渡す。

 何か面白いものが出土しちゃったら、それはそれで問題だなぁ。誰か連れてきて見張りをさせておけばよかったか。

 まあ、案ずるより産むが易し。アンジェリーナと横山や○しとか言うでしかし。


「掘ってみるか!」

 ちなみに、ウィザー城西迷宮で感じていたような、『ここに迷宮あります!』的な魔力は感じられない。めいちゃんによれば『休眠』、フェイによれば『死んだ』迷宮だからだろうか。



【王国暦122年3月24日 7:05】


 杭を立てて糸を結び、紙に『トーマス商店管理用地・危険・入るな』と書いてぶら下げて、遺跡の周辺を隔離してから、掘削作業に入った。

 この下に遺跡があるのは確かなのだから、『掘削』など使わずに刷毛か何かで優しく発掘作業を行うべき。

 べき、なんだけど。


「―――『地脈探査』」

 地中ソナーとも言えるユニークスキルを発動。


「ふむふむ……」

 うん、石柱の土台と思われる構造物がある。地上に出ている石柱は、その土台に繋がっていて、地中四メトルから五メトルくらいまで。

 で、そのまた五メトル下には、遺跡構造物よりも遙かに大きい何かがある。

 四角い、とても四角い……巨大な直方体がある。これは距離というかサイズがわかりにくい。

 なるほど確かに、迷宮っぽい。

 遺跡の下に遺跡がある。


 この石柱はロマン人が作ったとか言ってたから、それよりも前ってことだろうけど、建築物を建てる前に迷宮の存在に気が付かなかったんだろうか。

 まあ、古代人といっても元の世界の日本人だったりするかもしれないし、そこにロマンを追い求めるのは………。あれ、もしかしてロマンを求める日本人が古代人だったりするんだろうか。

 まあいいや、掘ろう……。


「―――『掘削』」

 構造物がない部分をざっくり掘削。囲いの外に置いていく。

「―――『掘削』」

 そういえば、どのくらい持っていけばいいんだかサッパリ。演台作るって言ってたけどさ。

 大まかに三メトルほどの深さになるまで、浅く広く掘削をする。広さ的には迷宮の一般的なサイズと思われる一辺、百メトルを目標にしよう。


 石柱はとても長い。まだ石柱の土台が見えない。

「うーん」

 こうやって薄く広く掘り返してみると、いきなり発掘現場みたいになるから面白い。今のところは単なる掘り下げでしかないけど。

 掘った土は長い年月を掛けて、それなりの密度になっていた。堅い土を、適当に『粉砕』しつつ、土中に何かないか確かめつつ……穴の外に小山にしていく。

「こんなものかなぁ」

 これ以上は荒っぽく『掘削』すると遺跡や発掘物を傷つけてしまいそう。手作業に切り替えないといけないか。


 避けた土は直方体のブロックに圧縮しつつ固めて、『道具箱』に飲み込んでいく。

「えっ!」

 しばらく作業を続けていると、なんと、『道具箱』に土塊が入らなくなった。

 もしかして、うん、一応あるんだな、容量の限界ってやつが。

 それでも一メトルx一メトルx二メトルのブロックが五千個ほどだから、どんだけ入るんだ、って話だよね。


「うっぷ」

 別にお腹が一杯になったわけではなく、気分的な問題で、土を一杯食べたような気になる。王都西迷宮でもなったような、ミミズ気分ってやつ?

 発掘現場はとりあえずこのまま放置して、土を吐き出しに行こう。



【王国暦122年3月24日 9:19】


 アイザイアに短文を送る。『土塊移送中なぅ。南港へ向かう。正確な配置位置を教えられたし(意訳)』と。

 フェイやフレデリカのように即レスではなく、数分が経過してから返信があった。『了解、トルーマンが現地に向かい、そこで指示を出すのでよろしく(意訳)』とのこと。

 トルーマンかぁ。

 アイザイアとの絡みがなければ、余り接点のない人だよなあ。本来、上級冒険者って冒険者ギルドへの忠誠心が高い人がなる印象があるけど、スタインもトルーマンも、そんな感じはしない。領主に忠誠を誓ってるんだろうけど、それにしても極端な気がする。『シーホース』の事もあんまり知らないし、どういう行動パターンなのか読みづらいよね。



【王国暦122年3月24日 9:50】


 南港に到着すると、トルーマンがすでに待機していた。

「は……。やあ」

 トルーマンは短く言った。あれ、目がパッチリしてないや。

「おはようございます。目が開いてませんね?」

「は……。眠くて……」

 低血圧なのかな。まあ、トルーマンを気遣う理由もないから、作業の指示をしてもらおう。

「そうなんですか……。で、どこに置けばいいですか?」

「は………。この辺りに………細長く……」

 トルーマンはさらに目を細めて私に指示を出した。目がパッチリしてる印象しかなかったから、不思議な感じがする。

「もしかして視力が悪いとか?」

「は……はは……」

 苦笑しながら、トルーマンは肯定した。


 指定された場所に土塊のブロックを置いていく。

「は……。この形に…………」

 教会印の紙に描かれている雑な図を提示して、私に指示を出した……つもりなのかな? 長細い形の縁談の左右に、階段をくっつけた形ね。演台の後の方に、柩を置く場所を作って、その手前に献花台の形に成形すればいいんだね。

「はい、わかりました」

 そんなに正確な寸法が必要な物でもなさそうなので、適当にやっちゃおう。


 土塊は運搬してきた量で十分だった。かなり余っちゃったかな。成形も完了。

「は………強度は………?」

「かなり硬く、圧縮してありますし、百人乗っても大丈夫でしょう。それより、余った土はどうしましょうか?」

「は……東港の……一緒……に?」

 と問われてもなぁ。

「はあ、行きましょう」

 テンションが下がるわねぇ。冴えない風体の中年男性と肩を並べて歩くってだけでもテンション下がるのにさ、トルーマンは動作が一々緩慢だ。もっとシャッキリせんかい! と背中を叩きたくなる。これは何だ、おばちゃんの心理ってやつなのかな。



【王国暦122年3月24日 12:00】


 カッ! とトルーマンの目が開いた。パッチリした。

「は。目が醒めた」

 ああ、そうですか。きっかりお昼に目が醒めるんですね。

「は。急ぐかね。―――『加速』」

 あれっ、目が醒めたら急にせっかちな人になったぞ?

「えっ、はい。―――『風走』」

 スロー再生から早送りにしたような変わりように戸惑いつつ、東港を目指す。十分程度移動すると東港に着く。


「は。東港はいずれ南港と同規模の荷揚げ港になる予定。そのため北側を埋め立てて港湾施設を拡張する計画。漁港機能は徐々に縮小、継続中」

 箇条書きを話されているようだ。

「は。では、コンクリートが切れた場所から北に向けて土塊を置いていってくれるかね?」

「わかりました」

 東港は小さい。港湾用に舗装してあるコンクリートの切れ目はすぐにわかった。

 ポン、ポン、と土塊を置いていく。

 ふう、お腹がスッキリした気分。別にお腹の中に貯めているわけじゃないけど。


「今後も、残土はこちらに持ってくるということでよろしいでしょうか? 発掘作業や工事で大量の土砂が出ますので」

「は。こちらから連絡するまでここに投棄。いずれ西港も拡張。その際は西側方面に投棄場所を指定」

 変な人だなぁ。スタインが割と普通の人だったから、すごいギャップを感じる。普通、奇人変人はリーダーの方で、それを支えるサブリーダーの人が常識人のことが多いんだけど、『シーホース』では逆なのか。

 いやいや、スタインが常識人じゃない可能性もある。特殊な性的嗜好を持っていたり、特殊な収集癖があったり、変なところに毛が生えているかもしれない。

「了解しました。言われるまではここに残土を運搬します」

「は。残土処理了解。これにて演台の設営は完了。他に質問はないかね?」

 ああ、疑問形のところだけは人間っぽい喋り方なんだね。

「ありません。迷宮の発掘は一時中断して、捕虜引き渡し後に再開します、と伯爵にはお伝え下さい」

「は。中断及び再開了解。通常業務に復帰」

 シュタッ! と合掌して、トルーマンは領主の館に向けて忙しなく走っていった。

 何となく、元の世界にあった、台座の下を押すと関節がグニャッとなる人形――――プレスアップ人形――――を思い出した。



―――久しぶりに圧倒されるレベルの奇人に出会った感じ……。





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