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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮少女が空を飛ぶ
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はじめての会議


【王国暦122年3月18日 13:25】


 アイザイアはスタイン、トルーマンと小声で何やら話した後、

「趣旨はわかりました。皆さんの要望を全面的に受け入れます」

 と前を向いた。

 あら意外、何か条件を付けてくると思ったんだけど。

 まあ、条件付けたところで潰されるのがオチではあるか。三十秒先の未来が見えないようでは困る。


「……ふむ。……それは重畳だ」

「それで、具体的にはどのように進めるのですか?」

「ああ、合議が必要なものはな……」


・防衛関連

・治安維持

・大規模公共事業

祭事(イベント)

・税制の大枠


「その他、重大事件の善悪の判定もそうだな」

 トーマスが言うと、トルーマンがすごい速度で、真上に挙手をした。ギョロッとした目が爛々と輝いている。トルーマンはアイザイアのオブザーバーであり、発言の資格がない。ちなみに挙手の文化は元の世界と同様だ。

「……発言を許可する」

「は。善悪の判定には、現行の法を明文化、その後に制定という作業が必須、と愚考します」

「……ふむ。……ではトルーマン、君を、現行法の明文化委員長に推挙したい。……任命に賛成の者は挙手を」

 うわ、面倒なこと振られてるよ。挙手挙手。六人全員が挙手をした。

「……議長、まとめてくれ」

 フェイがアイザイアに振ると、自分が議長だったのか、と今さらながら驚きつつ、

「全会一致で、トルーマン・タリス。君を……現行法、の明文化委員長に任命する」

 と、言いながらも具体的にはコレどうするんだ? という顔をした。


「は。拝命致します。文書はこちら」

 トルーマンは何と、自分の『道具箱』から羊皮紙の束を五つ取り出して、机の上に積んだ。

 この行動に驚いているのは、私とアイザイア、アーロンの三人。フェイ、トーマス、ユリアン、スタインは平静を保っていた。

 ということは――――。驚いていない四人は、事前にこの作業を進めていたということなのか。

「……続いてトルーマン、明文化委員長を解任、簡易裁判所所長に推挙する」

 フェイ、トーマス、ユリアンが挙手をしたので、続く三人も挙手を行う。仕込みが過ぎると思いつつ。

「全会一致で、トルーマン・タリス。明文化委員長を解任、簡易裁判所所長に任命する」

「は。拝命致します」

 多少投げやりに、アイザイアはトルーマンに言った。


「……『簡易裁判所』は、市井の揉め事を裁定してもらう。……街の根幹に関わるような重大事の裁定は、この会議で行おうと思う。……賛成の者は挙手を」

 何かもう、ずっと挙手しっぱなしでいいような気がしてきた。フェイがやってることを先読みすると、いずれ三権分立を目指したいんだろうな。

「もうすでに『調停所』はあるよな。名称変更して組織も変える。増員要求は次回の会議までに予算と一緒に書類を提出してくれ。正式な運用開始は……そうだな、一年後を目処に、というところでどうだ?」

 全員が挙手して、トルーマンに視線が集まる。

「は。了解しました」

「……ああ、会議の開催は、定例が月末。……不定期の招集は、適宜としよう。……ここでも全員一致が開催の条件となる。……決議も同様だ」

 挙手しなれてきた。全員が挙手をした。


「……では、喫緊の議題からいこう。……ランド卿の護送と、アイザイアの襲爵。そのためには王都に行かねばならん。……お前と、アーロンに行ってもらおう。……アイザイアの護衛はあと………スタイン、『シーホース』から三人ほど出してくれ。……騎士団からも……三人。……それ以上は過剰だろう」

「わかりました」

「了解した」

 挙手をしながら、私も頷いた。


「行きはランド卿、帰りは身代金の護衛ということになる。国庫に入ってはいるが、元はといえばダグラス宰相の金だ。向こうも懐が痛んでないから、ふんだくって来てくれ」

 アーロンは少し複雑そうな顔をしていたけど、実家の財産を要求はしなかったようだ。多少でもオピウム禍に絡んでいるという負い目もあるだろうし、実家とは関係がない、ということをアピールしなければならない立場でもある。


「……護送の日程だが。……明日の朝一番で行こう。……鳩便で先方にはそのように伝える。……万が一、だが。……万が一、ランド卿を奪還しようとする勢力があった場合は人質の受け渡しを中止、襲撃者を全力で殲滅してくれ。……その後は王都と戦争状態になるだろうからな」

「わかりました」

 まあ、いかに愚王とはいえ、それくらいは考える………よね? 問題は国王の意を酌まない連中なんだろうけど。

「フェイは即時戦争状態になると踏んでいるが、儂はそうは思っていない。国としての意思が戦争状態を望んでいるのかどうか、それを確認してからでも遅くはないと思うがな」

「今のところ、王宮は戦争を、と言うよりはポートマットを恐れているようですね。仮に襲撃者がいたとしても、王の意思ではありますまい」

 トーマスの意見を、ユリアンが補足した。


「……わかった。……お前とアーロンの判断に任せる。護送隊の隊長はアーロンに頼む」

「了解した」

「わかりました」


「……次だ。……プロセア軍の捕虜送還についてだな。……大陸の冒険者ギルドから鳩便で連絡があってな。……二日後に到着するように一隻寄越すそうだ。……その際に、どのように返還するのか、誰を幾らの身代金で、のような話し合いがされる予定だ。……これはアーロン不在中になるが問題はないな?」

「副騎士団長フレデリカ、某の副官ジェシカ、収容所所長グスタフ。―――この三名に任せておけば問題はないでしょう。騎士団の魔法隊はランド卿護送ではなく、ポートマットに残しておきましょう」

「……そうしてもらえると助かる。……冒険者ギルド(ウチ)も精鋭を用意しよう。……議長、よろしいか?」

「了承します」

「なに、ちゃんと金はふんだくる。そんな顔をするな」

 外堀を埋められて、頷く人形になっているアイザイアを、トーマスが悪徳商人っぽく励ます。励まされてないけど。


「あとは、急ぎの用件はあるか?」

 町葬など、詰まっている話は色々あるものの、アイザイアが襲爵して、ランド卿とプロセアの捕虜を送り返さないと進まない話ばかりだ。

 あ、迷宮の件だけは事前に許可貰った方がいいかな。挙手、っと。

「どうぞ」

「とある場所の調査を行いたいのです。まだ現地を調べたわけではないので何とも言えないんですが、ポートマット領地内に迷宮が存在する可能性があります」

「……本当だったのか、その話は」

「本当なのか? それは」

 フェイとトーマスが声を上げた。スタインとトルーマンさえ目を剥いている。

「まだ調べてないので。ヘベレケ山の麓に石柱の遺跡がありますよね? ロマン人の遺跡だという。あの下辺りなのですが。発掘調査と、発見された場合の開発、開発がされた場合の管理――――費用の徴収も含みます――――の、それぞれ許可を頂きたく思います」

「……どうだ、議長?」

 フェイから話を向けられて、アイザイアは反射的に挙手をした。そして全員が挙手をすることになった。

 私は腹黒く大笑いしたいのをこらえて、微笑にとどめた。盛大に歪んだ笑顔だろう。

「ありがとうございます。ポートマットの未来のためにも発掘を鋭意行います。王都への護送後、必要な人員は冒険者ギルドを中心に、声を掛けさせて頂きます」

 私は立ち上がって合掌、お辞儀をした。


「で、もう一件あります。これは一部の人には事前に言ってありますが、オピウム禁止の話です。法的にどのような扱いになるのかはわかりませんが―――不特定多数へ害が及ぶ可能性のある毒物の拡散の禁止―――みたいな文言になるんでしょうかね。ご存じの通り、『オピウム』の原料は、日光草の種、もしくは()()()です。しかしながら、現在汎用で使われている体力回復ポーションの原料は、日光草の葉っぱです。現段階で日光草そのものを禁止してしまうと影響が大きいため、『一定の条件下での栽培を特定の業者に認める』という形を取って頂きたいのです。現在、トーマス商店店主と条件については協議中で、なおかつ一定数の日光草は確保済みであることを報告しておきます。以上です」

「ああ……そうだな」

 別に協議はしてないけど、してたようなものだ。

「は。それは文言を整えて草案として、次回の『会議』にて提出します」

 ギョロ、とトルーマンの目が動いた。

 別に議決を求める案件でもなく、ただの報告に過ぎなかったけど、提案そのものはできたからか、何となく全員が挙手をした。


「……よし、では早速動こう。……スタイン、連れて行く面子が決まったらアーロンに連絡してくれ。……アーロンはランド卿に話しておいてくれ。……騎士団員の選定も頼む」

「了解した。集合は朝一番に騎士団駐屯地。食料などは騎士団で用意させてもらう」

「了解だ、ダグラス卿」

 スタインも頷く。

「よ、よし、次回の『会議』開催は、私が王都からの帰着後とする。よろしいか?」

 不慣れまるだしのアイザイアに苦笑しつつ、フェイが賛意の挙手をする。

「……報告会も兼ねるということだな。……葬儀の都合もあろう」

「わかった」

 トーマスも賛意を示して、全員が挙手をする。

 往復に四日、王都に最短の一日滞在として五日後か。はぁ~。どんどん面倒が増えていくなぁ……。自分から抱え込んでることもあるけどさ。



【王国暦122年3月18日 18:47】


 円卓の会議場を出ると、扉の外では老執事が深々とお辞儀をして固まっていた。

 どうか! どうか! 坊ちゃんをよろしくお願いします! と、その背中には書いてあった。どこかの政治家の秘書みたいだなと思いつつ、お暇します、と声を掛けた。

 領主の館から出ると、フェイは後を振り返り、

「……こんなものか」

 と、一定の成果が出たことに満足気だった。


「某は準備があるので失礼する。魔術師殿、また明日」

 アーロンは足早に、いや駆け足で、ドタドタと足音を鳴らして北上していった。

「私もこれにてお先に」

 ユリアンも空腹だったのだろう、お腹を押さえて教会へ戻っていった。

「……私も先に戻るぞ。……各方面に連絡しなければならん」

 と、フェイは自分に『風走』をかけて、滑るように冒険者ギルドに走っていった。一~二分で着くことだろう。


「歩くか」

「はい」

 トーマスと二人、ドワーフ同士で、短いトーマス商店までの道のりをのんびり歩いて戻ることにした。

「工場の方が延び延びになっているんだよな」

「そうなんですよね。一応ですね、ポーション原液を加工する技術の、実験をしている最中なんですよ」

「んっ? 加工だと?」

「はい、もしかしたら年単位で保管が可能になるかもしれません。提供形態に変化があるかもしれませんけど。迷宮発掘前に工場建設には目処を付けておきたいですね」

「ああ、そうだな。ベッキーも忙しそうだしなぁ……」

 さすがに熟年カップル、新たな生命を宿すには困難があるらしい。


「お店の方はドロシーに、いずれは任せるんですよね?」

「ああ、元々そのつもりで教育をしてきたしな。ただなぁ、錬金術の方は教えるのが難しくてな……」

「その辺りは、サリーの才能にも期待しましょう。私が教えられる部分はドロシーとサリーには教えておきますよ。逆に基本的なことを教えられないので、その点はトーマスさんにお願いしたいかな、と」

「わかった。ああ、そうだな。サリーに才能があるとはなぁ……。なあ、これ、絶対ユリアンの仕込みだろうな」

「そう思います。あ、ちょっとルーサー師匠のところに行ってきます。またです」

「おう。実験の結果がわかって目処が付いたらまた教えてくれ」

「はい」

 ロータリーに着いた。もう閉店していたので、トーマスは裏手から店の中に入っていった。


「―――『風走』」

 急ぎ北上する。

 工房に到着して、ルーサー師匠は私を見るなり、鼻を鳴らした。

「フン」

「ご無沙汰しております、師匠」

 とは言っても十日くらいじゃないかい?

「フン」

 剣の改修は終わっているぞ、と鼻を鳴らされた。

「ありがとうございます。お腹は如何ですか?」

「フン……」

 減ってはいるが……面倒でな、と言っているようだ。

「王都のソーセージ屋さんでバンガースを買ってあるのですが」

「フン?」

 ほう? なんだそれは? 食い物か? と反応はするものの、余り興味なさげの様子だ。

「パン粉で水増しした庶民向けソーセージですね。肉汁を保つのと、口当たりがいいので、むしろ王都では普通のソーセージより人気があったりします」

「フン」

 食ってやろうじゃないか。出してみろ、と鼻を鳴らすので、鍋にお湯を張って茹でることにした。


「フン」

 工房奧の部屋は半分生活スペースになっている。いつぞやよりも掃除されていて清潔感がある。私以上にだらしない生活をしているルーサー師匠にしては珍しい……。アイカさんが出入りしている空気があるし、その子供たちが通うようになって、ルーサー師匠が掃除に気を配るようになっているのかもしれない。


「フン……」

 剣はそこに置いてある。試してみろ、というので、奧の寝床にドデン、と放置してあった諸刃(黒ルーサー)剣を持ち上げる。

「フン……!」

 片手で持ち上げるとはな……! やるじゃねえか、と言っているようだ。

 剣の穴は『時間経過』の魔法で腐食した部分の周囲を削り、対になる場所にも開けられていた。私にとってはこの剣は盾でもあるから、穴が空いていることに不安はある。だけれども、取り回しが楽になったという利点の方が大きいかもしれない。

「ありがとうございます。重量配分も素晴らしいです」

 バランスが良くなった。加工技術の高さも、さすが師匠。


「おっと、バンガースが茹で上がったようです」

 諸刃剣を『道具箱』にしまって、茹で上がったバンガースを皿に取り出す。

「フン……」

「どうぞ」

 迷宮内部で食べ過ぎて飽きたバンガースだけれども、こうやって匂いを嗅ぐと、また食べたくなってくるから不思議。

 マスタードの酢漬けをドバッとかけて、盛りに盛ったバンガースをニッコリ手渡す。

「フン」

 恐る恐るフォーク(木製)で刺すと、ブツッと皮から肉汁が飛び出て、慌ててルーサー師匠がかぶりつく。

「フン!」

 ほう、こいつはいいな、柔らかいのがいい。ほう、ほう! 驚きと称賛の混じった鼻息が漏れた。

「お気に召したようでなによりです。『道具箱』に入れないと衛生的に問題があったりするので長期保管が出来ないのが難点ですけど……。パンも一緒に食べてるようなものですし、安いですし、満腹感も得られるという」

「フン」

 安っぽい味だが悪くないな。と言っているようだ。B級グルメ選手権がこの世界にあったら、三回目か四回目でグランプリになってるレベルだと思うんだよね。


「フン………」

 ルーサー師匠がすごい勢いで完食したのを見て満足。あ、ここに来たもう一つの用事も済ませておこう。

「ああ、それで、師匠、正式に注文したい品物があるのですが」

 迷宮のケーブルを固定する金具のボルト。紙に仕様書を書いて、硬鋼のインゴットを二つ渡す。大体二十キログラム。

「フン?」

 何だこの金属は……。硬鋼か。ウチにあったやつか? と言っているので、

「はい、師匠に貰ったインゴットです…………。このような形状のモノを鍛造でお願いしたいのです」

「フン」

 良いだろう。二百本だな? お前自身が作ればいいものを、まったく面倒な仕事を持ってきおって……。と鼻息を鳴らしたけれども、どこか嬉しそうだ。

「加工代金は一本金貨一枚でお願いします。お高く聞こえるかもしれませんけど、この素材の加工が出来るのは師匠しかいません。お代はこのタンスの中に小分けして入れておきますので……」

 盗まれはしないと思うけど、今後私からの依頼が増えれば、ルーサー師匠が受け取る金額はとんでもないことになるだろう。簡単な金庫くらいはあった方がいいなぁ。

「フン」

「また明日、王都に行ってきますので、バンガース買ってきますよ」

「フン? フン!」

 なにぃ? 頼むぞ! と言われたので、微笑んで頷いた。



【王国暦122年3月18日 21:15】


 帰宅が遅れてしまったことにアーサお婆ちゃん以下全員に、遅くなるなら連絡しなさい! と怒られた。

 謝罪しながら、冷えた夕食を頂きつつ(スープは温めてくれた)、明日からまた王都行きだ、と伝えると、

「そう、忙しいのね……」

 と、同情された。


「なんか、アンタばっかりこき使われてるような気がするんだけど?」

「姉さんは実力者ですから仕方がありませんけど……」

 んー、まー、確かに、今回の護衛なんかは別に私じゃなくてもいいような気がするけどなぁ。アイザイアに対して私の存在が脅しになったように、今度は王様を脅してこいってことだろうか。街や国を守ったんだから、何か褒美をクレ、と言いに行けということだろうか。

 あれ、そういえば誰からも何も貰ってないや。まあ、アイザイアからは迷宮の権限を貰ったからいいや。何も出なくても何かには使えるだろうし。ドワーフは発掘すること、そのものが存在理由なのだ!


 一人の夕食が終わると、アーサお婆ちゃんは絹布を持ってきてくれた。

「そう、絹布が織り上がったのだけど」

 二色の絹布は光沢が波を打つように見えた。

「素晴らしい。染めもいい色が出てますね。ありがとうございます」

「この布はどうするの? またお婆ちゃんの知り合いのお針子さんに頼むの? それともアンタが縫うの?」

 二色の絹布を『道具箱』にしまいながら、私はどこで作らせようか思い悩む。

「うん、ちょっと王都の知り合いに頼んでみる。すごく手早いんだ」

 知り合いとはグラスメイドたちのことだけどね。

「へえ……」

 そう呟いたドロシーから手渡されたのは、普通の絹製の羽付き生理用品だ。

「あ、もう試作品ができたんだね」

 フフフ、と不敵な笑みがドロシーから漏れた。


「アンタの了承が出るなら、これで量産するわよ? 高級なのと庶民向けのと」

 生理用品は下着とセット販売にするそうで、これは庶民向けに作るにあたって、ドロワーズ(カボチャパンツ)など、一般的な下着に向けて設計したわけではないからだ。綿のパンツでも、この世界、この時代に於いて、あのデザインは十分に扇情的だろう。

 高級品の方は下着も含めて絹製、吸湿材の部分だけが綿の不織布になる。レースに関しては、もうレース職人に発注をしたらしい。普段使いも意識されているから、高貴なる夜が演出できそうだ。


「うん、いいと思うよ。売るのはトーマス商店でいいのかなぁ……」

 ポーション販売がメインの道具屋で、扇情的な下着と実用的な下着、生理用品を扱うのはどうか、という懸念をぶつけてみる。

「それは問題ないわね。ポーション販売は殆ど午前中よ。お昼過ぎから午後にかけて買いにくればいいのよ」

「あ、なるほど………」

 元の世界の、昼は牛丼、夜は居酒屋で売り出した飲食チェーンを思い出す。キ○肉マンも、吉野屋じゃなくて、そっちの(ようろう)牛丼の差し入れを貰ってたっけ……。


「じゃあ、生理用品は進めるわ。上手くいけばトーマス商店第二の柱になるかもしれないし」

 ドロシー主導のプロジェクトに、本人のやる気が見えて眩しい。

 そんな彼女にプレゼントできるものは……。


「ああ、そうだ。ドロシーとサリーの足型取ったし、靴の注文してくるよ」

「ほんと?」

「本当ですか?」

 ポートマットにも靴屋さんは五軒存在しているのだけど、街中の靴をその五軒でフォローするには数も技術力も生産能力も足りないようで、王都からの輸入(?)に頼っているのが現状だ。その観点からいうと、オーダーメイドの靴というのは一生に一度の贅沢品、と言えなくもない。少なくとも平民、庶民には縁のない製品だろう。

「うん、あとは、皮の柔らかそうなブーツも買ってくるよ。アーサお婆ちゃんの分も」

 何でそんなに靴ばっかり買ってくるの? と言いたげなドロシーに向けて、私はニヤリと笑った。

「多分ね、公式の場に赴くことが多くなるだろうから。その準備と前祝いと思ってくれればいいよ」

 どういう意味よ? と訊き返すドロシーには笑顔だけ返しておいた。



――――あのぅ、ところで、今後の下着デザインも私がやるんでしょうか……?





何となく次話から、次の章になります。


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