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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮少女が空を飛ぶ
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迷宮のシステム構築


 アバターや召喚物での行動中、本体は半分寝ているようなもので、しかも本体の魔力は全然回復しない。遠隔地での作業が捗るという意味では非常に有用なシステムではあるけど。


「うーん、パスカル伯爵ねぇ……」

 自虐ついでにちょっと訊いてみたら、騎士団長たちの上司、つまり王様は、騎士団の綱紀粛正に躍起になっているのだと。その締め付けをしている最中に、迷宮側の機嫌を損ねて魔物が王都に攻めてくる……のような状況を恐れているのだという。


 第二騎士団が迷宮に侵攻したのはパスカルの独断と勇み足だった……と自省はしていたのだけど、よくよく聞いてみれば、第一騎士団(ポートマットに第四騎士団の捕縛に動いていた)も第三騎士団(王城の警備をしていた)も動けず、さらには冒険者ギルドが手を引いた状況では『ラーヴァ』追跡の迷宮行には第二騎士団が行くしかなかったのだ、と漏らしていた。そして、迷宮から一回目のアナウンスがあったときに、本隊へ撤退の合図を出せなかった。これが一番悔やまれる、と。その時、パスカルは精鋭部隊を指揮して第七階層にいたんだと。


 なお、第二騎士団は、壊滅した、とは言っても半分は残っているそうな。壊滅の件で第一騎士団長(ファリス)から同情の視線を投げられたこともあって、第一騎士団(ヤツラ)には負けたくない、などと闘志を燃やしてもいた。やっぱり多少のライバル心はあるんだな、と妙に納得した。


「ふう」

 本体に戻って、グラスメイドたちにブーツを履かせる。うん、完璧だ。一人ほくそ笑む。

 靴は――――第十一階層のグラスボーイたちにも履かせたかったのだけど、そもそも、この世界では、家事を担当する使用人イコール乙女(メイド)、みたいな傾向があって、男性使用人用の品揃えは極端に少ない。事実、男性用ワークブーツは在庫がなくて、四人分を注文しておいたけど、男服はどうしようかな。このままだと、靴だけ届いても、それだけだと変態みたいになってしまうから、いずれは考えなければ。



【王国暦122年3月11日 15:19】


 さて………。

 迷宮内部で何か販売したいのだけど、一番適しているだろうポーション類は継続して供給しないと意味がない。かといって、王都でのポーション仕入れルートには伝手がないし、利幅が大きい部分を最初から他人に任せるのも癪だ。どうせだからトーマス商店から仕入れたいけど、そこには距離の壁がある。『ワインと豆腐とポーションには旅をさせてはいけない』というのは金言だ。

 ポートマットの西に建設予定のポーション工場も、厳密に言えば、消費地であるポートマットからは距離がある。これは品質を保って輸送する手段がないと厳しい。


 根本的には、ポーションが水薬である、という点が問題だ。

 では…………。ポーションが水薬ではなかったら? たとえば粉末や錠剤だったら?

 即効性についてはわからないけど、保存性を高める意味では悪くない選択肢じゃなかろうか。

 しかしながら、王都西迷宮で開発して先行販売、遅れてトーマス商店で販売したとすれば、私と『ラーヴァ』の繋がりは疑義ではなく、確定してしまう。

 だからトーマス商店で先に売り、ある程度、新商品が認知されたところで迷宮側が申し入れて、公然と契約した、という形を取らなければ安全とはいえない。

 ちょっともどかしいけど、癒着するなら堂々としたいよね!


 うーん、今回の物品販売は一旦諦めるかな……。それでも準備だけはしておこうかな。

 この辺りが一人でやれることは限られているなぁ、と実感する瞬間だ。周囲を巻き込むにも根回しや準備がいるし、この世界にせよ、元の世界にせよ、接しているのが人間(っぽいのも含む)である限り、面倒からは逃れられない。


 わかりやすい例で言えば、織機の発明者への襲撃事件は、この世界にも、元の世界にも存在した。発明者の理念や功名心は、周囲との折衝が失敗したことでプラスに働かなかった。

 もちろん、迷宮はもとより、私自身にも武力があるから、新規技術への妨害は当然阻止が可能ではあるけれど、恐らく、『使徒』はそれを良しとはしないだろう。『使徒』の手駒である私自身が技術を広めているというジレンマを、『使徒』はどう感じているのだろう。コントロールしやすい、とか思ってるのかな。アマンダ辺りならそう思ってそうだけど、『使徒』は複数いるわけだし、総意から外れたら、私でさえも粛清対象だろう。

 今のところは、粛清対象にならないように、従順になって細々と小金を稼ぐ……。でいいのかな。


 じゃあ、小金ということで、遺品返却システムを作っておこう。現金や食料については没収するとして、装備品に限定することになるかな。

 めいちゃんに訊いてみると、迷宮で何かを販売しよう、という試みは過去になかったらしく、サブルーチンの設定を求められた。


 そこで中央管理室のコンソール前に戻って、めいちゃんを操作することに。

「サブルーチンって言ってもなぁ」

『……グラスメイドたちの基本的な動きを設定して下さい』

 なるほど。販売行為の一連の動き、に加えて、簡単な質疑応答に対応できればいいわけね。

 プログラミングについては、一番最初に覚えさせられたヘルプに載っていた。一部に差はあるし、コマンドはこちらの世界の言葉だったりもするのだけれども、基本的にはC言語の亜種みたいな感じだ。だって一行目が『#include』だったし……。


「会話文はヒューマン語でいいの?」

『……共通言語としてヒューマン語、グリテン語が望ましいと思われます』

「なるほどねぇ」

 当面必要になるだろう、遺品返却システムは、以下のようになった。


・遺体判定後、三時間経過した個体が所有している装備品を回収(この時点で遺体はほぼ溶けている)

・回収装備品は、第一階層入り口ホール、受付カウンターにて展示と同時に入札を開始

・三日の間に入札があった品は、最高額入札者に受け渡しを行う

・最低落札価格は迷宮側が決める

・遺品は迷宮側の都合で展示されない場合がある

・入札がなかった品物については迷宮側に所有権があるものと見なす

・入札者の個人認証にはギルドカードを使用する(魔力波形で個人認証をするので必携)


 とまあ、こんな感じ。

 大まかな対応や動きはコンソールから文字で指定して、あとは実践も含めてロールプレイでグラスメイドに教え込んでいけばいい、とのことだった。全部をコンソールで指定するとなると膨大な記述量になるし、これは理に適っているといえる。


 遺品については、即時、全て迷宮に所有権がある、と主張してもいいのだけど、先日の第二騎士団の遺品回収を見ていたら、これは案外商売になる……と判断したのだ。人によってはその装備に思い入れがあるみたいだし、遺髪さえ残らない迷宮での死亡に於いては、遺品は重要らしい。

 無料で返却、となると無関係の人が回収していく事も考えられるから、最低落札価格を設定して入札方式にすれば、それは防げるだろう。本気で欲しい人は、装備品そのものの価格よりも上乗せして、遺品に入札してくるだろう、という読み。

 別に入札されなくても損にはならないし、いずれは宝箱的な試みもしたいから、雑多な装備は在庫があった方がいい。それに……不死者を始めとして、魔物が装備する武具として、遺品ほど相応しいものもないし……。


 遺品のお値段算出は、これにも別途サブルーチンが必要になった。こうやってプログラムっていうのは複雑になっていくんだなぁとしみじみ泣いた。

 C言語に近いプログラミングは、UNIXとかで動いているプログラミングツール(エディタとか)で書き込んでいる錯覚に陥る。コンパイルから実装までやって、エラーがあれば指摘してくれるのも何だか親切なんだか不親切だかわからない。


 それはそれとして。

 遺品は、基本は使われている金属なり素材なりを、その重量でかけたものが基準のお値段になる。これに加えて、加工精度、芸術性、何らかの印の有無(騎士団なら所属の部隊が描いてあったりする)、などで判断をする。値付けはかなり適当で、一定額を超えると思われるもの、めいちゃんの方で判断しかねるものは保留扱いとして、私の判断を仰ぐ、という形にした。全てをプログラムでフォローできないのは、案外好ましい、と思える私は、アナログ人間なのかデジタル人間なのかわからない話だなぁ。


 倉庫からガラスとゴムを持参して、第一階層ホールの案内所カウンターへ移動する。

 遺品コーナーは、ガラス張りのショーウィンドウみたいにする。遺品が見えないと入札もできない、というのと、手を出してほしくない、という相反する要求を満たした結果だったりする。

「こんなに大きな一枚ガラスは、ここにしかないだろうなぁ……」

 ガラスそのものが盗難の対象になりそうなので、ガラスの手前には『障壁』と『魔力吸収』で防護しておく。『ガラスに触れると危険です』とちゃんと書いておこう。何人かが身を以て説明してくれるだろうけど。

 遺品には木札で番号を掲示する。木札は一~十まで作っておこう。一度に展示されるのは十個まで。十一個より後は、内部的には十一だけれども、木札は一を掲示することになる。問題があれば木札は増やすけど、たぶん、ほとんどの冒険者は、十まで数えるのがやっとだと思うんだよね。


 通し番号での物品管理は、通信サーバの記録(ログ)方式を採用した。テンキーでの文字入力は、一見面倒そうだったのだけど、グラスメイド五号にやらせたところ、一分後には呆れるほどの超速度入力をしていたので心配はなさそう。これら文字入力はカウンターの外からは見えないところでやっているから、カウンター内部に入って現物を見ない限りは、私の関与はわからないはず。まあ、絶対に入れないけどね。


 白と黒の閣下モドキ(ガーゴイル)―――別に雨樋じゃないからガーゴイルとは言えないんだけども、便宜上そう呼んでおこう―――を、ショーウィンドウの前と、カウンターの出入り口を封鎖する場所に一体ずつ配置した。普段は固定ポーズでいいとして、このままだと絶対に攻撃してくる馬鹿がいるはずだ! なので、『触れるな危険。攻撃された場合は反撃する。死んでも文句言うな』と書いておいた。文字が読めない人はごめんなさい、勝手に攻撃して死んでください。

 一応はガーゴイルの前とカウンター入り口にも『障壁』の魔道具を配置しておいたから、触ろうとしてもまず到達しないだろうけど。

 なお、カウンターに侵入しようとしている、とガーゴイルが判断した場合は迷宮が非常事態を宣言、カウンターとホール、第一階層入り口を封鎖、第八階層から第十一階層経由で、グレーター閣下(おとうさん)がホールの制圧にやってくる手はずになっている。ホールへの転送魔法陣は、天井に目立たなく記述しておいた。出現時は逆さまになって降りてくることになる。



【王国暦122年3月11日 20:20】


 まだ売る品物がないので完全な死にコンテンツだけど、『計算端末(偽装型)』も一台、カウンターに配置して、ホール部分は完成とした。

 行き先を示した木板も設置。文字が読めない人は(略)。

「それじゃ、白ガゴさん、黒ガゴさん、五号、六号さん、オープンまでここに待機でよろしく」

『了解しました、マスター』

『了解ガゴ、マスター』

「変なキャラ付けはいらないよ……」

 ポ○モンみたいに『ガゴ』しか喋れないように設定しちゃおうかな……。

『ヒイイ』

 視線から何かを感じたのか、白黒ガーゴイルは敏感に反応してくれた。その様が可愛かったので放っておくことにしよう。

 これを動かしてるのはめいちゃんだから、キャラクター付けに苦労してるのかもしれないな、と迷宮管理プログラムを労うに留めた。


 第十二階層のプライベートルーム、書斎に戻る。

 揚げ物お弁当を食べながら、めいちゃん(めいちゃんは迷宮内部ならどこでも私とコミュニケーションが取れる)と、今後の迷宮運営について検討を始めた。


 大まかに言って、私が存命中の時はどうとでもなる。

 問題は私の没後だ。次代の迷宮管理者が賢明であればお任せしたいけれど、そうである保証もない。

 ザンが懸念していたように、溢れんばかりのゴブリン、ワーウルフ、それぞれリーダー個体付き………の四千体を、王都に解き放つかもしれない。最終的なカードとして、それを残しておきたいという誘惑はあるけれど、それは迷宮本来の使い方ではないような気がする。あくまで、こちらに有利なフィールドに誘い込んで、哀れな侵略者の命を奪い、糧にする……のが迷宮だと思う。


『……提案します。……何か鍵になるようなものを設定されては如何でしょうか?』

 あら、めいちゃんが提案してきた。こういうのもプログラムされてるのか。そういえば本棚の隅っこに、めいちゃんのインストールパッケージがあったな。変に融通が利かないのは仕様というか、設計者の趣味なんじゃないかと思えるようになってきた。

「なるほどね………」

 そこで、いくつかのなぞなぞ(リドル)とパズルを設定しておいた。大前提として、この迷宮のシステムを理解して運用できるのは、日本語を解しないと不可能だったりするので、日本人を相手に考えればいいことになる。

 パズルは、九個のマスが九個あるアレで、なぞなぞについては覚えていたものを十個ほど。もちろん、最初の一つ目はオイディプスのなぞなぞ。解いてもべつに崖に落ちたりはしない。

「パズルは……一年に一度、余剰能力を使って難しい問題を考えて。十個も設定しておけばいいか」

『……了解しました。……了解しました』

 これで私が指定しない限り、勝手に管理者権限を奪われることはなくなる。


 あとは迷宮の拡張の、検討と相談をしてみる。

 現在は、第一階層が、北西も含めて四エリア、第二階層は三エリア。それ以降は第三階層~第九階層が一エリアずつで六エリア。第十階層は予備空間、第十一階層、第十二階層の三エリアを含めると、十六エリアがある。

 めいちゃんが動いているコンピュータ(だよね?)と、その魔核(中型)での処理限界と言われているのは四十エリア。販売や防衛やらにタスクを割いているので、実際には、それより少ないエリアが限界じゃないか、とも思える。


 めいちゃんに、『本体』はどこにあるんだ、と訊いてみると、しっかり第十三階層というのがあって、そこの一エリア全てが『めいちゃん』として動いているコンピュータなのだという。


「そこ、ちょっと行ってみたいんだけど?」

『………………承認されました。……了解しました。……コンソール脇へお越し下さい』

 と言われたので、書斎から中央管理室へ移動する。

 めいちゃん………のコンソール脇に、一人分の魔法陣が浮き出ていた。


「これで移動しろってことか」

 承認、って言ってたなぁ。これは先代が仕掛けていたセキリュティなんだろう。よくわからないけど、第十三階層に降りる資格はあるってことらしい。

 魔法陣に乗ると、すぐに転送が開始された。


 転送先は真っ暗だった。『光球』を幾つか出して、フロア全体を照らしてみる。

「うお………っ」

 最初は第十二階層と同じように、四つに区切られているのかと思ったけれど……そうではなくて、四つの積層魔法陣が四方向に設置されているのだ、としばらく部屋を凝視して気付く。

 印象としては確かに、コンピュータルームやサーバルームなのだけど、それらに付き物である排熱がない。もちろん動作音もない。『魔力感知』では、非常に小さな………ささやかな魔力が高速で移動しているのが感じられる。


「魔力……いや、魔導コンピュータ?」

 略して魔コン……いや別に略さなくてもいいんだけど……。

 第十二階層では中央管理室がある場所(つまり中央)に行ってみると、四方向からの魔力を受け取ったり、反対に四方向に流したり、という動作をさせる魔法陣が中央にデン、と鎮座していた。管理CPUだ。となると、四方向にあるのはサブプロセッサか。


「ほえ~」

 魔力の発露を感じてみると、やっていることは正(1)と負(0)で二進法として、元の世界のコンピュータの動作を真似ているものだ、とわかってきた。つまるところ、『計算機』や『通信機』でやっていることを限りなく巨大に、大がかりにしているわけだ。

 しかし、私が作った程度の『計算機』が、めいちゃん並の管理プログラムを動作させられるまで発展するには、どのくらいの労力が必要になるか……。一エリア、一フロアを全てミスリル銀の魔法陣で埋め尽くすとか……正気の沙汰じゃないな。

 中央には一つ上のフロア、第十二階層の人工魔核に向かって伸びるミスリル銀のケーブルの束が、まるで木の根のように伸びていて、幾つかはその隣にあるだろう、コンソールにも伸びていた。根元……に相当する部分には、黒い、四角い箱がある。


「金庫……? しかもダイヤル式?」

 一瞬ウンザリしたけれど、近づいて確かめてみると、施錠されてはいなかった。形だけのダミーみたいだ。金庫の扉を開けると、中には数冊の本が入っていた。当たり前だけど手書きで、羊皮紙に書いたものを綴じたものだ。


―――スキル:魔導コンピュータ管理を習得しました

―――スキル:魔導コンピュータ理論を習得しました

―――生産スキル:魔導コンピュータ製作LV8を習得しました

―――生産スキル:魔導素子を習得しました

―――生産スキル:魔導コンピュータ設置LV8を習得しました

―――生産スキル:魔導コンピュータプログラミングLV7を習得しました

―――生産スキル:対数表を習得しました



―――電子魔導書(スクロール)でした。





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