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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮少女が空を飛ぶ
163/870

本部からの依頼

早いモノで投稿を始めてから三ヶ月が経過であります!

これからも、超オモシロおかしい格好いい作品を目指してがんばります。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。


【王国暦122年3月10日 18:25】


 応接室に通されると、そこには既に副本部長のキャロル、秘書のブリジットが待っていた。

「ども」

「ご無沙汰です、魔術師殿」

「ククククク…………」

 ブリジットは、特に燃える瞳で復讐の視線を送るわけでもなく、淡々と私にお辞儀をした。新しい武器はどうですか、とは(実際に使われたこともあって)訊けなかった。先日の脱水攻撃の影響が抜けていないのか、五歳は老けたように見える。だけどこれがまた………北国の小料理屋の女将が一人で店を切り盛りしながら貴男を待ってます、何故か身に沁む心歌、みたいな色っぽさが……。

 キャロルは相変わらず、視線で私を犯そうとしている。粘っこいのは慣れました。

「さてと」

 ザンは座るなり、ブリジットに『遮音』結界を張るように言った。


「まずは大前提からだ。先日の『ラーヴァ』襲撃事件に際して、ギルド本部は騎士団から依頼を受けていた。勇者の護衛と『ラーヴァ』の確保だ。結論から言えば、これは両方とも失敗した。まあ、勇者は復活したんだが」

 ザンの言っている事はもちろん、当事者だった私は知っていることだ。

「『ラーヴァ』を王都西迷宮入り口まで追跡できたのだが、その後の足取りは不明だ」

 ザンがチラリ、とブリジットを見た。ブリジットは儚げに頷いた。色っぽいなぁ……。っと、つまりあれか、ブリジットが迷宮内部まで追ってきた、というのは公式には無かったことになってるのか。大人の都合ってやつかな?


「その後、王都西迷宮が活発化した。これは千年の間無かったことで、当然ながら『ラーヴァ』が関わっているのではないか、との推測は容易い。これはわかるな?」

 肯定も否定もできないので、曖昧に軽く頷く。

「よって、『ラーヴァ』は迷宮内部に逃れた可能性が高い。冒険者ギルドが依頼されたのは、ロンデニオンの街中に限定して、という制限を付けていた。そうしておかないと他の街にも追いかけて行かねばならんからな。迷宮は街の中、とは言えないので、追跡は拒否させてもらった。わざわざ藪を突いて蛇を出すこともない、という判断もあったがな」


 コメントを出せる立場ではないので、先を促す。藪を突くと蛇が出てくるのは、この世界でもあるみたい。

「『ラーヴァ』が迷宮内部に逃げ込み、迷宮の機能を掌握したのではないか、というのは、我々に替わって追跡を続けた―――俺は止めておけと言っておいたんだが―――第二騎士団が壊滅したことで確定的になったと言っていいだろう。ヒューマン語を話す魔物まで登場して、一気に壊滅状態になったところで……。迷宮は十日後の再開を宣言して、封鎖された。八日前のことだ」


 ザンが息を継いで、キャロルが後を引き継ぐ。

「クククク………。私が魔力感知で探ったところ……。第一階層だけでも魔物の数は以前の二十四倍で五千匹を超えてるねぇ……。第二階層は十八倍で四千匹超。第三階層、第四階層以降は結界があって見えないが……。ククク、この数の魔物が王都に溢れ出したら…………。十日も経たずに魔物の都になるだろうねぇ……」

 そうでしょうねぇ……。とは言えず、私は黙ってキャロルの視線に耐えた。


「つまりだな、王都ロンデニオンは、『ラーヴァ』に生殺与奪権を握られた、ってことだな。第一騎士団のファリスに、この情報を流したら、青い顔をされてしまってな。王宮の方では、迷宮に『ラーヴァ』を追い込んでしまった冒険者ギルド(ウチ)と、依頼主であるファリスの責任を追及する声まで出ているそうだ。当のファリスは第四騎士団の反乱を抑えるのに必死で――――第一騎士団を動かさなければならない状況を作り上げた元宰相(ダグラス)を褒めるべきかもしれないがな。まあ、それはいい。実質、二つの騎士団が壊滅状態のままでは、迷宮内の潜在武力に対抗する手段は皆無と言って良い。そこで―――責任論まで出ている冒険者ギルドに、再度お鉢が回ってきている」

 冒険者ギルドも色々突っつかれてるわけか……。私が原因……ではあるけど、第二騎士団については自業自得だと思うんだけどなぁ。王宮や騎士団サイドは、そう思ってはくれないんだろうなぁ。


「俺が思うに。第二騎士団は、過剰な武力を投入してしまったため、迷宮の過剰防衛行動を招いてしまった。この認識は合っているか?」

 私に訊くなよ、とは思ったけど、変に真面目になられても困るな。

「一般的にはそういうことじゃないですかね」

 と、答えるに留めた。

「それはつまり、上級冒険者が低階層で無双するような状況を、迷宮は許容しない、ということだな?」

 完全に、私イコール『ラーヴァ』という認識で話をされているけれど、この三人はそれを知っているはずだ。それなのに、こんな回りくどい会話を続けているのは、迷宮管理者は別人だ、ということにしておかなければならないからだ。


①『ラーヴァ』イコール迷宮管理者

②私イコール迷宮管理者

③私イコール『ラーヴァ』


 ①②が成り立つと③も成り立ってしまう。今のところ①はほぼ確定しているから、②を認めることは③も認めることになってしまう。

 だけども、迷宮管理者に確認しておきたい事案があるから、こんな会話になっている、ということか。これを説明できないザンたちの立場も理解しているけれど、婉曲に過ぎるのは確かだなぁ……。まあ、元凶が言う事じゃないか。


「同じく一般論でいえば、迷宮内部の魔物構成を著しく乱す存在は排除されて然るべきでしょう。中階層へ至るのに、ある程度の冒険者なら無力化する術は数多あるはずで、実際、そのように進行は可能でしょう。魔核を含む資源を提供している側としては、無節操にやられては困る、ってところじゃないですか?」

「クククク、なるほど、資源、か……」

「仮に、の話ですが。……仮に、冒険者ギルドや騎士団が、全力で迷宮の攻略に乗り出して、全ての階層を制覇し、根絶やしにするような状況が想定されれば、迷宮は過剰防衛行動に出ることになると思います。当然ですが、迷宮は自衛する権利を持つと思われるからです。王都や騎士団、冒険者ギルドは、本質的には迷宮の管理や運営に、何ら関わらず、責任も持っていません。その意味では、迷宮が何をしようと文句は言えないはずです。迷宮は、自らの生存にのみ責任を持っている、と考えるのが本筋でしょう。迷宮が外部に向けて侵攻をしない、というのは、節度を持って迷宮を利用している間にしか通用しない、と思うのです」

 あくまで一般論として語る。

「逆に言えば、節度を持って利用している分には、迷宮に外部侵攻の意思はない、ということだな?」

「そう思います」

「しかし、どこまでが許容範囲なのか、当方に判断は難しいところですね」

 ブリジットが呟いた。

「そういうのは、事前に告知されるんじゃないですか?」

 と嘯いておく。探り探りやっていくのもダンジョン攻略の醍醐味なんだから、どこまでがボーダーラインなのかは言わぬが花というもの。

「ククク、告知ですか。ガラス少女、会ってみたいですねぇ……」

 ジュルリ、とキャロルは唾を飲んだ。

「この世の者とも思えぬ美しさらしいな」

「下半身がスッポンポンだったという話も聞きました」

「へ、へぇ~」

 くそ、ブリジットめ、こんなところで意趣返しか……キャロルの視線が私の隅々まで絡んで痛い。すごいな、内臓まで観察されてそうだ。

 そんな視線から逃れるように、一つ大事な忠告をしておく。

「魔物がそんなに密集しているというのなら、共食いにより魔物のレベルは相当上がっているはずです。物見遊山に入場する輩がいないよう、今からでも冒険者ギルドは告知をうち、現地で待機しているだろう人間にも忠告を行うべきです。大事な人的資源の保護のためにも、是非ご一考下さい」

「うむ。ブリジット、手配は頼めるか?」

「はい」

 私を含めて、全員が真剣な表情になった。私の複数の立場で言えることは、これが限界だろうということも理解してもらえている。愚連隊のなれの果て、という出自のギルド員もいるけれど、無為に入場して、迷宮の糧になるのは避けてほしい。迷宮管理人としては間違っているけど、冒険者ギルド員としては、そう思う。


「迷宮の話はこれでいいだろう。余計な事をしなければ街に被害はない、ということは確認できたしな……。もう一つの用件を話しておこう」

 そうだった。そもそも『依頼』があるっていうからここに来たんだった。

「依頼? でしたっけ?」

「うむ……! 以前、フェイを経由して姫二人の()()について意見をしたそうだな。その意見を元に、ウチの治癒術師―――ダミアンが治療にあたっていた。一時的には快方に向かったのだが、また元に戻ってしまってな……」

 ダミアンは『慈母』と呼ばれている()()で、『雌牛の角亭』のドミニクの(あね)だ。


 王族の治療依頼か。面倒臭いなぁ。美形姫なんて滅びればいいんだわ――――とは言えないので、私に治せるかどうか、ちょっと考えてみる。薬物中毒は、ズバリ毒が体内に侵入してる状態だから、『解毒』スキルで解除は可能なはずだ。

 確か―――ダミアンと、もう一人の上級冒険者、神官の治癒術師、『冷血』のフラン―――強面ナース―――の『解毒』はLV6だっけか。それでも完治できないのか。ヒーラー勇者ヤマグチからコピーしたスキルはLV9。うは、青酸カリをガブ飲みしても解毒できそうだなぁ。

「どうだ? 引き受けてくれないか?」

 ザンにしては珍しく……いや初めて見たかも……困った顔をして、私に言う。私はチョロいので、こういうのには弱い。ずるい本部長ずるい。

 今晩はもう時間的に無理として、明日はオープン前日だし、明後日は当日だし、明明後日なら傾向も出て、手が離せるようになるだろう。

「三日後なら」

「助かる。感謝する、ドワーフの娘よ……」

 ザンは頭を下げた。いや、でも、勇者殺しをして、冒険者ギルドの信用を下げたのは私本人なんですが……。

 ブリジットはそんなザンを見て、私と同じように困惑しているように見える。その後私を見て、一層困惑の色を深めた。

「じゃ、本日はこれで失礼します」

 迷宮に行かなきゃ。宿取ってないし……。



【王国暦122年3月10日 20:19】


 お辞儀をして応接室を出ると、やはりというべきか、しっかり捕捉されてしまう。

「待っていましたのよ!」

「ご無沙汰です、エイダさん」

 今までに培った営業スマイルで応える。エイダの隣には、妹のレダもいた。二人の年齢は二歳違いなので、双子ではないけれど、同じ白みかかった金髪で、顔立ちはソックリだ。髪型の違いでしか区別出来なさそう。ちなみにエイダは縦ロール、レダはウェーブが掛かった肩までのセミロング。

「ほらっ、レダ、ご自分でお言いなさい」

 ぐいぐい、とエイダに押されて、おずおず、とレダが口を開く。

「あの……私にも、姉様と同じような杖を……作って下さいませんか?」

「あー、はい、いいですよ。どこか個室があれば一刻ほどでできるんですけど―――」

「えっ、今お作りになるの?」

 姉妹の目が丸くなる。

「はい、どうせ言われるだろうなーと思って、同時進行で作ってたんですよ。細かい仕様は打ち合わせた後で変更できるところまでは作ってあります」

 おおー、と姉妹は感嘆の声を上げて、さすがさすが! と連呼した。恥ずかしいなぁ。


「それなら、わたくしの住んでいる部屋はどうかしら?」

 すっごく興味がある。上級魔術師の、お上品なお部屋に! しかーし!

「この後用事がありまして、お申し出は嬉しいのですけど……。三日後にまたギルドに来る用事が……ああ、時間が読めないから四日後がいいかも……お部屋にお邪魔させて下さい」

「まあまあ! 嬉しいわ。貴女がわたくしのお部屋に来て下さるなんて!」

 エイダの背景に薔薇が咲いたように見えた。気高く咲いているようだ。

「あはは。私も楽しみですよ」

 うーん、どんな部屋なのかなー、気になるなー。


 そんな話をしながら、冒険者ギルドにある仮眠室を借りることにした。使用許可を求めたブリジットも、何故か仮眠室に付いてくることになった。四人も入れるのかな……。

 レダはエイダとは違って……というと失礼だけれども、すっごい大人しい人だ。ただ、色には拘りがあるらしく、桃色大好きエルフさんらしい。


「じゃあ、基本はエイダさんの杖と同じで、杖の色が桃色……で……杖の先端が桃色の水竜と」

 桃色の杖、桃色の竜ってどないやねん。

 内心でツッコミを入れつつ、デザインと配色を一分間だけ考える。もう、桜をモチーフにするかな。

「水竜はこんな感じでどうでしょう? 全体はこんな感じで」

 教会印の紙に絵を描いていく。

「まあ……美しいわ……」

 色合い的には悪くないけど、キャデラックをピンクに塗ってる気分だなぁ。レダが興奮している分、私は冷静に観察が出来た。うん、レダは頬もピンク色だな。


 ハニカムの形に穴を空けたところまでは終わっているので、エイダ用と同じく、上級範囲魔法まで魔法陣をミスリル板に刻んで、杖に巻き付ける。以前は上級範囲魔法の魔法陣を縮小しただけで倒れていたけれど、フッ、今なら余裕だわ。

「こういう構造になっていたのね。道理で軽いと思いましたわ」

 木の皮を巻いて一体化、ここまでもエイダ用と同じ仕様。

「この桃色の花びらを、杖に散らす、という感じなんですけど、それで良いでしょうか?」

「え、ええ……お願いするわ」

 うん、よくわかってないだろうから、勝手にやらせてもらいますよ。

 桜の花びらをモチーフにした模様を、杖にちりばめていく。

「綺麗ね……」

「ほわ~」

 百カ所くらい『転写』して、まるで桜の木がそこにあるような……全然水竜と関係のない……杖が出来上がった。水竜さんごめん、君はピンクだ。カバと同等だ。

「東方に『サクラ』という木があるそうです。春に一斉に開花して、美しい花を咲かせるそうですよ」

 一気に花が散るけどね。

「まぁ………」

「で、杖の中身はエイダさん用のものと全く一緒です」

 本当は消費魔力量減少に関しては進歩があるから改良は出来るんだけど、エイダの杖がこちらを狙ってきた時の恐怖を考えると、これ以上のパワーアップは私を殺してしまいそうだ。ここは自己防衛させてもらうよ……。

 レダに手渡すと、魔力を入れようとしたので、

「そこで魔力を入れると発動しちゃいますよ。杖に記述されている魔法が全部」

「えっ」

 慌てて手を離した杖が落ちる前にキャッチする。仮眠室のベッドに杖を置いて、包装紙のプリントを始める。今回はサクラの花びらと緑の葉っぱと水竜が舞うデザイン。

「慣れるまでは、これに入れて保管してくださいね」

 いやぁ、正直、姉妹で水刃四枚同時攻撃とかやられてたら、前回は詰んでたかもなぁ……。レダの配置にも助けられたよなー。彼女が違うところに配置されていたから姉妹同時攻撃の時間が短かったわけだし。


「でも、本当に便利になりましたわ。『ラーヴァ』との戦闘も、あと一歩でしたのに」

 エイダが悔しそうに口を尖らせる。事実だけに何も言えないなぁ……。

「ザン本部長はファリス騎士団長をお助けしたかったのでしょう。わざわざこちらから売り込む形で乗り込んだのに…………」

「え、そうなんですか? どうしてまた?」

 思わず素で訊いてしまう。

「冒険者ギルドの地位向上をいつも本部長は考えているのです。影響力の拡大は組織の生存戦略として継続されなければなりませんから」

 ははぁ、それで第一騎士団とは癒着まがいの付き合いをしているわけか。本部長も大変だなぁ………。


「全く『ラーヴァ』はしぶとかったですわ……。せめて障害物がない場所に出れば……」

「姉さん、あれはわざと、そう動いていたんでしょう?」

「それはわかっていますわ。正々堂々戦えばいいものを……」

 上級冒険者十人近くと正々堂々なんかやってられるかっ。それ以前にその状況が正々堂々か疑問を持ってほしいな……。エイダとレダは私が『ラーヴァ』なのを知らないか、薄々勘付いていてカマをかけているかなんだろうな。


「正々堂々、一対一なら、本部の誰も勝てませんよ」

 そこでブリジットが、そう言いながら目を伏せた。うおっ、色気がありすぎて直視できない!

「ブリジットさんは直接対決しましたものね。ザン本部長でも危ういかしら?」

「完敗でしょうね」

 目の端でブリジットは私を見る。

「そうだ、貴女なら……」

 エイダも私を見る。そういう無茶振りは止めてほしいわ……。

「え、魔道具技師さんじゃなかったの?」

 レダの驚いた顔。あれ、このパターンはデジャブ……。



―――早く迷宮行きたいんですけどぉ……。







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