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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
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教会の即興音楽会

 今日の朝は割と気温が高めだった。

 こうやって次第に寒い日が多くなって、秋になって冬になるのだろう。

「うーん」

 まだ眠い……。けど、朝早くから活動するこの生活スタイルは健康にいい。ああ、別に病気とかしない身体だとは思うけど。


 日の出が毎日ちょっとずつ遅れてくる。そんな太陽を背中に感じながら、夕焼け通りを西に向かって歩いている。

 採取に向かうのならもう少し早い時間の、日の出前から動き始める方がいいのだけど、今日はちょっと教会に寄りたかったのだ。


「あら~?」

 教会に着くと、声を掛けられた。このパターンはエミー? と思ったら違った。

 少女から脱しかけた年齢のシスター。薄い金色の髪と少し折れた長い耳がフードから見え隠れする。特に美形ではないけど、柔和な表情とシスター服も相まって、敬意を払いつつも安心できる風体だ。


「こんにちは、マリアさん(ニコニコ)」

 柔和に微笑む。

「こんにちは~。お久しぶりですね~(ニコニコニコ)」

 戦いを挑まれていると思ったのか、さらに微笑むシスター。笑顔競争は加速し、

「えっへっへ」

「オホホホホ~」

「イヒヒヒヒ」

「あっはっは~」

 と、全然可笑しくもなんともないのに腹筋を押さえて笑い合いになる。


「はぁっ、はあ~っ」

「はぁ、はぁ」

「きょっ、今日はっ、どうなさいっ、ましたか~っ」

「ユリア、ンしっ司教様はっいらっしゃいっますかっ」

「はぁはぁ、ごっ、ご案内します~っ……」

 引き分けだが、良い戦いだった。その荒い息が物語る。息を整え、マリアの後について、教会建物へと入る。


 マリアはこの教会のシスター(たぶん見習い)の一人で、ヒューマンとエルフの混血だ。いわゆるハーフエルフというやつらしい。年齢はエミーよりも二つ三つ上のはずなんだけど、どうも大きな子供っぽく見える。エルフの混血なのが原因なのか、その辺りはわからないけど。

 ちなみにエミーはドロシーの一つ下の年齢のはず。うーん、二人とも年齢の割には老成してるねぇ。私が言うなって話だけどさ。


「あ、礼拝堂の扉が開いてるや」

「入ってみますか~?」

 息を整えたマリアがシスターらしく、静々と誘いの視線を向ける。

「是非!」

 礼拝堂の入り口から入るのは初めてだった。私にも表街道を走る日がやってきた!


 開かれた大きな木扉を抜けると、天井の高い、大きな空間があった。木製の長椅子がずらりと並ぶ。中央は質素ながらカーペットが敷かれている。これがバージンロードだろうか!

 礼拝堂の右側奧にまた扉がある。建物の大きさからいうと、礼拝堂が容積の半分ほど。扉の向こうが、いつもの事務室やら応接室やらに繋がっているのだろう。

 バージンロード(?)の突き当たりには、合掌をした、慈愛の表情の男性像。像の高さは、私よりも大きい――一メトルほどか―――程度だ。

 見た感じ神様の像なんだろう、とは思うものの、ユリアンの、神様はいません、という発言とは矛盾するなぁ、なんて思ったりもする。別に祈りを捧げるでもなく、チラと見るだけにしておきますか。


 礼拝堂の左側には、箱ではない……木製の台のようなモノがあった。

 ニス塗りされていて、鈍く光っている。まるで『前の世界』のピアノとかオルガンの筐体に見える。

 あー、こういうの、やっぱりあるんだ。教会に据え付けの楽器というやつ。

 思わずニヤリと笑ってしまう。

 マリアはそれを見て、再び笑い合戦になるリスクを負いながらもニヤリと笑い返した。彼女は負けず嫌いなのかもしれない。


「あの、あれは?」

 私が指し示すと、マリアは胸を張って偉そうに、

「あれは~『カリオン』です~」

 カリオン、カリオン……。口の中で何度か復唱して、

「ああ。『カリヨン』か」

 と大きく頷く。


 カリヨンは、『元の世界』にも存在する、鉄琴の前身……。大型の、建物設置式鐘状打楽器だ。日本では決まった時間に人形が出てくる時計―――に併設されていることが多いけど、本来は任意に音階を鳴らす打楽器だ。鍵盤か、直接打撃するか、設置方式によって演奏法が違う。

 パイプオルガンはなくて、カリヨンがある。ちょっと面白いなー。オルガンは別に人力だの蒸気だのと動力が必要なんだっけか。教会はお金だけはありそうだし、魔力で動かしてもよさそうなんだけどなぁ。

「開けてみますか~?」

「お願いします!」

 マリアの提案に即、乗る。聴いてみたいよね!


 マリアが『カリオン』の蓋を取ると、そこに現れたのは鍵盤らしきもの。黒鍵はないようで、白い歯がズラズラと並んでいる。

「マリアさんは、これ、演奏できますか?」

「もちろんです~!」

 マリアはドン、と胸を叩く。うん、多分演奏できるんじゃないかと思ったんだよねー。


-----------------

【マリア・ターナー】

年齢:16

種族:ヒューマン(エルフ50%)

性別:女

所属:ポートマット聖教会

賞罰:なし

スキル:楽器演奏LV5 

歌唱スキル:探知の歌LV1 勇気の歌LV1 疾風の歌LV1

生活系スキル:絶対音感LV5 音楽再生LV5 採取LV1 解体LV1 計算LV1 裁縫LV1 調理LV3 点火 飲料水 ヒューマン語LV2 エルフ語LV3

-----------------


 鼻息荒く、マリアはカリオンの前にある椅子に座り、すう、と息を吸う。両手を宙に挙げてから、真っ直ぐに鍵盤に指を落とす。


カンカンカーン、カカカーンカンカン、カカカカーンカーンカン………。


 鐘を打つ音がリズミカルに響く。金属の響きを計算にいれたリズムとテンポ、音階。

 私は目を瞑り、ジッと音色に聴き入る。『絶対音感』スキルを発動していると、脳のどこかに音楽が蓄えられていく。間違いなくこれはデータであり、デジタルな要素を感じる物の一つだ。

 この『絶対音感』と『音楽再生』スキル、ついでに『楽器演奏』を合わせて使えば、覚えた音楽を再現できる。戦闘にはまるで役に立たないスキルだけど、私にしてみれば、音楽プレイヤーが脳内にあるのと同じこと。秋の夜長に寂しさを紛らわせてくれる、重要なスキルなのだ!


「ふう~」

 一曲を演奏し終えたマリアは息を吐いた。私は拍手をして、マリアを褒め称える。

「素晴らしいです、マリアさん!」

「い、いやぁ、それほどでもぉ~」

 照れ照れのマリア。

「誰でも知っているような、有名な曲ってありますか?」

「それなら~」


カカカカーンカカン、カカカカーンカカン、カンカーンカカカ………。


「ふう~……」

 演奏を終えたマリアは再度息を吐いた。結構体力を使う楽器みたいだ。鍵盤が重いのかもしれない。

 この世界の曲そのものが短いのか、教会で演奏するような曲だから短いのか、先の曲も、いまの曲も、二分程度だ。カリオンじゃなくて他の楽器だと違うのかもしれないし、この辺りは研究が必要かも。

「素晴らしいです。他にも子供たちが歌うような有名な曲はありますか?」

「ま、まだ弾くんですか~!?」

「もう一曲だけ! マリアさんの素晴らしい演奏を聴きたいのです!」

「そ、そうですかぁ~?」

 緩んだ顔を隠そうともせず、その表情に相応しい、軽快な演奏が始まった。


カッカッカンカン、カッカッカンカン、カンカンカッカカーン………。


「ふぅ~~~」

「素晴らしい、素晴らしいですマリアさん、天才です!」

「えっ、ええ、まあ、そうなんですけど~」

 褒め殺しされて、鼻息を荒くするマリア。私が拍手を止めないので、マリアは身体をくねらせたまま、紅潮させた顔を晒している。

 と、私の拍手の背後で、別の拍手が響いた。


「お見事ですね、マリア。素晴らしい演奏です」

 笑みをたたえて、静かな雰囲気のヒューマンが、入り口から入ってきた。

「司教様~!」

「あ……こんにちは。マリアさんには無理を言って演奏してもらっていました」

「いいんですよ」

 穏やかな海のようにユリアンが頷く。

「今日はお話を伺おうかと思い、参上しました。お時間があれば、ですが……」

「もちろん、大歓迎ですとも。時間ならいくらでも作りますよ」

 抑えてはいるけど、興奮した様子が伝わってくる。目もキラーンとか光ったようだ。

「ありがとうございます」

 私は合掌してお辞儀をする。神父服とシスター服を着た人たちに、礼拝堂でするポーズとしては、違和感が凄い。

「奧の部屋へ行きましょうか。マリア、悪いですが、応接室にお茶を持ってきてくれますか?」

「あっ、はい~っ」

 マリアは慌てた様子で頷いた。エミーはこういう時でも失敗はしそうにないけど、マリアはサザ○さん的な失敗をしそうだなぁ……。

「じゃ、マリアさん、また後で」

「あっ、はい~っ!」

 マリアに挨拶をして、ユリアンの後について、礼拝堂を出る。

 んっ、まだ頭に音が残っているような……!


――――カカカッカンカンカンカカカン。



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