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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
15/870

※桃色水晶の花

「うわっ、なに、アンタ、その顔!」

 トーマス商店に入ると、店番をしていたドロシーがドン引きしていた。

「え? なに?」

「いや、その顔。悪人みたいな顔してる」

 確かに悪人だけど、他人から指摘されると傷付くなぁ。

「ん、んんんんんーーーーー」

 私は目を瞑って、唸りながら心と顔の平静を保つイメージを作る。

「あ、治った」

 ホッとした表情のドロシーを見て、私もホッとする。そっかそっか、これからは表情のコントロールも練習が必要だなぁ。こういうのはスキルに無いんだろうか。

「ふう……。トーマスさんはいる?」

「上にいると思うけど?」

「そっか、じゃ、行ってくる」

 と、カウンター入り口から奧に入ろうとして、『道具屋』らしく陳列してある便利道具が目に入る。

「この指輪、まだ売れてないんだね」

 試作品のつもりで作った守護の指輪が目に入る。いつかエミーにプレゼントした物と同等品だ。

「値付けがね。ちょっと高いんだと思うわ。防御だけになっちゃうのも使い勝手がねぇ」

 痛いところを突くなぁ。でもまあ、目的はその通りだからなぁ。

「これ、三つ。……買うわ……」

「アンタそれ、自分で作ったやつじゃん……」

 呆れ顔のドロシー。そりゃそうだ、私も呆れてる。

 一つを手に取ってみる。


-----------------

【守護の指輪】

任意のキーワードを設定、宣言すると『障壁』の魔法が発動する。

装備者の周囲に卵状の障壁を展開する。発動時間三十分。

材質:銀(95%)

付与:障壁LV1

-----------------


 うーん、説明が日本語なんだよなぁ。

 違和感が凄いけど、これは慣れるしかないんだろうなぁ。

「それ、どうするつもりなのよ?」

「うん、ちょっとね」

 私はカウンター脇から中へ入り、工房へ移動する。

 もう閉店間際でヒマなのか、ドロシーも付いてくる。

「ドロシー、この指輪の魔法発動の言葉、覚えてる?」

「たしか、『バリア』? どんな意味なのそれ?」

「障壁とか、そんな意味なんだけど。ドロシー的にしっくり来る言葉ってある?」

 指輪を床に置いて、ドロシーを見上げながら訊く。

「『守って』とか?」

「わかった。――『付与:障壁LV2』」

 あ、このまま上書き可能みたいだな。何も描かれていない床に、淡く光る魔法陣が現れる。と、同時に条件設定オプションウィンドウが目の前に表示される。ゲームっぽいな! キーワードは一旦空白にしよう。『障壁』のレベルが1から2になって、より安全。達人クラスの剣技でも一発は耐えるはず。障壁の大きさも、二人分くらいにしておくかー。今度は発動オフにする機能を付けて、と。

 魔法陣が消えて、ドロシーに指輪を渡す。


-----------------

【守護の指輪】

任意のキーワードを設定、宣言すると『障壁』の魔法が発動する。

装備者の周囲一メトルに卵状の障壁を展開する。装備者の魔力が続く限り発動を続ける。

別途、任意のキーワード設定によって障壁を解除可能。

材質:銀(95%)

付与:障壁LV2

-----------------


「つけてみて?」

「え、私に?」

 私が頷くと、ドロシーは、普段からは想像できないくらい、顔を綻ばせる。指輪を左手の中指につける(中指しか指輪がフィットしなかった)と、色んな角度から眺めるドロシー。

「――『付与:キーワード設定』。ドロシー、『守って』って言ってみて?」

「まもって」

「いいよ。――『付与:キーワード設定』。次は『解除』って言ってみて?」

「かいじょ」

「よし、っと。もう一回、今の言ってみて?」

「――『まもって』」

 淡く光が出て、ドロシーの周囲を薄い皮膜が覆う。軽く叩いてみる。

「おー、コンコンいってる」

 固い音がする。やっぱりこれ、バリアが破られる時は、パリーンって割れるんだろうか。

「止めてみて?」

「――『かいじょ』?」

 スッと魔力が切れて、障壁が解除される。うん、上出来ね。持続時間がわからないけど、まあ長時間使うものじゃないしねー。

「うん、それ、普段はドロシーから魔力補給してるから。今晩はちょっと疲れるかもしれないけど、我慢してね」

「え、ほんとに、くれるの?」

 私は頷いた。ハッキリいって、ドロシーは、私やトーマスの弱点の一つだから。

 殺してきた人たちには申し訳ないと思うけど、私には日常が必要なのだ。


「本当に今さらだけどさ。理不尽な暴漢が襲撃してくるかもしれないでしょ」

 ジトッと私を見るドロシー。ああ、一般論じゃ納得しないか。

「いやほら、ドロシーは綺麗になってきたしさ。心配なんだよ」

 なんだコノ言い訳は。父親か、私は。

「そ、そう?」

 あれ、まんざらでもないのか。ドロシーが照れてるや。ま、結果オーライってことでいいか。

「お、戻ってきたか」

 ドロシーとピンクな雰囲気になりそうなところに、親(代わり)のトーマスが二階から降りてきた。

「ただいまです。ああ、ちょっと今日はトラブルがあって。採取は行ってないんです」

「んん? そうなのか? まあストックはあるから大丈夫と言えば大丈夫だが……」

「ああ、それでですか。フェイさんのところに寄ってきたんですけど、後で来てくれ、って」

「ほう?」

 トーマスが悪い顔になった。さすがの嗅覚だなぁ。

「閉店作業は手伝っていきますので」

「ああ、わかった。儂の分の夕食も食べていくといい。多分―――長くなりそうだしな」

「はい。ありがとうございます」

 ありがたく申し出を受けることにした。まあ、例のアヘンの件は当面は情報収集がメインだろうし、何か実力行使の場面があるなら、どうせ私が実行役だろうし。周辺も細部も、二人が詰めてくれるだろう。


 トーマスが冒険者ギルドに向かった後、ドロシーとは当たり障りのない話を続けた。

 お客の誰ソレが格好いいとか、可愛らしいと気にしていた少年が来店しなくなったこととか。っていうか男の話ばっかり。

「だってさ、出会いって言ったら、お客様である冒険者しかいないわけじゃない? 汗臭いのとか、筋肉ダルマとか」

「あー、線の細い感じの人が好みだもんねー」

 流麗な魔法戦士! みたいなのがお好みらしい。

「そうねぇ。最低のところで、エドワードさんかなぁ」

 おいおい。あの人は―――偽名で、ミドルネームが付いてるから、ワケアリの人だよー?

「あの人、良いところのお坊ちゃまじゃないかな?」

 一応、否定的な要素を伝えておくか。

「え? そんなわけないじゃん」

 ハン、と笑うドロシー。案外見る目ないなぁ。あたしゃ(一応、妹として)心配になってきたよ……。

「そう言うアンタの方はどうなのよ? ジジ狙いなわけ?」

「はぁ? どの爺よ?」

 思わず素で返す。どこからそういう発想がくるんだ……。

「フェイさんとか? よく会ってるじゃない?」

 なんでそうなるの……。脱力しながらも、否定しておくか。

「支部長は仕事仲間というか上司というか。そんな関係だよ?」

 あとは、私を死地に送り、危険な任務を指示する、される関係だ。

「え、そうかなぁ? アンタはそうでも、向こうは時々熱い視線送ってるよ?」

 たまにトーマス商店に来たときには、確かに私を捜しているかもしれないけど……。しかし、ドロシーの言う通り、フェイが私に対する時には、任務だけの関係とは言えないような思いやりを感じる時もある。罪悪感に起因するものだろう、とは思っているけど、真意があったとしても、それはフェイから語られる事はないだろう。


「百歳超えの人からしたら、みんな曾孫みたいなものでしょ。ないない」

「え、じゃあ、エドワードさんみたいな?」

 なんだ、やっぱりドロシーはエドワード狙いなのかな?

「あんな面倒臭いの。お断り。激しくお勧めしない」

 私は吐き捨てるように言った。ミドルネームが付いてるだけで面倒さが増すというのに。

「え、何で? 向こうはアンタに気がありそうなのに」

「あれ、なに、私に勧めてるの?」

 逆の立場だったとは。こりゃ気付きませんでしたよ。


「いやね、訊いたらね。白状したのよ、エドワードさん。聖教の『恋愛成就のお守り』まで見せてくれたわ?」

「ああ、そのお守りは、ユリアン司教様に、手っ取り早いお布施の方法として提案したものなんだけど。売り上げに貢献してくれて何よりだわ」

 この案を提示したとき、ユリアンは嬉々としていたっけなぁ。

「え……そうなの……」

 唖然としているドロシーがお守り―――小さな布袋―――を見せる。

 お前もか!

「中身も、ただの石だよーそれ」

 あー、ドロシーの表情と一緒に乙女心が壊れていきそう。

 少しフォローするかなぁ。


「ちょっと貸してね」

 私はドロシーの手からお守りを取り上げて、中身の小さな石を取り出す。半透明で乳白色だから、一応水晶なのかな。魔力を蓄える仕組みはなさそうだなぁ。金属になら溶かし込むことは出来そうだけど、石は無理かなー。

 魔道具は、どこかに魔力供給源がないと正常に動かない。装備者本人の魔力を使うか、魔核を電池のように使うか。手間は変わらないけど、前者の方が強力な魔法を発現できる。

「うーん。ちょっと工房いってくる」

 工房に移動し、『道具箱』から、真っ赤な、極小さな魔核を取り出す。この魔核は、先のワーウルフから取り出したものだから新鮮。直接、魔核に術式を書き込めなくもないけど、台座を組んだ方がいいかな。

「――『付与:灯り』」

 直径三センチほどの銅製の台座に発光した魔法陣が投射される。これで、この台座には『灯り』の機能が付与されたことになる。


 石の方は―――削り出して魔核と接着してみるか。

 こういう精密加工は、さすがに魔法やスキルが使えるわけじゃない。魔法やスキルが、この世の理の全てをフォローしているわけではないという証拠の一つかもしれない。


 手作業で魔核がはまるように、小さなノミとハンマーで少しずつ削っていく。上部には溝を、下部には半球状の穴を開けていく。この石は『鑑定』で水晶だとわかっていたけど、やっぱり固いわ。でも気をつけて削らないと割れてしまう。難儀な素材ね。

「何作ってんのよ……」

 ドロシーもカウンターから工房に移動してきて、私の作業を見守っている。私は黙って石を加工していく。石材とか宝石加工、みたいなスキルが習得できればいいんだけど、さすがに覚えられないか。


「うん」

 仕上がりはイイ感じ。接着剤は使わないことにしよう。魔核は含有魔力で多少大きさが変わるし。はめた後に魔力を充填すればピッタリになるかな。水晶を填めた魔核を、台座に置く。構造そのものは『魔導ランプ』と同等だけど、超小さいな!

「――『付与:キーワード設定』。ドロシー、『恋が実りますように』って言ってみて?」

「こいがみのりますように」

 うん。小声だったけど登録OK。ドロシーは恥ずかしそうな顔してるなぁ。あとはこのまま魔力を充填して……。うん、ちゃんとはまった。

「はい、これ。もう一回言ってみて?」


「こいがみのりますように」


 ドロシーが言うと、『灯り』がついて、半透明だった水晶に赤い光が通い、あたかも掌に桃色の花が咲いたようになった。


挿絵(By みてみん)


「わ………」

 ポカーンと口を開けるドロシー。

「うん、これなら恋愛のお守りっぽいでしょ? 魔力は充填しておいたけど、時々起動させてね」

「うん……ありがと」

 わー、泣かないでー。エミーの笑顔と同じくらい、ドロシーの泣き顔は苦手なのに。

「大事にしてよね。手間も暇もかかってないけどね」

 努めて軽い調子で、誤魔化すか。

 ああっ、誤魔化しきれてないや。

 泣いちゃった。

 光る花は女子の涙腺を弱める効果があるのかなぁ。

「うん、ありがと――――」

 ドロシーはもう一回、ありがとうと一緒に。



――――私の名前を呼んだ。



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