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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮少女が空を飛ぶ
145/870

ポートマットの防衛戦4

新章スタート……ですが、変わらず殺したり物作り……かも。

【王国暦122年3月3日 23:06】


 アーサ宅に戻ると、アーサお婆ちゃんは前のめりになって扉の前で待っていた。

「そう、おかえりなさい」

「ただいまです」

 無事に守れた。無事に帰ってこられた。アーサお婆ちゃんを見て、安堵からか、少し腰砕けになる。


「あら、おかえり。遅かったわね?」

 ドロシーも、明日早いだろうに起きていた。

「おかえりー」

 その後から出てきたのはカレンとシェミーだ。

「そう、お腹は空いてる?」

「あ、はい、軽く何かあれば」

「そうね、ちょっと待っててね」

 夜遅くに食べたら太る……けど、今日はいいか。

「トーマスさんがね、アンタは明日から収容所増築に行ってほしいって言ってたわ。さっきまで会ってたんでしょ? なんで私から言わせるのかしら」

「あー、うん、わかった」

 こき使われてるなぁ、私。

 ドロシーから言われた方がワンクッション置かれるから、命令っぽくないってだけだろうけどさ。

 けどまあ、敵軍を全滅させずに降伏させたのは私の責任でもあるし。戦時捕虜ってどうするんだろうか。『契約』スキルを使って奴隷にするんだろうか。うーん、明日にでも訊いてみるか。


「アンタ、病み上がりにしては元気よね?」

 含み笑いをするドロシーが怖い。

「元気になりました……」

 元気なく言う。

「まあまあ、そういえば、お嬢ちゃん、ラルフとラナ―――第四班全員でチーム申請したって聞いたさ」

 カレンが楽しそうに私に報告する。

「へぇ……絆が深まったんでしょうかねぇ」

 吊り橋効果に近いものがある気がするけどなぁ。

「それでさ、私と、お嬢ちゃんに、時々でいいから意見欲しいとか何とか。顧問になってくれって言われたさ」

「えー? 顧問? って何するんですか?」

「時々声掛けてあげればいいんじゃないかな……私にもわからないさ」

 ハハハ、とカレンが豪快に笑う。

「そうね。はい、カボチャのスープ」

 お、ポタージュだ。

「いただきます!」


 んっ……。

 美味い、うまいゾ! 牛乳と……鳥のコンソメがベースか。バターは入っていないけど、その分スッキリした味わい。裏ごし機なんて物はないから、すり鉢でゴリゴリやったのかなぁ……。丁寧に潰してあるなぁ……。


「フフフ、しげしげと見てるね? それは私が潰したんだわ」

 シェミーが誇らしげに言う。言わなければアーサお婆ちゃんが補足しただろうに。

「うん、美味しいです。なんかちゃんと食べたのは久しぶりな感じ……」

 カボチャ。カボチャか……。


「お婆ちゃん、カボチャの種って取ってありますか?」

「そうね、あるわよ?」

「あるだけ欲しいです!」

「そう、明日の朝にね。今晩はもう遅いわ」

「はい、お願いします。ごちそう様でした」

 心と身体に沁みる一杯だった。数百人を殺して荒んでいる心を癒す、温かい一杯だった。


「そうね、じゃあ、寝ましょうか。明日も早いし」

 アーサお婆ちゃんが欠伸をすると、全員に伝播したので、大人しく寝ることにした。


「そういえば、連絡係ってどうだったの? 問題はなかった?」

 ベッドに入ってから、ドロシーに訊いてみる。

「うん、うーん? 五回くらいかな、トーマスさんに中継したの。避難指示とか。どこも危ないってことになって、北西広場とかに行ってもらったり、教会だったり、トーマス商店にも入れたわ」

「そっかー。役に立ったのなら良かったよ」

「でもね、全体の一部でしかないって自覚があるのは、モヤモヤするわね」

「ん~、戦況を全部把握できてたのはごく一部の人だけだと思うよ? 支部長とトーマスさん、エドワードさんくらいじゃない?」

 エドワードの名前を出してから、少し間があった。

 おや……? ドロシーの様子が……?


「エドワードさんか……。ここのところ立派になってきたわね……」

 お、ドロシーの男談義? ちょっと前までは屋根裏部屋で毎日語られたっけなぁ……。

「そうだねぇ……。ドロシー、モノにしちゃえば? 協力するよ?」

「あの人、アンタに気があるのに?」

 だから引導を渡すという意味なんだけど……。思い立ったが吉日、何かイベント起こしてみようかしら。

「ドロシーさえその気なら、いけると思うよ?」

「う、うーん」

 エドワードについては何度かこんなやり取りをしているんだけどなぁ。その度に、考えとくわ、まあいいわ、今度でいいわ、で終わるんだよねぇ。


「じゃあ……唾つけといてよ」

「うん、わかった。え?」

 てっきり婉曲な否定かと思いきや、婉曲ながら受け入れですか。

 ふーん、ふーん。これも吊り橋効果ってやつですかね?


「寝るわ……おやすみ」

「うん、おやすみ」

 照れ隠しかしら。

 へー、へー。

 楽しみになってきたなぁ。

 グエヘヘヘヘ。


 ドロシーの寝息が聞こえてきたところで、一つテストをしてみよう。

 目を瞑って………。『魔力感知』の範囲を広げてみる……。アクティブに使うと家中に察知されて起こしてしまうから……。パッシブのままで感知領域を広げてみる。

 あ、東方向に一つ……いや三つ……。これはタロス00と01、02か。ちょっと01になってみるか。


 おっと真っ暗だ!

 せっかくだから『暗視』と『遠見』を使ってみよう。

 本体とリンク対象との距離は二百メトルほど、って制限があったはずなんだけど、召喚LV5になったせいなのか、リンク可能距離が延びてるみたいだ。


 ん~?


 沖合に船……帆船が……三隻? いるぞ?

 これ、時期的には不審船だよなぁ。

 ん~、帆にプロセアの印つけてるなぁ。まだ上陸態勢ではないみたいだけど……。偵察か、捕虜解放とか、そんなこと考えてるかなぁ。

 よし、本体に戻って報告しなければ。


「………………んっ」


「お嬢ちゃん起きてるかい?」

 本体に戻って起き上がると、部屋の扉の外から声が聞こえた。カレンの声だ。

 静かにベッドから抜けて、扉を開ける。

 と、シェミーも海女スーツを着てカレンの隣にいた。カレンはフルプレートではなく、ハーフプレートの鎧を着込んでいた。

「何か来てますね」

『道具箱』から『通信端末』を出して受信モードにすると、すぐに受信、やはりフェイからの短文だった。

「支部長から短文が入っていたさ。敵襲には違いないみたいだ。後詰めか偵察かな?」

 小声でカレンが推測を口にする。

 私は後ろ手に、そっと扉を閉める。

「とりあえず冒険者ギルドへいきましょう」

「わかったさ」

「了解だわ」

 安全宣言が出るまでは絶対に外に出ないように、と置き手紙をしておく。この家の守りが薄くなるのも何か悪手のような気がしてならないのだ。


 フェイに短文を送る。『アーサ宅発なぅ。ギルドへ向かう』と。

 筆まめのフェイからはすぐに返信があった。『不審船は西へ向かった。対処求む。セドリックとクリストファーは東の警戒に向かわせた』と。

 東海岸も警戒しなきゃいけないのか。


「ギルドじゃなくて西漁港を目指します――『風走』」

「わかったさ」

「あいよ!」

 カレン、シェミーと一緒に海岸に出る近道を通る。カレンは大盾を出してホバークラフトを開始。凄い、もう使いこなしているのか!


 海岸に出ると、遠目にこちらに向かってくる船影が見える。

「見えた。お嬢ちゃん、アタシは海から行く。中央の船の制圧でいいね?」

 シェミーは海中から攻める宣言。

「お願いします! 要人は殺さずいきましょう」

「了解さ。よし、このまま直行しよう。お嬢ちゃん、乗るか?」

「私重いので! このまま水上を行きます――『筋力強化』『筋力強化』『筋力強化』『暗視』『暗視』『暗視』」

 三人分の強化魔法を、私を含めて付与する。寿限無っぽい超早口だ。


「助かる!」

 シェミーが先に海に入る。私は先行せずにカレンの盾の影に入って移動する。『風走』はホバークラフトを模した付与魔法だ。水の上でも大丈夫!


 と、順調に敵船に近づいたところに、風を切る音がした。


ヒュウ!


 恐ろしい速度の弩だ。複数来る!


ガ ン


 六連射のうち、一発がカレンの大盾に弾かれる。この程度、傷付きもせぬわ!

「敵認定だ。やるしかないさ」

「はい」

 せっかくアーサ宅にもどってほんわかしていたのに。空気の読めない連中だわ。おっと、シェミーっぽい口調になってしまったわ。


 敵船は海岸から三百メトルほど沖合にいる。

 それにしても、海上を走る盾とか、初めて見るだろうなぁ。

「加速装置、飛翔、最大で行きましょう。魔力補充します」

「頼むさ!」

 大盾に手を触れて、装備されている魔核が消費した魔力を補う。

 最大加速(ブースト)五秒で、十メトルは飛翔(ジャンプ)できる。


ブワッ!


 風系魔法で上昇方向へ追い風を作ってジャンプを補助。

 大盾が海面から飛び跳ねる。


「うっわぁああああ」

 敵船員の叫び声が聞こえる。軍船は大型とは言えないまでも立派な装飾がされていて、手入れもされている印象だ。


ドーンッッ!


 カレンの盾が甲板に降り立ち、着地で轟音が鳴る。

 そのまま艦首に陣取る。私は盾の後から抜けて、黒鋼のメイスを取り出し、近くにいた船員の肩を殴打した。

「がッ」

 手当たり次第にぶん殴っていく。手加減はあんまりしていないので、ショック死してもおかしくない。


 カレンは大盾をしまい、中型の盾に切り替えて、右手にはランスを持っている。盾に殴られるか、ランスに貫かれるか。甲板に出ている船員が倒れていく。倒した敵は海には投げ捨てない。後の掃除が大変だと身にしみているから。


 艦尾からはシェミーが制圧を開始していた。私は背後を向いていた船員たち(よく見れば革鎧を着た軍人っぽい格好だった)の頭部をバンバン殴っていく。割れない程度の衝撃が一番効果がある。声も上げさせない。私も殴り慣れてしまったか。

「甲板は制圧したわ。船内いくわ」

「私が先行します」


 シェミーが頷いて、私を先頭にキャビンから船内に入っていく。

 やけに立派な船だと思っていたけれど、大物貴族か王族の乗る船っぽい。装飾が派手過ぎて、式典用というか、戦う船っぽくない。


 船内の通路が二手に分かれる。私が左、シェミーが右。

「敵襲!」

 とか叫んだ兵隊がいたので腹を思い切り突いて黙らせる。

 扉という扉を開けて、見つけた敵兵をガンガン無力化していく。


 船体中央辺りに大きな部屋があった。

「誰だ?」

 中には、煌びやかな軍服を着た、若い男が立っていた。剣は抜いていない。

「お前こそ誰だ」

 私はイラっとしていたので思わず訊いてみた。

「この私にぐぇ」

 素早く動いて加減して腹を突いた。死んではいないだろう。散々兵隊の腹を突いたので丁度良い加減がわかってきた。


 蜘蛛の糸を出して拘束、貴族風の衣装を破って口に突っ込む。襟を右手で引っ張って引きずり、メイスは脇に抱えて、貴族風の男の頭に尖った部分を添えて歩き出す。

「お嬢ちゃん、そっちはどうだ?」

 甲板に向かう途中でシェミーと合流する。シェミーは女性を肩から背負っていた。女性は気を失っているのか、これも荒っぽく二つ折りだ。

「貴族一匹の拉致完了です」

「こっちも一匹。上にいこう」

 順路を逆に戻ると、途中で兵隊が倒れていたり呻いていたりと、死屍累々の有様だった。

 甲板に上がるとカレンが待っていた。


「他の二隻は迷ってるさ。今から乗り込むのは面倒かな」

「じゃあ、勧告しますよ」

 風系魔法『拡声』を使って叫ぶ。


『あーあー。この船は、我々ポートマット防衛隊が制圧した。白旗を揚げて武装解除せよ。諸君らに勝ち目はない。大人しく指示に従え。抵抗すれば即座に撃沈する』

 随伴していた二隻のうち、片方は迷いを見せ、片方は弩を放ってきた。

 私は貴族風の男を甲板に投げ捨て、黒鋼のメイスを『道具箱』にしまうと、『雷の杖』を出した。

「――――『発電』『蓄電』」

 八十パーセントのチャージで十分だろう。

「――――『サンダーブレ○ク』」


ガカッ!


 杖についた()()経由で、雷撃が放たれる。紫に光る光球が、攻撃してきた船のマストに吸い込まれると、船は一瞬光球に包まれる。


ド ン


 光から遅れて船全体が爆ぜる。

 爆発の余波がこちらの船にも伝わると、迷っていた方の船は即座に白旗を揚げた。ちゃんと白旗の文化があることは調査済みだ。


「耳がいてえ……。お嬢ちゃん容赦ないわ……」

 バイオレンスに引き戻してくれたお礼ですよ……。

『そっちの船は接岸せよ。ただし接岸要員以外の上陸は禁ずる。十名以上の上陸があった場合はまとめて撃沈する』

 さらっと撃沈と言ってみたけど、それが脅しでも何でもないことは理解しただろう。

「こっちの船はどうするのさ?」

「ああ――――」

 帆に当てる角度に注意しながら風を送る。反対の手からは水を勢い良く流す。周囲に水がたくさんあるので、私の掌は方向性を持たせるために経由されている状態だ。


―――スキル:操船(風)LV3を習得しました

―――スキル:操船(水)LV3を習得しました


「カレンさん、先に降りて上陸要員の監督をお願いします」

「わかったさ」

 こちらの船で動ける船員は皆無といっていい。向こうの船の連中にこちらの係留作業もやらせよう。

 カレンは大盾を出して飛んでいく。重量のある盾がやや着地に失敗した音が響いたけれど、聞かないフリをして、こちらの操船に集中する。


「モゴモゴ」

 貴族風の男は気が付いたのか、モゴモゴ言っている。

「シェミーさん、この船の接岸作業を、下の連中にやらせてください」

「わかったわ」

 岸壁には五十人近くのポートマット騎士団員が到着していた。まあまあの即応態勢かな。

「――――『治癒』」

 貴族風の男を癒して、口に入っている布きれを取ってやる。

「貴様っ! この私にごっ」

 蹴りを入れた。気を失ったみたいだ。

「――――『治癒』」

 再度治癒。まだ意識は取り戻さないか。おっと、接岸っと。進行方向と逆に向けて水を流す。『操船』を習得したからか、普段は反作用として魔法発動者に働く力がなく、水を放った方向とは逆に進む。

 なるほど、意識していなかったけど魔法を撃つっていうのは飛ばされないように踏ん張ってる、ってことでもあるんだなぁ。

 軽い衝撃があって、接岸したことがわかった。上からロープを垂らすと、下にいた連中が走り回って係留作業を始めた。


「―――『水球』」

 水をぶっかけて、貴族風の男を起こす。

「ぶわっ」

「お前の名前は?」

「………………」

 私は『道具箱』から、ヒーラー勇者から奪った二本の杖を取り出して見せた。

「そっ! それは!」

 二本の杖で男の両頬をグリグリする。

「名前は?」

「…………オルトヴィーン」

 名前は見えてるんだけど、フルネームを訊いてみる。


「オルトヴィーン・アントニウス・フォン・プロセアだ。プロセア帝国第二王子」

 王族だったのか。馬鹿な息子たちだなぁ。

「この二本の杖は?」

「…………」

 オルトヴィーンはだんまりだ。仕方がない。これは捕虜の心得、教育が必要だ。

「がっ」

 赤い杖に炎を、青い杖に水を、それぞれ纏わせて、オルトヴィーンの腹を突いた。

「――――『治癒』」

 癒して、今度は突きまくった。肉が焼ける臭いと水が弾ける音が断続的に響く。

「ががががががが」

「――――『治癒』」

 サッと杖を振りかぶると、オルトヴィーンは怯えた目になった。権力者ほど目に見える暴力に弱いっていうのは本当だな。


「この杖は何?」

「い……妹のエルヴィーネの杖だ。青い方も……対になる杖で一番下の妹、アンヌに下賜されたものだ」

 へえ、あれも王族だったのか。

「じゃあ、あの戦いには王族が三人もいたことになるのか……」

「エルは、アンヌは、ヴィンは! 勇者はどうなった!」

 青い杖で再度腹を突く。

「ぐ………」

「えーと、アンヌ? は私が四つに切った。エルヴィーネ? は勇者が誤射で殺してしまったよ。この二つの杖をこう……交差させて……」

「うあああああ」

 おや、今日一番の表情ですねぇ……。


「この杖が出す魔法は何?」

「………………時間を進める魔法だと聞いている」

 ああ、なるほど、それであの黒鋼の諸刃剣に穴が空いたのか。信じられないけど、そんな魔法が存在するのか。

「なるほど、わかった。で、今日は何をしに来た?」

「………………」

 またダンマリか。杖二本をしまって、黒鋼のメイスにして、腹を突く。

「がっ」


 その後数度、治癒と突きを繰り返して聞き出せたのは、今回の船団は偵察任務、つまり様子を見に来たということだった。十日前に意気揚々と出発していった船団からは何の音沙汰もない。心配になって偵察隊を組織したのが、この第二王子ということだった。偵察には時期尚早だという周囲の声を振り切ってやってきたは良いけれど、ということか。

「お前べっ………あなた様は、『ハーケン』ではないのですか?」

 言い直したオルトヴィーンが訊く。疑問を疑問で返しちゃいけないけど、恐らく解答になっているだろうから訊き返す。

「その『ハーケン』とは何だ?」

「……勇者殺しの一人といわれてい……ます。勇者ヤマグチは『ハーケン』から逃れられた真なる勇者だった……」

「なるほど、よくわかった。……これから殿下は当方の騎士団に引き渡される。そこでは王族として、捕虜として、身代金が払われるまで大切に扱われ、やがて自分の国に戻ることだろう」

「…………」

「先に言っておくけど、再度、我が国を攻める素振りを見せたら、キッチリ撃退した上で、今度はあんたたちの首都で、あんたたちが眠っている間に、さっきの魔法を百発お見舞いする。いや、五十発で足りるかな。一刻もあれば破壊できそうよね。ついでに首都に至る道中の町という町を破壊して、あんたたち王族の血族は全て皆殺しにする。プロセア帝国は解体されて民衆のものになる。ああ、次来たら、なんて甘いこと言わないで、今からそれやってもいいかしら。いい加減あんたらの相手してるのも面倒なのよね。どう思う? 殿下? ――『治癒』」

 オルトヴィーンに対して過剰に『治癒』を使いながら問う。


「敵に捕らえられたことで、私の立場はさらに弱くなると思うが……言う通りにしよう……します。臣民たちをお助け下さい」

「貴殿の英断に敬意を表する。グリテン、いやポートマットは、争いよりも協力し、共に発展できることを願う。あと、私の事は必要以上に吹聴しないこと。あんたたちは、自分たちが迂闊で間抜けで力不足で顔が不細工だったから敗れた。いいね?」

「はい……私たちが悪うございました」

 それを聞いて、オルトヴィーンの襟首を掴むと、岸壁へと飛び降りた。

 ズドン、と鈍い音がして、周囲にいた係留作業をしている敵兵や騎士団員が呆気に取られたけれど、是非スルーしてほしいところ。


「魔術師殿―――!」

 アーロンがすぐに私を見つけて近寄ってくる。

「こちらはプロセア帝国第二王子、オルトヴィーン・アントニウス・フォン・プロセア殿下です。捕虜になることに同意を頂きました」

「なんと―――!」

 おやまあビックリ、みたいに両手を広げたアーロンをちょっと可愛いとか思った。ちょっとだけね。


 先に係留されていた船からの捕虜は三十名で死者ゼロ。オルトヴィーンの乗っていた船は捕虜五名、死者三十五名。陸戦隊に相当する兵隊はほとんどいなかったことになるか。ああ、でも撃沈した船の方はわかんないや。


 太陽が顔を出す頃にはオルトヴィーンと、シェミーが引っ張ってきたもう一人の女貴族(ヴィンフリートの奥さんだか婚約者なんだと)を除いた三十三名の護送が終わる。この三十三人のうち、約半分の十六名が操船関係で魔力量を多く持つ者だった。当然魔術師なので、『魔力吸収』で魔力をギリギリまで奪って無力化しておく。


 仮収容所の隣にもう一つ、円形の仮収容所を作り、狭いながらもガチガチに固めた魔法防御壁で覆う。ここは狭いから、脱出しようと攻撃魔法を使っても、自分たちが被弾してしまうという親切設計。

 とりあえず三十三人を収容すると、やっと一息吐けた。


「ふぃー」

 フェイによれば、東海岸の方は警戒中ながら、後続の船影は見えないとのことだった。襲来したのは偵察任務の、この三隻だけってことかな。

 カレンとシェミーは騎士団を手伝い、また事情聴取やら報告もあるので手が離せない。その代わりに、ルイスとシドをアーサ宅へ向かわせた、と連絡もあった。フォローがありがたい。ダグラス宰相(もう『元』になってると思うけど)の影響力が払拭されて関係者が処分されるまでが一つの区切りだろうけど、全ての大本が私だと気付かれた時、向けられる矛先は、私ではなく、必ず私の周辺に向けられる。そのフォローとしては過分な扱いを受けているとは思うけど、その辺りは自分が重要人物だと自覚してしまえば納得も受け入れもできる。

 というか自覚しろよ、というメッセージなんだと思うことにした。


「せんせいっー」

 っと、コイルが汗をかきながら荷車を先導しているのが見えた。荷車からは何だかガチャガチャと金属音が聞こえてくる。

「はぁ、はぁ、せんせいっ、このっ、首輪のっ、処理をっ、お願いしますっ」

 荒い息を吐いて、コイルはニコニコしながら、荷車に積まれた首輪を指した。

 私は思わず顔を顰めた。



――――尋問モードのときは人間が変わります……。





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