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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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防衛戦の後日談


【王国暦122年3月3日 15:20】


 仮眠室への見舞客の来訪が落ち着くと、支部長室へと移動することになった。窓から漏れる光を見ると夕方前くらいか。

 移動した面子は、私の他、フェイ、トーマス、ユリアン。

 とまあ、いつもの黒い顔ぶれだった。


 フェイが『遮音』結界を張ると、ついさっきの見舞い中に、懐疑の視線を大いに向けられた事に軽く触れて、気になったことについて訊いてみた。

「えーとですね、先に誰がどこまで知っているのか、ちょっと把握しておきたいんですけど?」

「……ふむ」

 私が提案すると、フェイは少し考えてからトーマスを見る。トーマスはそれに呼応して僅かに頷く。

「……セドリック、クリストファー、それにベッキーは、お前が非合法活動に従事していることを知っている。……合法ってなんだ? というツッコミはなしだ。……内容までは知らせていない。……知ること、そのものが危険だからな」

「そうですね」

 私は頷きつつも、得心がいった。少なくとも、セドリックとクリストファーは、私と『ラーヴァ』を結びつけていたし、納得できる話だ。

「あとは、アーサ婆さんもそうだな。お前が訳ありなのは承知している。要望通りの借家だったろう?」

 シニカルに笑うトーマスは、自分にも皮肉を見せているかのようだ。

「ドロシーも何か気付いている風だったな。お前、話してないよなぁ?」

 トーマスが恐ろしいことを訊く。

「話す訳ないじゃないですか」

「そうだよなぁ……」

「その意味ではシスター・エミーも何か勘付いてますね」

 ユリアンも恐ろしい事を言う。

「……ドロシー嬢、エミー嬢は、それぞれトーマス、ユリアンの後継になる人物かもしれん。……それは『神託』次第ではあるが……早晩、正式に話すことになるだろう」

 ヒイィ、あの二人がこの場に同席すると? 何と言うプレッシャーだ!


「王都の方で知っている人はどうなってるんですか?」

「……ザン、ブリジット、キャロル。……特級の三人は、お前がしていることを把握している。……カレンとシェミーはセドリック、クリストファーと同程度だな」

 フェイは一度言葉を切って、すぐに継いだ。

「……ブリジットは、元々、アマンダの補助として私が育てた経緯があってな。……今回の捕り物に関しては、ザンは知らんが、少なくともブリジットは本気でお前を捕らえようとしていたはずだ」

 フェイは補助、という言い方をした。影武者というか、アマンダに似せて育てたのがブリジットだってことか。フェイがブリジットに持っている()()()の根っこは、その辺にありそうだ。

「なるほど……」

 ブリジットが主導して私を追い込んだと。事情を知っているザンはあまり積極的に動いている風ではなかったし、キャロルがもっと探知を細かく行えば、私の位置もバレバレだっただろう。それに、もっと通信端末を活用すれば、私を逃すなんて不手際は見せなかったかもしれない。


「……王都冒険者ギルド本部の方からは短文があった。……『ラーヴァ』を取り逃がした、とな。実際の状況はどうだったんだ?」

「あー」


 本部の冒険者たちに追い立てられて死にそうになり、結局迷宮に隠れたこと。その迷宮の中でブリジットと一対一になったことを、淡々と話す。この辺りで脚色の才能があれば、カレン越えも出来そうなのだけど、きっと一生無理。


「……それはまあ……なんというか……災難だったな」

 フェイはあまり感情のこもっていない慰めの台詞を吐いた。腹が立つよりも呆れてしまって、もう、私からは溜息しか出なかった。

「さすがに死を覚悟しましたよ。実際問題としてですね、ミネルヴァさんからスキルのコピーがなければ、生き延びられていなかったかもしれません」

 ミネルヴァ、と聞いて、フェイが少しだけ顔を顰めた。

「……迷宮に隠れていて、脱出が遅れたということか」

「ついでに最下層まで行って、迷宮の管理権を奪取してきました」

「なんだと?」

「!?」

「……はぁ?」

 全員が中腰になり、前のめりになった。座って立ち飲みですか。


「その事後処理があって遅れたのもあるんですけど、あの場合は最下層まで行って管理権を得ないと、脱出できないと思って。ブリジットさんの他にも追っ手が来ていましたし。まあ、その連中は第七階層で足止めされてましたけど」

「……ああ……。……ブリジットと対峙したのも第七階層なのか?」

 私は頷いた。それを見て、なるほど、フェイも大きく頷いた。

「その階層には何かあるのか?」

 トーマスが訊くと、フェイが補足を始める。

「……王都西迷宮の第七階層は、こいつとアマンダが修行した場所だ。……私もブリジットを修行のために連れて行ったことがある。……だからこそ、その場所で雌雄を決しよう、などと考えたのだろう」

「オスとメス? を決めるんですか? え?」

 ユリアンが不快そうに眉根を寄せた。

「そういう言い回しがあるんですよ。元の世界には」

「ああ……」

 ユリアンはちょっと顔を赤くしてそっぽを向いた。今更可愛いフリしてもだめですよ、司教様。


 ユリアンの様子を見て、迷宮管理層でのカルチャーショックについて、彼らに伝えるかどうか考えてみる。

 迷宮で使われている言語、文化、仕組みなどに、自分がいた世界――――元の世界の影響を色濃く受けていることは、今、この場で言っても現実味がないばかりか、混乱を招きそうだ。私自身がまだ混乱していることもあって、消化し切れていない。もう少し落ち着いたら議題にかけてみようと思う。

 そもそも、過去の召喚勇者が日本人だったという情報もある(醤油と味噌に名残がある)わけだし、その絡みも調査してからの方がいい気がする。


「……それで、迷宮の方はどうなったんだ?」

 フェイが私を促す。

「騎士団が大規模捜索に来まして。第一階層の魔物が全滅しちゃいそうだったので対応したんですけど。騎士団を殲滅、失った魔物たちを復旧させるのに十日はかかるかなと。ついでに施設を拡張しようと思いまして。この後、なるべく早く迷宮に戻りたいですね」

「……なんと……」

「先日、ウィザー城西迷宮も同じように蹂躙しちゃったわけですけど、向こうは拒絶反応みたいな事はしてこなかったんですよね。間違いなく迷宮管理者がいるはずなんですけど」

「……ふむ。……向こうにも事情があったんだろう」

 タイミング的には勇者召喚の珠に魔力を充填したばっかりだったとか、色々あるんだろうけど。その辺は想像でしかない。


「まあ、迷宮は私が何とか維持しますよ。しばらく勇者召喚もないことですし」

 と私が言うと、三人が三人とも渋い表情を見せた。


「ん?」

 私が不思議に思って疑問符を投げる。まさかとは思うけど―――。


「……うむ。……今回の勇者は死んだ。……が、生きているんだ」

「『神託』がそのように知らせてくれたのですが―――」

「……これは冒険者ギルド本部の方でも確認している。……今回の勇者は生きている。……情報によれば、首を繋げたら息を吹き返したそうだ」


「え……?」


 絶句してしまう。この分じゃ燃やしても復活しそうだ。魔神○ウかよ……。

「それが、今回の『神託』によれば、その勇者はしばらく放置せよ、とのお達しなのです」

 ユリアンが困惑顔で言う。

「時間をかけて育った勇者なんて戦略兵器ですよ? 暗殺を含めて、私たちが制御できるとは思えません。再度殺すべきでしょう」

 焦りにも似た感情がわき上がり、再度の殺害を主張してみる。


「それには同感だが……どんな意図があるんだろうな?」

 トーマスの言葉は、全員が共通して持っていた疑問だ。『神託』を直接受け取るユリアンも含めて、この面子の中に、全体像を把握している人物はいない。『神託』に忠実に動いているだけの、私たちは駒に過ぎないのだ。その役割を逸脱しようとすれば―――。

「……とにかく、保留だ。……お前は指令を全うした。……決して失敗ではない」

 フェイの口調からも、納得いかない、という不満の色が見て取れた。

 詭弁を並べて自分を納得させようというのか。

「わかりました。再度の実行は自重します」

「……うむ……」

 フェイ、トーマス、ユリアンからは安堵のため息が漏れた。


 私が勝手に暴走するのではないか、と思ってたんだろうか。

 うーん、『神託』には従うつもりだし、自分の役割を逸脱するつもりもないんだけど。

 ふと思ったんだけど、もしかして、今回の勇者()()は、大きくなりすぎた私への対抗因子を作る意図があるんじゃないか? 仮に私が『神託』に逆らって勝手な行動を始めた時のために。


―――考え過ぎかな。


「ええと……。迷宮の作業はまだ進行中でもありますし、商売や戦争のネタになりそうな物が沢山あるのですが―――情報を整理中でもあります。色々落ち着いて、私から話を振る、という方向でお願いできますでしょうか?」

「……戦争のネタというのが気になるが……わかった。……その通りにしてくれ」

「商売のネタというのが気になるが……わかった」

 わかりやすい二人の反応に対して、ユリアンは黙って頷いた。


「それで、あの後の戦況はどうだったんでしょうか?」

 町は落ち着いてはいたから、戦争そのものは終息したと思っていいんだろうけど。

「……うむ。……説明しよう」

 富山敬さんの声が聞こえたような錯覚を覚えたけれど、フェイの説明は以下のようなものだ。


 第一騎士団に()()された第四騎士団は武装解除の上、王都に護送された。今頃には王都に到着しているだろう。隊長、小隊長は第一騎士団が厳重に保護して、尋問中とのこと(尋問中云々はザンからの情報らしい)。

 第四騎士団団長のランド卿は、ポートマットで取り調べが行われ、ダグラス宰相の指示によるものだ、という主張の一点張り。当のダグラス宰相は王都から隠密逃亡を企てたけれども、移動中にしっかり確保されて、長男も勇者拉致の現場で捕縛されたという。どうでもいいことだけど、ダグラス家は取りつぶし確定だろうとのこと。


「……内乱罪と騒乱罪、他国と共謀しての内通罪、その他諸々。……勇者召喚はダグラス宰相の意向でやっていた部分が多々あるし、しばらく勇者召喚、そのものはない、と見ていいだろう」

「つまり、勇者を擁立してダグラス宰相が革命でもを画策していたと?」

「断片から全体像を想像するなら、そう見えるな」

 トーマスが髭を触りながら肯定する。

「反乱分子を体よく処分できた、という意味では王宮の一人勝ちに見えますね」

 ユリアンが肩を竦める。


「……そうも行かないだろう。……ランド卿の身柄がこちらにあり、こちらの領主は()()している。……跡継ぎのアイザイアの襲爵は、大陸からの攻めを防いだことと内乱を未然に防いだことで功績があって陞爵を含む可能性が高い」

「公爵になるってことですね」

 ノックスなどと同じ扱いになるってことかな。でも、そんなのに実利があるものかどうか。王様の口先だけで済むならいくらでもやるだろうに。それに、アイザイアがそれを望むのかも現時点では不明だ。


「あとは多額の賠償金だな。まず王都(ロンデニオン)、王宮から相当な金を引っ張れる。ランド卿の身柄は他の第四騎士団の隊長クラス全員の身柄に匹敵するし、騎士団の面子もあるからな。もう一つはプロセアの捕虜交換だな。何人だっけ?」

「……アーロンから聞いた話では三百人程度だったな。……収容所に入り切れたのは百人ほどで、他の二百人は、漁港よりももっと西の空き地に壁を作って、そこに収容していると聞いた」

「壁?」

「……うむ。……騎士団の優秀な魔術師が土壁を作り上げたそうだ。……お前の弟子たちのことだろう」

 コイルたちか。役に立ってるじゃないか。それにしても敵軍は千人いて、半分くらいは殺してしまった感はあったけれど、五百人は生き残っていたはず。それでも投降して収容されたのは三百人か。

「……仮の収容所でしかないから、騎士団からはお前に収容所増築の手伝いをしてほしい、という要望が来ている」

「商業ギルドの方からは、鹵獲した船の修繕を依頼したいところだ。船大工の数が足りん。加えて破壊された港も何とかせねばな」

「シスター・カミラから、一刻も早く紙製造の再開を、と嘆願されています」

 く、一度に言って……。


「火急に整備が必要なのは収容所ですよね。一度教会に寄ってから収容所に向かいます」

 まだ夕方だし、出来そうな作業はやっておこう。

「……わかった。……アイザイア―――領主の方とも話し合いを持たねばならん。……ここまでは上手く行っているが……話合いが不調になったときは頼むぞ」

 金、人的資源、政治的に、大勝したのは王宮でもグリテン王国でもなく、このポートマットだ。そのトップになったアイザイアは、野望に満ちた目をしていたっけ。傀儡の立場で満足するかどうか。


「はい、了解しました」

 私もただ働きってことはないと思う……。ないよね?

「じゃあ、早速動きますので」

 私が立ち上がると、三人は頷いて、『遮音』結界が解除された。

 冒険者ギルドの建物を出ると、すでに空は真っ暗だった。



【王国暦122年3月3日 22:32】


『時計』スキルを使って時刻を確認するのがクセになってる。というよりは、元の世界の習慣だったんだと気付く。

 ロータリーの銅像、もとい『馬上の乙女騎士像』は元通りの位置に、突っ立ったままの変哲もないポーズで佇んでいる。

「うーん……………」

 一度、00にリンク、剣を掲げて跳ね馬に乗るポーズにしてから本体に戻る。

「うん」

 納得のポージングだわ。


 00の損傷は初回に受けた電撃のみ。表面が焦げて、内部の機構そんなものがあるとしてにも多少問題がありそうだ。タロスの構造を知ることにもなるし、これも近いうちに整備しなきゃな。01と02も、数百年単位で固まってたわけだし、あっちも整備しなきゃ。ああっ、もっと言えばグラスアバターやグラスメイド、第十一階層で働いてたグラス男(なんじゃその言い方)たちの整備も……。


「うーん」

 やること山積してる。

 今晩はもう家に戻ろう。みんなに無事も伝えたいし。アーサお婆ちゃんには手鏡で連絡しておこう。

「もしもし、お婆ちゃんですか。()()()()()()

『そう! よかったわ。心配したわ』

「はい、心配させてごめんなさい」

『そうね、今晩は戻ってこられるの?』

「はい、今から帰宅します」

『そう、わかったわ。待ってるわ?』

「はい、すぐ戻ります」

 と、半分は事情を察しているだろうアーサお婆ちゃんと、白々しい会話をしつつ、夕焼け通りを、スィ~と走り抜けた。



――――夕闇に、白々しいとは、これいかに。





今章はこれにて終了であります。

まだ、登り始めたばっかりだ!

このカボチャ坂をよ!

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